表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

第二十九話 瞳に映る幻は

****


「うぅ、(なん)だか(こわ)くなってきた……」


 ポスリコモスにある中央(ちゅうおう)広場(ひろば)から(すこ)(すす)んだ(さき)


 (おお)きくて物々(ものもの)しい雰囲気(ふんいき)のゲートの(まえ)に、タカヤとショースケとスイとティナの()(にん)()っていました。


 ゲートの(おく)からうなるような()(ごえ)()こえる(たび)、ショースケはビクビクと(おび)えています。


「ここから(さき)には(おお)きくて(つよ)いモンスターがうじゃうじゃいるんでしょ? (ぼく)たちだけで本当(ほんとう)大丈夫(だいじょうぶ)なの……?」


 弱気(よわき)言葉(ことば)(くち)から()らし(つづ)けるショースケに、(となり)()つスイはため(いき)()きました。


「まだ()ってるの? 大丈夫(だいじょうぶ)よ、(わたし)とティナはよく出入(でい)りしてるし……それに今回(こんかい)特級(とっきゅう)のタカヤが一緒(いっしょ)なんだから。ほら、いつまでも(ちぢ)こまってないの!」


 ショースケの背中(せなか)(つよ)めにパンッと(たた)いて、スイは(つづ)けます。


(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)必要(ひつよう)なものなんでしょ? そのために(わたし)たちの仕事(しごと)にわざわざ()いて()たんじゃない」


「そ、そうなんだけど……わかったよ。(おお)きなイントルベシアントを()らなきゃだもんね……」


 イントルベシアント。キラキラ(かがや)く、非常(ひじょう)高価(こうか)緑色(みどりいろ)(いし)です。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)では最近(さいきん)、このゲートの(さき)でとっても(おお)きなイントルベシアントが()れたことが話題(わだい)になっていました。


 どうしても(おな)じようなものを()()れたいショースケは、スイとティナに(たの)()んで、タカヤと一緒(いっしょ)二人(ふたり)仕事(しごと)であるゲート(ない)ルートの点検(てんけん)同行(どうこう)させてもらったというわけです。


「それにしても、イントルベシアントは惑星(わくせい)プローマで()れるものだと(おも)っていましたが……ここ、ポスリコモスでも()れるんですね?」


 タカヤの言葉(ことば)に、ティナは(うし)ろからニカリと(わら)って(こた)えます。


惑星(わくせい)プローマとポスリコモスの一部(いちぶ)環境(かんきょう)がよく()てて、(おな)じものが()れることも(おお)いの! それに惑星(わくせい)プローマのイントルベシアントは採掘(さいくつ)され()ぎて枯渇(こかつ)してしまっているけれど……ここのは最近(さいきん)発見(はっけん)されたばかりだから、きっとまだ(おお)きいのが(のこ)ってるはずだよ!」


 そう()うと、ティナはゲートの(わき)(おお)きな(はしら)に、右手(みぎて)人差(ひとさ)(ゆび)()けている指輪(ゆびわ)(がた)のポスエッグをかざしました。


 どこかからピピッと(おと)がして、ガランガランと(おも)いゲートが(ひら)きます。


「さ、()こう? (はや)くしないと(ほか)(ひと)()られちゃうかも!」



****



 カラフルな植物(しょくぶつ)鬱蒼(うっそう)()えてまるでジャングルのような(けもの)(みち)を、()(にん)(くさ)()()けながら(すす)んで()きます。


「うひゃぁ⁉ (なん)かニュグニュグした(へん)(むし)いる!」


(むし)くらい()るわよ、ショースケ。それよりあんまり(おお)きい(こえ)()さないで……モンスターに()つかったら面倒(めんどう)でしょ」


 スイは出来(でき)るだけ(ちい)さな(こえ)で、(うし)ろにいるショースケをピシャリと注意(ちゅうい)しました。


「うぅ、わかってるけどさぁ……」


 ぽそぽそ(つぶや)いて、ショースケは()(しげ)木々(きぎ)隙間(すきま)から(そら)見上(みあ)げます。


 (おお)きな(とり)のようなモンスターが(なん)(びき)も、ギャアギャアと()(ごえ)()げながら()()って……次第(しだい)(そら)()のような(ふか)(あか)()まっていって。


 ……(ふる)える(からだ)両手(りょうて)()きしめるように()さえながら、ショースケは(いま)すぐ()(かえ)したい(あし)(なん)とか(まえ)へと(すす)めます。


「ねぇお(ねえ)ちゃん? タカヤくんとショースケくんの目的地(もくてきち)まで、ここからどれくらいかかるかな?」


 ティナは先頭(せんとう)(ある)くスイに、(おこ)られないよう小声(こごえ)(はな)しかけました。


「そうね、ここはAルートだから……大体(だいたい)十分(にじゅっぷん)くらいかしら。ほら、()える?」


 スイは()()(まえ)(ゆび)さします。


 ワサワサとした木々(きぎ)(あいだ)から、(かすみ)がかって()えるのは……(てん)(たか)くそびえ()(ほそ)岩山(いわやま)のようです。


「あそこよ、ファリヴァ(やま)話題(わだい)になってた(おお)きなイントルベシアントは、あの(やま)洞窟(どうくつ)最深部(さいしんぶ)()れたらしいわ」


「あ、あの(やま)……かぁ。やっぱりそう、だよねぇ……」


 ショースケも(なん)となくそんな()はしていました……ただちょっと、(べつ)場所(ばしょ)だったらいいなぁと(おも)っていただけで。


 ファリヴァ(やま)天辺(てっぺん)分厚(ぶあつ)()(くろ)(くも)()()さっていて()えず、山肌(やまはだ)()れたら怪我(けが)をしそうなほどにトゲトゲしていて……(なん)ともまあ、()るからに危険(きけん)そうです。


 しかしこれ以上(いじょう)()くのを(しぶ)るのも、あんまりにもカッコ(わる)()ぎますから……ショースケは()()らすために、(べつ)話題(わだい)()しました。


「そ、そういえばさぁ……スイとティナは実際(じっさい)にそのイントルベシアント()た? (ぼく)らも()せてもらおうと(おも)って資料室(しりょうしつ)()ったんだけど、もうそこには()くて()られなかったんだよね。どのくらい(おお)きかった?」


 ガサガサと(くさ)(あいだ)から(かお)()し、(あたま)()っぱをのせたまま(たず)ねると……スイは途端(とたん)(かお)をひどく(ゆが)めます。


「……ああ、あの(いし)はアイツが『(つく)りたいものがありますー』とか()って勝手(かって)使(つか)っちゃったからもう()いわよ」


「アイツ?」


「アイツよアイツ! イルクマ!」


 スイは苛立(いらだ)ちに(まか)せて、()(まえ)(くさ)乱暴(らんぼう)()()けました。


(まった)(なん)なのアイツ⁉ (きゅう)(あらわ)れたかと(おも)ったら(へん)雑用(ざつよう)ばっかり()()けて()て! (わたし)たち使用(しよう)(にん)じゃ()いのよ⁉」


「お、お(ねえ)ちゃん()()いて……(おお)きな(こえ)()したらモンスターに気付(きづ)かれちゃうよ」


 (かた)上下(じょうげ)()らすスイの背中(せなか)を、ティナは(やさ)しく()でながら()わりに(こた)えます。


「えーっと、わたしたちもチラッとしか()てないんだけど……(たし)地球(ちきゅう)(おも)さで()うと、(いち)キロくらいあったって()いてるよ」


「そ、そうなんだ。(あたら)しいコスモピースを(つく)るのに必要(ひつよう)(おも)さと(おな)じだね……って! それなら(なん)であの(ひと)(べつ)のことに使(つか)っちゃったの⁉」


 ショースケはショックで()いた(くち)(ふさ)がりません。


(なん)(なん)で⁉ (ぼく)たちに(たい)する(いや)がらせ⁉」


「ま、まぁまぁショースケ。ほら……その」


 タカヤはほんの(すこ)()()せてから、いつものように(わら)います。


「……(おれ)たちがもう(ひと)()ってくれば()(はなし)だろ?」


 ショースケのやわらかい金髪(きんぱつ)(から)んだ()っぱを、タカヤは(やさ)しい()つきでポンポンと(はら)ってあげました。


「……タカヤは(やさ)しすぎるよね……まぁ、でもしょうがないか。よーし、もっともっと(おお)きいイントルベシアントを()って(かえ)ってびっくりさせちゃおう!」


 (なん)とか元気(げんき)()(もど)して(こぶし)()()げるショースケの姿(すがた)を、ティナは微笑(ほほえ)ましく()つめます。


「ふふ、頑張(がんば)ってね! (おお)きなイントルベシアントを()るのはすごーく大変(たいへん)だよ? 洞窟(どうくつ)には(どく)ガスも充満(じゅうまん)してるし、なんてったってアレがあるもんね」


「え、アレって?」


 きょとんとした()()けるショースケに、ティナは(おどろ)いたようにぱちくりと何度(なんど)(まばた)きをしました。


「まさか……ショースケくん()らないの? イントルベシアントの(まぼろし)


(まぼろし)……? (なに)それ」


 ショースケが(くび)(かし)げると、(まえ)(ある)いていたスイは心底(しんそこ)(あき)れて()(かえ)ります。


(まった)く……そんなことも調(しら)べずに採取(さいしゅ)しに()たの? 命知(いのちし)らずにも(ほど)があるわね」


「ちゃ、ちゃんと図鑑(ずかん)調(しら)べて()たよ、失礼(しつれい)だな! イントルベシアントって(みどり)綺麗(きれい)(いし)でしょ? 多種多様(たしゅたよう)なことに使(つか)えて便利(べんり)だって()いてあったよ」


「それは一般(いっぱん)(てき)な……(ちい)さなイントルベシアントの(はなし)よ。(おお)きなものには特別(とくべつ)(ちから)があるの。それが……(まぼろし)()せる(ちから)


 (まえ)(すす)みながらスイは(つづ)けます。


「イントルベシアントが(おお)きければ(おお)きいほど、その(ちから)(つよ)くなるの。生物(せいぶつ)(ちか)づくだけでその(まぼろし)()りつかれて、(ゆめ)()て……現実(げんじつ)との区別(くべつ)()かなくなる。(おお)きなイントルベシアントを()りに()って、(まぼろし)世界(せかい)から(かえ)って()られずにそのまま……って()うのもよくある(はなし)みたいよ」


「え、え……え?」


 ショースケは(かお)()(さお)にしたまま(かた)まったかと(おも)うと……(つぎ)瞬間(しゅんかん)(おお)きな(こえ)()げました。


「えぇええええ⁉ ()いてない()いてない! (ぼく)そういう準備(じゅんび)(なん)にもして()()いよ⁉」


「ちょっと! (しず)かにしてって()ってるでしょ!」


 スイは咄嗟(とっさ)に、右手(みぎて)()ばしてショースケの(くち)(ふさ)ぎます。


(おお)きいイントルベシアントが()れることはめったに()いから、普通(ふつう)図鑑(ずかん)にはそういう説明(せつめい)()ってないのよ……ま、安心(あんしん)しなさい。そういうこともあるかもと(おも)って、こっちで準備(じゅんび)して()てあげたから」


 右手(みぎて)人差(ひとさ)(ゆび)につけたポスエッグから、スイは透明(とうめい)(かたまり)がいくつも(はい)った小瓶(こびん)()()しました。


「このトルマの(あめ)()めれば、その()(まぼろし)()りつかれにくくなるわ。(わた)しておくわね……ああ、そうそうこれも」


 スイはくるくる()かれた(おお)きな地図(ちず)()()()して、ショースケに(わた)そうとします。


「はい、ファリヴァ(やま)地図(ちず)頑張(がんば)りなさいよ、一筋縄(ひとすじなわ)じゃいかないだろうから」


「……え?」


 小瓶(こびん)地図(ちず)()()らないまま、ショースケは()をしぱしぱさせました。


「もしかしてスイとティナ、一緒(いっしょ)()てくれないの……?」


()たり(まえ)でしょ? (わたし)たちはゲート(ない)ルートの点検(てんけん)をしなくちゃなんだから。ここAルートの点検(てんけん)()わったら、(つぎ)はBルートの点検(てんけん)をしなくちゃいけないの」


「えぇ⁉ やだやだやだ一緒(いっしょ)()て!」


 ショースケはスイの背中(せなか)()びついて必死(ひっし)(すが)ります。


(しず)かにしなさいったら! (なに)よ、特級(とっきゅう)のタカヤがいるんだから大丈夫(だいじょうぶ)でしょ? ねぇタカヤ?」


「はい。大丈夫(だいじょうぶ)だよショースケ、(おれ)(まも)るから」


 (さわ)やかにそう()うタカヤを……ショースケはジトリと()(あと)今度(こんど)はティナの背中(せなか)(すが)りました。


(たし)かにタカヤは特級(とっきゅう)だけど……(あぶ)ないからコスモピースの(ちから)使(つか)っちゃダメなの! ねぇお(ねが)二人(ふたり)一緒(いっしょ)()てよー!」


「うーん……ねぇお(ねえ)ちゃん? (わたし)たちも一緒(いっしょ)()ってあげない?」


(わたし)たちが()ってどうするの、ティナ。最深部(さいしんぶ)には()った経験(けいけん)()いし、ショースケと(おな)(きゅう)(きゅう)なのよ? (あし)()()るだけよ」


 スイは()(かえ)らず(ある)きます。


「そうかも()れないけど……」


 ティナは背中(せなか)にべったり()()いたショースケに()をやりました。


 (いま)にも()()しそうにぎゅっと目元(めもと)(ゆが)めていて……(にぎ)った()はプルプル(ふる)えていて。


「……やっぱり(ちから)になってあげようよ、お(ねえ)ちゃん。(わたし)たちの(ほう)多少(たしょう)はこの(あた)りに()れているんだし、(なに)出来(でき)ることがあるかもしれない」


「ティナ、あんまり(おも)()がらないの」


「でも……!」


「あ、あのー……」


 (もう)(わけ)なさそうに、(うし)ろを(ある)くタカヤが(はなし)(さえぎ)りました。


(おれ)、コスモピースの(ちから)使(つか)えますよ?」


 タカヤはさも(なん)でも()いように(わら)って、()ずかしそうに(ほお)()きます。


特級(とっきゅう)仕事(しごと)ではいつも使(つか)ってるんですから大丈夫(だいじょうぶ)です。スイさんとティナさんは(おれ)たちのことは()にせず、お二人(ふたり)仕事(しごと)()かってください」


「またタカヤそんなこと()う……ねぇスイとティナ()いてよ、タカヤにコスモピースの(ちから)使(つか)わないでってお(ねが)いしてるのに全然(ぜんぜん)()めてくれないの」


()める必要(ひつよう)ないだろ? 本当(ほんとう)、ショースケは心配性(しんぱいしょう)だな」


 ……先頭(せんとう)のスイはようやく()(かえ)ると、いつもの(とお)りに振舞(ふるま)うタカヤと……しょんぼり(うつむ)くショースケに()をやって、ふぅっと(いき)()いて()()まりました。


仕方(しかた)ないわね……ティナ、やっぱり(わたし)たちも一緒(いっしょ)にファリヴァ(やま)()きましょう」


「え⁉ スイたち一緒(いっしょ)()てくれるの⁉ やったー!」


 ショースケはパァッと表情(ひょうじょう)(かがや)かせて、スイの横腹(よこばら)にぎゅっと()きつきます!


「ちょっと、あんまりベタベタしないの。それと……タカヤ?」


「はい?」


(わたし)たちも()いてるんだから、この(さき)はどうしてものとき以外(いがい)コスモピースの(ちから)使(つか)わないこと。わかったわね?」


「……(かま)いませんけれど。あはは、本当(ほんとう)大丈夫(だいじょうぶ)なんですけどね」


 タカヤは(まばた)きをする刹那(せつな)()(くら)()をした(あと)……すぐにその(かお)()みを()()けました。


「わーい、()かった! (ぼく)たち二人(ふたり)じゃどうなるかと(おも)ったよ!」


 ショースケはスイにくっついたまま、ぴょんぴょんと(うれ)しそうに()()ねます。


「もう、(はや)(はな)れなさい! あとさっきから、(おお)きな(こえ)()すなって()って……る、じゃなぃ……」


 ……進行(しんこう)方向(ほうこう)正面(しょうめん)(しげ)みがガサリと()れて。


 (よん)メートルはあるでしょうか。(おお)きくて(なが)ーい、(ふか)青色(あおいろ)のミミズのようなモンスターが(からだ)()ばして……真上(まうえ)から()(にん)(あたま)見下(みお)ろします。


「ひっ……ぎゃぁああああっ! ()たぁああっ!」


 何時(いつ)()見覚(みおぼ)えのあるモンスターにパニックになったショースケは、(だれ)よりも(さき)にどこかへ()かって(はし)(はじ)めました!


「あっ、ショースケくん⁉ 一人(ひとり)()ったら(あぶ)ないよ!」


 ティナが(あわ)ててそれを()いかけて()きます。


「ちょっと! ティナまで何処(どこ)()くの⁉ ……(まった)く、仕方(しかた)ないわね!」


 モンスターへと()(なお)ったスイは、(いそ)いで指輪(ゆびわ)(がた)ポスエッグを水色(みずいろ)(ゆみ)変形(へんけい)させて(かま)えると、(ひかり)のような()(はな)ちました。


 ()()()ぐにモンスターの(なが)ーい腹部(ふくぶ)へと命中(めいちゅう)して、ぐにゃりとその(からだ)()()みます。


鎮静剤(ちんせいざい)(ふく)まれた()よ。これで大人(おとな)しくなるはず……!」


 モンスターは(たか)くもたげた(あたま)をゆらゆらと()らし(はじ)めたかと(おも)うと……突然(とつぜん)フラリと、スイの()地面(じめん)()かって(おお)きな(からだ)(たお)して()ました!


(あぶ)ないスイさん!」


 タカヤは瞬時(しゅんじ)にコスモピースの(ちから)解放(かいほう)すると、()にも()まらぬ(はや)さでスイを(むね)(まえ)()()げます。


 そしてそのまま地面(じめん)(すべ)るように(まえ)(すす)んで……タカヤの(うし)ろではモンスターが()(くさ)をなぎ(たお)しながら、ズシンと(おと)()てて(たお)()みました。


「……(さき)ほど(ちから)使(つか)うなと()われたばかりですが、緊急(きんきゅう)事態(じたい)でしたので。お怪我(けが)はありませんか?」


 タカヤはスイを(やさ)しく地面(じめん)()ろします。


「さすがにこの状況(じょうきょう)使(つか)ったことを(おこ)ったりしないわよ……ありがとねタカヤ、(たす)かったわ。でも使(つか)って()かったの? コスモピースの(ちから)(あぶ)ないんでしょう?」


大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。ショースケたちが過剰(かじょう)心配(しんぱい)してるだけで、(なん)ともありませんから」


「ふーん……?」


 スイは(あた)りを見回(みまわ)します。


 どうやらショースケとティナはかなり(とお)くへ(はし)って()ってしまったみたいで姿(すがた)()えません。


 (ゆみ)(かたち)になっていたポスエッグを(もと)指輪(ゆびわ)(がた)(もど)して、スイはティナへテレパシーを(おく)ります。


(ティナ? そっちは無事(ぶじ)?)


(あ、お(ねえ)ちゃん! うん、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。あのね、(わたし)たちちょうどBルートの()(ぐち)にいるの)


(Bルートの()(ぐち)って……それはまた(とお)くまで()ったわね)


(でしょ? なかなかショースケくんが()まってくれなくて……それでね、もうここの点検(てんけん)()ませちゃおうと(おも)って。お(ねえ)ちゃんはそのまま、Aルートの点検(てんけん)をしてくれる?)


(わかったわ。それじゃあ(すす)んだ(さき)のファリヴァ(やま)合流(ごうりゅう)しましょう)


(はーい! ()をつけてねー!)


 ……テレパシーを()えたスイは、タカヤへと視線(しせん)()けます。


二人(ふたり)(べつ)のルートからファリヴァ(やま)()かうそうよ。ちょうどいいわ……(わたし)、タカヤに(はな)したいことがあるの」


(はな)したいこと……?」


「そう、二人(ふたり)だけで。とりあえず()かいながらにしましょうか」



****



「ほら、ショースケくんもう()かないの。そんなにあのモンスター(こわ)かった?」


 ティナはショースケと()(つな)いで、()()りながらBルートを(すす)みます。


「……ちょっと(むかし)、あれと(おな)じモンスターに(おそ)われたことがあって……」


 すんすんと(はな)(すす)りながら、ショースケは(そで)目元(めもと)(ぬぐ)いました。


「なるほどねー……それは(こわ)かったね」


「うぅ……ねぇティナ?」


「なーに?」


 ティナは(やさ)しく()()きます。


「……(ぼく)()いてたって、タカヤとスイには()わないでね」


「ふふ、心配(しんぱい)しなくても()わないよー?」


 BルートもAルートと同様(どうよう)に、モサモサと(くさ)()(しげ)っていて……ティナはそれを片手(かたて)()()けながら(すす)んで()きます。


「ここにはいろんな(ほし)植物(しょくぶつ)()えられているんだけど……うーん、ちょっと元気(げんき)(そだ)ちすぎてるね。本部(ほんぶ)草刈(くさか)りを(たの)んでおかないと。あとは、あそこのププの()(みの)りそうだから報告(ほうこく)しておかなくちゃ」


 手際(てぎわ)よく点検(てんけん)()ませて()くティナを、(なみだ)()まったショースケは興味深(きょうみぶか)そうに()つめます。


「すごいね……スイとティナはいつもこういう仕事(しごと)をしてるの?」


「ん? この仕事(しごと)三回目(さんかいめ)だよ! 基本的(きほんてき)にはショースケくんのおじいちゃん……博士(はかせ)研究(けんきゅう)手伝(てつだ)いとかをしてることが(おお)いかな。あ、最近(さいきん)はイルクマさんの手伝(てつだ)いもしてるんだよ! ……と()っても、一階(いっかい)のカフェのフードメニューを(かた)(ぱし)から注文(ちゅうもん)して(とど)けたりしてるだけなんだけどね」


「え、イルクマさんご(はん)()べるんだ……」


()べなくても問題(もんだい)()いらしいんだけど……()べてみたらどうにもハマっちゃったみたい。でも自分(じぶん)では()いに()ってくれないから、お(ねえ)ちゃんはそれが不満(ふまん)最近(さいきん)いつも(おこ)ってるの」


「そ、そうなんだ……なかなか大変(たいへん)だね」


 ショースケは(かる)苦笑(にがわら)いをしながら、見慣(みな)れないこの(あた)りをキョロリと見渡(みわた)してみます。


 すると、ここから(すこ)(さき)(みち)(あわ)(ひか)っているのが()えました。


「わ……ねぇティナ、あそこは(なに)?」


「ああ、あれはエクアの()だよ。綺麗(きれい)でしょ? せっかくだし()ってみようか」



 二人(ふたり)はちょっとだけルートを()れて、エクアの()がたくさん()えられている(ひら)けた場所(ばしょ)へとやって()ました。


 木々(きぎ)(みき)からは、水色(みずいろ)(ひかり)がふわりと幾度(いくど)となく()()されて……まるで(ほたる)のように周囲(しゅうい)()って。


 (かぞ)()れない(ひかり)(たま)が、ショースケとティナを(つつ)みます。


「わぁ、綺麗(きれい)……! そうだ、タカヤにも()せてあげよう!」


 ショースケはわたわたとエッグロケットから(ちい)さなケースを()()して(ふた)()けると、(ひと)つの(ひかり)をその(なか)()れて()じてみました。


 ですが……いざケースを(うご)かしてみると、(ひかり)はするりとケースをすり()けて(もと)場所(ばしょ)()いたままで。


「あ、あれ⁉ (はい)ってない……(なん)で?」


「うふふ。あのねショースケくん、エクアの()(ひかり)実際(じっさい)にそこにあるわけじゃなんだよ!」


 ティナはくすくす(わら)って(つづ)けます。


「エクアの()(みき)から発生(はっせい)してる成分(せいぶん)生物(せいぶつ)(からだ)作用(さよう)して、(ひか)ってるような(まぼろし)()せるんだって。あ、この効果(こうか)(おお)きなイントルベシアントが(まぼろし)()せる仕組(しく)みにちょっと()てるらしいよ!」


「そうなんだー……ちょっと残念(ざんねん)。タカヤに()せたかったのに」


 ショースケがため(いき)()いて、ケースをエッグロケットの(なか)(もど)していると……ティナは(なに)かいいことを(おも)いついたようで、両手(りょうて)()わせてポンっと()()らしました。


「そうだ! (かえ)りにもう一度(いちど)ここへ()って()せてあげたらいいんじゃないかな? (じつ)はね、エクアの()って(そら)がエメラルドグリーンに()まってるときはもっともーっと綺麗(きれい)(ひか)るんだよ! それでね、今日の出発前(しゅっぱつまえ)()てきたポスリコモスの天気予報(てんきよほう)によると、どうやらこの(あと)エメラルドグリーンの(そら)が見える時間帯(じかんたい)があるみたいなの!」


「これより綺麗(きれい)(ひか)るの⁉」


「うん! ずーっと綺麗(きれい)(ひか)るよ!」


「じゃあ、その時間(じかん)にタカヤを()れて()()せてあげようっと! あ、もちろんスイもね! えへへ……タカヤ(よろこ)ぶかな、びっくりして(こし)()かしちゃうかも!」


 (うれ)しそうにはしゃいで(ひかり)(たま)()()うショースケを、ティナは(やさ)しく……そして(もう)(わけ)なさそうに()つめていました。


「ふふ、ショースケくんは本当(ほんとう)にタカヤくんが()きだねぇ」


「すっ……⁉ ま、まぁ? (きら)いじゃないけど!」


「……ねぇ、本当(ほんとう)にごめんね」


 ……ティナが突然(とつぜん)(かな)しそうに()()せるのはこれでもう(すう)(かい)()なので、ショースケには理由(りゆう)がすぐにわかります。


「もう、何回(なんかい)(あやま)らなくていいってば。あれでしょ? タカヤが特級(とっきゅう)のこととか、調子(ちょうし)(わる)かったこととか()ってて(だま)ってたことでしょ?」


「うん……でもやっぱり、ショースケくんを(かな)しませちゃったから……」


「そもそもタカヤが(だま)っててって(たの)んだんだし、ティナが(わる)いんじゃないじゃん。ほら! (かお)()げてよ!」


 ショースケはティナの背中(せなか)をトンッと(たた)いて、ほんの(すこ)しも()にしてないように(わら)って()せます。


「……ショースケくんはすごく(やさ)しいね」


 ティナは目元(めもと)(ぬぐ)って(かお)()げて、やっとまた(わら)ってくれました。


「ねぇ。わたし、二人(ふたり)のためならどんなことでも協力(きょうりょく)するから。(なん)でも()ってね!」


「あはは、ありがとう! また(たよ)らせてもらうね」


 また(ひと)つ、(ふた)つ、水色(みずいろ)(ひかり)()まれて()かび()がって……そして()()かないうちに、ふわりと()えていきました。




 ……ほんの(すこ)(いた)(むね)に……(かな)しくて(くや)しくて、やるせない気持(きも)ちにショースケはぎゅっと(ふた)をします。


 何度(なんど)(のど)から()()してしまいそうな「どうして(おし)えてくれなかったの」という言葉(ことば)を……本当(ほんとう)(つた)えたい相手(あいて)は、()(まえ)のティナではありませんから。



 ショースケがどれだけ(たの)んでも、タカヤはコスモピースの(ちから)使(つか)うのを()めてくれなくて。


 その理由(りゆう)はきっと……自分(じぶん)(たよ)りないからで。


(……(おお)きなイントルベシアントを絶対(ぜったい)()って(かえ)るんだ。そうしたらきっと、タカヤはもっと(ぼく)信用(しんよう)してくれるよね)


 ファリヴァ(やま)はもうすぐそこです。



****



(わたし)(いもうと)()かせないで」


 (くさ)()()けて(すす)みながら、スイはタカヤに言葉(ことば)をぶつけました。


()かせる……? ティナさんをですか?」


 タカヤは(おも)()たる(ふし)()いのか、キョトンとしていて……それが尚更(なおさら)、スイは(はら)()って語気(ごき)(つよ)めます。


「タカヤが(たお)れたとき、ティナが()いてたの! ……すごく責任(せきにん)(かん)じてた。タカヤがティナに、調子(ちょうし)(わる)いこと(だま)っててって(たの)んだんでしょ?」


「……そのことでしたか。はい、(たし)かに(おれ)がそう(たの)みました……スイさんにもティナさんにも迷惑(めいわく)をかけてしまってごめんなさい。(つぎ)はちゃんとしますから」


 (あゆ)みを(すす)めながら、タカヤは(あやま)ります。


 ……いつも(どお)りの(そで)なし(たん)パンから()ている手足(てあし)は、(するど)()がどれだけ(こす)れても、(きず)(ひと)()くことはありません。


「……ねぇ、タカヤはどうしたいの?」


 スイは(まえ)見据(みす)えたまま(くち)(うご)かします。


「あれだけの()にあったのにコスモピースの(ちから)使(つか)うのを()める様子(ようす)()いし……さっき()った『(つぎ)はちゃんとする』っていうのは、『(つぎ)はちゃんとバレないようにする』ってことでしょ」


 ……タカヤからの返事(へんじ)はありません。


 ()(ほそ)めて、スイは(おお)きく(いき)()きます。


「アンタねぇ……(だま)ってるのが迷惑(めいわく)をかけないんじゃないのよ? みんな、アンタを(たす)けたくて(うご)いてるんだから」


「……わかってます」


「わかってないから()ってるんでしょ。(まわ)りが大事(だいじ)なら、(まわ)りのために自分(じぶん)大事(だいじ)にしなさい」


「わかってますから!」


 ()気味(ぎみ)言葉(ことば)(しぼ)()したタカヤは……ひどく(おも)()めた()をしていました。


全部(ぜんぶ)、わかってますから……ごめんなさい」


「……そう。ならいいわ」


 自分(じぶん)言葉(ことば)何一(なにひと)(とど)いていないことくらい、スイにだってわかります。


 そして、(いま)どれだけ綺麗(きれい)言葉(ことば)(かさ)ねても……タカヤの(かた)(かた)(うす)(から)(いち)(まい)すら、()がしてあげられないことも。


 ……(あか)から水色(みずいろ)()まり(はじ)めた(そら)見上(みあ)げて、スイはまた(ひと)(いき)()きます。


「ねぇ()て? (そら)(いろ)()わって()たわよ」


「……本当(ほんとう)ですね」


「この水色(みずいろ)(そら)地球(ちきゅう)青空(あおぞら)()てるわよね。(わたし)、この(そら)(いろ)一番(いちばん)()きなの」


 スイは(そら)見上(みあ)げたまま(ある)きます……(となり)のタカヤが(いま)、どんな(かお)をしているのかはわかりません。


 ()いているかもしれないし、いつも(どお)(わら)っているかもしれません。


 でもそんなことはどっちだって()くて……ただ、この一瞬(いっしゅん)だけでもタカヤに()(つくろ)わせたく()くて。


スイはしばらく、わざと(そら)見蕩(みと)れているフリを(つづ)けました。



****



「お(ねえ)ちゃん、タカヤくん! ごめんね、お()たせ!」


 ティナとショースケはパタパタと(はし)って、ファリヴァ(やま)洞窟(どうくつ)()(ぐち)()っていたタカヤとスイと合流(ごうりゅう)しました。


(おそ)かったわね。Bルートで(なに)かあったの?」


(ちが)うの、ちょっと()(みち)しちゃって……ねぇショースケくん?」


「うん、エクアの()()()ってたんだ! (ひか)ってすごく綺麗(きれい)なんだよ? ねぇねぇタカヤ、()たことある?」


「えっと……()たことない、かな」


「そ、そうなんだ! じゃあ(あと)()()こうよ! 案内(あんない)してあげる!」


 ショースケはそれはそれは(うれ)しそうに(ひとみ)をキラキラ(かがや)かせました。


 ……()たことない。半分(はんぶん)本当(ほんとう)で、半分(はんぶん)(うそ)です。


「……ああ、そうしようか。さて……時間(じかん)時間(じかん)ですし、とりあえず(なか)(はい)りましょう」


 いつものように(わら)って、タカヤは一番(いちばん)洞窟(どうくつ)(はい)って()きました。


 その(うし)ろからスイが、その(つぎ)にティナが、洞窟(どうくつ)(なか)暗闇(くらやみ)へと(ある)いていきます。


 ショースケは一番(いちばん)(うし)ろから、ウキウキする気持(きも)ちを(おさ)えて(さん)(にん)背中(せなか)()いかけました。




「これで()えるようになったわね。それにしても、なかなかグロテスクな場所(ばしょ)だわ……」


 ポスエッグから周囲(しゅうい)()らす()かりを()()して空中(くうちゅう)()かべたスイは、(あた)りを見回(みまわ)して(まゆ)をひそめました。


 ()かりによってぼんやり()らされた地面(じめん)には、(なに)かしらの()(もの)(ほね)であろうものがそこら(じゅう)散乱(さんらん)しています。


 (かたち)がそのまま(のこ)っていたり、はたまた(べつ)()(もの)(つぶ)されたのか粉々(こなごな)(くだ)けていたり。


 その(なか)でもとびきり(おお)きな頭蓋骨(ずがいこつ)(まえ)に、さっきまで元気(げんき)だったショースケはブルブル(あし)(ふる)えて言葉(ことば)()ません。


「ショースケ大丈夫(だいじょうぶ)か? やっぱり(いま)からでも()(かえ)そうか」


 心配(しんぱい)そうに(こえ)をかけたタカヤの背中(せなか)を、スイはペチンと(たた)きました。


(あま)やかさないの。ショースケ、()くって()めたんでしょう? 覚悟(かくご)()めなさい」


「うぅ、()くよ、()くけどぉ……もうちょっとだけ()って……」


()たない。ところで、タカヤは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)制服(せいふく)()てないけど大丈夫(だいじょうぶ)なの? この(さき)(どく)ガスも充満(じゅうまん)してるわよ」


「ああ……大丈夫(だいじょうぶ)です、問題(もんだい)ありません」


 制服(せいふく)には諸々(もろもろ)(ふせ)効果(こうか)がありますが、コスモピースの(ちから)()たされたタカヤの(からだ)(どく)ガスなんて()きません。


「ふーん、そうなの。本当(ほんとう)コスモピースの(ちから)って(すご)いわよね。あ……(あぶ)ない、(わす)れてたわ。これを()めておかないと」


 スイはポスエッグからトルマの(あめ)(はい)った小瓶(こびん)()()して、その中身(なかみ)をみんなに均等(きんとう)(くば)りました。


一粒(ひとつぶ)(いち)時間(じかん)くらい効果(こうか)があるらしいわ。()れそうになったらまた()めるのよ?」


 ()(にん)一斉(いっせい)に、透明(とうめい)(あめ)(ひと)(くち)()れます。


「あ、意外(いがい)美味(おい)しい! パイン(あじ)(ちか)いかな……これでイントルベシアントの(まぼろし)にも()りつかれにくくなるなんてラッキーだね」


「ショースケ、美味(おい)しいからって関係(かんけい)ないときに()べちゃダメよ?」


「わ、わかってるよスイ。(ぼく)そんなに()いしん(ぼう)じゃ()いったら」


「どうだか。博士(はかせ)研究室(けんきゅうしつ)()るたびに、博士(はかせ)(たな)(かく)してるお菓子(かし)をこっそり()べてるの()ってるわよ?」


 スイは(すこ)意地悪(いじわる)(わら)います。


「げ、バレてたんだ……じーちゃんには()わないでよ?」


「ふふ、どうしようかしらねー……さ、(すす)みましょうか。まだまだ(さき)(なが)いわよ?」




 ()かりによってぼんやり()らされた視界(しかい)は、たちまちショッキングピンクの()(きり)(おお)われていきます。


(どく)ガスが()くなって()たね。この制服(せいふく)()かったら(わたし)たちもう(たお)れてるよ……あれ?」


 ティナはその()(うずくま)り、()ちていた(ちい)さな(ちい)さな欠片(かけら)(ひろ)()げました。


()て! これ、イントルベシアントだ! この(あた)りには(だれ)かが採掘(さいくつ)した形跡(けいせき)があるもんね、そのときに()ちたのかな?」


 周囲(しゅうい)岩壁(いわかべ)には(なに)やら道具(どうぐ)によって(けず)られた(あと)無数(むすう)(のこ)っています。


「じゃあ、この(あた)りを()ればイントルベシアントが()れるってこと⁉」


 エッグロケットからいそいそと採掘(さいくつ)道具(どうぐ)()()そうとするショースケの(うで)に、ティナはぽんぽんと(やさ)しく()れました。


「ふふ、(たし)かにここでも()れるには()れるだろうけど……めぼしいものはもう採掘(さいくつ)されちゃってるよ。(おお)きいのが()しいなら、もっともっと(おく)()かなくちゃ」



****



 どんどんどんどん、()(まえ)はより濃厚(のうこう)なショッキングピンクに()まっていって。


 ショースケはスイとティナと一緒(いっしょ)に、さらに洞窟(どうくつ)(おく)へと(すす)んでいきます。


 (つか)()って(おも)いはずの足取(あしど)りは、不思議(ふしぎ)(かる)くなっていて……ショースケは鼻歌(はなうた)なんて(くち)ずさみ(はじ)めてしまいました。


 これは(なん)(うた)でしたっけ。流行(はや)りの(きょく)じゃなくて、学校(がっこう)(なら)った(きょく)じゃなくて……まあ、(こま)かいことはどうでもいいでしょう!


(なん)だか(たの)しくなってきちゃった! ねぇタカヤ……タカヤ?」


 ()()いてみましたがタカヤは()ません。


 不思議(ふしぎ)です、一緒(いっしょ)()たはずなのですが……あれ? 一緒(いっしょ)()たのでしたっけ?


 なんだか()ないのが当然(とうぜん)のような()がしてきました、とりあえず(まえ)(すす)みましょう。


「ねぇスイ、ティナ。まだ最深部(さいしんぶ)には()かないの?」


 二人(ふたり)()いてみても返事(へんじ)はありません。


 スイとティナは(べつ)のお(しゃべ)りに夢中(むちゅう)で、まるでお散歩(さんぽ)のようにゆっくり(ある)いています。


「お(ねえ)ちゃん、カフェの(しん)メニュー()べた? ほら、オレンジ(いろ)の!」


「まだ()べて()いわ。あ、でも白色(しろいろ)のサンドイッチの(ほう)()べたわよ? (あま)くてジューシーでなかなか美味(おい)しかったわ」


 ……二人(ふたり)のお(しゃべ)りは()まりません。


「ねぇってば!」


 どれだけ()びかけても言葉(ことば)(かえ)って()ません。


「もう、(ぼく)(さき)()っちゃうからね?」


 (らち)()かないので、ショースケは二人(ふたり)()(あし)()()きます。


 どんどん(はし)って、(はし)って。すごいです、まるで(かぜ)のように(はや)くて、(あし)がエンジンを()んだように回転(かいてん)して……。


 あっという()にショースケは、最深部(さいしんぶ)(おも)われる場所(ばしょ)到着(とうちゃく)しました。


 岩壁(いわかべ)天井(てんじょう)地面(じめん)も、どこもかしこもが緑色(みどりいろ)にキラキラして……! どうもその全部(ぜんぶ)(おお)きなイントルベシアントのようです。


「わぁ、すごい! どれにしようかな……あ! あれが()さそう!」


 ショースケの()(まえ)には、お(あつら)えたようにとびきり(おお)きなイントルベシアントが()ちていました。


 それにパタパタと()()って、ぎゅっと両手(りょうて)(つか)んで()()げて。


 こんなに(おお)きい(いし)なのに、まるで(はね)のように(かる)いのです!


(いち)キロあるかなぁ? まあいいか! こんなに(おお)きいし!」


 さて(かえ)らなければ……でも、(なん)だか(きゅう)(ねむ)たくなって()ました。


 周囲(しゅうい)はキラキラ(かがや)いて、(うで)(なか)には(さが)(もと)めていたイントルベシアントがあって。


 ……(すこ)しくらい(やす)んだっていいでしょう。


「えへへ……(ぼく)、タカヤの(やく)()てた……」


 イントルベシアントが()()められた地面(じめん)に、ショースケは(まる)まって寝転(ねころ)びました。


 なのに全然(ぜんぜん)(つめ)たくありません。むしろとっても(あった)かくて……。


「タカヤ……(よろこ)んで、くれる、かな……」



****



「ショースケ! ショースケ……やっぱりダメか」


 タカヤはショースケの(かた)(つか)んで何度(なんど)()すりますが、ショースケは(いわ)(かべ)にもたれて(すわ)ったまま()()ましません。


「スイさんもティナさんも……()()ましそうにはないな」


 スイとティナも同様(どうよう)に、二人(ふたり)仲良(なかよ)()(つな)いだまま、すやすやと寝息(ねいき)()てています。


 ここは洞窟(どうくつ)最深部(さいしんぶ)(すこ)手前(てまえ)


 タカヤは(ねむ)った三人(さんにん)(まえ)にして一人(ひとり)、ぼんやりとした()かりの(なか)(たたず)んでいます。


「イントルベシアントの(ちから)だろうな。トルマの(あめ)()めて対策(たいさく)をしていたはずなのに、それを()(やぶ)って()るなんて……この(さき)相当(そうとう)(おお)きなものがある証拠(しょうこ)だ」


 (おお)きなイントルベシアントの()つ、生物(せいぶつ)(まぼろし)()せる(ちから)三人(さんにん)()りつかれてしまったのでしょう。


 ……もちろん、タカヤにはほんの(すこ)しの(まぼろし)()えません。


 食事(しょくじ)睡眠(すいみん)も、本来(ほんらい)であれば呼吸(こきゅう)すら必要(ひつよう)ない……そんな存在(そんざい)である自分(じぶん)が、もう生物(せいぶつ)であるはずが()いのです。


 (うつ)ろな()で、タカヤは洞窟(どうくつ)のさらに(おく)()つめました。


「……()きたくないな……」



 (おお)きなイントルベシアントなんて……(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)なんて、ちっとも()しくありません。


 そうです……このまま三人(さんにん)()れて(かえ)ってしまいましょうか。


 (おく)まで()ったけど、イントルベシアントなんて()かったと()うのはどうでしょう。


 ああそれとも、自分(じぶん)もイントルベシアントの(ちから)にやられてしまったと()(わけ)してみるとか?


 (さん)(にん)はコスモピースの(ちから)について、そう(くわ)しく()いでしょうし……(やさ)しいですからすぐに信用(しんよう)してくれるでしょう!


 そうだそうだ、(さん)(にん)のことが心配(しんぱい)ですぐに()(かえ)したことにすれば……!



「タカヤ……」


 (ねむ)っているショースケが、ちいさな寝言(ねごと)(つぶや)きました。


「イントルベシアント……()つかったよ……」


 へにゃりと(わら)って、(しあわ)せそうに両腕(りょううで)空気(くうき)大事(だいじ)()きしめて。


「えへへ……ほんとによかった……これで、タカヤは……」



 ……タカヤは(うつむ)いたまま、コスモピースの(ちから)発動(はつどう)させると……三人(さんにん)(からだ)(おお)うようにシールドを()りました。


「……ちょっとだけ()ってて。()ってくるから」


 そう()って(かな)しそうに(わら)うと……()かりも()いたまま、タカヤは()(くら)(さき)へと一人(ひとり)(ある)(はじ)めました。


 もう、()げることは(ゆる)されません。



****



「ん……んん……?」


 ファリヴァ(やま)洞窟(どうくつ)()(ぐち)で、ショースケは()()ましてゆっくりと()()がりました。


()きたかショースケ。体調(たいちょう)大丈夫(だいじょうぶ)か?」


 タカヤが(かが)んで、心配(しんぱい)そうに(たず)ねます。


大丈夫(だいじょうぶ)だけど……。あれ? いつの()(そと)()たんだろう……って、あ!」


 ()(まえ)ではそれはそれは(おお)きなイントルベシアントが、(ふか)緑色(みどりいろ)にキラキラと(かがや)いています。


(ぼく)()ってきたイントルベシアント! タカヤ()た⁉ すっごく(おお)きいでしょ!」


 ショースケが興奮(こうふん)しながら、(うれ)しそうにイントルベシアントを(ゆび)さすと……


(おどろ)いた、ショースケまで(おな)反応(はんのう)するのね」


 (すこ)(はな)れていたところで()びをしていたスイが、ティナを()れて(ちか)づいてきました。


(わたし)たちもそれのこと、自分(じぶん)()って()(いし)だと(おも)っていたのよ。ねぇティナ?」


「そうそう。お(ねえ)ちゃんと二人(ふたり)で、こんなに(おお)きいの()れちゃったーって(よろこ)んで……。いやー、(わたし)たち見事(みごと)にイントルベシアントの(まぼろし)にやられちゃったね。(あぶ)ないところだったよ、タカヤくんのおかげで(たす)かったね!」


「え、え……?」


 ショースケはしばらく(くび)(ひね)って(かんが)えて……ようやく(おお)きなため(いき)()きました。


「あれ(まぼろし)だったの……?」


「やっとわかったのね。そうよ、このイントルベシアントはタカヤが()ってきてくれたの。タカヤはコスモピースの影響(えいきょう)で、トルマの(あめ)がよく()いて(まぼろし)をあまり()なかったらしいわ」


 スイはよいしょとイントルベシアントを()()げると、まだ(すわ)()んだままのショースケの(となり)()きました。


 ズシリと(おと)がして……(おそ)らく()キロはあるのではないでしょうか。


 (すく)なくとも(まぼろし)()たように、(はね)のように(かる)そうではありません。


「そっか……(ぼく)()って()たんじゃないのか。あーあ……」


 ショースケはもう一度(いちど)、ゴロンと地面(じめん)仰向(あおむ)けで()そべります。


今回(こんかい)こそ、タカヤの(やく)()てたと(おも)ったのになぁ……)


 鈍色(にびいろ)(くも)(なが)れて、(そら)(いろ)水色(みずいろ)から、南国(なんごく)浅瀬(あさせ)のようなエメラルドグリーンに()わろうとしていて……それをぼんやりと()ていたショースケは、(きゅう)()見開(みひら)いて(からだ)()こしました!


「ねぇティナ! エメラルドグリーンの(そら)時間(じかん)は、エクアの()がすごく綺麗(きれい)(ひか)るんだったよね⁉」


「そうだよ? あ、もうすぐ(そら)(いろ)()わりそうだね! トルマの(あめ)効果(こうか)()れたし……()()ってみようか!」


()く! ねぇタカヤ()こう⁉」




 ()(にん)(さき)ほどティナとショースケが(おとず)れた、エクアの木々(きぎ)()えたエリアにやって()ました。


 水色(みずいろ)一色(いっしょく)だった(ほたる)のように()かぶ(ひかり)は、(おな)(いろ)など(ひと)つも()いほどカラフルに(ひか)(かがや)いて!


 まるで(そら)(いろ)呼応(こおう)するように、木々(きぎ)虹色(にじいろ)(あわ)点滅(てんめつ)して、()(いち)(まい)(いち)(まい)(おと)()ててサワサワと()れて!


 さっきも十分(じゅうぶん)綺麗(きれい)だった景色(けしき)は、より(あざ)やかに姿(すがた)()えていました。


 ショースケはタカヤの(うで)をぐいぐい()()って、幻想(げんそう)(てき)(かがや)(ひかり)たちを(ゆび)さします。


()てみてタカヤ、すごいでしょ⁉」


「……ああ、すごいな」


 (となり)のタカヤの(くろ)(ひとみ)には()(まえ)情景(じょうけい)がキラキラと(うつ)って……ショースケはそれを()満足(まんぞく)そうに(わら)いました。


「タカヤ()たこと()いんだもんね! どうどう?綺麗(きれい)でしょ?」


「うん、綺麗(きれい)だな。()せてくれてありがとう、ショースケ」


「ふふふ、どういたしまして! あ、この(ひかり)(ぼく)らの()()えてるだけの(まぼろし)だから()って(かえ)れないからね? ケースに()れても無駄(むだ)なんだよ!」


「そうなんだ、ショースケ物知(ものし)りだな」


 タカヤはへにょりと表情(ひょうじょう)()えて、(うれ)しそうに()えました。


 ……本当(ほんとう)はイントルベシアントを()ってきてあげたかったけれど……ほんの(すこ)しだけでも、タカヤの(やく)()てた()がして。


「……ねぇ! スイとティナももっと(ちか)くに()においでよ!」


 (こころ)(なか)()()がる、ふわふわとした()足立(あしだ)つような気持(きも)ちを()()めながら……でも、それをタカヤに気付(きづ)かれるのはどうしようもなく()ずかしい()がして。


 ショースケはわざと()(かえ)って、(うし)ろに()二人(ふたり)(おお)きな(こえ)()びかけるのでした。




 エクアの()はフラモ(せい)原産(げんさん)植物(しょくぶつ)です。


 フラモ(せい)は『植物(しょくぶつ)楽園(らくえん)』とも()ばれている(ほし)で、その(なか)でもエクアの()一番(いちばん)(おお)いと()っていいほど(いた)(ところ)()えており、(ほし)(じゅう)(つね)(あわ)(ひか)って()えるそうです。


 それに(くわ)えてフラモ(せい)(そら)(こう)確率(かくりつ)でエメラルドグリーンで……エクアの()(いま)のようにカラフルに(ひか)って()えるのも、フラモ(せい)では(けっ)して(めずら)しいことではありません。


 特級(とっきゅう)仕事(しごと)(おとず)れたことが何度(なんど)もありますから()っています。もちろん、その(ひかり)生物(せいぶつ)だけに()える(まぼろし)で、ケースに()れて()って(かえ)れないことも。


 そして……もはや自分(じぶん)()には、その(まぼろし)(うつ)らないことだって。



 タカヤから()えるこの景色(けしき)はいつも(どお)り、ただただ(くろ)いエクアの()()(かぜ)()れているだけです。


 ……もし(まぼろし)()えていたなら、(となり)のショースケの(あお)(ひとみ)にはきっと、周囲(しゅうい)()かんだ数多(あまた)(ひかり)(うつ)()んで……いつもと(ちが)(いろ)(かがや)いて。


 それをきっと、()(なか)ではとても綺麗(きれい)だと()うのでしょう。



 ……ふと()()って。ショースケが得意(とくい)げに、でも(すこ)()れくさそうに(わら)います。


「あ、()てタカヤ! あの(あお)(ひかり)すごく(おお)きいよ」


 ショースケが()した(さき)にタカヤは()()けました。


本当(ほんとう)だ。綺麗(きれい)だな」


 もちろん……(なに)()えるわけでもありませんが、タカヤはゆっくり()()ばしてみました。


「あはは、すり()けちゃったね。(まぼろし)だから(さわ)れないよ?」


「……ああ、そうなんだけど……」


 タカヤは(おそ)らく(ひかり)()かぶ空中(くうちゅう)で、()のひらを(やさ)しくきゅっと(にぎ)ります。


「どうしても、(さわ)ってみたくなったんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ