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男二人だけのむさ苦しい空間となった病室では、依衣が残していった微妙な空気のせいで目を合わせるのも辛い状況となっていた。
やむなく架の方から質問する。
「……で。優太は何をしにここまで来たんだ。見舞いって訳じゃないんだろ」
「あ、ああ。そうだったそうだった。架が二股かけてるのかと思って焦っちまったぜ」
「はあ? 何だよそれ。二股も何も、俺は誰とも付き合ってないぞ」
「でも照のこと好きなんだろ?」
「!? そ、それは昔の話だ!! って……こんな話するのも数年ぶりだな」
「へっへっへ。俺が唯一架を動揺させられるネタだからな」
優太は知る由もないが、その辺の感情の動きは結構複雑だったりする。
優太に相談した後、照は優太のことが好きなのではないか、という疑問が架の中に生まれたため、次第に恋心は薄れていった。
その後の一時的な記憶喪失を経て、恋愛感情は完全になくなってしまったのだ。
「なあ、架」
「何だよ。照は初恋の相手ではあるけど、今はもうそういう気持ちはないぞ」
「お前、さ。年、取らなくなったんだよな」
優太は頬を掻きながら、そんなことを聞いてきた。
「どうだろう。地球側の人間が幟天使になった例はないみたいだし、まだ何とも言えないんじゃないかな。……怖いか?」
「馬鹿、んな訳あるかよ。俺だけ老けちまうのが癪なだけだっての」
優太がそんな人間じゃないことくらい分かっていても、やはり直接言ってもらえると安心する。今すぐにでも照に聞かせてやりたい台詞だ。
「優太はもっと年取った方がモテると思うぞ。あ、精神年齢の方な」
「そりゃどういう意味だよ。ま、どっちにしろ……俺にはもう、魅力を振りまきたい相手が居ないか」
優太の言葉からは、想い人を奪った紡に対しての怨恨が確かに感じられた。
パラディースで別れた際にはあんなことを言ってしまったが、優太が抱えていた恨みはある意味において架の怨みよりも厄介なものなのかもしれない。
「やっぱり……納得いかないか? 俺が決めたこと」
「いや、賛成だよ。賛成に決まってるだろ。ただ、俺の気持ちはどうしたもんかなって。好きだった女の子が殺されて、絶対に復讐してやるって決めたのに……俺にはお前みたいな勇気がなくて、土壇場で引き返しちまった。自分の気持ちにどうケリを付ければ良いのか分からないんだよ」
「気持ちか」
優太は紡が大好きだった。
そして架も、優太ならと思っていた。
照のこともあって流石に応援はできなかったが、巡り巡ってそういう結果に行き着くのであれば祝福するつもりだった。
兄としてそう思えたのは、優太の想いを知っていたからこそだ。
それだけに、その想いにケリを付けるというのがどれだけ難しいかが分かる。
「……優太はさ。紡の何処を好きになってくれたんだ?」
「と、突然だな。さっきのお返しか? んー……守ってあげたくなるっていうか、お前の後ろに常に引っ付いてる感じが可愛かったんだよな」
「紡ちゃんを代わりに好きに、とかは流石に有り得ないか」
「あ、当たり前だろ!! そりゃ見た目はあの頃のままだけどよ……いや、むしろそれが一番の問題なんじゃねーか」
「……完全に自己満足になっちゃうけど。優太の気持ちにケリを付ける良い方法がある」
見舞いの花を見つめながら、架はこんな提案した。
「今度こそ、あのときの無念を晴らさないか?」




