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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
終章 その名の意味
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 意識を失った架は夢のようなものを見ていた。

 ようなもの、と表現したのはそうとしか言い表せないからだ。

 幻覚や空耳とは明らかに違うし、現実とも思えない。

 死ぬ前の走馬燈だと勝手に納得し、架は昔の思い出に浸った。

 後に誕生日プレゼントを選ぶきっかけとなった、あの思い出に。


「すごいすごい! あれなら、わたしがそだてたおはなも、ずっととっておけるね!」

「う、うーん……そんなにかんたんじゃないとおもうけど」

 苦笑いを浮かべる幼き頃の自分を思い出し、今の架もまた苦笑する。


(植物が大好きだった紡は、薔薇が一瞬で凍ったことが余程衝撃的だったんだろうな。でもあの後凍った薔薇を粉々に砕かれて、紡は大泣きしたんだ。あのときは宥めるのに苦労したっけ)


 その後の架は、水を注いだガラスのコップに薔薇を一輪入れて凍らせる、などしてご機嫌を取ろうとしたが、当然紡が満足する出来にはならない。

 誕生日プレゼントにと思い立ったときには既に遅く、結局紡の願いは叶えられなかった。


(そういえば、あの子が使う羨望術も植物好きが滲み出てたな。昔会ったときもいきなり意気投合してたし。『昇華計画』なんてトチ狂った計画さえなければ、今頃は……)



《そうだね》



(……!?)


 聞いただけで涙が溢れるくらいの印象深い声が、架の頭の中に響いた。

 心の中では既に確信していたが、これまでの事実や今の状況を考えると確認をとらざるを得なかった。


(紡? 紡なのか!?)

《お兄ちゃんの妹の、紡だよ》


 無理矢理押しとどめていた涙腺が一瞬にして崩壊した。

 頬を伝う涙の量が尋常ではなく、冗談抜きで瞳を閉じずにはいられなかった。


(な、なんで。お前、死んだんじゃ……いや、死んだから……なのか?)

《えへへ、分かんない。でも、意識だけの曖昧な存在だったけど、私はお兄ちゃんの中にいたんだよ。死んじゃったときからずっとね。そして、お兄ちゃんが幟天使に昇華した瞬間に目覚めたの》

(死んだときから……ずっと?)


 まさか、本物の血なのか信じられずについやってしまった、あの異常行為が関係しているのだろうか。時期的に考えて、きっかけがあったとすればそれくらいしか思い当たる節はない。


《それからも、お兄ちゃんが危ないときは何度も何度も呼びかけてたんだよ》

(それって……)


 ずっと架に死の未来を警告し続けていた予見の力、パウル。

 架には守護精ニュンフェがいない。

 しかし幟天使となってパウルが発動するようになった。

 つまり新たに守護精が宿っていたことになる。


《うん。私がお兄ちゃんの守護精になっちゃったみたい》

(じゃあ……ずっと一緒なのか? これからも、ずっと傍に居てくれるのか?)

《そうだよ。でも、渡橋紡はもう私じゃないの。それだけは忘れちゃ駄目。ちゃんと、目の前の女の子を見てあげてね》


 音声としての声は今まで戦っていた紡と同じだ。

 それでも、声に篭もった温かみが違う。

 架の目尻から溢れ出る涙が全てを物語っている。

 夢でもなんでもない。

 これは現実だ。

 二度と会えないはずだった妹が、常に傍に居てくれる。

 例え声だけの存在でも、その事実だけで架には力が満ちていった。


(死ねない。死んで……たまるか……っ!!)

《お兄ちゃん、しばらく私に体を貸して。その間にできるだけ体を回復させておくから》

(回復? いやでも、俺の体、重傷な上薔薇の茎に絡め取られて動きを封じられてるんだよな……平気か?)

《大丈夫。お兄ちゃんの羨望術を使うことになっちゃうけど……》


 羨望術にはリスクが伴う。

 だがそれで現状を打開できるのであれば。


(俺にはどう使えば良いのかなんて分からないし、この場を切り抜ける術もない。全部任せるよ。頼りにしてる……ツム)

《……えへへ。その呼び方なら良いかな?》

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