第220話 ノーマンとの交渉
チェスターが椅子から立ち上がり、歩み寄ってノーマンと握手を交わす。
カオスウィングのノーマンは笑顔を浮かべながら、椅子に座って話をしようとチェスターに椅子に座るよう勧める。
内心はどのようなものかはわからないが、表面上は穏やかに始まった。
「赤と青を買い付けに来たのだが、うちが買うのは可能か?」
「もちろん。ただ聞いておきたい、どうしてうちに? 現在は敵対してはいないとはいえ、同じ同盟ではない」
ノーマンの表情から笑顔が消える。
話している内容から以前に敵対していた時期があったのだろう。
「飛び込みの客が必要とする鉱石が多いため、同盟内だけでは量が足りないと計算された」
「足りない? そちらの同盟も村をいくつか持っていたはずだが、どれほどの量を必要としている?」
「武具で8人分以上」
チェスターが8人分と言った瞬間、ノーマンが目を見開き固まる。
オリハルコンやミスリルともならば、かなり高額な注文となる。普通は8人も一度に買いに来ない。
「……8人分? 聞き間違いか?」
ノーマンが確認するようにゆっくりと喋る。
「隣に座っている一人を除いて、全て客候補になる」
「……他は全て客だと?」
チェスターとメイソンを除けば8人。
8人分のオリハルコンとミスリルともなれば量が必要になる。
「まずは様子見のため2人が買う。制作した武具の品質と出来次第では追加で注文される約束を取り付けた」
ノーマンが目を細める。
「高価な武具を大量に買えるのか?」
「今回の客人は他国の要人で、金の心配はないと判断した」
「ほう」
ノーマンの顔に笑顔が戻る。
高額な商品ともなれば払えるかどうかが問題となる。
こちらの資金に問題がないと判断したようだ。
「金の心配はないが、安く揃えられるのなら安い方がいいというのが客の要望でな」
「それはそうだろう」
何度もノーマンが頷く。
事前に考えた設定通りではあるが、今のところ交渉はうまくいっている。
「安くしたいという客の要望に応えたいが、同盟内では鉱石が足りない。同盟以外にも声をかけると決めたわけだ」
「なるほどな。ちなみにうち以外にも声をかけているのか?」
チェスターが首を横にふる。
「同盟以外だとカオスウィングが最初だ。同盟外に声をかけるのはいいが、揉め事を減らしたい」
「関わる組織の数が増えれば揉め事が増えるか」
チェスターが頷く。
「ハイク村の鉱山は大量の鉱物を採掘していると聞いている」
「ハイク村はタリス村と合わせると、周辺でも一番規模が大きい鉱山だと自負している。赤と青が採掘される量も多い」
ノーマンはハイク村の採掘量に自信があるようだ。
採掘量が少なければあえて買い付けに来る理由がないため、採掘量が多いというのはハイク村に来たいい理由になっている。
実際ノーマンも俺たちが来た理由を本当に買い付けだと思っているようで、疑問に思っていない。
「期待している。ああ、それと誤解ないように伝えておくが、タリス村にも別件で組織の者を買い付けに向かわせている」
「ほう。随分と儲かっているようだ」
「偶然の出会いに感謝している。おかげで最近随分と忙しい」
チェスターがかけらも思ってもいなさそうな言葉を笑顔で話す。
エリクサー・ラボラトリーという秘密を知ってしまったチェスターは逃げるに逃げられない。きっかけとなった俺との出会いに感謝など絶対にしていないだろう。
本来の感情を見せずに話すチェスターは俺より演技が上手い。
「では我々も儲けにあやかるため、商売の話を進めよう」
ノーマンは俺たちの話に違和感を抱かなかったようだ。
俺が出る幕もなくチェスターがすんなりと話を進めてくれた。
想定していた中で一番簡単に話が進んでいる。
錬金術師が多い特殊なギャングだからこそ相手に信用されたのだろうか?
なんにせよ違和感を抱かれる前に話が進むのはありがたい。
しかし、ここからが本題。鉱山内にどうにかして入らなければならない。
「商談するために赤と青の含有率を確認したい。こちらの錬金術師は連れてきた」
チェスターが机の上で手を組んで上半身を前にのめり出す。
チェスターの視線の先にいるノーマンは目を細める。
「言っている意味がわかっているか?」
「もちろん。鉱山内に他組織を入れるのが煩わしいのはわかるが、こちらも高額な依頼で騙されるわけにはいかない」
チェスターとノーマンが真剣な表情で睨み合う。
二人が黙ると空気が張り詰める。先ほどまでの穏やかな雰囲気が一変した。
「同盟外となれば直接見ねば保証はないようなものか……」
「無茶を言っているのは理解しているが、こちらも騙されれば利益が飛ぶどころの話ではない。鉱石を見るため鉱山内に入らせて欲しい」
横流しする鉱石を村の中に保管しておくわけにはいかない。
鉱山から出した時点で違法に持ち出されたものになる。逆にいえば鉱山内であればまだ持ち出されていないただの鉱石になる。
必要な時に必要な量を鉱山から持ち出すのだとチェスターが言っていた。
「首都で見せるのではダメか?」
「申し訳ないが、含有率が高いものに変えられている可能性は否定できない」
「信用の問題か……」
ノーマンは迷っている様子。
「チェスター、私が話してもいいか?」
「構いませんよ」
タッカー様が間に入る。
「私は鉱石の状態でも買い付けたいと考えている。できれば現地で鉱石を直接見たい」
「鉱石を直接買い付け……?」
チェスターが目を瞑ってため息をつく。
ノーマンがチェスターを見る。
「言葉だけでは買えるか不安だろうと、資金の一部を持ってきた」
タッカー様はチェスターを見るノーマンの反応には興味を示さず、鞄の中から金の延べ棒を取り出す。一つ、二つと増えていき、金の延べ棒が山になる
ノーマンはチェスターから視線を外し、金の延べ棒を穴が開くほど見ている。
チェスターから話を進めやすくするため貴金属を用意しろと言われたが、用意した金の延べ棒は想像以上の効果。
騎士団から好きに使えと持ち込んだものだが、実際に使い道があるとはな……。
「ノーマン、うちの客をとってほしくはないが、鉱石を用意できないのはこちらの落ち度。全ての商談を持って行かれては困るが、一部の商談に関しては客を紹介するという形でどうだろうか?」
チェスターが妥協したとでもいいたげに語りかける。
金の延べ棒とチェスターの妥協。ノーマンはどう出るだろうか。
「……仕方がない」
ノーマンは返事を遅らせ渋々といった言い方をしているが、言葉とは裏腹に顔はニヤけている。
金に目が眩んだか。
わかりやすい。
「感謝する」
タッカー様がお礼を言うとノーマンが頷く。
「坑道内は狭くきれいとはいえませんが、全員で鉱山に入り鉱物を確認しますか?」
ノーマンの口調が明らかに変わった。
しかもノーマン側から全員入るのを提案してくれる。
延べ棒の効果は凄まじい。
「全員で頼めるだろうか?」
「承知しました。すぐに準備させます」
ノーマンは笑顔で上機嫌なのがわかる。
あからさますぎて、呆れた表情を出さぬように努力する。
ギャングの構成員とはいえ、チェスターとは性格が全然違うな。
「こちらが無理を言っているのは承知している。特別な出迎えなどは必要ない」
時間を与えれば人を隠せてしまう。
「そうですか。………………まあ、構わないでしょう」
ノーマンは明らかに迷った様子だったが、許可を出した。
ノーマンの迷いの元がなんなのかはわからないが、坑道内にエリクサー・ラボラトリーがいるのではないかと期待してしまう。
「早速だが案内を頼めないだろうか?」
「では私がご案内いたします」




