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上野

乃公くん(作者)とイマジナリー彼女の日常デートです

 睡眠時間は短ければ短いほど、裏を返せば覚醒時間が長ければ長いほど人間は文学的に詩的になる。

普段詩を嗜まない人々はそれを指して「ポエマー」だの「徹夜テンション」などと表現することもあるが、鞍作荒騎にとっては詩こそ人間の為しうる最も偉大な行い、魏の文帝曹丕に云わせるところの「経国の大業、不朽の盛事」であると信じ切っていた。

「それは単に君が不眠症だからじゃないの?」

 梢織はいつも的確かつ荒騎とはウマの合わないツッコミを入れてくる。

 上野に数ある美術館のうちのひとつの隣で、ド素人と呼ぶには少しばかり両チームとも洗練された草野球を二人は見ていた。

 大学生はたいていの美術館や博物館には学生料金で入れる。荒騎と織も文化系と理系と体育会系を全て程よくブレンドしたハイブリッド趣味の人間ではあったが、いかんせん本日は日曜日かつ誰しもが知る有名画家の展示が行われているので、展示を見るにはカネはかからずとも時間がかかり過ぎる。

 そういったわけで、日常の空間の範囲内での二人のデートは動的とは言い難い静的なものになったのだ。


「動物園に入りたい」

 織の提案のもと、二人は上野動物園に入った。

 パンダがいなくなって久しいこの動物園は、上野の他の文化施設と比べると、屋外公園とい屋内展示場との性格の違いのためか、日曜日でも人でぎゅうぎゅう詰めでどうにもならない、ということにはなりづらかった。

ましてや数十年上野の主人公でありアイドルでもあったパンダという存在が去ってからはなお一層のことだった。

 織は近くにベンチがあるとそこに座り、動物の絵をスケッチし始めた。

 美大生ではなくただの文系学生である織の絵は拙く、覗き見している荒騎から見ても何ひとつ褒められたところがないようなものだった。

「絵、好きだったのか?」

「ううん、別に。ただこないだ読んだ漫画でさ。中年のおじさんがふとスケッチブックを買って、全くの素人から趣味で絵を描き始めるんだ」

「それに感化されたのか?」

「うん、まあそんなところ。四十歳になっても遅くないんだから、私が今から始めれば尾田栄一郎にはなれるかなって」

「人の夢は終わらな過ぎるな……」

 園内の山の上のゾーンから下側に降ると、一面の蓮がある。

 織のお気に入りはここで、売店で軽食を取りながら何をするでなく水鳥と池を見ていた。


 動物園を出ると、繁華街の方に繰り出した。

 アメ横と呼ばれる通りをブラウジング二人でブラウジングしていたが、値段の0の数がひとつ多いような商品ばかりなので、彼らは最初から何も買わずに冷やかすつもりで歩いていた。

 上野の繁華街は食事処も数多い。

しかし、やはりお財布事情のやさしくないお店が立ち並んでいるので、観光地料金の名店を避けて、行きなれている無難なチェーン店で過ごした。


 鞍作荒騎と梢織。

 便宜上は付き合っている。

 だが二人は告白もキスもセックスもしたことがない。

 だが本人達の自認も他人からの評価も付き合っているカップルだ。

 強いていうならば彼らの趣味は‘デート’だった。

 お互い特別に束縛するでもなく、休日には大体どこかでデートをしている。

 東京都内の学生なので、基本的に少ない交通費で多く楽しめる散歩デートをよくする。

 世の中には固有名詞でしか呼ばれ得ないような人間関係が存在して、彼ら二人はそういったタイプの仲なのである。

 


次回

「高田馬場」

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