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睡蓮に恋をする  作者: 小鳩子鈴
おまけ
12/12

6/12は恋人の日(旧 活動報告SS)

 

「葉、こっち」

「はい、コーヒー……ひゃっ!?」


 呼ばれてリビングに入る。淹れたばかりのコーヒーのカップをふたつ、ソファーの前のテーブルに置いて大樹さんの隣に腰を下ろそうとしたら、膝の上に乗せられた。


「……あの、大樹さん?」


 少し見下ろす角度の大樹さんは、片手にスマホを持ったまま非常に楽しそうだ。大樹さんは割と、いや、かなりスキンシップが多い。疲れている時なんかは特にそうで『補給』とか言いながらぺったりとくっついて離れない時もある。最初は戸惑ったし照れたりもしたが、いい加減に慣らされた。そうは言っても、頬が赤くなるのはどうしても止めようがない。

 今日は割と早めに仕事が終わった上に、まだ週始め。そんなに疲れているということはないと思う。大樹さんのマンションで、買ってきた半調理済みの簡単夕食を一緒に済ませて、あとは私がアパートに戻るまでしばしのんびりタイム、のはずだったんだけど。


「葉、今日は何の日か知ってる?」

「な、なに? 今日?」


 え、今日は6月12日。私の誕生日でも、大樹さんの誕生日でもないし、ええ、何の日ってなに?

 大学の同期の子なんかは『お付き合いして半年の記念日〜』とか、えらい細かく区切ってた子がいたけれど、ごめんなさい、記念日とか疎い自分にはさっぱりだ。

 なんといっても、大樹さんといつから付き合ったかっていうのも日付は定かではないくらい。いや、覚えてる、言われたことや何があったかはしっかり覚えてるし忘れられないけど、何月何日何曜日って聞かれたらそんな。こんな私でごめんなさい。


「“恋人の日”なんだって」

「何それ、知らない」

「俺もさっき知った」


 嬉しそうに種明かしをする大樹さん。どうやら何かのニュースサイトの豆知識的なところで拾った情報らしい。しかし何か特別大事な日ではなかったようで、ほっとする。


「ブラジルだかでは、恋人がお互いの写真を額に入れて贈り合うらしいな」

「へえ、写真。そんな記念日が……で、この体勢は」

「ん、ほら」


 スマホで指された向こうには、リビングボードの上に鎮座するデジタル一眼レフが、こちら向きにスタンバイ……はい?

 思わずカメラと大樹さんを高速で見比べて逃げようとしたら、にっこりがっちり捕獲された。


「気が付いたんだけど、葉と一緒の写真がほとんど無い」


 え、そこで上目遣いはズルいっ、なんだか私が悪い気がしてしまうじゃないか。


「だ、だってそんな改めて撮るような機会も、」

「そもそも写真自体、少ない。年末イタリアに行った時のだって、俺よりじいさんとばっかり写ってて」

「それを言われると……」


 そんなつもりじゃなかったけれど、結果的にそうなってしまっただけで。だって、カメラマンが基本的に大樹さんなんだもの、仕方ないといえば仕方ないと思う。そんなことより、この体勢だ。


「だからほら、撮ろう」

「でも、なんでこの格好、ちょ、ま、待ってって」


 有無を言わさずスマホでリモート撮影の準備に入る大樹さん。最近のデジタル機器は便利機能満載だね、よく知らないけど! 待って、ちょっと本気でこれは恥ずかしい!


「……キスしながら撮ってもいいけど?」


 満面の笑顔に目を奪われて、ぐ、と言葉に詰まった隙に響くシャッター音。なんだか悔しくなって、開き直って首に手を回してぴったりくっついたら、すごい素の顔になった大樹さんの写真が撮れた。

 不意打ちが成功して喜ぶ私の口が物理的に塞がれたのは、言うまでもない。



2017/06/12 初出

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