表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

14 俺と勇者と偏見と


 「おらあ!」

 

 外ではアートが剣をぶん回して、ゴーストの身体を両断していた。流石、アンデットにも効くという武器。ゴーストは呆気なく霧散していく。

 

 「ひ、ひひひ! おぬしらは、ここで儂の配下になるのじゃ!」

 「あいつ……!」

 

 ドナルの地下室で、マーフィーを襲って逃げ帰ったレイスだ!

 

 「今度は逃がさんぞ、ワイネ」

 

 飛び回るレイスに、マーフィーが氷の礫を連続で撃ち出している。レイスは出たり消えたりして逃げ回っているが、たまに掠めることもあって、その時は痛そうに呻いていた。

 どうやらマーフィーの氷は、アートの武器と同じく、ゴースト系にも効果があるらしい。

 

 「って、そうだ、リオナは!?」

 

 リオナは、ゴースト系に効果的な攻撃手段を持っていなかったはず……!

 そう思って辺りを見回せば。

 

 「消えて!」

 

 リオナの剣が一体のゴーストを唐竹割りにして、ゴーストは悲鳴を上げて霧散した。

 

 「え、通じてるし」

 「剣に祝福を施しましたからな」

 「え、いつの間に」

 「馬車の手配をしている間にですな――と、油断大敵ですぞ」

 

 ドナルは、ぱちんと一つ指を鳴らした。すると俺の背後でぼっと炎が上がり、「ひぃいいぃい」と甲高く細長い断末魔の声が響いた。

 

 「ど、ドナルって、魔法使えたのか!?」

 

 てっきり研究一筋、非戦闘員だと思ってたのに!

 

 「研究で現地に乗り込むこともありますからな。戦えなければ話になりませんな」

 「そ、そうですか……」

 

 え、ってことは、非戦闘員は俺だけ? 足手纏い、俺だけ?

 なんて、一人ショックを受けている間に、アートたちがゴーストたちを倒しつくしていた。因縁の、逃げ足ばっかり早いレイスも、四人でかかれば追い詰めることは難しいものではなく、ついにはマーフィーの氷で刺し貫かれ「おぉのぉれええええ」と恨みを訴えつつ消えていった。

 

 「さて、いよいよ魔物たちの本格的な侵攻の始まりですかな」

 「おい、ドナル」

 

 ドナルの言葉は、魔王の完全復活、つまりはフィオナが消滅したという意味を持つから、それをリオナに聞かせるのは配慮に欠ける。アートもそう思ったんだろう、少し強めにドナルの名前を呼んだが、既にリオナはその言葉を聞いてしまっていた。

 

 「…………」

 

 無言で俯くリオナに、今度はマーフィーが淡々と告げる。

 

 「だが、そういうことだ。今まではフィオナが嫌がることは言動に出せなかったが、リボンは捨てられ、私への抹殺指令も出た。フィオナの意志が弱まっているのは間違いない」

 「……村は、もうすぐよ。行きましょ」

 

 それ以上聞きたくないということか、リオナは平坦な声で告げると、さっさと御者台に乗り込んだ。

 

 

 

 村の入り口は狭くなっていて、馬車は入り込めそうになかった。ということで、アートは馬車を止め、俺たちも馬車から降りた。ちなみに、カテゴリー的には魔物となるマーフィーは、バレないようにとフードを目深に被って降りた。

 そうするうちに、近くでなにやら作業をしていた男が、俺たちに気付いて顔をあげ――リオナを見るなり、目を吊り上げた。

 

 「っお前、リオナ! 一体何をしに帰ってきた!」

 「……別に。何でもいいでしょ」

 「良くない! お前がいると碌なことが起きないんだ! この、災いの娘め!」

 「っおい、あんた、そんな言い方……!」

 

 思わず抗議したが、そんな俺を、リオナが止める。

 

 「いいの。相手にしても疲れるだけよ。さあ、こっちよ」

 「リオナ……」

 

 いつもは感情豊かなリオナなのに、今は無表情だ。

 

 「おやおや。随分と嫌われたものですな」

 「昔から、私とお姉ちゃんは厄介者扱いされてるの。嵐が直撃したら私たち姉妹のせい、日照りになっても私たちのせい、ちょっと事故が続いても、私たちのせい。ドナルさんたちを不快にさせたらごめんなさい」

 

 ドナルに説明する言葉も、まるで台詞を棒読みしているかのようで――

 

 「リオナが謝ることじゃねえって」

 「……ありがとう、アートさん」

 

 アートがリオナの頭をがしがしっと撫でると、リオナの顔に、薄くはあるが表情が乗って、俺はほっとした。

 

 「チッ」

 

 だというのに、村の男はこちらに聞こえる舌打ちをして、足音荒く去っていく。

 ……あいつ、追いかけて一発殴ってやろうか、と思ったところで。

 

 「人だろうが魔物だろうが、差別があるのは変わらんな」

 

 マーフィーの呟きが耳に届いて、そっちも気になった。

 

 「魔物にも差別あるのか?」

 「ああ。私は、竜人と人間の混血だ。純血らに劣っているとは思わんが、純血らにとっては、私は見下す対象だ」

 

 マーフィーは、自嘲ではなく、皮肉な笑みでそういって――青いリボンに視線を落とした。

 

 「だからだろうな……フィオナと通じるものがあったのは……」

 「……お姉ちゃんのお墓は、この丘の上よ」

 「よし、じゃあ行くか!」

 

 馬車からスコップを取り出して担いだアートの号令で、俺たちは丘に向かって歩き始めた。

 幸いというべきか、道中、村人とすれ違うことはなかったが、あの男がリオナの帰郷を知らせでもしたのか、遠巻きにこちらの様子を窺う村人の姿はちらほら見かけた。

 ……正直、気分悪い。

 こちらを指差してひそひそしたり、関わり合いになりたくないとばかりに窓やカーテンを閉めてみたり、度胸試しに俺らに近づこうとする子供たちを捕まえて叱ってたり。

 くさくさした気分は足取りにも影響して、ずんずんと進んだ俺は、丘の頂上に一番乗りだった。

 

 「……おおー、これは、満開になったらすごそうだな」

 

 丘の頂上一面で、青いグレニスの花が、風に揺れていた。

 まだ完全な夜じゃないからか、花が開いているものもあれば、閉じているものもある。残念ながら、今日はどんより曇り空なので、月明かりの下で光る様子はお預けだ。

 それでも充分に青い花畑の中を、リオナがゆっくりとした足取りで歩いていく。

 

 「……お姉ちゃん……」

 

 リオナは、花畑の隅、元はもっと綺麗に積み上げられていただろうに、今は崩れた形になっている石の前に立った。

 

 「ここかい?」

 「……ええ」

 「掘り返しちまって、いいんだな?」

 「……ええ」

 

 リオナが頷くのを見届けてから、アートは土にスコップを突き立てた。

 ざ、ざっと、土を掘り返す音と、時折吹く風に花が揺れる音だけが、その場に満ちる。

 そしてどれくらい掘り返したか――かなり深く掘っても、遺体もリボンも、発見できなかった。

 

 「……お姉ちゃん……っ」

 

 フィオナは、魔王だ。

 突きつけられた現実に、リオナは蹲り、嗚咽を噛み殺した――

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ