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VS(ヴァーサス)!!  作者: 白露 雪音
VS 高等科編~運命のチームメイト
21/101

19 Hope 一ノ瀬 勝5

*Profil(注*高等科新2年4月記録)

名前:糸堂(しどう) 神楽(かぐら)  歳:16 

誕生日:9月24日(天秤座) B型

身長:176cm  体型:細身

属性:闇  能力:闇を操る  式神

体力:★★★★★☆☆☆☆☆

速さ:★★★★★★☆☆☆☆

賢さ:★★★★★★★★☆☆

魔力:★★★★★★★★★☆


総合評価:A


その他*四大属性外である闇を操ることができる。光属性と違って攻撃性が高い為、扱いには十分注意が必要。





 優勝目指して魔法で攻防のルールがある時点で普通のウォークラリーじゃないことは分かっていたが、高等科は本当に凄まじい……。


 柳生先生が放った空砲の音を合図に生徒達は一斉に第一チェックポイントに向かって走り始めた。

 走ってるからもうウォークじゃない。という突っ込みは誰かしなかったんだろうか。

 そんなどうでもいいことを考えないとやってられない。

 隣を見れば、死に顔から復活して生き生きとした表情の一ノ瀬君が走っている。私は疲れとやる気のなさで目が回りそうだ。


 ペアでの参加なので、全員が最初に運命石で選ばれた相方と出場している。一瞬、視界に嫌なものが見えた気がした。……見なかったことにしよう。


 ――――七瀬君と木塚君がペアだとか、嘘でしょう。


 幻見たわ。私の目、まだまいってる。どう考えても相性がいいとは思えない。七瀬君は女好きで男は目に入れないし、木塚君に至っては相性がいい相手など皆無な気がした。

 なんとなく瀬戸さんを探してみれば、彼女は一人……のように見えるが、おそらく誰か一緒のはずだ。彼女にしてみれば七瀬君以外は不本意なんだろうな。

 運命石って、なんの基準で相手を決めるのだろうか。謎だ。



 しばらく走ると第一チェックポイントである中央塔二階ホールが見えてくる。そこには長テーブルがずらりと並び、数人の生徒が立っていた。


「一年生どもー、ここが第一チェックポイントだ。チェックポイントには俺達二・三年がお前らの為に案内してやってるから、しっかり話を聞いて課題をクリアしろよ!」


 どうやら時間が空いている先輩達にチェックポイントを手伝わせているようだ。

 さて、第一チェックポイントの課題はなんだろう。


「第一チェックポイントでは、簡単に知を試させてもらう」


 そう言われて先輩に案内されたのは長テーブル。好きな所に座っていいよ、と言われたので出やすいように端っこに座った。


「これが問題用紙、こっちの白紙の紙に回答を書いて出来たら呼んでね。答え合わせするから。二人とも全問正解したら次へ進んでいいよ」


 一通り説明を受けて問題用紙を見れば、なんてことはない初等科一年から中等科一年あたりまでで習う一般教養問題だ。

 普通に授業を受けていれば分かる問題ばかりだ。簡単なはず。

 ちらりと隣に座った一ノ瀬君を見れば…………。


「…………なんでそんな汗かいてるの一ノ瀬君」


 走っている間は汗ひとつかいてなかったはずだが。

 一ノ瀬君は、汗ダラダラの顔でなぜか悟りを開いたような、どこか空虚を見るような目をこちらに向けた。


「花森、俺を置いて行け」

「いや、これ二人でクリアしないと先に進めないから。……一ノ瀬君、この問題分からないの?」

「さすがに小学校低学年くらいの問題は分かるが……」


 後半が問題らしい。

 初等科五・六年、中等科一年の問題ができないのか。そんな捻るような引っかけ問題もない。素直に解けばいい。


「なめるな花森。俺の中で数学は算数だ。足し算、引き算、掛け算、割り算で限界」

「分数くらい覚えようよ!」

「あ、七の段が若干間違える。それと割り算も微妙だ」

「…………初等科からやり直そうか」


 これほど酷いとは思わなかった。よく高等科受かったな一ノ瀬君。


「数学問題はとりあえず置いておいて、他は大丈夫? 国語と理科と社会もあるけど」

「国語は得意だから大丈夫だ」

「理科と社会は?」

「た、たぶん大丈夫……」


 微妙な感じだが数学よりは大丈夫そうだ。

 問題は数学か、どうしよう。

 優勝など私は考えていないが、時間内にゴールしないと単位が貰えない。ずっとここで立ち往生するわけにはいかなかった。


「あの、すいません」

「はーい、問題解けた?」

「まだですが、彼がまったく解けないようでして、ヒントとかは与えていいのかなと」

「ああ、いいよー。時々いるんだよね、初等科の問題で引っかかる子。ずっとここにいられてもしょうがないし、ヒントくらいはいいよー」


 ルールは結構緩いようだ。

 私はさっさと自分の分の問題用紙を片づけて、一ノ瀬君の補助に回った。

 もちろん一発全問正解だ。私が特別頭がいいわけではもちろんなく、私の他にも一発で全問正解して次に進んでいるペアも多い。ほとんど初等科の問題なのだから当然だ。

 現在残っているのは相方が馬鹿で足止めくっているペアばかり。


「これは掛け算を使って、こっちは割り算……間違ってるよ。なんで七×八が六十二になるのかな……」

「とりあえず七の段を右に書いて、すぐに出せるようにしとく」

「…………それは良い考えだと思うけどその中の三つくらい間違ってる」

「なにっ!?」


 頭痛くなってきた。

 小さな子を教えているような心境だ。隣に座っているのは、私より身長もありガタイもいい同級生だというのに。

 たっぷり時間を使ってなんとか全問正解にこぎつけた時には、他の一年生はいなくなっていた。

 間に合うかな、これ。


「悪い、花森! 次で挽回するからな」


 たいして落ち込んだ様子もなく、次にかける一ノ瀬君に前向きだなと思いながら、地図に示された第二チェックポイントへ急ぐ。






 第二チェックポイントは東塔一階第三魔法特訓室。

 魔法訓練室には天井いっぱいにシャボン玉のような大きな玉がふわふわ浮いていた。


「いらっしゃい! 第二チェックポイントは魔法であの玉を十個撃ち落とすことだ。どんな魔法を使ってもいいよ」


 玉はふわふわと軽いようで、誰かが近くの玉を撃つとふわりと場所を移動してしまう為、意外と十個撃ち落とすには時間がかかっているようだ。

 だが、一週間坂上先生にしごかれた私から見ればこれほど簡単な課題もない。


「現れよ、鋭き刃となりて狙い撃て――――ヴェントゥス!」


 風の刃が玉めがけて飛び一気に五つの玉を撃ち落とした。私が一度に作り出せる風の刃は五本である。そのすべてを命中させたことになる。

 後一回で課題クリアである。

 少し心配になって一ノ瀬君を見たが、少し戸惑っているようだったが坂上先生のおかげでそれなりのコントロールを得た火の魔法は周囲の玉を巻き込みながら撃ち落とされていく。


 ここは順調にいった。一ノ瀬君も名誉挽回できて満足気だ。



「えーっと、次のチェックポイントは……」

「――花森!」


 次のチェックポイント場所を確認しようと地図を開いていた私はいきなり一ノ瀬君に抱きかかえられて大理石の廊下を転がった。

 衝撃はあったが、一ノ瀬君が庇ってくれたおかげで傷一つない。

 なにが起こったのか分からないまま目を開ければ、廊下の一部から煙が上がっていた。先ほどまで私が立っていた場所が抉れている。


「さぁさぁ、油断してると怪我するよ♪」


 楽しげに笑う声が聞こえ、視線を上に向ければ魔力で宙に浮かんだ一人の男子生徒がいた。ネクタイの色が青なので二年の先輩だろう。

 ピンクと白の混じったような髪色で、目の色が赤い。制服も改造だらけでよくそのままで学校に来れているなと思ってしまった。

 すごく派手な先輩だ。


「危ないじゃねぇー――ですか! 避けなかったら直撃だったぞ」

「こっからは試練の廊下だからね~、しっかり避けないとすっごぉーく痛い目みちゃうぞ♪」


 ケラケラ笑いながら怖い事を言う先輩に身が震えた。無邪気に見えて邪気だらけのような……そんな感じがした。


「一応、自己紹介しとく? ボクは糸堂(しどう) 神楽(かぐら)、二年B組生です。よろしくねー後輩君達」


 自己紹介しつつも攻撃魔法を放ってくるので、必死に回避しながら聞いていた。驚いたことに糸堂先輩は詠唱をおこなわない。無詠唱で術をぶっぱなしてくる為、発動タイミングが掴めず、ワンテンポ避けるのが遅くなってしまう。


「がんばれ、がんばれー。君達も無理かなって思ったらギブアップしてあの子達みたいに中庭を迂回してスタート地点に帰るといいよ。単位は貰えないけど怪我はしないよ♪」


 見れば制服を刻まれてボロボロの状態の数人の生徒達が庭を迂回していく姿が見えた。


「ヒドイって思う? でもこれっくらいのことでへばってるようじゃ高等科ではやってけないよー。ボクがわざわざ無詠唱で魔法使ってるんだから、簡単に通りぬけてもらわないと困っちゃうよ」


 無詠唱での魔法は著しくコントロールと威力を失う。糸堂先輩の魔法はコントロールはできているから恐らく威力の方が大きく低下しているのだろう。この威力で弱いとは、彼の本来の魔力はどのくらいなんだろうか。


「花森、俺の後ろから離れるなよ」

「ちょ、このままいくつもり!?」

「……いや、武装魔法使う」


 両手に鋼鉄のグローブを装着した一ノ瀬君は両拳をガンッと打ち鳴らした。すると拳を包むようにして炎が広がる。一部分だけを火の魔法で強化する、武装魔法だ。


「糸堂先輩の魔法を殴って打ち消す!」


 なんという力技。

 しかし、華麗に私の風魔法で糸堂先輩の魔法を防いでみせる、とは冗談でも言えなかったので彼の力技に乗ることにした。


「おー、いいね~そういうの大好きさ!」


 子供との遊びのように無邪気に振る舞いつつ無詠唱での遠慮ない攻撃に一ノ瀬君は躊躇することなく突っ込み、彼の魔法を殴って打ち消していく。

 糸堂先輩の魔法は、闇の魔法。火、風、水、地の四大属性とは違う扱いの難しい闇属性だ。闇を退けることができるのは光のみだが、無詠唱での魔法の為、一ノ瀬君の火の武装魔法でも対抗できているのだろう。

 そうでなければ、他の生徒達もここで脱落している。


 長い廊下を必死に駆け、一ノ瀬君の背にぴったりくっついて私は試練の廊下をクリアした。


「おめでとー、合格♪ 次のチェックポイントも頑張ってクリアしてねぇ」


 手を振りつつ私達の後ろを付いて来ていた生徒達にも遠慮なく魔法を放っている。意識が別にあるのに魔法が使えるなんて、あの先輩何者だ。







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