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彼等の実力を知りました。

「ニーシャは魔法も武器もそれなりに出来るバランス型だな。攻守の選択も上手いが如何せん体力と筋力が足りていない。魔力はそこそこあるが威力は強いとは言えないな。ギールは魔法よりは肉弾戦の方が向いているが、もう少し頭を使える様にならなければ話しにならないな。魔法もそこそこは出来る様だが魔力は少なめの様だし上手く組み合わせて使えればどうとでもなるだろう」 


 ニーシャとギールの二人を相手取って模擬戦をしたアーフが汗ひとつかかず、呼吸すら少しの乱れもなく冷静にそう解析しながら戻って来るが肝心の当事者二人は気を失っているので聞こえてはいないだろう。

 

 アーフと結界を解いた後朝食を食べた私達は今、新たに加わったメンバーの実力を知る為に模擬戦を行っていた。

 最初はネイラと私が。その次にラピス達五匹とサーシャリア、シルビアンが。そして今、アーフとニーシャ、ギールがそれぞれ模擬戦をやり互いの実力を確め合った。

 ちなみに、ネイラは騎士というだけあって剣の腕は凄かった。けれどその代わり魔法の方はいまいちで、風の中級が精一杯だった。彼女には前衛で活躍してもらう。

 次にサーシャリアとシルビアン。

 彼等はそもそも剣を振る事が出来なかった。完全な筋力不足である。本人達曰く、元の姿に戻れば振るくらいは出来るとの事だが、剣は振れるだけでは意味がない。

 しかし彼等は魔法の腕はピカイチだった。

 サーシャリアは光、水、風、土、闇の魔法が。シルビアンは光、火、雷、闇の魔法が最上級あるいは最大上級まで使えるそうだ。

 それぞれ得意ではない魔法属性でも最低中級までは使えるそうなので、彼等は完全に魔法特化型である。

 そして残るニーシャとギールの実力はアーフが言った通りであった。


「やぁ、お互いの実力は分かったかい?」


「ウィルサス様!」


 演習場の入り口でヒラヒラと手を振りながら現れたウィルサス様にネイラが慌てて礼をとる。

 残念ながら私達の中でこの国の身分制度が適応されるのはネイラだけなので彼女以外は頭も下げない。私は一応小さくお辞儀をしておいた。礼儀って大切だと思う。

 そんな私達の態度を特に気にした様子もなく近づいてきたウィルサス様。


「旅に出るには充分な装備が必要かと思ってね」


 そう言ったウィルサス様がパンパン、と軽く手を打てば瞬く間に演習場に大量の武器と防具が運び込まれる。


「彼はマック・ハルマン。腕のいい鍛冶屋だよ」


 自分の少し後ろに控えてた背の高い青年をウィルサス様が紹介する。

 それに声をあげたのはネイラだった。


「マック!?」


「やぁネイラ。見送りついでに商売しに来たよ」


 穏和な笑顔でそう言ったマックさんの名前に違和感を覚える。なんか聞いたことがある。


「ハルマンって、ネイラと同じ?」


「そうよ。マックは私の夫なの」


「夫!?」


 確かにトニックさんとはファミリーネームが違うとは思ったけど、それを聞けるほど無神経ではなかった。けど成る程、結婚していたのか。


「まぁ、結婚したのは一昨日なんだけどね」


「エミュリル様から速達が届いたとアガナズィラ様が教えてくださって、その内容を聞いたネイラが自分も君達に着いて行くって言い始めたからね」


「それで結婚を?なぜだ?」


 心底分からないと首を傾げるアーフ。けれど私は少し彼等の気持ちが理解出来た。

 離れるからこそ繋がりが欲しいのだろう。


「ちゃんと帰って来てくれるように」


 マックさんはそう言った。

 死を目の前にしたその時に、諦めずに踏ん張る理由になるように。

 絶対に生きて帰るのだと思わせる存在になるように。


「俺にはネイラやトニックや君達みたいに戦う力はないけれど、その代わりに君達が生きる為の、戦う為の武器を作る事は出来るから。微力だけど君達の旅の手助けになれたら嬉しいな」


 そしてどうか、どうか無事で。

 渡された剣から伝わる強い思い。

 エミュさんも、アガナさんも、イリアさんも。

 ウィルサス様や残っている戦線先駆隊の人達もみんな。

 安否の分からないレイ様達を心配しているすべての人が、どうか無事でと願うのだ。

 それはレイ様達に向けた言葉であり、彼等の元へ向かう私達に向けた言葉でもある。

 無傷でなんて贅沢は言わない。それでも。腕を失おうが、足を失おうが、目や耳を失おうが、命だけは失くさずに。

這いつくばってでも、どうか。どうか。どうか。

帰って来て欲しい。

 魔王討伐へ出立する彼等を見送った時に私が思った願い。それが今、私達へ向けられている。


「絶対に、引きずってでも、ネイラもトニックさんもレイ様達も一緒に帰って来ます」


 マックさんに宣言してからウィルサス様へ視線を向ける。

 

 面倒事は嫌いだ。それに巻き込まれるなんて冗談じゃない。

 私は自分で決めた事はしっかりやりきる性分だけれど、誰かのゴタゴタに巻き込まれて自分の意思とは関係無しに働かされるなんて御免だ。

 だから。


「レイ様達は絶対に、何があろうが連れ帰ります。彼等に関する事は私にとって自分事と同義ですから。けれど、この国の王位継承問題や、派閥抗争はどうでもいいです。彼等を連れ帰った後にそんな事に巻き込まれるなんて冗談じゃありません。密かに王都へ潜む手段は与えました。王城への移動手段も与えました。潜伏するのに最適な場所も与えました。後はあなた方の仕事です。あなたの陣営の最大戦力であるレイ様達の事は私がどうにかします。だから、あなたは残った戦力で出来る限りの事を成してください」


 王子様に対して不敬極まりない言葉だろう。

 それでも、きっと私がレイ様達を連れ帰ればその時から彼等はウィルサス様に王位を継承させる為にと奔走し始めるのだ。

 自分達が居なかった間に変わったあらゆる事に対応しながら、自分自身をすり減らしながら戦うのだ。

 それを止める術を私は持たない。

 私が自分の決めた事をやりきる性分であるように、彼等もまた、自分で決めた事をやっているだけだから。

 だから。それならばせめて。彼等が帰って来た時の状況が少しでも好転しているようにとちょっと釘を刺すくらいは許されるだろう。

 そんな私の思いをきっと正確に受け取ってくれたウィルサス様がしっかりと頷いてくれた。


「ああ。君に、そしてレイやクライハルト、トニック達に恥じない様に出来る限りの事をしておこう」


 そうして私達は沢山の想いを背負って出立した。

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