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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
エピローグ
100/100

結成

 翌日。

 渡橋架の再登校日の朝。

 アルマ・アカデミアの体育館では、全校生徒の『一割にも満たない』アカデミア生が集まって理事長の登壇を待っていた。

 そんなことになってしまった要因は、何食わぬ顔で参加している水無月括にある。


 実は前哨戦で彼女が全校生徒に打って回った薬は夢遊薬と言うらしく、効果を発動させるまでの潜伏時間によって副作用が続く時間も増えるのだという。

 つまり今現在、ほぼ全てのアカデミア生は寮で副作用に苦しんでいることになる。

 肝心の副作用だが、ファリンに現れた症状と同様とのこと。

 それを知った理事長の提案によって、近々男子寮には消臭剤が配られることが決定した。


 つくづく思う。

 架がキス魔になったあの薬の副作用がこれではなくて本当に良かったと。


「相変わらず遅ぇな。理事長は」

「あはは……」

「というか、入れ替え戦の結果ってメールでも送られるんでしょ? こんだけしか集まってないんだから私達もメールだけで良かったのに」

「ふふぅ。それは私達も知らない情報が混じっているからだと思うわん」


 しれっと混ざってくる括。

 この辺りは未だコミュニケーションを取ってくれない妹の方も見習って欲しいところだ。


「成る程? 架先輩は妹の方が好みと」

「心を読むな。そして微妙に間違ってるし」


 悟の方を意識しているのは、姉があんな調子だからである。

 もう少しで良いのだ。

 もう少しで良いから、距離を近づけたい。

 仲良く、なんて言葉とは無縁だった彼女達を見ていると、余計にそう思ってしまう。


「くくく、残念だったなファリン。どうも日本がロリコン大国なのは二次元に限ったことじゃなかったらしい。プリケツの方がまだ望みがありそうだ」

「か、関係ないよ」

「何の話なのよ?」


 国籍も所属している部隊も、胸に抱えた想いすらも違うアカデミア生が、列などお構いなしに集まって和気藹々と会話している。

 一月前だったら考えられなかったことだ。

 架は一人離れた場所にいる水無月悟に近付いて声を掛けてみた。

 ちなみに彼女は車いすに乗っているが、架がぶった切ってしまった義肢については既に新しいものに交換済みで、括によるとスペアが数十と用意してあるらしい。


「少し良いか?」

「……何」

「さっき君の姉が言ってたことだけど。俺達も知らない情報ってのに心当たりある?」

「グロ姉のもう一つの仕事」


 もう一つの仕事? と聞き返そうとしたところ、タイミング悪く理事長が舞台上に姿を現した。

 気の抜けた態度を改めて、皆が形だけでもと姿勢を整える。


「そんなに畏まらなくても良いですよ。ここに集まった貴方達はもはや訳知り。こっちとしても気楽にお話しすることができます」

「話と言われても、入れ替え戦の結果は当事者の私達が一番良く分かってるんですけど」

「そうですね。ではその辺りはステキに省いちゃいましょう。秘書さん」


 舞台袖から颯爽と現れて資料を渡し、これまた颯爽とはける有能な秘書。

 アカデミア生にとっては彼女も理事長並みに謎の人物である。


「まずは結果を。渡橋君率いる第一部隊は見事枠を守りきりました。第二部隊は消滅。第三部隊はプリへーリヤさんを残して消滅、第四部隊はメイファンさん、ファリンさん以外消滅。以上」


 水無月姉妹以外の全員、開いた口が塞がらなかった。

 誰よりも把握事態を把握したのは依衣で、架も少し遅れて理解する。

 水無月括の別の仕事とは、正にこれのことだったのだと。


「おい……い、いや。消滅ってのは一体……」

「こちらとしても困惑したのですが。枠を奪ったアカデミア生がルール違反を犯しまして」


 この一週間で犯したルール違反……それも、本人達の意図とは無関係に犯してしまったルール違反なんて一つしかない。

 括の夢遊薬による入れ替え戦の参加だ。

 挑戦権を持つ者以外なら誰に協力しようと自由だが、枠を奪われた潜入部隊のメンバーと、枠を奪った新たな潜入部隊のメンバーが入れ替え戦に参加するのは禁じられていた。


 第一陣の潜入部隊は全員がパラディースに赴いていたため、夢遊薬を打たれていない。

 しかし、枠を奪ったアカデミア生は夢遊薬を打たれていた。

 あのとき。

 隔雲亭の跡地で無数のアカデミア生と相対したあの場に、彼等も混ざっていたのだ。


「で、でも。それなら、元のメンバーが枠に収まるんじゃ、駄目なんですか」

「あはは。ファリンさん、それは有り得ませんよ。貴女はこの入れ替え戦をザンネンな茶番にするつもりですか?」


 一週間、全校生徒のほとんどを巻き込んでおきながら、結果が第一陣の潜入部隊の面子に変更なし。

 確かに茶番だ。

 背景にある誰かさんの思惑とも合致しない。

 つまりは、妥協点。


「それにですね。こちらで調べたところ、枠を奪われた事自体にルール違反はなかったんですよ。なので、消滅。これはもう決定です」

「……まあ、理事長の決定に私達が口を出すのもあれだけれど。自業自得とはいえ、アメリカは黙っていないのではないかしら」

「だよな。第二部隊そのものがなくなっちまったんだし」

「勿論考えてあります。選抜テストの成績上位者十名をシャッフルして、第五、第六部隊を結成予定です。元々国籍別の部隊は第一陣までと決めていましたしね」


 アカデミア生に送られた理事長からのメールとやらは優太に見せて貰った。

 あれによれば、理事長は元々国籍に関係なく成績上位者だけを集めた部隊を作るつもりだった。

 それがもう一部隊増えただけだ。

 となると、中途半端な人数になってしまった彼女達も恐らく。


「そして、唐突ですが厳命します。第一部隊、並びに第三部隊、第四部隊も同じく消滅。ここにいる皆さんは、全員私の親衛隊になってもらいます」


 親衛隊。

 それは別に、理事長の身辺警護をしろという訳ではない。

 他国の圧力や日本政府の息が掛かった表向きの潜入部隊ではなく、アルマ・アカデミア独自の戦力として。

 完全に独立した指揮系統ということ。

 大胆且つ、狡猾な厳命だ。


 味方を一人でも増やしたい架の意に沿っているし、パラディースとの接点を作りたい水無月姉妹の希望も叶う。

 五人もの幟天使ゼーラフを一纏めにすることで、単純な戦力についても申し分ない。


 何より、外国人の三人を含めていることに大きな意味がある。

 勿論、彼女達がある程度の情報を知ってしまったことも理由としてあるのだろうが、それ以上に、国の意向とは別に、個々の意志を強く持ち始めていることが大きい。


「アタシ等までその親衛隊に入れって? そりゃまた、どういう風の吹き回しですかね」

「理解できないのよ。私達は日本人じゃないのよ?」

「はっきり言いましょうか。私達にとっては日本も敵です。これからは、アルマ・アカデミアはアルマ・アカデミアとして動きます。この親衛隊はその第一歩です」


 皆が静まりかえる。

 架もことの重大性を改めて思い知った。


「プリへーリヤさん、メイファンさん、ファリンさん。別に私は、貴女達に諜報活動を頼んでいる訳ではありません。親衛隊に参加してくれればそれで良いのです」


 三人は複雑な表情を浮かべながらも、結局親衛隊に参加することを受け入れた。厳命と言われている以上は拒否権なんてないのだが、


「ただし……情報の管理はだけは注意を払って下さいね」


 そんな最後の一言を聞いたときは、流石に苦笑いを浮かべていた。

 その後は秘書が作ったであろう親衛隊の心得を理事長が眠そうに朗読して、大あくびを最後に解散となった。

 誰一人として心得なんてものに興味はない。


 しかし、全員があるワードに引っ掛かった。

 親衛隊は、遊撃隊であると。

 もしかしたら、今後はもっと自由にパラディースへ赴くことが可能になるかもしれない。

 だれもがそんな期待を抱いて、それぞれの教室へと戻ったのだった。


出直してきます……。

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