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焔の契り~騙せない妖狐の初恋譚~  作者: 佐東 利里子
◆3章

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大火と厄災の子 (11)

いつも読んでいただきありがとうございます!多忙により下書きのストックが切れてしまっているため、二週間ぶんの更新をお休みさせていただきます。次回の更新日は8/6(木)の予定です。

大変申し訳ありませんがお待ちしていただけると幸いです。よろしくお願いいたします!


「そう、颯の言うとおりよ。それまでは土地の取り合いを目的とした戦いがあちこちで起きていたの。よりよい作物が育つ土地や綺麗な水を汲める場所を自分たちのものにしようと奪い合っていた。でもそうしているうちにあやかしも人間も疲労してしまってね……。自分たちの土地も相手の土地も荒れてまともな土地なんてないような状況に陥ってしまって、争いをしている場合ではないくらいにどちらも追い詰められたの。それをきっかけに、あやかしと人間はこの和輪国内の土壌の再生を共通の目的に掲げて、手を取り合う道を選んだ。そのときにお互いを傷つけないようにと約束をしたのだけど……」


 そこまで話した母親の顔が曇る。颯が心配げに覗き込むと、笑っているのに悲しいみたいな複雑な眼差しを向けられた。


「この約束はね、ただお互いの命を脅かさないことを目的にしているだけではないの。共存という表立った言葉の裏で、二つの種族が根本的には混ざることを許さないって意味が含まれてるの。まるで共に手を繋いで和輪国を復興させようとしていたのは体裁で、本当の意味で人間もあやかしも寄り添ってはいない。ずっと互いを嫌ったままなの。ましてや命が……特に人間が持つ異能とあやかしの妖力が混ざることを忌み嫌っている節があったわ。人間でもあやかしでもない新たな勢力が産まれて、自分たちの領域が奪われる未来を危惧していたみたい」

「じゃあ、僕みたいな半妖があやかしと人間の敵になるって思われてるの?」


 勝手な決めつけに颯は腸が煮えくり返るかと思った。同時に、気まずそうに俯く母親の姿に切なくもなる。


「そんな……なんだよそれ。そんな、ありもしないことをすると決められて、僕は人間にもあやかしにも嫌われるの? なんで、同じ国に住んでるのに人間もあやかしも協力して一緒に生きられないんだよ。お父さんもお母さんも種族が違うのに、僕を含めて今まで一緒に生きてこられたじゃないか! それが答えじゃないの!? 種族が違っても、お互いのものを奪い合わずに生きる方法もあるだろうっ……」


 理不尽に感じて、行き場のない怒りを自身の膝に拳をぶつけることで消化する。それでも昂った心情はなかなか凪いでくれず、吐き出す呼吸が熱を帯びていた。


「あやかしと人間がお互いを尊重できていたら、争わずに済む道もあったかもしれないわね。でも、残念ながらそれはできなかった。資源の取り分で長年揉めてきていたっていうのもあるけど、そもそも種族の違いを受け入れることも困難だったのよ。能力や寿命、姿の違いを異分子として見てしまう人はが多かったから、寄り添うこともできなかった……」


 遠い目をした母親は、一体何を思っているのだろうか。颯はざわざわと落ち着かない複雑な心情を抱えながら恐る恐る問いかける。


「……お母さんは、後悔してるの?」

「えっ?」

「あやかしのお父さんと家族になったってことは、周りの人と違う道を選んだってことだよね? 受け入れられない人たちが大勢いる中で、それはつらかったんじゃない?」


 母親の瞳が潤んだように震える。だけど颯の言葉を否定するように首を横に振った。


「後悔なんかしていないわ。確かに親にも友達にも祝ってもらえないどころか認めてすらもらえなかったのはつらかったけど……お父さんを好きになったことを、間違いだったとは思わない。種族が違うことを悪いとも思ってないよ」


 母親がそっと颯を抱き締めてくる。今日はたくさん抱き締めてもらえて、颯は母親の腕の中ですっかり安心しきっていた。


「お父さんと想いが通じたことも、そのおかげで颯と出会えたことも、お母さんにとってはとても誇らしいことよ。誰に何と言われようと、これは絶対に揺らがないわ。お父さんだって、同じ覚悟でいてくれているよ」

「お父さんも……」


 母親はそう言うが、颯の脳裏に嫌な記憶が過ってしまう。颯に向かって蒼炎を放ってきた父親は、本当に後悔を抱えていなかったのだろうか。

 颯が言いたいことがわかったのだろう。母親が少し悩みながら言葉を選ぶ。


「化け猫の里で、颯はお父さんを見たんだったよね?」

「うん。蒼い炎で家も林もたくさん燃えていて、その炎の向こうに人影を見つけたんだ」

「人影を? はっきりとその人の顔は見えてた?」

「あっ、見えてない。後ろ姿がお父さんに見えたと思うんだけど……」


 話しながら自分でも疑い始めていた。見覚えのある蒼炎だったから人影は父親だと思い込んでいたが、よくよく思い返すと確証を得られるほどはっきりと顔や姿を見たわけではなかった。


「もしかして、お父さんじゃなかったのかな……!?」

「残念だけど、それはまだわからないわ。確かに昨日、お父さんは化け猫の里に行く予定だった。あの里の長と知り合いだったから、仕事を探すために力になってもらえないかお願いしに行くつもりだったのよ。里長は昔からお父さんと親しくしてくれていた方でね、私たちのことも公には認められないけれど理解してくれていた数少ない知り合いよ。だからお父さんが里長の家に放火するなんてあり得ない。ましてや息子のあなたに攻撃するなんて、あの人がそんな酷いことするなんて信じたくないわ……」


 口ではしっかりと父親の所業ではないと言っているが、それでも母親の瞳は不安げに揺れていた。颯が見聞きしたことも襲われたことも嘘をついているとは思えないからこそ、一体何が起きているのかと戸惑ってしまっているみたいだ。

 颯もその気持ちはわかるのでこくりと頷く。


「お父さん、どこに行っちゃったのかな……」

「私と颯を捕まえたのなら……ましてや戦争が始まっているなら、恐らく軍はあの人のことも探してるはず。だから、逃げているのかもしれないわね」


 考え込んでいた母親が颯を安心させるように口角を上げた。


「だけど今のところここに連れてこられていないなら、きっとまだ逃げてどこかに隠れているんだと思う。……大丈夫、お父さんは強い人よ。火をつけた犯人が本当にお父さんとも限らないし、今はただ、あの人の無事を願いましょう」

「そうだね……ふわぁ」


 あやすように背中を撫でられているうちに気が緩んだのか、不意にあくびが漏れた。涙が浮かんだ目元をごしごしと擦る。


「あら颯、眠たくなっちゃった?」

「うん、ちょっとだけ……」


 ここに連れてこられた際に一時的に睡眠薬で眠らされていたとはいえ、思えば一晩眠らずに山を登ったり下ったりしていたのだ。小さな身体に蓄積された疲労はまだ重く染み込んでいる。


「いいよ。颯、横になって休もうか」

「うん……。ねえお母さん、手繋いでくれる?」

「ふふっ、もちろんいいわよ」


 母親は颯を布団に寝かせると隣に寝転がり、颯がおずおずと差し出した右手を柔らかく包み込んだ。颯はその温もりがもう二度と離れていかないようにと念じながら瞼をおろす。


「おやすみ、颯」

「お母さんおやすみなさい」


 束の間の安息に導かれて、颯はゆっくりと眠りに落ちた。



(前書きと同文です)

いつも読んでいただきありがとうございます!多忙により下書きのストックが切れてしまっているため、二週間ぶんの更新をお休みさせていただきます。次回の更新日は8/6(木)の予定です。

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