39 新たな旅立ち(完)
ミラと共に屋敷の敷地内から出た私たちはその後も走り続け、ついには王都から出たのだった。
ここまで来ればもう大丈夫。
そう思った私たちの前に、数人の人影が見えた。
「敵……!?」
「いえ、違うわ。あれは……」
「えっ……ど、どうしてここに!?」
そこにいたのはソニアたちだった。
それどころかソニアも、ビスカも、ローリエも、ガラムも、全員がフル装備だった。
「どうしてって……それはこっちの台詞だぞおい。まったく、何も言わずに出て行こうとしやがって」
「そうですよ水臭いじゃないですか。私たち、パーティなんですよ?」
「そうだけど……」
「君たちのことだから、私たちに何も言わずに全ての罪を被る気だったんだろう?」
「それは……えっと……」
ガラムの言葉に何も反論出来なかった。
何故って図星だから。
全ての罪を私一人が背負えば、彼女たちは今まで通りでいられる。
そのために、色々とやってきたはずなのに……。
ああ、駄目だよ。
直前でこんな……躊躇っちゃうに決まってる。
「ねえ、アルカ。私たちも一緒に行って良いよね。……ううん、無理やりにでも一緒に行かせてもらうから! だってアルカは一緒のパーティで、仲間なんだもん!」
「ソニア……ううん、駄目だよ。私と一緒にいたら、ソニアたちまで指名手配されちゃうかもしれない」
もしそうなったら、もう今まで通りの修行の旅は出来ない。
それどころか最悪の場合は捕まっちゃう可能性だってある。
私と一緒にいるのは、危険が多すぎるんだよ。
「それならそれで……その時考えれば良いってことで」
「そうだな。俺もこんな形でお別れってのは許せねえし」
「お二人の言う通りです。何があろうと、私たちは仲間なんですから」
「そう言う事だよ。観念するんだね」
「皆……」
皆、覚悟は決まっているみたいだった。
それだけソニアたちにとって、私は大事な存在なんだね……。
凄く、嬉しい。
嬉しいけど……それだけ、彼女たちを危険な目に遭わせたくも無くなってしまう。
「何を迷っているのかしら」
「ミラ?」
「貴方の力なら守れるでしょう? 今回だって、どうにかなったじゃない」
「それはそうだけど……」
「自分の気持ちに素直になりなさい。もしもの時は私も協力するから、安心して良いわ」
……ミラの言葉が心に強く響く感覚がした。
そうだよ。私にとって、皆大事な仲間なんだ。
それ以上に、皆大好きだった。
だから、置いて行くなんてやっぱり出来ないよ。
「……分かった。どれだけの危険が待ってるかもわからないけど、それでも一緒に来てくれるのなら私は……絶対に、皆を見捨てないから!」
これでもう後戻りはできない。
けど、心の中で固まっていた何かが吹っ切れた気がした。
きっと、この選択は間違って無い。
そう確信を持てた。
「おいおい、それは俺たちも同じだぜまったく……まあ、そう言う事なら頼らせてもらうけどな」
「やったぁ!! それじゃ、早速出発しようよ!!」
「そうだね。夜が明けたら間違いなく捜索隊が出てくる。早く王都から離れた方が良さそうだ」
「でも離れるにしても、徒歩だと限界があるんじゃないですか……?」
ローリエの言う通り、確かに徒歩で移動するとなると馬に乗った兵士にはあっという間に追い付かれてしまいそうだった。
けど今の私たちには馬車も無いし、行商人とかの乗り合い馬車なんてもってのほかだよ。
……どうしようね?
「仕方ないわね。私に乗りなさい」
「え? いや、乗るってお前……気でも狂ったのか?」
ビスカの鋭い言葉がミラを襲う。
けど本人は特に気にしていない様子だった。
でも乗るってことは……もしかして、黒龍としての姿を見せるってこと?
「ミラ……良いの?」
「彼女達を信用してみることにするわ。貴方が認めたのだもの。きっと、大丈夫」
そう言うミラだけど、その表情はやや硬くなっていた。
彼女の話だと、時代が進むにつれて黒龍は恐れられる存在になっていったんだっけ。
もし本当の姿を見せたらソニアたちも……そう、思ってしまったのかも。
だけど、ミラも変わろうとしてるんだ。
さっき彼女がしてくれたみたいに、ここは私も背中を押してあげるべきだよね。
「うん、大丈夫だよ。皆なら、きっと受け入れてくれる」
「そうね。貴方と、皆を信じてみるわ」
ミラはそう言って、私たちから少し離れた。
そして次の瞬間には彼女の姿はみるみる変化し、数秒と経たず黒龍としての姿を露わにしたのだった。
頑強そうな鱗に、鋭い爪。
巨大な翼に、長い角。
まさしくゲーム内に登場する黒龍の姿そのものだった。
こうして実物を目の前にすると、やっぱり感動しちゃうね。
後は皆の反応次第だけど……
「おい……これって……」
「伝説に伝わる黒龍……だね」
「まさかミラさんが黒龍だったなんて……お、驚きです!」
「す、すごいよ! ミラって黒龍だったんだね!?」
ソニアたちは驚きこそしているものの、ミラを極端に怖がる様子は無かった。
……それどころかむしろ興味を抱いているよねこれ。
「良かったねミラ。皆、ミラを受け入れてくれたみたいだよ」
「そうみたいね。ふふっ、やっぱり貴方も、貴方に集まって来る人も、皆少し変なのね」
変って、もうちょっと言い方が……いや、変なのは認めるけどさ。
きっと彼女なりの誉め言葉なんだよね。そう受け取っておくよ。
「さあ、私に乗りなさい。王都から離れるどころか、大陸すら移動できるわよ」
「そいつはすげえけど……ひとまずは大空の旅を慣らさせて欲しいぜ」
「そ、そうだね……私たちは高所と言うものには慣れていないんだ」
二人の言葉ももっともだった。
飛行魔法なんて無いし、空を飛ぶなんて人間には絶対に出来ない芸当だもん。
そりゃ怖いよ。
そしてそれは勿論、私も。
「皆、乗ったかしら。しっかり捕まってちょうだいね。上空は風も強いの」
「うわぁっ、ほっ本当に飛んでます!」
「あはは! ワイバーンにも乗ったこと無いのに、まさか黒龍に乗ることになるなんて!」
ソニアはやたらと元気いっぱいだった。
彼女を見ていると怖さも幾分かマシになるね。
やっぱりこういう所でも彼女の存在は大きいよ。
ただ、ある程度余裕が出てきたからかまた別の問題が……。
「やけに楽しそうだねソニア……。私としてはその元気を分けてもらいたいところだよ……」
「えっと、ガラム……? ちょっと近過ぎじゃないかな……?」
ガラムが私にがっちりと掴まってるのだ。
彼女の装備も私の装備もお腹周りが露出しているから、ガラムのお腹が私の背中に密着している。
体温が、直に伝わって来る。
高所の怖さよりも、だんだんこの状況への危機感の方が出てきてしまった。
「落ちるといけないからね。しっかりと掴まっているだけだよ」
「うひっ」
真後ろでそう囁いてくるガラム。
その声は紛れも無く、メスのそれだった。
ああ、やっぱりこうなるんだね。
百合ゲー世界において、あんな状況で助け出したんだもん。
彼女にとって私はまさに姫のピンチを救う王子様と言う訳だぁ。
「あ、ガラムばかりずるい……! 私だって、アルカに助けられたいのに……」
嘘でしょ?
なんかソニアまでしっとりしてるんだけど。
なんてこった彼女だけは大丈夫だと思ったのに。
明るく元気なムードメーカーだから、大丈夫だと思ったのに……!
「うふふっ、大変そうね」
「笑い事じゃないよ……!?」
ミラが楽しそうな声で話しかけてくるものの、こっちとしては笑い事じゃなかった。
ソニアルートなんて一番ふとした拍子に進んじゃいそうなんだから。
「けど安心なさい。未来を見たら、彼女もしっかり貴方が助けていたわ。それからはもうべったりよ」
「あ、安心できないよそれ……!?」
余計な情報まで追加されてしまった。
けど、ソニアが助かることは確定した訳だし、良いことなのかな……?
いや、そもそも何も起こらないのが一番良いんだけどさ。
はぁ……これから大変そうだよぉ。
指名手配犯として逃げながら、ミラと一緒に教団を潰しながら、いつかは聖剣も手にしないといけない。
それも、間違ってもソニアたちと一線を超えないようにしながらね。
……だけど、皆がいれば不思議と何とかなる気もする。
それに皆と一緒にいて楽しいのは確かだし。
大変だろうけど、きっと楽しい旅になるのは確実だよ。
そのためにも私は何としてでも皆を守るし、やるべきことをやって見せる。
それがこの世界における勇者アルカの……ううん、私……天草里奈の背負うべきものなんだ。
だから間違っても、私は戦死エンドなんて迎えてやらない。
このまま皆といつまでも楽しく旅をするためにも、そんな終わり方なんて絶対してやらないんだからね……!!
【転生勇者と黒龍少女~戦死エンドから逃れるために黒龍の少女と添い遂げようとしたら、いつの間にかゲームには無かったルートに進んでしまいました~】 完
最後まで本作をお読みいただき、誠にありがとうございました。
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