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異世界御神籤  作者: 葛生雪人
二章 大吉の世界と願いと御神籤

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第十一話 本来、御神籤というものは

 ムリエルの願いを叶えるために三日を費やし、四日目の朝早くにようやく解放された。

 途中、多少の問題はあったが「満足したわ」という一言を何とか引き出すことができたのだ。

「『満足したわ』と言われて、朝帰り。でございますか」

 しみじみと言う頭屋に、大埜は冷たい視線をくれてやった。反論するのも億劫に感じるほどに大埜は疲れ切っていた。

「言っておくけど、いかがわしいことは一切してないからな」

 その事実を伝えるだけで精一杯だった。

 それだけ労力を注いだところで、当然ながらそんなことでは御神籤は引けなかった。

 籤筒はすっからかんの空っぽで、神籤箋が入っているはずの整理棚は、どこもかしこも接着剤で固められかのように固く閉じていた。

「わかってたよ。わかってたけどさあ」

 自室に戻るなり、大埜はベッドに突っ伏した。三日間必死で頑張ったのに収穫なしとなるとさすがに滅入るものだ。

「次はどうなさいます?」

 労いの言葉もなく、頭屋は実に事務的に話を進める。

「どうするも何も、おみくじを引くためには、その世界の人たちの願いを叶えなくちゃいけないんだろ。それならやるしかないじゃないか」

「それではこちらをどうぞ」

 そう言って頭屋は分厚い書類の束を差し出した。

「何だよそれ」

「この三日間で集めた『願い』でございます」

「集めたって……。たくさんあることはあるけど、どれもこれも」

 何枚か受け取って目を通す。

 雨漏りを直してほしいとか、隣の国にいる知り合いに会いに行きたいだとか、異国の珍しい料理を食べたいだとか、そんなごく個人的な願いごとばかりが並んでいる。

「七夕の短冊じゃないんだから。こんなの魔王討伐とかと一緒にしちゃダメだろ」

「とはいえ、皆さまの口から出てくるものはこういうものばかりなんでございます」

「わかってたよ。わかってたけどさあ」

 同じセリフしか浮かばなくてガッカリする。

 いったいどうすれば御神籤が引けるのか。どうすればこの世界のクリアとなるなのか。

 そもそも、この御神籤は何なのか。

「それを理解するにはまず御神籤というものを正しく理解する必要があるんでは?」

「おみくじはおみくじだろ」

「運勢が良いとか悪いとか、それくらいにお考えではございませんか」

「……違うのか?」

「本来、御神籤というものは、悩みごとや迷いごと、願いごとや目標に対して、神様から助言をいただくものなんでございます。ですからまず初めにご挨拶、それからどんなことへの助言をいただきたいかお伝えしまして、それでようやく籤を引くんでございます」

「あ、そういえば」

 最初に御神籤を引こうとしたとき、そういえば頭屋が何か煩く言っていたなと思い出した。

「煩いとはまたひどい言いようで」と頭屋が傷ついたフリをする。

「でもそうだとすると、これは何かに対しての助言ってことか?」

「話を聞いていましたか? あなた様は手順を踏まずに籤を引いてしまったんでございます。なんで、この御神籤が起こしている現象はきっと助言ではないんでしょう」

「じゃあ何だって言うんだよ」

「神様の真意は私にはわかりません」

 だからあくまで私の見解ですが、とわざわざ断わりを入れてから頭屋は言った。

「神様はあなた様に『答え』を見せてくだすっているんでしょう」

「答え? これが?」

 大吉の世界にあるあらゆるものを指して言った。

「いえ、どちらかといえば、元の世界が大吉ではないことが『答え』なんでございます」

 御神籤を引くたびに異なる世界を体験するのは、そのことを肌身で感じるためではないか、と頭屋は言った。

「元の世界が、大吉じゃないって、答え」

 ぶつ切りで発して、噛み砕き咀嚼する。

「それを感じて…………俺にどうしろってことなんだよ」

「それは――」

 トントントンとドアを打つ音がした。大埜の返事を待って「よろしいですか」とグラヴィが尋ねる。

「どうしたんだ?」

 招き入れた彼の頭の上には、小鳥がちょこんと乗っていた。バルバのあの鳥だ。

 私の頭がお気に入りのようで、と説明したグラヴィは()()()を気にしてか、恥ずかしそうにしていた。

 グラヴィは頭上の小鳥に向かって「ほら」と声をかける。小鳥はテーブルの上にヒョイと移った。

「バルバからだ」

 そう言ってグラヴィは小鳥の頭にそっと触れた。チュピッと短く鳴いたかと思うと、その直後、

「ダイヤ様ァ!」

 とバルバの声色で話し始めた。

「ダイヤ様が俺たちの願いごとを聞いでまわってるって言うからよ、さっそく頼みたいことがあるんだわ。悪ィけど、俺の畑まで来てくれねえべか?」

「このカワイイ小鳥からバルバの声って、何て言うか……」

「気持ち悪いだろ?」

 グラヴィがはっきりと言う。「でも不思議と慣れるんだ」と言って小鳥をまた頭の上に戻した。

「そういうわけなので、よろしく頼む」

 用が済むとグラヴィは速やかに部屋をあとにした。




「やあ、ダイヤ様ァ! 遠いところ、わざわざ悪がったなァ」

 馬車に揺られること一時間。

 街からだいぶ離れたところにある農園に到着すると、バルバは大声を張り上げながら駆けてきた。

 頼みたいことというのは、何てことはない、農作業の手伝いだった。

「今日は収穫が立て込んでてよぉ。んだっていうのに、親父が腰やっちまってぇ。人手が足りなくで困ってたんだ」

 すまねぇなァ、と繰り返しつつ大埜たちの手に道具を持たせる。

「傷付げねえなら魔法とかでちゃちゃってやっでくれても構わねえから。んじゃ、ダイヤ様だちの担当はここの畑な」

 説明を終えると慌ただしく他の畑へと駆けて行った。体型の割にはテキパキと動くのだなあと感心した。

 大埜は無理矢理握らされた鎌のような道具をじっと見た。

「願いごと、ね」

「これで御神籤が引けますかね?」

「お前、わかってて言ってるだろ」

 手にした農具で、野菜でなく頭屋を刈ってやりたい気分だった。




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