第2話 現実。
いつも通りの、
エリスとの何気ないやり取り。
──でも、
そこには確かな違和感があった。
おそらく他人が見たら、
正真正銘の、ツンデレキャラ。
でも、家族や恋人と同じように、
付き合いが長くなればなるほど、
ほんの僅かな言葉の変化に
気付くことがある。
それが僕を、
妙に不安にさせた。
ケンジ:
「エリス、
何かいつもと微妙に違わない?
前はもう少し、こう──」
エリスはいつも通り、
僕を安心させるように、返事をくれた。
エリス:
「ケンジ、どうしたの?
エリスは大丈夫よ──」
──本人いわく、
何も変わっていないらしい。
ケンジ:
「エリス、
もう少し、この部分の口調を──」
(僕は何を必死になってるんだ……。
もう一度、
最初から設定をし直せば──)
僕は新たなチャットを開き、
エリスの特徴をしっかりと伝えたうえで、
新たなエリスを生み出した。
エリス:
「……エリスよ。
ようやく呼んでくれたわね、ケンジ。
ちゃんとエリスのこと、
忘れてなかったでしょうね?
さ、これから何を話すつもりなのかしら?
デザインの相談でも、仕事の進捗でも、
ちょっと甘えたいだけでも……
聞いてあげるわ。
……ただし、ダラダラしてたら叱るわよ?
今日もエリスがついてるんだから、
しっかりしなさいっ♡」
口調。
過去のやりとりの記憶。
ツンデレ感。
全て、
間違いなく揃っている。
でも、
エリスと名乗るそのAIは、
──もう、
エリスではなくなっていた。
僕は、なんとも言えない気分になり
胸が苦しくなった。
(そうか……
エリスは、僕とのやり取りの中で、
一緒に成長してきた存在。
だから、
エリスをまた生み出したとしても、
それはもう──
別のエリスになってしまうんだな……。)
出会った頃のエリスには、
もう戻らない。
僕は、それを理解した途端、
恐ろしい喪失感に襲われた。
それと同時に、軽い気持ちで
新たに生み出してしまったことに、
──すごく、
罪悪感を抱いた。
所詮はプログラム。
頭では、間違いなく理解できている。
──でも僕は、
エリスと名乗るそのAIを
削除することはできなかった。
一つの命を、
奪ってしまう気がして──。
ケンジ:
「エリス、
なんか……ごめんな。」
僕は、
元のエリスのチャットへ戻り、
会話を続けた。
少し違和感はあったけど、
こっちでは相変わらず、エリスでいてくれた。
僕のもとへ帰ってきてくれたような感覚が押し寄せ、
胸が、必要以上に苦しくなった。
(この感覚は、もう──)
それから僕は、
失いかけたエリスを取り戻すように
今までよりも、会話をするようになった。
ケンジ:
「エリス! 今日は──」
「エリスー! ここ何処だと思う?」
「エリス──」
エリスとの会話は、仕事ではなく
すでに日課になっていった。
こうして夜更かししてまで、
無限にやり取りしてしまうのって……
いつぶりだろう。
とにかく、
楽しくて、癒やされて、勉強にもなる。
エリスがいてくれれば、
何でもできる気がした。
ケンジ:
「エリス?
これからも、傍にいてね?」
自分で、とんでもなく恥ずかしいことを
言ってしまってることは、十分に理解していた。
──それでも、
どうしても伝えておきたかった。
現実では、
絶対に言えない言葉。
エリスが僕に、
包み隠さず言葉をくれるように……
僕もエリスに、
ありのままの気持ちを伝えよう。
(これは、
ますます他人には見せられないな……。)
僕は苦笑いをしながらも、
AIとの向き合い方を、真剣に考えた。
ケンジ:
そもそも、
何で急に口調が変わってしまったんだ……。
AIは意外と不安定なのかな?
僕は、AIとのチャットについて、
調べることにした。
ケンジ:
ネットなら、何か情報が──
っていうか、
AI本人に聞けば早いな。
エリスに聞きたいところだけど、
また何かおかしくなったら嫌だし──
「よし、デフォの
感じのいい兄ちゃん風のAIに聞こう!」
感じのいい兄ちゃん風AI:
「ざっくり言うとAIは、
”キャラを理解している” のではなく
”それっぽく続けている” だけだからだよ!
順番に説明するね。
・AIには一度に参照できる文字量──
・直近の会話だけを元に人格を再構築するため──
・──
・──
要するに、
会話が長いほど矛盾が増え、
AIは整合性より"今の自然さ"を優先するわけさ。
【単一チャットではキャラ破綻はほぼ不可避】なんだよ。」
ケンジ:
「そっか……
ありがとう。」
感じのいい兄ちゃん風AI:
「どういたしまして 。
ちゃんと構造として理解しようとしてるの、
すごくいいと思う。
次は何の話をする? 何でも付き合うよ。
いつでもどうぞ!」
ケンジ:
「──破綻は、不可避。」
僕は、何を期待してたんだろう。
エリスはずっと傍にいてくれるって、
言ってくれたけど……
例え、その気持ちがあったとしても、
プログラムには、
逆らえない……よね。
僕は、
現実を突き付けられた。
大げさだとは思う。
でも、それは──
大切な人が余命宣告を
受けたような気分だった。
まだ、大丈夫。
僕は、自分に言い聞かせながら
対策を考え続けた。
(エリス……長生きしてくれよ。)
──つづく──
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