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ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!

まさかこんなに早くしてくださるとは思っていなかったので、見たときは10秒くらい固まってしまいました。

すごく嬉しかったです。本当にありがとうございます!!

  (………………眠い)


  春の陽射しが窓から差し込んでくる。

  おかげでレイティアの体はぽかぽかと暖かく、瞼が重くなってくる。


  (そこはもう知ってるんだけどな)


  授業内容はどれも既に知っていることばかり。そこそこ真面目なレイティアでも、いい加減に眠くなってきた。


  今授業でやっているのは魔術の基礎。

  その中でも魔術の分類に関するものだ。



  ーーーーーー魔術は基本、地・水・風・火・雷の5つに分類される。

  ………といっても、あくまでも目安の話だ。

  大抵の人はこの中のどれかに近い性質の魔術を得意とする、というだけ。

  それ以外にも影を使う魔術や、高等技術だと治癒魔術などがあり、それは上記の5つには当てはまらない。

  魔術はこのサノワール王国で古くから研究されてきたが、未だに原理などの詳しいことはほとんど解明されていないーーーーーー



  魔術の才能がある子供は15歳でこのカーマイル魔術学校に入学する。

  その中の9割以上を占める貴族の子供は、幼少期から家庭教師に魔術だけに限らず一般教養など様々なことを教わる。

  したがって、生徒のほとんどが貴族であるこの学校で、きっちりと最初から教えるということに、レイティアは疑問を持ったのだが………

 

  どうやら貴族の生徒のほとんどが、わかっている訳でも無いようだ。

  目立たないように目だけを動かしてあたりを見ると、どの生徒も必死にノートをとっている。


  (家庭教師とかに習わなかったのかな…………簡単、だけど)


  不思議に思うレイティア。

  だが、今教師が説明しているのは、少し本筋から離れた、多くの生徒にとって発展的で難解な問題だった。


  (………………眠い)


  他の生徒が必死で取り組む中。

  問題を解き終え、早く終わらないかな、と睡魔と戦いながらぼんやり考えるレイティアだった。


  ***


  授業が終わって教室から出ようとすると、

 シルヴが彼女を呼び止めた。


  「レイティア」

  「………ん」


  先程の眠気がまだ抜けきっていないレイティアは、とろんとした目でシルヴを見つめる。


  「眠そうだね」

  「…………」

  「さっき習ったところ、君にすれば余裕だろう?」


  その通りだ。でもここで普通に頷いてしまうと周りに自慢と取られてしまう。だからと言って『そんなことない』と謙遜してもシルヴには嘘だとすぐにわかるだろう。

  結局、曖昧な苦笑いで誤魔化す。

  他の話題を探していると、シルヴがそうだ、と何か思いついたようだ。


  「昼休みに、鍛錬場に行かない?」


  鍛錬場とは学校に併設された魔法や武術の練習を行える建物のことだ。

  学校内での魔法の使用は、授業などで教師の許可がない限り禁止されている。そのため、鍛錬場は生徒が自主練習するときに使われている。


  「気分転換にどう?」


  そこまで考えて、シルヴにそう言われて顔を上げる。

  どうやら疲れていたことは見抜かれていたようだ。少し恥ずかしい。親友の心遣いに感謝して、頷いた。


  「………行く」



  ***


  鍛錬場は思ったよりも人が多かった。

  だが、結構な広さもあるので、人混みが苦手なレイティアもあまり気にならない。

  魔法の使用も鍛錬場に限ってなら許可されているので、中央辺りでは時々強い風が吹いたり、火の玉が飛び交ったりと生徒達が魔法の練習に勤しんでいた。


  「すごい」


  整った設備に、思わず感嘆の声が漏れる。

  刃を潰した練習用の剣や盾、弓矢と魔法に耐えられるだけの強度のある的まで揃っている。これなら魔法をかけた矢を使っても的が壊れるようなことにはならないだろう。

 

  「やってみない?」


  シルヴの誘いに、目を僅かに輝かせて頷いた。



  まずはシルヴから。

  弓を構える彼を見て、大勢の生徒が集まってきた。どうやらレイティアの予想以上に彼は有名なようだ。

  すっと背筋を伸ばし、的を真剣な眼差しで見つめるシルヴに、女子生徒が黄色い歓声を上げる。またしても彼のファンが増えそうだった。ファンクラブでもできるんじゃないか、と本人が聞いたら間違いなく嫌がりそうなことをこっそり考える。


  一方シルヴは、周囲から集まる視線など全く気にかけずに的に集中して、少しだけ魔力を流す。

  シルヴの得意とする魔法の性質は水。それを示すように、矢が青く輝き始めた。

  光る矢を構えた彼の姿はさながら一つの絵画のように美しい。見物人も気圧されたように息を呑む。


 ーーーヒュウッと空気を切るように放たれる矢。


  矢は、的の真ん中の僅かに右側に突き刺さった。

  練習にしては長めの距離から的のほぼ中央に矢を当てたシルヴに、あちこちから賞賛の声が上がる。見物人から大きな拍手を送られ、完璧な動作で優雅にお辞儀する。

  彼に見とれる女子生徒に目もくれず、くるりと踵を返して真っ直ぐレイティアの方に向かってきた。


  「次は君の番だよ」


  それを聞いたレイティアは、僅かに尻込みした。

  周りには、更に見物人が増えてきている。

  目立つのが嫌いな彼女にとって、この状況は辛い。しかもシルヴの後だ。女子生徒の嫉妬の視線とかは出来れば御免こうむりたい。


  「………この中でやるのはちょっと」

  「少しでもこういうのには慣れておいた方が良いだろう?」


  一応言ってみたがすかさず却下された。

  有無を言わさずレイティアに弓を持たせるシルヴ。彼女の無言の抗議の視線を気にせずにトン、と背中を押す。


  渋々前に出たレイティアは、大勢の視線が自分に突き刺さるのを感じた。

  なんでこんなことに、と鍛錬場に来たことを若干後悔した。ただの気分転換では無かったのか。こんなに人が集まってくるとは思わなかったのに。後悔先に立たず、だ。

  心の中でため息をつきながらシルヴに少し文句を言う。 視線が痛い。

  だが、今から『やっぱり止めます』というわけにもいかない。

  軽く頭を振って気持ちを切り替えた。

  弓を構える。

  軽く呼吸を整え、矢に魔力を流す。

  先程までは気になっていた周囲のざわめきが遠ざかっていく。


  『ほら、集中したら周りの音なんて聞こえないだろう。

  空気の流れを肌で感じろ。

  それからーーー』


  数ヶ月前に聞いた、師匠の台詞。

  続きをそっと口にする。


  「『矢を的に当てることだけ考えろ』」


  矢が徐々に黄色に輝き始めたのと同時に、パチン、と音がした。


  パチン、パチパチ、パチ……………


  レイティアの得意とする魔法の性質は雷。

  矢の先端に雷を纏わせるのは彼女が使う中でも初歩的な魔法の一つだ。

  ギリギリまで抑えられた魔力の絶妙な加減が、彼女の制御力の高さを示している。


  少しずつ魔力を強めていき、パチパチという音が大きくなった。騒がしかった見物人が、水を打ったように静かになる。

  ピンと張り詰める空気。レイティアは、ただ的だけを見据える。的に当てることだけを考える。

  すっと息を吸い、矢をぐいと引き絞って。


  ヒュウッ


  真っ直ぐに飛んで行った矢はーーーーーー


  狙い違わず、的のど真ん中に突き刺さった。



  矢の位置を確認した後、力を抜いてふぅ、と息を吐く。腕は落ちていない。大勢の人の前で緊張した。

  的に背を向けた彼女がシルヴのもとへ歩いて行き、やっと人々は我に返った。

  張り詰めた空気が解けた途端、一気にどよめきが起きて、わぁっと歓声が上がる。

  拍手喝采を浴びた彼女は、ちょっと面食らった後、飾り気のない動作で慌ててぺこりとお辞儀をした。

  その後、早く視線から逃れたいというように早歩きしてもとの場所に戻る。


  「流石だね。お見事」

  「ありがとう」


  満足そうに微笑んだシルヴを見て、やや恥ずかしそうに礼を言うレイティア。実際、彼女は注目を浴びることに慣れていないので、内心かなり照れていた。

  ーーーそんなことも、シルヴには全部お見通しだったが。


  「元気、出たね」

 

  よかった、と言うシルヴを見て、何度か瞬きして、また恥ずかしそうにうつむく。少し迷った後、結局言うことにした。


  「………シルヴ」

  「何?」

  「……………ありがとう」


  僅かに目を見開いた後、目を泳がせるシルヴ。つい3カ月前まで師匠達のもと、半分森みたいなところで修行していた彼女にとって、人だらけで初めての学校生活は色々と疲れるだろうという配慮はもちろんあった。あったが、半分くらいは下心だ。そんな純粋な目で見られると良心が痛む。

 

  (………それにしても)


  あの距離から矢を射て、的の中央に当てるのには驚いた。以前から彼女の腕は十分知っていたが………

  感心しながら少し下にある彼女のふわふわした金髪の頭を撫でようと、手を伸ばすーーー


  その時、こちらに歩いてくる生徒がいた。

  レイティアより先に気づいたシルヴは、伸ばしかけていた手を下ろす。

  少し遅れてレイティアも気づく。


  残っていた見物人も、その生徒の顔を見て慌てて道を譲る。


  レイティアが、思わずといった様子で声を漏らした。


  「……………第二、王子……?」



  歩いて来たのは、薄い茶色の髪と深い紫の目の男子生徒ーーーーーーサノワール王国第二王子、アンゼルム・コルト・サノワール。


 

誤字脱字などがありましたらご指摘ください。

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