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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
終章 その名の意味
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 両手両足を左右に目一杯広げ、紡はムササビのような恰好で急接近してくる。

 あまりにも隙だらけの突進。

 架は思わず叢雨を振るってしまった。

 自身の悪手に気付くも時既に遅く、架の攻撃は急激に腰を引いた紡に軽々と躱される。そしてその際の反動を利用して、両手両足の葉身が架の体に深々と突き立てられた。


「ぐっ――あああああ!!」


 歯を食いしばって痛みを堪え、空を切ったばかりの叢雨で紡の右腕に返し斬りを放つ。

 紡の武器である四枚の葉身は全てが架の体に突き刺さっている。

 この状態なら確実に架の攻撃は通るはずだ。

 しかし架の目論見は外れた。

 紡は四枚の葉身の内、架の左二の腕に刺さっている葉身に重心を置くことで他の葉身を強引に引っこ抜き、難なく躱して見せたのだ。

 今までに感じたことのない激痛と出血で目眩を起こしていた架だったが、紡は止まらなかった。

 自由になった左手と両足で更なる追撃を放ってくる。

 そこで架のパウルが発動した。


(死……!?)


 無我夢中で後ろに飛ぶ。

 身の危険を感じての防衛本能。

 だがそのお陰で唯一刺さっていた葉身が抜け、紡が体勢を崩してくれた。

 すぐさま距離を取って叢雨を構える。


(パウルに……助けられた)


 殺意を感じ取った守護精ニュンフェが、死の未来を警告してくれる。

 それがパウルだと依衣は言っていた。

 非常に助かるが、体感して初めて分かる。

 これを使いこなすには相当な鍛錬が必要だ。

 パウルが発動するのは死の直前なので、相応の反応速度と瞬発力を持ち合わせていなければ有効的に活用することは難しい。即座に対応できるパラディース兵は相当な訓練を積んでいるに違いない。


(泣き言なんて言ってられない。無茶でもなんでも今使いこなさないと……、っ!)


 体勢を崩したまま固まっていた紡が顔を上げてこちらに向き直る。

 相変わらずその中身は守護精のようで、瞳は虚ろなままだ。


《ドウシテ、ブキ、ヌカナイ? テカゲン、シテル、ツモリカ?》

「そんな余裕、あるように見えるか?」


 架は負けないために敢えて叢雨を抜かずにいる。

 抜いてしまえば、カルカソンヌの出来事を思い出して感覚が鈍ってしまいかねない。

 そういう意味でも、鞘に納めたままの方がまともに戦えると考えた。

 そもそも架は、突きが刀で防ぎづらいことを照との戦闘訓練で学習している。

 体良くあの葉身を破壊できたとしても、恐らく徒労に終わる。

 元が植物ではすぐに復活してしまうからだ。

 架に決め手がないことを察したのか、紡は退屈そうに嘆息して死を宣告してきた。


《オマエ、モウ、アキタ。ソロソロ、シネ》

「そりゃごめんだ」


 再び紡の猛攻が始まった。

 縦横無尽に空中を移動し、一切姿勢を崩すことなく両手両足が振り回される。

 これがただの打撃であればまだ救いはあったが、葉身は容赦なく架の体を斬り刻んでいく。突きに拘らなくなったせいで余計に厄介になっている。

 舞っているかのような流麗な動きに架は防戦一方だった。

 パウルのお陰で殺傷能力の高い突きだけは見極めることができているが、それ以外の攻撃は全て喰らってしまっているのだ。

 小さな切り傷から流れる微量な出血も、十や二十と受ければ致命傷となり得る。

 体力も落ちている。

 動きも鈍くなっている。

 このままでは、反撃の糸口すら掴めずに架の命は尽きてしまう。


(……!? やっぱり……これは気のせいじゃない)


 パウルの発動回数が徐々に増えてきている。

 手数で押すのではなく、重い一撃でとどめを刺す方向にシフトチェンジしたということだ。


(まずい、さっきと違ってパウルが発動しっぱなしだぞ。これじゃ反撃しようが――!?)


 そのとき、延々と警鐘を鳴らしていたパウルが突如として止まった。

 目の前には拳撃の勢いを乗せた葉身による突きが迫っているが、パウルを信じるならこの攻撃で死ぬことはない。

 ならば。


(ここだ!!)


 架は叢雨を腰に当てがい、抜刀術の構えを取った。

 架が構えたのとほぼ同じタイミングで紡の拳が放たれ、架の右肩を葉身が刺し貫く。

 だが、そこで紡の動きが止まる。

 完璧に防いできた突きを敢えて受けたことで、紡に僅かな隙が生まれたのだ。

 すかさず架が抜刀術を繰り出す。


《!?》

 紡の体は真横にひしゃげ、そのまま地面へと倒れ込んだ。


「何とか、上手くいった、か……」


 架が構えていた柄の先には、丁度紡の脇腹があった。

 つまり架は抜刀術の要領で刀を抜き、刀身ではなく柄頭で一撃を与えたのだ。


「……ぐっ、く」


 叢雨を杖変わりにしてどうにか堪える。

 架は血を流しすぎていた。

 既に意識は朦朧としていて、立つのがやっとの状態だ。


「確かに死にはしなかったけど……。パウルに頼りすぎるのも駄目だな」


 傷の手当、特に出血を止めたいが、守護精に体を預けている紡から目を逸らすわけにはいかない。

 倒れている紡を鞘の先端で突いてみる。

 すると紡は上半身だけを起き上がらせ、


《ドウシテ、トドメ、ササナイ?》

「お前は守護精だろ。俺はお前の宿主? に用があるんだ」

《ヨウッテ、ナンダ》

「話がしたい。いや、まともに話ができるとは思ってないけど。せめて戦わせてくれ」

《……イチゲキ、モラッタカラナ。ワカッタ、マカセロ》

 そう言うと、紡は目を瞑って独り言を呟き始めた。


《ツムギ、ジブンデ、ケッチャクツケロ。シンパイ、スルナ。チカラハ、カス》


 彼女達? は何やら取り込み中のようだ。

 少し離れて制服の内ポケットに忍ばせておいた包帯を取り出す。

 とにかく、これ以上の出血だけは止める必要がある。


(痛っ――)


 包帯を巻く動作だけで痺れるような痛みが全身に走る。

 命のタイムリミットは刻々と近付いていた。


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