第一話 召喚されたけど、聖女の資格は有していない
いつかやるんじゃないかとは思っていたけど。
ついにやってしまった。
……何かといえば、パンツを忘れた。ついでにブラもだ。
最初から、説明しよう。
わたしは週に一回、スポーツクラブに行って、プールに浸かっている。
泳いでいるのではない。
高齢のご婦人方と一緒にプールの中を歩いている。ぐるぐるぐるぐると十周くらい歩いてから、ジャグジーでゆっくりと休む。
月火水木曜日は、残業・残業・残業・残業で。
土曜日は休日出勤。
日曜日は仕事の資料を読んだり、仕事で使う資格取得のための勉強だったり。
唯一休めるのが金曜日の夜。
なんと! 福利厚生の一環なのか、それとも我が社はブラックではないですよアピールなのか。
金曜日だけは、うちの会社は残業禁止。
職場のパソコンも、時間になると強制終了。
だけど、わたしは三十路手前だ。
朝まで酒を飲むような体力もない。カラオケなんてもう無理だ。
同期のメンバーでは「朝までオールだ!」とか言っているツワモノもいるけど、わたしは無理。見合いに向かって、初対面の男性ににっこり笑う根性もない。
肉体年齢は多分五十歳……は、行っていないと思うけど。二十代の若さはない……気がする。よぼよぼ……までは行っていないけど、へらへらだ……。
接骨院とか整体院とかで、マッサージしてもらっても、鋼鉄の肩はがっちがちのまま。
結論。
運動したほうがいい。
しないと駄目だ。
老化のスピードが止まらない。
でも走るとか、筋トレとか、無理。
そんなのができるくらいなら、最初から肩こりになんてなっていない。
スポーツクラブに入会した当初は頑張って機械トレーニングとかダンスとか参加したけど。
筋肉痛は酷いし、膝もガクガクだし。くたばる。半腐乱死体状態になった……。ああう……。
ご老体の皆様と一緒にプールを歩くのがいいよ……。膝にも負担がかからないしね……。
で、金曜日には、仕事を終えたら、いったん帰宅して、水着を着て、上着を羽織って、スカートを履いて。パンツとブラを持って、スポーツクラブに行く。
金曜のスポーツクラブのロッカールームは激混みだからね……。
……というのが、最近のわたしだった。
前振りが長くなりましたが……。
今日は、パンツとブラを忘れてスポーツクラブに行ったのよ……。
プールで歩いて。ジャグジーで体を緩めて。お風呂にもゆっくりつかって、タオルを体に巻いたまま、ロッカールームに戻ったら。
ない。
パンツがない。
ブラもない。
忘れてきたあああああああああああああ。
痛恨。
その場でへたり込む。
夏ならね。いったん脱いだ水着を着て、上着を着て、そのまま帰ってもいいだろう。
だが、今は冬だ。
濡れた水着を着て帰れば……絶対に風邪をひく。
百パーセント、ひく。
仕方がない。
下着なしで帰るしかない。
大丈夫、大丈夫。
上着を着て、スカート履いていれば。
見た目には、下着を履いていないなんて分からない! コートも着ているしね!
ま、スカートの中はスースーするけど。
急いで家まで帰れば何とか!
……って、思ったのに。
急ぎ走って帰宅の途中。交差点の赤信号が青信号になって、横断歩道に一歩足を出した時。
アニメとかマンガとかで見る、錬成陣とか魔法陣とか。そんな奇妙な図案が、アスファルトの地面に浮かび上がって来て……、しかも、その図案を踏みつけた途端に、それが光って……。
わたしの視界が真っ白になって……。
まさかこれは……!
なんて思う間もなく、風景が一変した。
ヨーロッパのお城の中の大広間みたいな場所。
石造りの壁には絵画がたくさん飾ってあって。
天井にはシャンデリアがピカピカに光っていて。
床は、真っ直ぐ一直線に伸びた真っ赤な絨毯が敷いてあって。
絨毯の先には、三段くらいの階段があって、その壇上には玉座に座った王様らしき人が。
王冠を被った金髪のイケオジなんて、絶対に王様だよね。
その隣にはブルネットの髪、豪奢なドレスの美魔女的女性もいるし。王妃様かな。
王子様っぽい人もいる。
貴族っぽい服装の見物人っぽい人たちも大勢いる。
極めつけには、白いフード付きのロングコートを着て、いかにも魔法使いの杖みたいなものを手にした人が、何十人といて。
ここここここれは!
もももももしやっ!
ラノベや漫画でおなじみのっ!
異世界転生とか異世界召喚⁉
待って! わたし、パンツ履いていないのにっ!




