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第八話 不思議なタマゴと大事な思い出

****


「うん、美味(おい)しい」


 ショースケの(いえ)のリビングで、ライトは(あお)紫色(むらさきいろ)のやわらかそうなものを()()んで(くち)(ひら)きました。


「ニッカルコピ(せい)のお菓子(かし)だったよね、(なん)だかガムとチョコとグミとマシュマロの中間(ちゅうかん)みたいな(あじ)がするよ。どこかで()べたことがあるような、んー……(わす)れちゃったな」


 (くび)をひねるライトを()ながら、タカヤはくすっと(わら)います。


「ポスリコモスで()ってきたお菓子(かし)、ライトさんのお(くち)()ってよかったです。(みな)さんの(ぶん)()ってきたのでたくさん()べてくださいね」


 ()ってきた(おお)きな(ふくろ)から(まった)(おな)じお菓子(かし)をもう()(はこ)()()して、タカヤはテーブルの(うえ)(うれ)しそうに()きました。


 ライトは一瞬(いっしゅん)(かた)まり、わかりやすく苦笑(にがわら)いをします。


「あ、こんなに……? えっと、ありがとう……あはは」


「ねぇねぇライトさん、ところで……」


 ショースケが(はなし)()()します。


「ずっと()になってたんだけどそれは(なに)?」


 ライトの(すわ)っている長椅子(ながいす)(みぎ)(どな)りには、(なに)やら分厚(ぶあつ)(びん)()れられた、ド派手(はで)なショッキングピンクの(まる)(たま)があります。


「ああこれ? ちょっと()けてみようか」


 ライトは(たま)(びん)から()()すと、テーブルの(うえ)()きました。


 (たま)はもの(すご)くやわらかいようで、テーブルに()()くようにぺちょりと()れて楕円(だえん)(がた)変形(へんけい)します。


本当(ほんとう)(なに)これ……でっかいゼリー?」


 ショースケがおそるおそる(たま)をつつこうとすると、それはショースケの(ゆび)()れる(まえ)にプルプルとひとりでに(うご)(はじ)めました。


「うぇぇぇ! (うご)いてる!」


「あはは、これはタマゴだよ。孵化(ふか)直前(ちょくぜん)のね」


「タマゴ、ですか?」


 タカヤも興味深(きょうみぶか)そうに(のぞ)()みます。


昨日(きのう)真夜中(まよなか)突然(とつぜん)(しょう)(ぞう)おじさんから宇宙(うちゅう)宅配便(たくはいびん)(とど)いてね。その(なか)にこのタマゴと……この手紙(てがみ)がっ、(はい)ってたんだよ!」


 ライトはポケットの(なか)から手紙(てがみ)()()()すと、ぶっきらぼうにテーブルの(うえ)(たた)()けました。


 ショースケはそれをおずおずと()()りタカヤと()(とお)してみます。


『ライトへ このピグモスのタマゴ、もうすぐ()まれそうなんじゃがワシ(いそが)しいから()わりにしばらく面倒(めんどう)()てちょんまげ!


 あとお茶漬(ちゃづ)けの(もと)()くなったから(おく)って♡ じゃあよろぴくブイブイ ✌』


「……なんていうか、じーちゃんらしい手紙(てがみ)だね」


 ショースケは手紙(てがみ)をそっと(もと)場所(ばしょ)(もど)しました。


本当(ほんとう)(しょう)(ぞう)おじさんは自分(じぶん)勝手(かって)に……(ぼく)だってやることいっぱいあるっつーの! なにがお茶漬(ちゃづ)けじゃい‼」


 タカヤは()(まる)くして、(こえ)(あら)げながら手紙(てがみ)()きちぎってゴミ(ばこ)()()んでいるライトを()ています。


(ひさ)しぶりに()た……こんなライトさん……」


「そう? いつもこんな(かん)じだよ」


 ショースケは見慣(みな)れているのか、平然(へいぜん)とニッカルコピ(せい)のお菓子(かし)(くち)(はこ)びました。


「はぁはぁ……失礼(しつれい)見苦(みぐる)しいところを()せたね」


 (かた)(いき)をしながら、ライトは長椅子(ながいす)(すわ)(なお)します。


「なんですカ、ライトさん騒々(そうぞう)しいですヨ」


 パタパタと足音(あしおと)(ちか)づいてきて、(おく)部屋(へや)からリクルートスーツに()(つつ)んだメグとルルがやってきました。


「あれ、メグさんルルさんどこかへ()かれるんですか?」


 見慣(みな)れない服装(ふくそう)をしている二人(ふたり)にタカヤが()いかけると、その(こた)えはショースケの(くち)から(かえ)ってきました。


(ちが)うよタカヤ、あれはメグさんが昨日(きのう)()たお仕事(しごと)アニメに影響(えいきょう)されてルルさんも()()んでコスプレしてるだけ。いつものメイド(ふく)だってメイドさんのアニメが()きすぎて()てるだけなんだから」


 ショースケは(あき)れたような口調(くちょう)(つづ)けます。


「しかもメグさんもルルさんもメイドさんコスプレのまま(そと)()かけるし。じーちゃんが()してくれてるこの(いえ)だって(みょう)(おお)きくて、(ぼく)学校(がっこう)(ちょう)(かね)()ちなんじゃないかっていうウワサが()ってるんだから勘弁(かんべん)して()しいよ」


「いいじゃないですカ、お金持(かねも)ち! アニメでもクラスに一人(ひとり)はいる重要(じゅうよう)なキャラですヨ。あ、これ美味(おい)しいですネ」


 メグは(わる)びれる様子(ようす)もなく、タカヤのお土産(みやげ)のお菓子(かし)(ひと)頬張(ほおば)りました。


 その(あいだ)にルルはライトの左隣(ひだりどなり)にこれでもかと密着(みっちゃく)して(すわ)ります。


博士(はかせ)(おく)ってきたピグモスのタマゴの様子(ようす)はどうですか? ライトさん」


「ええ、かなり(うご)いていますからもうすぐだと(おも)います……ところでルルさんちょっと(ちか)くないですか?」


「ごめんなさい、(わたし)アンドロイドですからそういうこと(うと)くて……。あら? ここ、ちょっと(いろ)()わってきてません?」


 ライトの(かた)(あたま)()せながら、ルルはタマゴを指差(ゆびさ)しました。


 (たし)かに(さき)ほどまでショッキングピンク一色(いっしょく)だったタマゴには、所々(ところどころ)(あお)(てん)()てきています。


 そして(あお)(てん)同士(どうし)がくっつきながら次第(しだい)(おお)きくなっているようです。


(あお)……? (へん)だな。ピグモスは黄色(きいろ)(からだ)をしているはずなんだけど」


 ライトは(まゆ)をひそめました。


「わわわ、これってもう()まれるってこと⁉」


 ショースケはテーブルから()()()してその様子(ようす)()つめます。


 全員(ぜんいん)視線(しせん)(そそ)がれる(なか)、タマゴはどんどん(あお)()まっていき、むにょんむにょんと波打(なみう)つように変形(へんけい)したかと(おも)うと……


 つぶらな(くろ)(ひとみ)のETが()まれました。


 (まる)(からだ)はタマゴに()()(てん)(おな)青色(あおいろ)で、(とり)のようなクチバシがついています。


 背中(せなか)についた(ちょう)みたいな(はね)()らし、まん(まる)(よん)(ほん)(あし)(うご)かしながら、ET(いーてぃー)はよたよたとショースケに(ちか)づいてきました。


「ムィムィ……?」


 (ちい)さな(こえ)()きながら(くび)(かし)げるその姿(すがた)は、まるでマスコットキャラクターのようです。


「かっ! かわいい!」


 ショースケが()()ばしてET(いーてぃー)()きしめようとすると……


(あぶ)ないショースケ(くん)!」


 ライトが(おお)きな(こえ)()すよりも(さき)に、ルルが()まれたばかりのET(いーてぃー)両手(りょうて)(つか)んで()()げます。


 するとET(いーてぃー)(ちい)さなクチバシの(おく)から、(するど)()えそろった(きば)のある(おお)きな(くち)をずるりと()してルルの右腕(みぎうで)()みつきました。


「ひっ⁉」


 ショースケは(おも)わず(となり)のタカヤに()きつきます。


「ルルさん大丈夫(だいじょうぶ)ですか⁉」


大丈夫(だいじょうぶ)ですよライトさん。(わたし)博士(はかせ)最高(さいこう)傑作(けっさく)ですもの。こんなやわな(きば)()けるような(つく)りじゃありません」


 ルルは(すず)しい(かお)(わら)いながらET(いーてぃー)(うで)から()()がすと、元々(もともと)タマゴが(はい)っていた(びん)(なか)()れて(ふた)をしました。


「ごめんなさいメグ。()してくれたスーツに(あな)()いてしまいました……」


「いやいヤそんなこといいですヨ! それよりライトさん! その()(もの)……あの(にっく)きニュムニュムじゃありませんカ!」


 メグは(おび)えながらルルの(うし)ろに(かく)れました。


 (びん)(なか)(あお)ET(いーてぃー)はムィムイと()きながら(あば)れています。


「ニュムニュム……って(ぼく)()いたことあるよ」


 ショースケはタブレットを操作(そうさ)して(いそ)いで調(しら)べます。


「えーっと、ニュムニュム。タマゴは草食(そうしょく)でおとなしいピグモスのものによく()ているため要注意(ようちゅうい)性格(せいかく)凶暴(きょうぼう)。とにかく雑食(ざっしょく)(なん)でも(おそ)ろしいほど()べながら、地球時間(ちきゅうじかん)半年(はんとし)ほどかけて成体(せいたい)になる。(おな)(ほし)()むプニプヨ星人(せいじん)大好物(だいこうぶつ)……プニプヨ星人(せいじん)って!」


 みんなは一斉(いっせい)にメグの(ほう)()ました


「……ソイツは(おそ)ろしい()(もの)でス。(しげ)みなんかに(ひそ)んでいテ、油断(ゆだん)しているところを(おそ)ってきまス。ワタシも(ほし)にいたころ()べられそうになったことが何度(なんど)カ……」


 ガタガタと(ふる)えるメグの背中(せなか)を、ルルがやさしくさすります。


(しょう)(ぞう)おじさん……本当(ほんとう)にとんでもないものを(おく)ってくれたなぁ……!」


 ライトが(いか)りを(おさ)えながら(あたま)(かか)える(よこ)で、なにやらバリバリと(いや)(おと)がします。


 ……()をやると、ニュムニュムというらしいET(いーてぃー)(なか)から(びん)をかじって()べていました。


「ひぃぃぃい! どうしよう()てきちゃう!」


 ショースケは先程(さきほど)()まれそうになったことを(おも)()してパニックです。


 ライトは(びん)()いた(ちい)さな(あな)を、(ちか)くにあったクッションで(ふさ)ぎながら()いました。


「このET(いーてぃー)はお(なか)()たされるまで()まらないんだ! ショースケ(くん)、タカヤ(くん)! ゴミでも(つち)でもなんでもいいから()べられそうなものを(さが)してきてくれないか!」


「わ、わかりました!」



****



 タカヤとショースケは(くつ)()いて(ひろ)(にわ)()ると、(みっ)()っている倉庫(そうこ)のうちの(ひと)つ、(あか)屋根(やね)倉庫(そうこ)(とびら)()けました。


 (なか)にはほこりがごっそり()もった(だん)ボール(ばこ)やすっかり(ふる)びてボロボロになった得体(えたい)()れない道具(どうぐ)がいっぱいです。


「ここにはじーちゃんが(むかし)使(つか)ってたものが()いてあって、(ぼく)もここからいろいろ()()して発明(はつめい)材料(ざいりょう)使(つか)ったりしてるんだ」


 ショースケは手慣(てな)れた様子(ようす)でズンズン(おく)へと(すす)んでいきます。


「そういえばスカイボードも倉庫(そうこ)から()つけたって()ってたな。でもいいのか? ここの(なか)(もの)ET(いーてぃー)()べさせて」


 (ひと)(いえ)倉庫(そうこ)ですから、タカヤはどこから()をつけていいのかわかりません。


「いいのいいの、じーちゃんが全部(ぜんぶ)いらないって(ぼく)にくれたんだから。それに(ぼく)もこの(あか)屋根(やね)倉庫(そうこ)(なか)のめぼしい(もの)全部(ぜんぶ)回収(かいしゅう)しちゃったし」


 そう()いながら、ショースケはその(へん)(もの)手当(てあ)たり次第(しだい)自分(じぶん)のエッグロケットの(なか)(ほう)()(はじ)めました。


 タカヤも()よう()まねで(ほう)()んでいると、(ふる)(たな)(おく)(ほか)よりも(すこ)(あたら)しそうなダンボール(ばこ)()つけました。 


 (くろ)油性(ゆせい)マジックで(ざつ)に『ポスリコモス 大掃除(おおそうじ)』と宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)()かれたそれを(ひら)いて、タカヤはびっくりして(いき)()みました。


「な、なあショースケ! この(なか)のものって(おれ)がもらってもいいか?」


「んー?(べつ)にいいけど。タカヤが()しがりそうなものなんてあったっけ?」


 ショースケは作業(さぎょう)(つづ)けながら適当(てきとう)返事(へんじ)します。


 タカヤはダンボールの(なか)から()()した(いち)(まい)(かみ)()()(とお)りに(やさ)しく()って、(ほか)のものと()ざらないようにズボンのポケットの(おく)大事(だいじ)にしまいました。




 さて、そのままポイポイとエッグロケットに倉庫(そうこ)(なか)(もの)をいっぱい()めて、二人(ふたり)(いえ)(なか)(もど)りました。


「あ! 二人(ふたり)ともやっと(もど)ってきましたネ! もう()べさせるものが()くて(こま)ってたところでス」


 (はしら)(かげ)(かく)れているメグの視線(しせん)(さき)のニュムニュムは、リビングテーブルをボリボリかじっています。


冷蔵庫(れいぞうこ)(なか)(もの)から明日(あした)()予定(よてい)だったゴミ(ぶくろ)まで()べさせましたガ全然(ぜんぜん)()まりませン。(かべ)(ゆか)()べられるよりマシですかラ、仕方(しかた)なくテーブルを()べさせていたところでス」


 テーブルもすごい(いきお)いで(くち)(なか)()()まれて、(いま)にも()くなってしまいそうです。


 タカヤとショースケは(あわ)ててエッグロケットの(なか)から、(さき)ほど(あつ)めてきた(もの)たちを()()()しました。


 部屋(へや)(なか)には倉庫(そうこ)から一緒(いっしょ)()れてきた大量(たいりょう)のほこりがブワッと()()がって、ライトはゴホゴホと()()みます。


「……すごいほこりだね。でもこれだけあればしばらくは大丈夫(だいじょうぶ)そうだ、ありがとう二人(ふたり)とも。さあニュムニュム、(つぎ)はこれを()べなさい」


「ム……ムイィ……」


 ニュムニュムは()(ほそ)めながら背中(せなか)(はね)(ひろ)げて一瞬(いっしゅん)ためらいましたが、しぶしぶ()びたスコップからかじり(はじ)めました。


 どうやら(なん)でも()べられるニュムニュムの()から()ても、倉庫(そうこ)からやってきたほこりまみれの(もの)たちは食欲(しょくよく)をそそられる(もの)ではないようです。


 ショースケはまた()まれたりすることがないように、(とお)くからじーっとその様子(ようす)観察(かんさつ)しています。


「ふーん、意外(いがい)とグルメなんだね……って、なんかさっきより(おお)きくなってない?」


 (たし)かに(となり)()いてあったティッシュ(ばこ)より(ちい)さかったニュムニュムの(からだ)は、ショースケが両手(りょうて)でやっと()てそうなほどの(おお)きさになっています。


「ニュムニュムは()べれば()べるほど(からだ)(おお)きくなるらしいからね。この食欲(しょくよく)のまま半年(はんとし)()ごすんだから(おそ)ろしいよ、()()いたら(はや)本部(ほんぶ)(おく)(かえ)さないと」


 ライトがET(いーてぃー)図鑑(ずかん)()みながら解説(かいせつ)している(こえ)()きながら、タカヤはもっと()べやすいようにと、倉庫(そうこ)から()ってきた(もの)をニュムニュムに(ちか)づけてあげようとしました。


 その(とき)


 ぽろっとタカヤのポケットから(よっ)()りされた(かみ)()ちて、ニュムニュムの(ほう)へつるりと(すべ)っていきました。


 タカヤは(いそ)いでそれを(ひろ)おうと()()ばして……


(あぶ)ないタカヤ(くん)!」



 ……ライトの(こえ)(とど)(まえ)にニュムニュムはタカヤの右腕(みぎうで)()みつき、そのまま(うで)(さき)()きちぎって()()んでしまいました。


「あ」


 ()一滴(いってき)()ない()(くろ)宇宙(うちゅう)渦巻(うずま)いたようなちぎれた(うで)断面(だんめん)()ながら、タカヤは(いち)(おん)だけ(こえ)()しました。


 (まわ)りはもう(だい)混乱(こんらん)です。


「たたたたたたたた……たかやうでが……!」


 ショースケは(いま)にも(あわ)()いて失神(しっしん)しそうです。


「タカヤ(くん)大丈夫(だいじょうぶ)か⁉ ルルさん、()こうから治療(ちりょう)道具(どうぐ)を! メグさんは本部(ほんぶ)連絡(れんらく)……」


「ご! ごめんなさい失敗(しっぱい)しました! (おれ)なら全然(ぜんぜん)大丈夫(だいじょうぶ)です、ほら!」


 タカヤは(うで)断面(だんめん)からじわりと()(くろ)(きり)のようなものをにじませて(うで)(さき)成形(せいけい)すると、そのまま()くなった部分(ぶぶん)をすっかり再生(さいせい)させてしまいました。


 そしていつものように(まゆ)()げて(もう)(わけ)なさそうに(わら)ってみせます。


「ね? (ゆび)もちゃんと(うご)くから大丈夫(だいじょうぶ)です。それより……」


 タカヤはニュムニュムに視線(しせん)()けました。


(おれ)(からだ)()()んでしまったってことは、コスモピースのエネルギーの一部(いちぶ)(からだ)()れてしまったってことだから……」


 ニュムニュムは(くる)しそうに(からだ)をよじらせて、(おお)きく()見開(みひら)いたかと(おも)うと


「ムィムィムムムム!!!!」


 ()いたことのない声量(せいりょう)()きながら、その(からだ)突然(とつぜん)数十(すうじゅう)(ばい)(おお)きく(ふく)()がりました。


 手足(てあし)には(するど)(つめ)()え、いままで()かった尻尾(しっぽ)がにゅるりと(なが)()びて、背中(せなか)(はね)がバサッと(おお)きく(ひら)いて……。


「これは……成体(せいたい)へと変化(へんか)してる! コスモピースのエネルギーが膨大(ぼうだい)()ぎたんだ! みんな、(あぶ)ないから(ぼく)(ちか)くへ!」


 ライトが自分(じぶん)(くび)から()げていた紺色(こんいろ)のポスエッグに()れると、ポスエッグは(おお)きな(たて)のように(かたち)()えました。


 ライトの身長(しんちょう)(おな)じくらいあるその(たて)(うし)ろへみんなが(かく)れたのと同時(どうじ)に、ニュムニュムはその(おお)きくなった(からだ)から強力(きょうりょく)衝撃波(しょうげきは)(はな)ちました。


 リビングの(まど)ガラスが(はじ)けて()れて、(つくえ)(とびら)がガタガタと(おと)()てて(いま)にも()ばされそうです。


 ニュムニュムは(かお)をギュッとしかめて、(いき)(あら)くして(あば)れています。


「わわわわごめんなさい! (おれ)のせいで!」


(あやま)るのは(あと)だタカヤ(くん)! どうやらエネルギーの暴走(ぼうそう)(おさ)えることができないみたいだ……(はや)くコスモピースを()かせないとニュムニュムの(いのち)(あぶ)ない! みんな、協力(きょうりょく)してくれ!」


協力(きょうりょく)って……(なに)すればいいの! これだけ(あば)れてたら(なに)もできないよ!」


 ライトの背中(せなか)にがっしりしがみつきながらショースケが(こえ)()げました。


 ニュムニュムは(からだ)(おお)きく(ふる)わせながら、()回目(かいめ)衝撃波(しょうげきは)(はな)準備(じゅんび)をしています。


「ここでもう一度(いちど)やられたら(いえ)(たも)たない! とりあえず(はじ)めるよ!」


 ライトが(たて)(うら)についたパネルを()れた()つきで操作(そうさ)すると、(たて)模様(もよう)(しろ)(せん)沿()ってピカピカと(かがや)(はじ)めました。


「ルルさん、催吐薬(さいとやく)準備(じゅんび)をしていただけますか!」


「そう()うと(おも)ってもう()って()てますよ、ライトさん」


 ルルはふわりと(わら)います。


「さいとやク……? (なん)ですかそレ」


説明(せつめい)(あと)(そと)からします! メグさん、タカヤ(くん)ショースケ(くん)、ルルさんのサポートを(たの)んだよ!」


 ライトがそう()うと、(おお)きな(たて)がビカッと()()けられないほど(まぶ)しく(ひか)りました。



****



 ……ショースケたちが()()けると、そこは()たことがないだだっ(ぴろ)()(しろ)空間(くうかん)でした。


 ()(まえ)ではニュムニュムが(おお)きな(からだ)をくねらせながら(いま)にも衝撃波(しょうげきは)(はな)とうとしています。


「ルルさんお(ねが)いします!」


「かしこまりました、ライトさん」


 どこからともなく()こえたライトの(こえ)反応(はんのう)したルルは、両腕(りょううで)()わせて四角(しかく)(たて)のようにガチャガチャと変形(へんけい)させると、タカヤたちの(まえ)()って()んできた衝撃波(しょうげきは)(はじ)(かえ)しました。


 (うで)(もと)(かたち)(もど)しながら、ルルは(さん)(にん)(わら)いかけます。


「それでは(みな)さん、()きますよ?」


「いやいやいや()きますよって(なに)⁉ そもそもここどこ(ぼく)わかんない!」


「ワタシも(なに)にもわかりませン! さいとやくって(なん)ですカ説明(せつめい)してくださイ!」


 ショースケとメグがギャーギャー(さわ)()てます。


 ライトは(だれ)もいなくなったボロボロのリビングにキラキラ()()きながら(くち)(ひら)きました。


「そこは(ぼく)のポスエッグの(なか)だよ、ポスエッグにある収納機能(しゅうのうきのう)応用(おうよう)して作ったシェルターだ。(いま)から(きみ)たちには、ルルさんがニュムニュムに催吐薬(さいとやく)……つまり()み込んでしまったコスモピースの一部(いちぶ)()かせる(くすり)()ませるための手助(てだす)けをしてもらいたい」


「それならライトさんがやってよ! (ぼく)ニュムニュム相手(あいて)にしたくない(こわ)いもん!」


「ワタシだって! ()べられたらどうするんですカ!」


 二人(ふたり)余計(よけい)にギャイギャイ(さけ)びます。


(ぼく)がポスエッグの(なか)(はい)ったら(きみ)たちを(そと)()してあげられなくなるんだ! (たの)むよ協力(きょうりょく)してくれ!」


「ショースケさん、メグ……?」


 ルルが()いたことが()(ひく)(こえ)()しました。


「ライトさんに……協力(きょうりょく)していただけますよね……?」


 左腕(ひだりうで)をマシンガンに変形(へんけい)させながら、ルルは()(くろ)(ひとみ)(おお)きく見開(みひら)いています。


「あ、はい……協力(きょうりょく)します……」


「すみませンごめんなさイ……」


 タカヤはその様子(ようす)を、戦慄(せんりつ)しながら(すこ)(はな)れて()ていました。




「それでは(あらた)めて、(みな)さん()きますよ? タカヤさんとショースケさんはニュムニュムを保定(ほてい)する(かかり)をお(ねが)いします。メグは……(わたし)一緒(いっしょ)()ていただけますか?」


 ルルはふわりと(わら)ってメグの()(うで)をもの(すご)(ちから)(つか)みました。


「ヒッ! いやでスたすけテー!」


 メグはそのままルルにずるずると()きずられていきました。


 ニュムニュムは必死(ひっし)にエネルギーの暴走(ぼうそう)()さえようとしているのか、その()(おお)きな()(ごえ)()げながらのたうち(まわ)っています。


「ねぇタカヤ、ほてーって(なに)?」


保定(ほてい)っていうのは、(くすり)()ませたりするときに(あば)れないようにしっかり()さえておくことだよ。さて、どうするかな……」


 タカヤの(あたま)には、先日(せんじつ)やったように背中(せなか)から大量(たいりょう)触手(しょくしゅ)()してニュムニュムに()()けて()さえ()む……という方法(ほうほう)一番(いちばん)()かびましたが、()(もの)じみたその様子(ようす)をショースケにはあまり()られたくありません。


「ふふふ……ここは(ぼく)発明品(はつめいひん)出番(でばん)みたいだね」


 ショースケはにやりと(わら)うと、エッグロケットを()()しました。


「エッグロケットに搭載(とうさい)した(あたら)しい機能(きのう)……捕獲(ほかく)ネットを使(つか)おう!」


捕獲(ほかく)ネットっていうと……虫取(むしと)(あみ)みたいなものか?」


「そう、(まえ)()りしたときに使(つか)った頑丈(がんじょう)(いと)(こま)かく()()わせて(つく)ったんだよ! すっごく時間(じかん)かかったんだから()めて!」


 ()()してきたショースケの(あたま)を、タカヤはとりあえずよしよしと()でます。


「えへへ……よし! じゃあさっそく……」


 ショースケはエッグロケットの(うし)(がわ)のダイヤルを(まわ)して、ニュムニュムに銃口(じゅうこう)()けてビシッと(かま)えました。


捕獲(ほかく)ネット……発射(はっしゃ)!」


 ドーンと(おお)きな(おと)がして(はな)たれた捕獲(ほかく)ネットは空中(くうちゅう)でバッと(ひろ)がって……



 ニュムニュムから(とお)(はな)れた場所(ばしょ)にそのままぽとりと()ちました。


「ショ、ショースケ……?」


「……うーん、(ぼく)射的(しゃてき)才能(さいのう)()いみたいだね。お(まつ)りで挑戦(ちょうせん)するのはやめておくことにするよ」


 ショースケは外国(がいこく)映画(えいが)のように、両手(りょうて)(ひろ)げて(かた)をすくめて()せます。


 捕獲(ほかく)ネットを発射(はっしゃ)したときの(おと)警戒(けいかい)したニュムニュムは、(するど)(きば)()えた(くち)をガバッと(ひら)いて二人(ふたり)(ほう)()かってきました。


「おびゃびゃびゃこっち()る‼」


 タカヤはすぐにコスモピースの(ちから)発動(はつどう)させると、ショースケのお(なか)(まわ)りを()きかかえて空中(くうちゅう)()かび()がりました。


「はぁ……(たす)かったタカヤありがと……」


「ショースケ……(わる)いけどちょっと我慢(がまん)してくれ」


「へ?」


 タカヤは自分(じぶん)のエッグロケットから(くろ)いペラペラのシールのようなものを()()すと、それをショースケの目元(めもと)にベタッと()()けました。


「んぇ⁉ (なに)これ()れないし(なん)にも()えない! ねぇタカヤ⁉」


 ショースケが(なん)とか()がそうと()()っている(あいだ)に、タカヤは背中(せなか)から無数(むすう)触手(しょくしゅ)()すとニュムニュムの(からだ)()()(はじ)めました。


 今度(こんど)こそかじりとられないようにまずは(なが)(くび)にぐるぐる()()けて固定(こてい)してから(くち)(からだ)(うで)(あし)……


 全身(ぜんしん)をぐるぐる()きにされたニュムニュムは身動(みうご)きがとれません。


「ルルさん、保定(ほてい)完了(かんりょう)しました!」


「え、したの⁉ わかんない()せて!」



「さすがタカヤさん、素晴(すば)らしいです」


 ルルはメグの(うで)(つか)んだまま、ニュムニュムの口元(くちもと)(ちか)づきました。


 ですがニュムニュムは(くち)(ひら)いておらず、このままでは(くすり)()ませられません。


「さあメグ、あなたの出番(でばん)です」


「ま、まさカ……」


「プ二プヨ星人(せいじん)姿(すがた)(もど)ってください」


 ルルはいつも(どお)りふわりと(わら)いました。


「い! いやですいやでス(こわ)いでス‼」


大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、タカヤさんが保定(ほてい)してくれていますから」


「そういう問題(もんだい)じゃないでス! ルルは捕食者(ほしょくしゃ)(おそ)ろしい()()けられたことがないからわからないんでス‼」


「メグ」


 ルルは()()むほど力強(ちからづよ)くメグの(うで)(にぎ)りました。


「やってくれますよね???」


 前門(ぜんもん)(とら)後門(こうもん)(おおかみ)


 メグにもはや選択肢(せんたくし)(のこ)されておりません。


 おそるおそる、メグはピンク(いろ)のくらげのようなプニプヨ星人(せいじん)姿(すがた)(もど)りました。


 それを()たニュムニュムは()をギラリと(かがや)かせて、(くち)をこれでもかとガバッと(ひら)きました。


「オビャラフキジュニュメルモニョポ⁉」


 メグが恐怖(きょうふ)のあまり言葉(ことば)にならない悲鳴(ひめい)()げている(あいだ)に、ルルはすかさず催吐薬(さいとやく)をニュムニュムの(のど)(おく)(ほう)()みました。


「メグ、お(つか)(さま)でした。この(くすり)(ちょう)即効(そっこう)(せい)です、もう()(はじ)めると(おも)うのですが……」


 (よわ)()って呆然(ぼうぜん)としているメグを()いて、ルルはニュムニュムと距離(きょり)をとります。


 するとニュムニュムは()見開(みひら)いてブルブルと(ふる)(はじ)めたかと(おも)うと、(おお)きな(くち)から(いま)まで()べたものたちを一気(いっき)()()しました。


 その(なか)にはおそらくコスモピースの一部(いちぶ)であろう、()(くろ)(かた)まりが()ざっています。


 タカヤは背中(せなか)から()えた触手(しょくしゅ)一本(いっぽん)で、すかさずそれを回収(かいしゅう)して自分(じぶん)(からだ)(おさ)めました。


 ()べたものをほとんど()()してしまったニュムニュムはどんどん(からだ)(ちい)さくなり、()まれてすぐくらいの(おお)きさの幼生(ようせい)(もど)って、(つか)れたのかその()でぐったりと(ねむ)(はじ)めました。


 タカヤはコスモピースの(ちから)()いて、ショースケの目元(めもと)()()けていたシールを()がします。


「わ、やっと()がれた! ってなんか全部(ぜんぶ)()わってるし……なんでタカヤいじわるしたの(ぼく)()たかったのに」


 ショースケのじとりとした目線(めせん)にタカヤがなんて()(わけ)しようか(こま)っていると、ルルが(たす)(ぶね)()します。


「あら、ショースケさんニュムニュムの(きば)がお(かお)(さん)センチ(まえ)くらいまで(せま)っていましたけど……()たかったですか?」


 それを()いたショースケは全身(ぜんしん)にぶわっと鳥肌(とりはだ)()ちました。


「い、いや……それは()なくてよかったかな……」


「それなら目隠(めかく)ししておいてよかったじゃありませんか。さ、みんなで(もど)っておやつの時間(じかん)にしましょう? 今日(きょう)はショートケーキを()ってあるんです、ショースケさんの好物(こうぶつ)ですからニュムニュムに()べさせず()っておいたんですよ」


 ショースケは複雑(ふくざつ)そうな表情(ひょうじょう)()かべていますが、気持(きも)ちはだんだんケーキのほうに()()られているようです。


 タカヤがルルの(ほう)()いて(ちい)さく会釈(えしゃく)をすると、ルルはパチンとウインクをして()せました。



****



 ショースケの(いえ)のリビングに(もど)ると、ライトが掃除(そうじ)をしたのか部屋(へや)はある程度(ていど)(もと)様子(ようす)(もど)っていました。


(まど)(かり)素材(そざい)()れてるだけだし、()べられたテーブルなんかは(もど)ってこないけどね」


 ライトはあははと苦笑(にがわら)いをしながら本部(ほんぶ)連絡(れんらく)()っていました。


「ニュムニュムも(よわ)ってるみたいだし、このまま本部(ほんぶ)(おく)って治療(ちりょう)してもらうことにするよ。みんな苦労(くろう)かけたね」


苦労(くろう)なんてもんじゃないでス……ワタシ()(かい)ほど(いのち)危機(きき)(かん)じましタ」


 メグはまだ気力(きりょく)(もど)っていないのか、ET(いーてぃー)姿(すがた)のまま(すみ)(ほう)でうずくまっています。


「みなさん本当(ほんとう)にすみませんでした! その、いろいろ弁償(べんしょう)させてください!」


 タカヤが(ふか)(あたま)()げると、ライトが(ちか)づいてきてにーっこり(わら)いながらタカヤの(かた)をポンと(たた)きました。


「タカヤ(くん)(なに)()にしなくていいよ、こんなタマゴ勝手(かって)(おく)()けてきたのが(わる)いんだ。弁償(べんしょう)修理(しゅうり)全部(ぜんぶ)(しょう)(ぞう)おじさんにやらせるから、ね?」


 有無(うむ)()わせない(あつ)(かん)じるライトに、タカヤは(なに)()(かえ)せません。


「うぅ……(しょう)(ぞう)さんごめんなさい……」


「それにしてもタカヤも不用心(ぶようじん)(とき)があるんだね。凶暴(きょうぼう)ET(いーてぃー)(まえ)(うで)()すなんて」


 ショースケは(あき)れながらも不思議(ふしぎ)そうです。


「うん……ちょっと大事(だいじ)なものを()としちゃって。でもこの(さわ)ぎでどこかに()っちゃったみたいだ」


 タカヤが残念(ざんねん)そうに()()せると……


「……えーっと……」


 ライトが()ずかしそうに(ほお)()きながら(くち)(ひら)きました。


「タカヤ(くん)(さが)してるのはもしかしてこれ? さっき掃除(そうじ)してたら()つけたんだけど……」


 ()()りにされた(ふる)いその(かみ)()て、タカヤは()(かがや)かせました。


「は、はい! それです……よかった、あった!」


(なに)それ(なに)それ。(ぼく)にも()せてよ」


 ショースケが近寄(ちかよ)って(のぞ)()もうとすると、ライトは誤魔化(ごまか)すように(ふた)(おお)きな(せき)(ばら)いをしました。


 タカヤはその様子(ようす)()てくすっと(わら)うと、(かみ)をもう一度(いちど)大事(だいじ)にポケットの(おく)にしまいました。


(わる)いショースケ。これは秘密(ひみつ)


「えー! ()せてくれたっていいじゃん、今日(きょう)のタカヤは秘密(ひみつ)(おお)いなー」


 ショースケはむすっと(ほお)をいっぱいに(ふく)らませましたが、ルルが(はこ)んできたケーキの(あま)(にお)いで瞬時(しゅんじ)(かお)をほころばせると、キッチンの(ほう)へパタパタ(はし)っていきました。



****



「ねぇタカヤ(くん)、もう(あやま)らなくていいから()かないで」


 まだ(あたら)しい宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)制服(せいふく)()(つつ)んだライトは、タカヤの(ちい)さな(からだ)()()げてあやします。


「だってぇ……らいとおにーちゃんがおれのことかいてくれたのにぃ……」


 タカヤは()()()()らしながら、ライトの制服(せいふく)(かた)のあたりでぷくぷくの(ほお)をこすって(なみだ)()らしました。


「あはは、そんなに上手(じょうず)()けたわけじゃなかったんだけどなぁ」


 (すこ)()れくさそうに、ライトはタカヤの背中(せなか)をポンポンと(たた)きます。


本当(ほんとう)にどこで()としちゃったんだろうね、いっぱい(さが)したのに()つからないや。さっき大掃除(おおそうじ)をしてる肖造(しょうぞう)おじさんの研究室(けんきゅうしつ)()ったから……もしかしたらそこの(かみ)()ざっちゃったのかな。とにかくまた()いてあげるから、ね?」


 ライトは(やさ)しく(わら)いながら、タカヤの()にいっぱい()まった(なみだ)片手(かたて)(ぬぐ)ってあげました。


「ん……ごめんなさぁい……」


「あはは、だからもう(あやま)らなくていいったら。そうだタカヤ(くん)、お部屋(へや)でお菓子(かし)()べようか。ヒカル(くん)がね、(しょう)(ぞう)おじさんに(めずら)しいお菓子(かし)をもらったんだって。(たし)かニッカルコピ(せい)のね……」


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