38 ミラと黒龍教団
「……あれ?」
屋敷に戻ると、そこにはアレクシス傭兵団とかいう人たちの死体と、ボッコボコにされたエルドーと、巨大な魔石があった。
それらから分かる事はたった一つ。
これもう、全部終わってるね……?
「あら、思ってたよりも戻って来るのが早かったわね」
「早い……って、それはこっちの台詞なんだけど……?」
あんなドラマチックな別れをしておいて、思った以上に圧勝って……いやミラが無事なのは嬉しいんだけどさ。
なんか違うじゃん。こう、色々とさ。
「お、おのれ……何故、人ごときに黒龍が……」
エルドーが何か言っている。
全身血だらけだけど意識は結構はっきりしているみたいだね。
「貴方、勘違いをしているわよ」
「何……? 勘違いだと?」
「ええ、そもそも貴方が召喚したあの魔獣はね。黒龍じゃないのよ」
「……何を言うかと思えばそのような戯言、誰が信じるものか」
エルドーはミラの言葉を全く信じていないみたいだった。
けどこの状況でミラが嘘をつくとも思えないし、多分本当なんだろうなぁ。
「分からないのかしら。黒龍ともあろう存在が、あんな雑魚なはずが無いと言うことよ」
「雑魚だと? あれが、雑魚だと言うのか?」
ガラムがあんなに怯えていたあの魔獣、ミラにとっては雑魚らしい。
そっか。そうだね。
あの時の違和感はそれだったんだ。
黒龍にしては弱すぎたんだあの魔獣。
「そうでしょう? だって、私は一撃であの魔獣を倒したのだもの。雑魚以外にどう言えばいいのかしら」
「……」
図星だったのかな。
エルドーは反論できないみたいだね。
「まあ、そんなことは良いのよ。貴方、黒龍教団の超司教なのでしょう? それなら本拠地の情報も、持っているんじゃない? 聞かせてはくれないかしら」
「ッ!! まさか、黒龍教団を追う存在がいると言うのは……!」
「え、何? ミラ? どういう事?」
何やら因縁と言うか、黒龍教団と言うものとミラは何か関係がありそうだった。
「そうか。だが残念だったな。本拠地の場所を言うつもりは無い。我らは皆、使命のために戦うのみだ。……黒龍に、栄光あれ」
え、あれ……?
エルドーが急に動かなくなっちゃった。
「……やっぱり、今回もこうなったわね」
「ねえ、これって……」
「見ての通り、自死ね。教団の人間は皆、こうやって情報漏洩を防ぐのよ。そのせいで一向に有力情報を得られないの」
「えぇ……」
思っていた以上に、黒龍教団ってヤバイ集団なのかもしれない。
覚悟が決まり過ぎてるよ。
でもそんな教団とミラに一体何の関係が……名前に黒龍って入ってるからもしかして彼女が教祖だったり?
「何かしらその顔は。言っておくけれど、私と教団の関係は貴方が思っているようなものじゃないわよ」
「よ、良かった……でもそれならどういう関係なの?」
「……そうね。この際、話しておいた方が良いのかしら」
そう言うとミラは私に黒龍教団と、教団との関係について話してくれた。
まず一言で言ってしまえば、ミラは完全な被害者だった。
彼女が教祖な訳でも、彼女が直接関わっている訳でも無いみたい。
なんでも、ミラがまだ人の世界に混ざっていた頃、黒龍としての力を使って困っている人々を救っていたらしい。
飢餓を解消したり、水不足をどうにかしたり。
時には凶暴な魔獣を倒したりして、人々を助けていたのだと。
けどその功績があまりにも大きすぎたせいで、いつしか黒龍の力を持つと騙り、黒龍の使徒を自称する輩が現れてしまった。
で、それこそが……黒龍教団なんだと。
そして最初の内はミラの真似事をするだけだった彼らも徐々に力を付けて行き、いつしか黒龍の名を使ってやりたい放題し始めた。
それを止めるために、ミラはこうして今も少ない情報を頼りに黒龍教団を潰すために活動している……と、そう言う話だった。
正直なところゲームには無い話だからその話が真実なのかは私にはわからない。
けど、私はミラを信じたかった。
「力になれることがあったら、何でも言ってね。私はミラのためなら、どこまでも一緒に行くからさ」
「……ふふ、やっぱり貴方って変わってるのね」
「な、何で笑うの?」
「だって、こんな話をされたら普通は距離を置くものよ? 戦いに巻き込まれたら、きっとただでは済まないもの」
確かにミラの言うとおりだった。
でも、それでも私はミラのためにこの力を使いたい。
だって私はミラの事が好き……だから。
あれだけ愛したゲームキャラとしてでは無く、この世界で一人の人間として触れ合って、そう思ってしまった。
だからもう私は、彼女から離れることは出来ないんだろうなぁ……。
「心配ないよ。どれだけ危険でも、私はミラと一緒にいることが出来ればそれでいいの」
「そう……。ふふ、感謝するわ。それでこそ貴方よね。それなら、まずはここから去りましょうか。派手にやり過ぎたから、そろそろ王都の兵士が来てしまうわ」
ミラが辺りを見回す。
ボロボロべっこべこになった屋敷と、転がっている傭兵団の死体が目に入ってきた。
うん、不味いねこれは。
間違いなくこの状況を見られたら犯罪者だよ私たち。
いや、アレクシスとかいう貴族にはもう顔を見られてるんだった。
じゃあどちらにしろ駄目じゃん。
「ほら、行きましょう?」
「うわっ」
ミラに手を引かれ、屋敷の外へと走る。
何だか最初に彼女に会った時の事を思い出す。
馬車に乗る時のあのミラの柔らかい手の感触を、私は今でも忘れてはいない。
と言うか、今も握っているから。
彼女の温かく、柔らかなおててを。
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