第214話 騎士になる基準
スペンサーが相当な覚悟で尋ねてきたのがわかる。
「スペンサーならスカーレットドラゴン王国で兵士に余裕でなれる。騎士も目指せる範囲だ」
「騎士……出身がスカーレットドラゴン王国でなくともいいのか?」
「出身は関係なく、基本は強ければ問題ない。あとは性格が多少考慮されるが、スペンサーなら問題ないだろう」
騎士になる基準はかなり緩い。
ダンジョンで戦えるほど強く、仲間を裏切らなければばいい。
たったそれだけの基準であっても、騎士になれる人の数はそう多くはない。それほどまでにモンスターは強い。
「このままフラワーオウルにいても騎士になれる可能性はない。ならスカーレットドラゴン王国に行きたい」
スペンサーは真剣な表情。
力が随分と入っているのか、机の上にある拳が白くなっている。
「俺としては連れていくのは構わないが……家族がいるだろ?」
スペンサーに家族がいるのは聞いている。
「できれば家族も連れて行きたい」
家族も一緒にか……。
兵士の収入があれば不可能ではないだろうが、スペンサーが一人で決めていいのだろうか?
「スペンサーが相当な覚悟で話しているのはわかるが、国を出て移住するとなれば相談したほうがいいんじゃないか? 今の仕事や生活もあるだろう?」
「確かに住みなれた母国を離れるのは嫌がるかもしれない。だけれど、フラワーオウルの北側はろくな仕事がないんだ」
仕事がないか。
路地裏はギャングが多く、まともな仕事が少なそうなのは想像できる。もっとも、ギャングが多いから仕事が減っているのか、仕事が少ないからギャングが増えたのかまではわからない。
「スカーレットドラゴン王国であれば仕事の斡旋をできなくはない。だが、スペンサーが一人で決めるべきではないと思うぞ」
「それは……」
「俺たちはエリクサー・ラボラトリーを探すためフラワーオウルにまだ数ヶ月はいる。今すぐに決める必要はない」
仮にエリクサー・ラボラトリーの関係者が見つかったとしても、処理があって数ヶ月はスカーレットドラゴン王国へ帰れない。
十分に迷う時間はある。
「……わかった」
スペンサーは迷っているようだが、最終的には頷いてくれた。
「俺たちが騎士であるのは家族にも黙っていてほしい」
「もちろん。しかし、そうなると、どうやって説得すべきだろうか?」
「……そうだな。一緒に騎士を目指しにスカーレットドラゴン王国に行くというのはどうだろうか?」
「なるほど。兵士どころか騎士になれる可能性があると伝えればわかってくれそうだ」
家族が素直に信じてくれるかはわからないが、フラワーオウルにいても先がないのは家族もわかっているだろう。
「家族が一緒にスカーレットドラゴン王国に行くかはわからないが、スペンサーが騎士になってから呼び寄せるという方法もある。早急に決めすぎないようにな」
「そうだな……うん。わかった」
どうするか決まったところで、スペンサーを落ち着かせるため、お茶を入れ直す。
お茶を飲むとスペンサーの表情が少し柔らかくなる。
「それで犯罪集団のエリクサー・ラボラトリーを探す手伝いをお願いできるか?」
「もちろん。報酬としてスカーレットドラゴン王国に連れて行ってくれ」
「ああ、報酬はもちろん用意する」
スカーレットドラゴン王国に連れて行く程度では報酬が不足している。
エリクサー・ラボラトリーを探すという危険度からすると、スペンサーの家族の面倒を見るなどつけても不足しているように思える。報酬についてはベアトリクス様と相談だな。
「それで、そのエリクサー・ラボラトリーとかいう奴らはどうやって探すんだ?」
「エリクサー・ラボラトリーは犯罪者であるが、錬金術師の集団でもある」
「錬金術師か……」
スペンサーが腕を組んで上を見る。
フラワーオウルでは珍しい錬金術師。スペンサーも知り合いはいないのだろう。
「最近まで知らなかったのだが、フラワーオウルの錬金術師は国家試験に合格する必要があるらしいな?」
スペンサーが片眉を上げる。
「そうだが、スカーレットドラゴン王国は違うのか?」
「違う。国家資格はない」
スペンサーが目を見開いて驚く。
国によって常識は違う。スペンサーは錬金術師が国家に属するのが常識だったのだろう。
「つまり誰でも錬金術師になれるのか?」
「そうだ。俺も錬金術を覚えている」
「それはすごい」
スカーレットドラゴン王国ではそこまで珍しい職ではないのだがな。
フラワーオウルの国家錬金術師という錬金術師の管理もまた、エリクサー・ラボラトリー対策であろう。
「それでエリクサー・ラボラトリーを探す方法だが、国家錬金術師という制度があるフラワーオウルでは潜りの錬金術師がいるらしいな?」
「ああ、ギャングが匿っているやつか」
「そうだ」
スペンサーが再び腕を組んで上を見る。
「オレは兵士を目指していたから、ギャングと距離を取っていたんだ。あまり役に立てるとは思えない」
ただでさえ兵士になるのが難しいのに、ギャングと付き合いがあれば兵士になれる可能性は無くなるか。
「ギャングについては、デュロックが所属しているギャングと話がついている」
「そういえばアイクはデュロックに絡まれていたな」
「デュロックの所属していたギャングは興奮剤の使用が禁止だったらしくて、とても怒っていたぞ」
スペンサーにチェスターとの話を要点だけ話していく。
「ギャング側の協力者がいるのなら、オレはいらないんじゃ……?」
「フラワーオウルの王族と関係がある、ギャングであるチェスターだけに頼るのは不安だと思っている」
「情報が一つでは不安か。わからなくはない」
「だがチェスターの邪魔になるような行動も慎みたい」
邪魔しないように動くというのは、かなり難易度が高い。
「なら街の外を探ってみるか?」
「街の外?」
「以前にダンジョンの捜索で見た鉱山を中心とした村覚えているか?」
フラワーオウルのすぐ目の前にあった村。
距離としては近いが、鉱山に人が住み着いて村になったと聞いた。
「ああ、あったな」
「坑夫だったオヤジから聞いたんだが、鉱山の村はだいたいギャングが入り込んでいる。どこにどうギャングが入っているのかはわからないが、アイクなら聞きにいけるだろ?」
チェスターからギャングの勢力は聞き出せばいい。
「そうだな……」
小さな村となれば顔見知りのみとなりそうだが、ギャングの内通者が入り込んでいれば、むしろ誰かが隠れるのに向いている。
というかフラワーオウルの首都は跳ね橋に兵士が立っており、入り込むのは難しい。
エリクサー・ラボラトリーが隠れるのなら村の方ではないかとすら思えてきた。
しかも街中でエリクサー・ラボラトリーを探すよりは警戒されないかもしれない。
よし。俺たちは首都周辺の村を調べてみるか。
「……村の位置だけでもわかるか?」
「全てではないが、わかる範囲で良ければ」
「頼む」
地図を広げ、スペンサーから鉱山が元になった村の位置を聞いていく。
地図に次々と鉱山のある村を書き込む。
「……話していて思い出したんだが、オヤジから泥炭が掘れる山に近づくほど危険だと聞いた」
今書き込んだ地図でも、泥炭の掘れる山の近くは村の数がやたら多い。
「泥炭が掘れる山か……。確かオリハルコンやミスリルが掘れるんだったか?」
「ああ。泥炭が掘れる山に近づくほど希少な金属が出やすいらしい」
「ほう」
希少な金属か。
オリハルコンやミスリルの盗掘や密輸についてだが、もしかして鉱山に入り込んだギャングが流しているのか?
「それとなくオヤジに聞いてみようか?」
「頼めるか?」
「まかせろ」




