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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第一章 楽園へ
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 潜入当日。

 大鳥居を囲む分厚いシェルター前には、日本人で編成された第一部隊、アメリカ人で編成された第二部隊、ロシア人で編成された第三部隊、中国人で編成された第四部隊が一堂に会していた。

 皆が季節にそぐわぬ厚着をしているのは、異界門を通った先が真冬だからだ。

 白のダッフルコートが女子用で、黒が男子用。

 どちらも防弾仕様となっている。

 他にもイヤーマフやマフラーを着けたりして皆寒さに備えていた。

 こうやって皆が集まったのは第四部隊が招集を掛けたからで、その目的は不明。

 架達も話すことがあったため最初こそ歓迎したが、どうもきな臭い。

 各国には各国の思惑がある。

 協力するための招集とは思えない。

 どことなく不穏な空気が漂っているのを察し、架は防寒対策とは別の用意をしていた。


「おい、日本」


 冷淡な口調で架に話しかけてくる第四部隊を率いるリーダー、メイファン。

 その後ろには、同じ第四部隊の一人であるファリンも控えている。


「わざわざ日本語で話してやってんのに無視するな」

「聞いてるよ。何?」

「アンタ、理事長と親しかったでしょ。極秘情報とか教えてもらってるんじゃないの? 一昨日、アンタが理事長室に入ってったのをファリンが見てるんだけど」

「う、うん。私、見た。部屋、入るとこ」

「……あれはコレを受け取りに行っただけだよ」


 そう言って一振りの日本刀を見せる。

 架空の日本刀である叢雨を現代の技術で再現した文句なしの業物だ。

 架はアルマ・アカデミア入学時、武器に刀を選択している。

 そのときに日本刀が実戦には向いていないことを知り、なら作ればいいと理事長に頼んでおいたものを受け取りに行ったのである。


「本当にそれだけ?」

「あのさ……教えて欲しいなら、せめてその高圧的な態度を何とかしてくれよ。信用できない相手に貴重な情報を教えられる訳がないだろ」

「なら日本が先陣を切れ」

「……何故?」

「はっ、それを聞く? 唯一残されている異界門なのよ、これ。向こうも対策立ててるに決まってんじゃない。入った瞬間にあの世行きってことも充分あり得るっての」

「答えになってないな。俺達だけが危険を冒さないといけない理由を説明してくれ」

「極秘情報があるにせよないにせよ、日本はパラディースに関して一番博識だ。生き残る確率も高い。アタシ等が全員無事に潜入するためにはアンタ等の犠牲が必要なのさ」

「犠牲って……酷い。私達は同じアカデミア生、立場は対等のはずです」


 声に振り向くと、いつの間にか優太、蒸籠、照、依衣の四人が架の背後に立っていた。


「協力って話ならまだしもな。死ねって言ってるようなもんじゃねーか」

「むしろそっちが特攻したら? 手柄を独り占めできるかもしれないわよ」

「アカデミア生としてでなく、国として動いてる貴方達とは相容れないわ」

「と、言うわけだ。残念ながら引き受けかねる。そんな提案をしてくる第四部隊も、傍観してるだけの第二、第三部隊も信用できない。お前等はお前等で勝手に頑張ってくれ」

「……あっそ」


 メイファンは大きく嘆息して踵を返したが、すぐに勢いよくこちらを振り向いた。



 振り向き様に取り出した拳銃を架に突き付けて。



「「「「「!!」」」」」

「話が通じてないみたいだからハッキリ言ってやるよ。先に行け。これは命令だ」


 その場に居る全員に緊張が走る。

 メイファンが手にしている拳銃はM360J。通称『桜』と呼ばれる百年以上前の拳銃だが、小型で持ち運びに便利なことからアルマ・アカデミアの訓練でも用いられていて、架達も護身用として所持している。

 威力は平均的ながら、急所に当たれば人間一人など簡単に殺せる代物だ。

 正に一触即発。

 それでも第二、第三部隊が架を助けるようなことはなかった。

 たまたま第四部隊が強引な方法に打って出ただけで、内心では都合が良いのだろう。


「ほら、さっさと進みな」

「……分かった」

「ちょ、本気!?」

「良いから。事前に話し合っただろ? 『他国の我が儘は目を瞑ろう』って」


 架の意図を察し、全員が荷物をまとめてシェルターの入り口まで歩みを寄せる。

 本来ならDNAを用いた生体認証が必須で、二十四時間十数名の警備員がいるここも、今日はセキュリティシステムが無効となっている。そのため一般のアカデミア生でも通ることが可能だ。

 勿論、物理的な面でも堅牢無比の鉄壁さを誇る。

 そんなシェルターの穴とも言える扉を前にして、架達は足を止めた。


「どうした。さっさと入れ」

「ちょっと待ってくれないか」

「……下手な動き見せたら殺すから」


 引き金に指を掛ける音と、地面を踏みしめる音が生々しく架の耳に届く。

 銃口を向けられているだけで嫌な汗が噴き出てくる。

 こんな所で足止めを食うわけにはいかない。

 視界の隅に第四部隊のメンバーがいないことを確認し、架は肘から先だけを動かしてコートの内ポケットからある物を取り出した。


「俺達を殺したら、次はどの部隊を脅すんだ?」

「その必要はないね。死体を投げ込めば済む話だ」

「……そうか。本当、残念だ」

 諦めたように目を瞑り――



 前を向いたまま、真後ろに向かって山なりにスタン・グレネードを投げ込んだ。



 瞬く間に周囲が閃光に包まれる。


「今だ!!」

 掛け声と共に、架達は全力で走り出した。


「フラッシュ・バン!? くそったれ――ファリン!! 追え!!」

「み、見えないよ……っ」


 もがき苦しむアカデミア生達を突っ切って、架達が向かった先は清正の井戸。

 過去に架達がパラディースに迷い込んだきっかけでもある、大鳥居とは別の異界門だ。

 大鳥居を囲むシェルターから離れて北門を素通りし、本殿を取り囲む形で建てられたアルマ・アカデミアの校舎群を真っ直ぐ通り過ぎると、ようやく目的地が見えてくる。

 以前はパワースポットとして開放されていたこの場所も、周囲を分厚いコンクリートの壁に覆われて簡単には入れない。

 もっとも、これらの処置は明治神宮にかつてあった主要施設のほとんどに施されている。

 表向きの理由は文化財の保存だが、その真意は清正の井戸の異界門を隠すことにある。


「はぁ、はぁ、はぁ……。うぅ……み、耳が痛ぇ~」

「ごめん、しばらく我慢してくれ」

「蒸籠は平気?」

「な、何とか。依衣ちゃんは?」

「何ともないわ」

「自分でやっといて何だけど。結構タフだなみんな」


『目を瞑れ』だけならまだしも、耳を塞げとまで言うと気付かれてしまう恐れがあったため仕方ないが、出だしから手痛いダメージを負ってしまった。


「まあ一時的なものだし、荷物の確認がてら少し休もう」

「え? さっさと行かないとまずいだろ。あいつ等、今頃血眼になって探してるぞ」

「それは平気だよ。いつまでも俺達に構ってはいられないはずだから」

「ならせめて中に入ろうぜ。鍵は貸して貰えたんだろ?」


 ポケットから取り出した鍵を見せる。

 架が理事長室を訪ねたのは刀を受け取るため。

 そしてもう一つ、目的があった。

 それが清正の井戸を塞ぐ壁の鍵を貸して貰うことだったのだ。

 早速鍵を使って壁の内部に入ると、依衣が食い入るように清正の井戸を覗き込んだ。


「小石が詰まっているけれど……これが先輩達の言っていた異界門?」

「そうよ。まだ使えればの話だけど」

「大丈夫だ。昨日行って確かめて来たから」


 架がさらっと口にした重大な事実に、四人は呆れ顔で固まった。

 今やパラディースは敵国。

 単独で適地に赴く危険など説明するまでもない。


「また架は勝手な事を……少しは蒸籠の気持ちも考えてあげなさいよ」

「て、照ちゃん!」

「確かめないと作戦には使えないじゃないか。それに、繫がってるかどうかを確認しただけで泉からは出てないって。そんなことより各自荷物を確認してくれ」

「と言われてもね。極力少なくするって決めたし、みんな最低限の物しか持ってきてないわよ?」


 照が懐から取り出したのは、携帯食、ライター、医療セットに地図。

 他の三人も似たようなもので、個人的に持ち寄ったものは皆無だった。


「まあごちゃごちゃしてるよりは良いか。後……桜以外の武器は? 変わらず?」

「私は例の如く、これとこれね」


 照が腰に下げた物を見せてくる。

 刺突用の片手剣であるレイピアと、受け流し用の短剣のマンゴーシュ。

 以前のものより若干装飾が豪華になっている。

 今日のために新調したのかもしれない。


「私は刺したり斬ったりは怖いから……これ」


 蒸籠が背負っているのは、樫で作られた六尺棒だ。

 確かに刺したり斬ったりはできないが、彼女はこの六尺棒で優太を昏倒させたことがある。


「俺は勿論、こいつだ」


 優太が堂々と掲げたのはクレイモア。

 両手持ちの大剣としてはかなり小ぶりで、素早く振るうことができる。

 彼が効果的に使っているところを見たことはないが。

 架は皆の荷物を一通り確認し終えると、今度は一人清正の井戸を覗き込んで輪に入ろうとしない依衣に話しかけた。


「依衣は? 最初のミーティングのとき、秘密って言ってたよな」

「これ」

「……扇子? あ、鉄扇ってやつか?」


 鉄扇とは、その名の通り扇の骨を鉄にしたもので、専門の護身術も存在する。

 しかし依衣が見せてきたものは至って普通の扇子。

 刀身が仕込まれているといった様子も無い。


「黒渦……お前、こんなんでどう戦うんだよ」

「予備もあるわ」


 依衣はそう言って、風呂上がりの犬のように体を震わせた。

 途端にドサドサッと地面にばらまかれる大量の扇子達。


「いや、沢山ありゃ良いってもんじゃねーよ!!」

「……必要な物なんだな?」

「架先輩は物分かりが良いわね。そういう人、好きよ」

「えぇ!?」

「蒸籠もこのくらいで動揺しないの」


 突拍子のないことを言い出す依衣に架が対応し、優太が突っ込み、それを本気にした蒸籠を照が窘める。

 そんな会話パターンが確立されて以降、五人の距離は急激に縮まった。

 これならパラディースに行ってもチームワークを保てるはずだ。


 架は表情を一変させ、一人一人と視線を重ねていった。

 おふざけはここまでだ、と伝えるかのように。

 荷物をまとめて清正の井戸を囲む石垣の傍まで近付き、皆を振り返る。


「行こう。俺達の目的を果たすために」


 迷わず井戸の中に飛び込む架。

 優太、依衣、照、蒸籠も次々と井戸の中に落ちていく。

 こうして架達は戦いの地、パラディースへと乗り込んだ。

 果たすべき目的。

 即ち、復讐のために。


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