20 Hope 一ノ瀬 勝6
*Profil(注*高等科新2年4月記録)
名前:園宮 荊 歳:16
誕生日:3月2日(魚座) A型
身長:178cm 体型:細身
属性:地 能力:植物を操る 花と会話
体力:★★★★★★☆☆☆☆
速さ:★★★★★☆☆☆☆☆
賢さ:★★★★★★☆☆☆☆
魔力:★★★★★★★★☆☆
総合評価:A
その他*地属性ではあるが、地を操るよりも植物を操る方が得意。植物、特に花とは会話することが可能らしい。
一年同士の妨害もそれなりにあった。
床が滑りやすくなってたり、意味不明な矢印がいっぱいあったり。……まぁ、先輩達の妨害(彼らは試練と言っているが)に比べたら可愛いものだ。
滑りやすくなっていた床では見事に一ノ瀬君が顔からスライディングしてくれた。お約束を見事にやってのける彼は芸人体質なんじゃないかと思う。
技巧を凝らした仕掛けをかいくぐり、第三チェックポイントである空中庭園に辿り着いた。この庭園、浮遊石によって浮いており文字通りの空中庭園なのである。高所恐怖症の人にはちょっと心臓に悪い所だが、様々な花が咲き乱れる美しい場所だ。
私と一ノ瀬君は特に高所が苦手というわけじゃないので、臆せずポイントに到着した。
……なぜか薔薇を咥えた二年の先輩が立っている。
「もが、もがもが!」
「…………先輩、咥えているもの取った方がいいですよ」
「なに言ってっかわかんねーです」
格好つけているつもりだったのか、モデルポーズで立っていた先輩は口から薔薇をとって、なぜか物憂げに笑った。
「おやおや、刺激が強かったかね」
「…………いまどきいるんだなーと思いました」
「漫画だけの話だと思ってた」
私と一ノ瀬君の台詞は刃のように尖っていたが先輩は意に介さないのか、もしくは聞く気がまったくないのか、自分の世界に陶酔している役者のように一人で喋り続けている。
薔薇掲げて、一人芝居。
先輩の周囲にはなぜか光が瞬く。魔法なのか、目の錯覚がなせる技なのか分からない。
普段なら絶対に関わり合いになりたくないタイプだが、第三チェックポイント地点にいる先輩は彼一人だった。
「……どうしよう一ノ瀬君、私あの先輩苦手」
「得意な人間いないと思うぜ、花森。俺、わりと誰とでも仲良くなれる性質だけど、あれは無理だ。ヤダ」
一ノ瀬君がヤダときた。
彼は無理、でも色々試して頑張って仲良くなる! と意気込む人だ。現に今、私はそれで困っている。それなのに無理からヤダの反応が来るとは、よほどダメなのだろう。
ここのチェックポイント、先に来た人はどうやって通っていったのか。
ここを通れる『なにか』があるはずだと私は注意深く周囲を見回した。
この先輩をまともに相手していったとは考えづらい。だとしたら立ち往生している一年生がたくさんいるはずだ。けれど現在、私達以外の生徒は見当たらなかった。
不気味なほど静まり返り、先輩の一芝居の台詞しか聞こえてこない。
ヒントを求めて視界を巡らせていると、私は薔薇の生垣に埋め込まれた小さなボードを発見した。
引っこ抜いてみる。
『どちらかを選んで挑戦してください。
A 薔薇の紳士、園宮君と一緒にティータイム。
B 試練の間へ転送。ランダムで選ばれたペアとガチンコ勝負。
なおAを選んで見事クリアしたペアは、もれなくこの時点で単位が貰えます。今なら色々豪華な景品出ます。A選びませんか? 挑戦しませんか? もしかしたらどうにかなるかもしれませんよ。ねえ、Aやってみない?』
ボードの文字はめちゃくちゃAを押してくるが罠だ。絶対に罠だ。
「…………一ノ瀬君、どっちにする?」
「Bで」
素直でよろしい。
私達は迷うことなくBを選択し、近くに用意してあったBのボタンを押した。すると足元に転送陣が現れ光に呑まれる。
ふと先輩の方へ視線を向けると、彼はこちらを見ていた。あの陶酔したような目ではなく、どこか寂しそうな表情をした……ように見えたがそれを判別する前に私は転送魔法によって空間を飛んでしまった。
◆ ◆ ◆
肩にかかるほどの長めのワインレッドの艶やかな髪を揺らせて、園宮 荊は備え付けられた白のテーブルの席に座った。
沢山の一年生達が来たが、結局皆Bを選んだ。
用意されていたティーカップは一度も使われなかった。ウォークラリー開催が決まって、彼がこのポイントを任されることになった時から準備していたのに無駄になってしまった。
それもこれも全部……。
「ソノミンってば、まぁ~たやっちゃったわけ?」
「まだまだ幼いウィザード達には私の美しさと気高さが理解できなかっただけだろう」
いつの間にか宙にいた糸堂を見もせずに、園宮は滑らかな細く長い指先で前髪をかきあげた。キラキラっと光が舞い散る。
「わあぁい、ソノミンのナルシスト♪」
一年全員が引いた園宮の言動に糸堂は面白そうにニコニコ笑っている。そして遠慮なく、勝手に用意されていたティーポットからお茶を注いで飲んだ。
「ソノミンの淹れるお茶こんなにおいしーのにねぇー。一年の子達は損をしたよ。せっかくボクがAを推薦したのに」
「ふっ、この私と優雅にティータイムができるのは今のところ君くらいだ。優美かつ気品溢れる薔薇の似合う大人になってからまた誘ってみることにしよう」
「……ボクが優美かつ気品があるかどうかはこっちに置いておいて、ソノミンにはもう少し協調性を持ってもらいたいなぁ。ボクとしては面白いからそのままでもいいけど、君自身はそう思ってないでしょ?」
優雅にお茶を飲んでいた園宮の手が止まった。
「…………私にはベアトリーチェとレベッカ、そしてマリエッタがいるからいいんだ」
「それ、全部薔薇じゃないの。人間の友達作りなよ」
「それはお前がいるから、必要ではない」
思った通りの返答に糸堂は苦笑した。
自分一人の世界にいたがるくせに、妙に寂しがり屋なところもある相棒に、糸堂は冷めたお茶と固いクッキーしかなくても最後までティータイムに付き合った。
◆ ◆ ◆
瞬きする間に、景色は一変し室内に転送された。どこかの魔法特訓室のようでとても広く、かけられた防御結界が厚い。
『只今より、待機しているペアをランダムシャッフルします。出て来たペア同士で魔法バトルをしていただき、相手ペアをダウンさせると次のポイントまで近道できます。負けてしまったペアは超遠回りしてもらいますよ。ダウンはこちらで十秒カウントさせてもらいます。では、シャッフルー』
目が回るくらいグルングルンに視界が回り、思わず一ノ瀬君の腕にしがみ付いてしまった。一ノ瀬君は平気なのかふらつきもせずに、しっかり立っている。
ピンポーン。という軽快な音が鳴ると景色が一定になった。ここも魔法特訓室のようだが、先ほどの特訓室と同じなのか違うのか内装がまったく一緒なので分からない。
「花森、あいつらが俺らの相手らしいぞ」
わくわくしている心情を隠さない楽しげな笑顔を一ノ瀬君は前方にいる二人の生徒に向けていた。男女のペアだ。私は二人の姿をしっかりと目視した瞬間、逃げ出したい衝動にかられてしまった。
………嗚呼、女子の方はすごく見覚えがある。
彼女も私の姿を見ると、少し驚いた顔をしてすぐに真顔に戻った。若干、睨まれているような気もする。
「久しぶりね、花森さん。まさか貴女とここで戦うことになるなんて思わなかったわ」
「…………中等科一年以来だね…………瀬戸さん」
女子生徒の方は、瀬戸さんだった。相変わらず可愛らしい顔をしている。髪は長くしているのかウェイブがかった栗色の髪は腰辺りまで伸びていた。
七瀬君とはクラスも違うしあまり関わり合いにはなってないから、怖い顔をされるいわれはないのだが、どうしてか瀬戸さんはキツイ眼差しを向けてくる。
女子二人の異様な空気に一ノ瀬君は口を挟めず怪訝な視線を向けてくるが、私だってどうしたらいいか分からない。
重い沈黙が流れたが……。
「ねえ、瀬戸さん。顔が般若みたいになってるよ」
「なんですって!?」
勇猛果敢な突っ込みが入った。瀬戸さんが気になって全然視界に入らなかったが、瀬戸さんもペアで参加しているのだ。
彼女の相棒である男子生徒が呆れたように息を吐く。
「瀬戸さんって実は不器用だよね。言いたいことがあるならはっきり言わないと。怖い形相で見詰めたって気持ちは伝わらないよ。っていうか眉間の皺とれなくなりそう」
「うるさいわね! 地味太郎は黙ってなさいよ」
「鈴木 太郎ね。微妙な間違いしないで瀬戸さん」
彼のフルネームでやっと思い出した。彼は同じクラスの子だ。
名前を必死に思い出そうと彼をじっと見ていたのがばれたのか、鈴木君と目があった。なぜか溜息をつかれた。
「なんか記憶が薄そうだから言っとくけど、僕、花森さんとは初等科五年からずっと同じクラスだから」
「ええぇっ!?」
「ちなみに予備学舎で一緒に勉強もしたし、編入した日も一緒だから」
そうだったっけ? 一人で自己紹介したような……彼の記憶がまったくない。
「おいおい、そんな長い付き合いのヤツ、忘れるなよ花森。ちょっと存在感が薄いだけじゃねぇーか、なぁ中山君」
「…………鈴木だよ、一ノ瀬君」
なぜだろうか、違和感がある。さきほど彼は名乗ったというのにどんどん記憶が薄れていくのだ。
…………あれ、あの子の名前、なんだっけ?
「気にしなくていいわよ、花森さん。鈴木君はミラージュを使ってるだけだから」
「ミラージュ?」
「彼の能力。存在感を薄めて彼に対する記憶をどんどん幻のようにしていく力だって」
「……使ってるんじゃなくて、勝手に力が漏れ出てるんだ。制御が難しいからアンチブレスレットつけてても完全に防ぎきれないんだよ。まぁ、ミラージュが発動してても僕が悲しい気分になるくらいで、かかってる人達に悪影響は基本的にないから」
という話をしている間にも彼がどんどん薄れていく。彼の名前、もう透明君でいいよね。
「あんたは、ちゃんと名前を憶えてるんだな?」
「気合よ。気を抜くと忘れるけど」
「瀬戸さんって妙に負けず嫌いなんだよね。全員の生徒の顔と名前を憶えてるのが自慢だったみたいだし?」
「おだまり、地味太郎!」
「……だからちょっと間違ってる。あながち否定できないから傷つくな……」
なんだか夫婦漫才のようだ。
瀬戸さんがこうして男子と素で言い合いをしている姿は珍しい。彼女は可愛いから男子の方も緊張して口が開かないか、気を引こうと媚びへつらうかのどちらかだ。
瀬戸さんも自分が可愛いことを良く知っていて活用している。七瀬君といる時が、一番可愛い自分をアピールしていたのだ。
しかし透明君は、瀬戸さんに対して気負いも媚びもまったく見せない。ちょっと面倒な女子を相手にしている普通の男子だ。瀬戸さんもまったく遠慮なく透明君と言い合っているところを見ると、やはり『運命石が選んだ人間』同士なんだろう。
「まったく、今思ってもナゼって感じよ。あの時ほど運命石をかち割ってやろうと思ったことはないわ」
「僕もまさか瀬戸さんの名前が出るとは思わなくて、一回机に額を打ち付けて夢じゃないことを確認しちゃったよ。……現実だと分かった時の絶望感半端ない」
「し、失礼ね! この美少女を捕まえて、絶望するんじゃないわよ。私だって七瀬君とペアが良かったのに……まさかあの煮干し眼鏡に取られるなんて、あれこそ私、机に額を打ち付けて夢じゃないのを確認してしまったわ。絶望感半端ない!」
仲が悪そうに見えて、すごく仲良しなんじゃなかろうか。
私と一ノ瀬君は、二人の口喧嘩がおさまるまで、茫然と突っ立って待っていてしまった。
二人の口喧嘩が鎮火するのは、『ねぇーそろそろバトル始めようよー』という先輩の催促の言葉が流れてからだった。




