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脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜  作者: Ruqu Shimosaka


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第213話 スペンサーに事情を話す

 一週間後。

 今日も1日走っていた。

 スペンサーに俺たちの事情を話すのは決めたが、すぐに話はしなかった。

 まずは皆に相談した上で、ベアトリクス様へと指示を仰いだ。


 俺一人でチェスターの元に行ったのは結果的に成功と言えなくもないが、少し違っていれば失敗していた。

 それにチェスターとの約束があり、スペンサーとの交渉が失敗したところで国を出られない。スペンサーからそこまで強い反発があるとは思っていないが、なるべく不確定の要素は排除したい。


「アイク、返事が来た」


 家に帰るとモンタギュー父さんが封筒を差し出してくる。

 返事が封筒か。随分と書類が多いようだが、チェスターの件についても返事がまとまっているのだろう。

 すでに開封された封筒から中身を取り出す。


 最初にねぎらいの言葉が書かれている。

 内容は予想通りに、チェスターから聞いた内容についての返答が大半。

 秘密主義的なフラワーオウル王国との交渉はフランク王太子殿下が対応すると書かれている。

 スペンサーについても記述がある。


「スペンサーに話す許可が出たか」


 先に封筒の中身を読んでいたであろうモンタギュー父さんが頷く。


「もし帰還する必要が出たとしても、チェスターについては他の騎士を当てればいいという判断を下したようだ」

「どちらにせよ、俺たちがずっとフラワーオウルに滞在を続けるわけにはいかないか」


 チェスターからまだ接触はない。

 一週間程度で情報が見つけられるとは思っておらず。時間がかかるのは覚悟している。


「スペンサーと話すのはいつにする?」

「できる限り早くしよう。チェスターとは別でエリクサー・ラボラトリーについて調べたい」

「分かった」


 メイソンはフラワーオウル王国の王族と関係がある。

 情報を制限される可能性がある。別の情報がほしい。




 2日後。

 話があると誘うとスペンサーが家にやってきた。


「座ってくれ」


 スペンサーの前にお茶を出す。

 俺、モンタギュー父さん、ヴァネッサ母さんも椅子に座る。


「それで話ってなんだ?」


 切り出しにくいが話し始める。


「俺たちの事情を話そうと思ったんだ」

「事情? 何か隠しているのは察していたが、話す気になったのか?」

「やはり気づいていたか」

「アイクもそうだが、3人とも強すぎるとは思っていた」


 どう考えてもダンジョンで暴れすぎた。

 手加減の具合など、戦い方を決めてから望むべきだった……。

 そういえばまだ戦い方を決めていない。次のダンジョン討伐までに決めないといけないな……。


「聞かずに立ち去るという選択もあるが、聞く気はあるか?」

「ここまで聞いて止められるのは気になる」

「他人に話さないでほしい」

「わかった」


 簡単な口止め。

 話が終わってからもう一度口止めをする予定。


「素直に言ってしまうと俺たちは騎士だ」

「へー」


 予想よりスペンサーの反応が薄い。


「あまり驚かないな?」

「……え? もしかして、冗談じゃなく本当に騎士なのか!? 兵士とかではなく?」


 兵士だと思われていたのか。


「そうだ。本当の名前はアイザック・オブ・アックスオッター。スカーレットドラゴン王国のルーファス国王陛下より騎士に命じられている」


 チェスターと違い身分は隠さない。


「オブ……? 貴族!?」

「俺が貴族かどうか説明するとややこしいのだが、貴族として名乗るのが許されている。貴族らしい性格ではないので、口調など今まで通りで問題ない」


 正確には爵位がないのだが、貴族に準ずる扱いを受けている。


「私はヴァネッサ・メーザー・ブル」

「モンタギュー・ブル」

「私たちも騎士だけれど、アイクと違い貴族ではないわ」


 スペンサーが俺たちを見比べるように顔を動かす。


「ヴァネッサ師匠とアイクは家族ではなかったのか」

「ええ。モンタギューと夫婦なのは本当よ」


 気づかれていなかったのか。

 武器が揃っていたり、髪の色が似ているのが良かったのだろうか?


「えっと、それでスカーレットドラゴン王国の騎士がなぜフラワーオウルに?」

「大犯罪を犯した犯罪集団を追っている」

「大犯罪?」

「人身売買、人体実験、薬物製造、ダンジョンの秘匿。数え切れないほどの犯罪を犯している」


 エリクサー・ラボラトリーが犯した犯罪をあげていくと、スペンサーが目を見開いて驚いている。


「……フラワーオウルで悪事を働いている奴らでもそこまでは聞かない。残虐非道としか言えないな……」


 残虐非道というのには全くもって同意。

 俺は頷いて続きを話す。


「スカーレットドラゴン王国は犯罪者たちがフラワーオウルに入国したと予想している」

「そんなヤバい奴らがフラワーオウルにいるのかよ」


 スペンサーの顔が引き攣っている。


「フラワーオウル王国には警告済みだ」

「国に警告しているのか……」

「他国であるフラワーオウルで勝手な行動はできない。俺たちが潜入するにあたり、事情を説明してフラワーオウル王国から許可をもらっている」


 国交があればもっと簡単に進んだろう。

 しかし、エリクサー・ラボラトリーは国交がないからこそフラワーオウルを逃亡先に選んだのだろう。


「しかし、国に警告しているのなら、オレになぜ話したんだ?」

「いくつか理由はあるのだが、まず俺たちが地理に不慣れなのが一つ」


 色々と回ったがまだわかっていない場所の方が多い。

 怪しい場所である路地裏についてはほとんど手を出せていない。


「色々街を回っていたのは犯罪者を探していたからか」

「そうだ。もう一つはフラワーオウル王国が情報の共有に慎重なようだと気づいた」

「国と協力できていないのか」

「潜入を許可してくれてはいるが、完全に信用できていないのだろう」


 メイソンに聞いた限りフラワーオウル王国は1000年間もエリクサー・ラボラトリーと戦っている。慎重になるのもわかる。

 しかも相手は不老不死という人なのかも怪しい存在。


「ああ、フラワーオウルは他国が絡むと全てがやりにくくなるからな」

「やりにくくなる?」


 スペンサーが小さくため息をついて目を伏せる。


「他国の血が混じっていると兵士になるのが難しいんだ」


 兵士になるのが難しい……。


「スペンサーが兵士になっていないのが不思議だったが、まさか血が混じっているのが問題なのか?」

「そうだ。フラワーオウルで竜人は珍しいだろ?」

「ああ。ギルドでも数人しか見かけない」


 街の中でも竜人は見かけない。

 フラワーオウルは山羊人や虎人などが多く、獣人に偏りがある。


「大半の竜人は他国の血が入っている。オレもオヤジの家系にスカーレットドラゴン王国出身の竜人がいるらしい」


 フラワーオウル王国に修行するため来て居着いてしまったといったところか?

 修行に出て国に戻らない人が一定数はいるだろうな。


「竜人は他国の血が入っている証拠になってしまうわけか」


 スペンサーが頷く。


「混じったのが随分前でも珍しい獣人は警戒され、基準以上の実力がなければ兵士になれなくなる。仮に兵士になれたとしても騎士には絶対になれない」

「他国の人と混じったのが最近でなくとも騎士になれないのか……」


 強くとも兵士になっていないギルド員たちはいた。

 兵士に自らならない人もいるとは思うが、そもそも兵士になるのが難しい人が多いのか……。

 フラワーオウルの警戒心は想像以上だな。


「犯罪集団を探すのを手伝ってもらうつもりだったが、スペンサーは俺たちに関わらないほうがいいかもしれない」

「なぜだ?」

「俺たちと関われば兵士になるのがさらに難しくなりそうだ」


 ヴァネッサ母さんが心配していた通りの展開。

 スペンサーは俯く。すぐに顔を上げるが、あげた時には顔がこわばっていた。


「……なあ、スカーレットドラゴン王国なら俺は兵士になれるか?」

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