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コウの物語  作者: パルス


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第8話「変わり始める」



 鍋を受け取ったあとも、周囲の視線は途切れなかった。


 むしろ増えている。


「その肉、まだあるのか?」


「薬草もか?」


 少しずつ、声が飛んでくる。



 コウは残っている干し肉を見る。


 あと8つ。


 薬草はまだある。


(……まだ回せるな)


 村側の反応も悪くない。


 特に薬草。


 思ったより見られていた。



 年配の女が薬草を指差す。


「それ、本当に傷に使えるのかい?」


「使い方次第だ」


 コウは短く返す。


 すると、ロイドが口を開いた。


「実際、使った」


「悪くなかったぞ」


 エミルも頷く。


「止血には十分使えます」


 その言葉で、周囲の空気が少し変わった。


(……通ったな)



「野菜なら出せるよ」


 別の女が籠を持ってくる。


 根菜だった。


 少し小さいが、量はある。


「これでどうだい?」


 コウは確認する。


 傷みは少ない。


 問題なかった。


「薬草1束で1つか?」


「いいよ」



 交換する。


 薬草3束。


 野菜3束。


 袋へ入れると、ずしりと重みが増えた。


(悪くない)


 焼くだけだった生活が、少し変わる。


 鍋もある。


 煮られる。



 続いて、別の男が声をかけてくる。


「網ならあるぞ」


 見せられたのは、小型の編み網だった。


 少し粗い。


 だが、魚には使えそうだった。


(十分だな)


 川を思い出す。


 魚囲いだけでは限界がある。


 だが、網があれば変わる。


「薬草3でどうだ?」


「いい」


 即答だった。



 交換する。


 薬草3束。


 網1。


 手に持って広げる。


 軽い。


 だが、確かな道具だった。


(試せるな)


 明日、川へ入れる。


 取れる量が増えれば、食料事情はかなり変わる。



「刃物も欲しいなら見てみるか?」


 ロイドが横から言った。


 視線を向ける。


 男が一本のナイフを出してきた。


 鉄製。


 使い込まれている。


 だが、石とは違った。



 コウは手に取る。


 重さを確かめる。


 刃を見る。


(……いいな)


 解体が変わる。


 木も削れる。


 加工速度も上がる。


「干し肉1と薬草1だ」


 男が言う。


 少し考える。


 だが、答えは早かった。


「換える」



 交換する。


 干し肉1。


 薬草1束。


 ナイフ1。


 腰へ差す。


 それだけで、少し安心感が増した。



 ロイドが視線を向ける。


「靴はいるか?」


「……いる」


 即答だった。


 森の中を歩き続けている。


 足への負担は大きい。



 出されたのは革靴だった。


 使い込まれている。


 だが、まだ丈夫そうだった。


「干し肉1、薬草3」


 コウは少し考え――頷く。


「換える」



 交換する。


 干し肉1。


 薬草3束。


 革靴1足。


 手に持つ。


(かなり違うな)


 裸足とは比べ物にならない。


 移動。


 森。


 全部に関わる。



 エミルが口を開く。


「カバンもありますよ」


 出されたのは、肩掛け式の簡素な革カバンだった。


 縫い目は粗い。


 だが、容量は十分ある。


「薬草5でどうです?」


 コウは少し考える。


 薬草はまだ残っている。


 そして――


(運搬は、いる)


 これから先、量は増える。


 袋だけでは限界が来る。


「……いる」



 交換する。


 薬草5束。


 革カバン1。


 肩へ掛ける。


 重みが分散される。


(……楽だな)


 思った以上だった。


 両手が空く。


 それだけで動きやすい。



 周囲の村人たちも、少しずつ空気が柔らかくなっていた。


「その肉、また持ってくるのか?」


「薬草もあるんだろ?」


 声が飛んでくる。


 コウは短く返した。


「取れればな」


 嘘は言わない。


 だが、完全に否定もしない。



 ベルグが笑う。


「もう馴染んでるじゃねえか」


「まだ分からん」


 コウは肩をすくめる。


 だが、悪くない。


 少なくとも、追い出される空気ではなかった。



 ロイドが頷く。


「最初としては十分だ」


「村側も、お前が何を持ってくるか分かった」


 エミルも続ける。


「保存食はありがたいですからね」


「狩りだけだと、どうしても偏りますし」


(……やっぱり需要はあるな)


 干し肉。


 薬草。


 山椒。


 まだ回せる。



 そこで、ロイドがコウを見る。


「お前、そろそろ戻った方がいいぞ」


「顔が少し落ちてる」


 ベルグも笑った。


「朝から何も食ってねえんだろ」


「倒れられても困る」


 エミルが苦笑する。


「鍋も手に入りましたし」


「今日はもう十分でしょう」



 コウは小さく息を吐く。


 確かに腹は減っていた。


 朝から動き続けている。


 交換。


 運搬。


 往復。


 思った以上に消耗していた。


「……そうだな」



 ロイドが口を開く。


「明日も獲れるかって言われると、難しい」


「さすがに獲物も警戒する」


 ベルグも頷く。


「毎日同じようにはいかねえよ」


 エミルが続ける。


「1日置いた方がいいですね」



 コウは少し考え――頷いた。


「……じゃあ明後日だな」


「ああ」


 ロイドが答える。


「またここでいい」


「分かった」



 コウは三人を見る。


「今日は助かった」


 ロイドが軽く手を上げる。


「気にするな」


 エミルも頷いた。


「こちらも助かっています」


 ベルグは笑う。


「次はちゃんと食ってから来い」



 コウは荷物を持ち直した。


 袋。


 鍋。


 網。


 ナイフ。


 革靴。


 革カバン。


 来た時とは、かなり違う。


(……変わり始めたな)


 小さくそう思いながら、コウは森へ戻っていった。



 拠点へ戻る。


 荷物を下ろし、小さく息を吐いた。


「……重かったな」


 だが、悪くない。


 生活の重さだった。



 まず向かったのは、吊るしていた場所だった。


「確認だな」


 朝の2匹。


 そして分けて置いた5匹。


 順番に見て回る。



「……無事か」


 軽く頷く。


 取られた形跡はない。


 火も残っている。


 煙の匂いもまだ続いていた。


(分けて正解だったな)


 1カ所なら危なかった。


 だが、3カ所へ分けたことでリスクを散らせている。



 朝の2匹も回収する。


 袋へ入れる。


 これで全部揃った。


 血抜き済み5匹。


 未処理2匹。


 合わせて7匹。


「……今日はここからだな」



 すぐに作業へ入る。


 優先は肉だった。


 まず2匹を処理する。


 ナイフを抜く。


 刃が走る。


「……軽いな」


 石とは違う。


 引っかからない。


 力もいらない。


 解体が早い。


(全然違うな)


 作業効率が一気に上がる。



 解体を終える。


 山椒を使う。


 火を調整する。


 吊るす。


 煙を当てる。


 手順はもう慣れていた。



 先に処理していた5匹も確認する。


 かなり仕上がってきている。


 色が変わり始め、水分も抜けていた。


(……悪くない)


 明日には使える。



 さらに2匹分も並べる。


 干し肉の列が増える。


 7匹分。


 吊るされた肉を見上げ、コウは小さく息を吐いた。


「……回ってるな」


 取る。


 加工する。


 交換する。


 また増やす。


 少しずつだが、流れができ始めていた。



 作業を終え、ようやく火の前へ座る。


 腹が減っていた。


「……食うか」


 今日は違う。


 鍋がある。



 先に山菜を入れる。


 煮る。


 アクを抜く。


 しばらく様子を見る。


 臭いを確認する。


(……いけそうだな)


 完全に安心はできない。


 だが、生よりはかなりましだった。



 そこへ野菜1束。


 干し肉2つも入れる。


 さらに煮る。


 やがて湯気が立ち上る。


 肉の匂いが混じる。



「……いいな」


 小さく漏れる。


 今までは焼くだけだった。


 だが、煮ると違う。


 匂いが広がる。


 汁ができる。



 鍋を火から下ろす。


 そのまま直接口をつける。


 熱い。


 だが、腹へ落ちる感覚が違った。


「……うまいな」


 自然と声が出る。


 野菜も柔らかい。


 干し肉からも味が出ていた。


 山菜も、苦みは残るが食べられる。



 だが、少ししてコウは呟く。


「……やっぱり塩気が欲しいな」


 味はある。


 だが、足りない。


 塩。


 それだけで、かなり変わる。



 もう一口飲む。


 熱が腹へ落ちる。


 疲れた身体へ染み込んでいく。


(……これだな)


 鍋。


 これが欲しかった。



 食べ終える。


 火を見つめる。


 今日は動いた。


 交換した。


 運んだ。


 処理した。


 だが――


(悪くない)


 疲労感より、手応えの方が大きかった。



 視線を上げる。


 吊るされた肉。


 増えた道具。


 置かれた袋。


 革カバン。


 網。


 鍋。


「……変わり始めたな」


 小さく呟く。


 森で生き延びるだけだった生活が、少しずつ変わり始めていた。



収支表(第8話終了時点)


■開始


干し肉:8

薬草:20束


■携帯素材

山椒:30粒


■拠点保管

山椒:20粒


■仕掛り品


未処理ウサギ2匹

血抜き済みウサギ5匹


ルク:0



■交換


薬草3束

→ 野菜3束


薬草3束

→ 網1


干し肉1

薬草1束

→ ナイフ1


干し肉1

薬草3束

→ 革靴1足


薬草5束

→ 革カバン1



■加工


未処理ウサギ2匹

→ 血抜き・解体処理


ウサギ7匹

→ 山椒35粒使用

→ 干し肉35個分加工開始



■消費


干し肉2

野菜1束

山菜少量



■終了


食料


干し肉:4

野菜:2束



素材


薬草:5束



携帯素材


山椒:0粒



拠点保管


山椒:15粒



作業用品


網1

ナイフ1

古大鍋1



衣類・装備


革靴1足

革カバン1



運搬用品


簡易袋4



仕掛り品


干し肉35個分

(乾燥中)



通貨


0ルク



資産表(第8話終了時点)


武器


木槍1

石ナイフ2

ナイフ1



作業用品


石斧1

古大鍋1

網1



衣類・装備


革靴1足

革カバン1



食料


干し肉4

野菜2束



素材


薬草5束

山椒15粒

魚骨:少量

植物繊維:少量



運搬用品


簡易袋4



仕掛り品


干し肉35個分

(乾燥中)



固定資産


簡易拠点1

石組み簡易かまど1

干し肉ラック1

薬草乾燥場所1

簡易罠数個

簡易魚囲い1

動物避け用焚火複数



通貨


0ルク


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