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第七話 突撃!ポスリコモス②

****


 ヒカルとエイギスが宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)合鍵(あいかぎ)使(つか)って(はい)ると、その(なか)では職員(しょくいん)たちが大忙(おおいそが)しで(はし)(まわ)っています。


 ヒカルは(ちか)くにいた職員(しょくいん)(こえ)をかけました。


一体(いったい)(なに)があったんですか?」


 職員(しょくいん)紫色(むらさきいろ)のガス(じょう)(からだ)をかすませて、困惑(こんわく)している様子(ようす)(こた)えます。


「どうにも最上階(さいじょうかい)のエネルギー(しつ)大量(たいりょう)のエネルギーが一度(いちど)(つく)()されてしまったようで……。エネルギー貯蔵庫(ちょぞうこ)一部(いちぶ)(こわ)れてしまったみたいです。その影響(えいきょう)でそこにあるエネルギーを使用(しよう)していた本部(ほんぶ)設備(せつび)(すべ)てストップしています」


「エネルギー(しつ)……」


 ヒカルはぽそりと(つぶや)き、エイギスの(ほう)()きました。


「エイギス、(おれ)ちょっと()くところがあるからエイギスは……タカヤを(さが)してくれないか? 多分(たぶん)……図書室(としょしつ)あたりにいるんじゃないかと(おも)うから!」


 (すこ)()()らしながらそう()うと、ヒカルは(はし)(はじ)めました。


「ちょっとヒカルどこへ()くの⁉」


 エイギスの()びかけを(とお)くに()きながら、(せわ)しなく(うご)いている職員(しょくいん)(あいだ)をすり()けていきます。


 エレベーターは(すべ)貯蔵庫(ちょぞうこ)のエネルギーを使(つか)っていたので(うご)きません。


「……無事(ぶじ)でいてくれよ、タカヤ」


 ヒカルは最上階(さいじょうかい)()かうため、途方(とほう)もない(かず)階段(かいだん)(のぼ)(はじ)めました。



****



「うーん……やっぱり()ないなぁ……」


 ショースケは一人(ひとり)本部(ほんぶ)(まえ)(すわ)()んでいました。


 ()()わせ時刻(じこく)()ぎても、タカヤはやって()ません。


(なに)かあったのかな……テレパシーも応答(おうとう)()いし……」


 じーっとしているとどんどん不安(ふあん)になっていきます。


 本部(ほんぶ)(なか)(はい)ろうと何度(なんど)もチャレンジしてみましたが、さっきは自動(じどう)(あらわ)れた(とびら)がどうやっても(あらわ)れないためどうすることもできません。


「はあ……(なに)裏口(うらぐち)とかないかなぁ……」


 そう(くち)()した(とき)、ショースケの(あたま)(なか)にふと()かぶものがありました。




 あれは(なん)年前(ねんまえ)でしょうか。


 ショースケがまだ部屋(へや)(こも)っていた(ころ)です。


 ショースケの祖父(そふ)肖造(しょうぞう)突然(とつぜん)薄暗(うすぐら)部屋(へや)(とびら)をバーンと()けて(はい)ってきました。


「ショースケ()いてくれ! ワシはまたとんでもない発明(はつめい)をしてしまった!」


「じーちゃん(きゅう)にどうしたの! びっくりしたじゃんか!」


 ショースケは()んでいた(ほん)()じて()()がりました。


 (しょう)(ぞう)(くち)(とが)らせて(まゆ)をしかめます。


「これぐらいでびっくりするとは修行(しゅぎょう)()りんぞショースケ。ところでワシの発明(はつめい)()になるじゃろ()きたいじゃろ?」


 (しょう)(ぞう)はぐいぐいと(からだ)(ちか)づけてきます。


「まあちょっとは()きたいけどさ……。それで? 今度(こんど)(なに)(つく)ったの」


 ショースケは両手(りょうて)(しょう)(ぞう)(からだ)()(かえ)しながら(たず)ねました。


「よくぞ()いてくれた! まず(はなし)前提(ぜんてい)として……自慢(じまん)じゃないがワシは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)裏口(うらぐち)(かぎ)をいつも(わす)れる!」


「うん、本当(ほんとう)全然(ぜんぜん)自慢(じまん)じゃないね」


 ()(かがや)かせて宣言(せんげん)する(しょう)(ぞう)にショースケは(すこ)(あき)気味(ぎみ)ですが、(しょう)(ぞう)はそんなことは(いち)ミリも()にせず(はなし)(つづ)けます。


(おもて)()()(ぐち)からは()れるんじゃが……あそこから(はい)ると目立(めだ)つからのう。と、いうことで! ワシは(かぎ)()くても本部(ほんぶ)(なか)()れる仕掛(しか)けを(つく)ったんじゃ! ショースケにもその手順(てじゅん)(おし)えてやろう、まずは……」


 (しょう)(ぞう)(ひと)(ひと)つ、その方法(ほうほう)について(くわ)しくショースケに(かた)りました。


 ショースケはそれを大人(おとな)しくうんうんと()いた(あと)(くち)(ひら)きます。


「うん、よくわかったけど……。なんでそれを宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)(なに)関係(かんけい)ない(ぼく)(おし)えたの? (まった)くその情報(じょうほう)使(つか)(みち)()いんだけど」


「だって関係(かんけい)ある(やつ)(しゃべ)ったら絶対(ぜったい)(おこ)られるじゃろ。(とく)にライトになんか()られてみろ、この(うえ)ないほど面倒(めんどう)なことになるわい」


 (しょう)(ぞう)はぎゅっと(まゆ)をゆがめて(にが)(かお)をしました。


「なるほど……(だれ)かになんとなく(はな)したかったってことね……」


 ショースケはそう納得(なっとく)してまた視線(しせん)(ほん)(もど)そうとしました。


「それだけじゃないぞ?」


 (しょう)(ぞう)はその(ほん)(うば)()ってショースケの()をまっすぐ()つめて(わら)います。


「お(まえ)には絶対(ぜったい)(あと)必要(ひつよう)になると(おも)って(おし)えておいたんじゃ」


 ショースケはその言葉(ことば)(おお)きなため(いき)をつきます。


「またそんなこと()う……何度(なんど)()うけど、(ぼく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になんてなる()ないよ」


「いーや、お(まえ)数年後(すうねんご)には絶対(ぜったい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になっとるわい! このワシが()うんじゃから間違(まちが)いない! じゃから」


 (しょう)(ぞう)(おお)きな()でショースケの(あたま)(やさ)しく()でました。


()()んだらいつでもこの部屋(へや)から()てこい」




「……まさか本当(ほんとう)必要(ひつよう)なときが()るとはね。じーちゃんには(かな)わないよ」


 ショースケはニヤリと(わら)って本部(ほんぶ)裏口(うらぐち)へと()かいました。


 裏口(うらぐち)正面(しょうめん)(おな)じく、(とびら)鍵穴(かぎあな)(ひと)つもない()(しろ)(かべ)(つづ)いているだけです。


 (しょう)(ぞう)裏口(うらぐち)(かぎ)()っているらしいですが、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)のことですから普通(ふつう)()()むような(かぎ)ではないのでしょう。


 ショースケがキョロキョロと(すこ)(あた)りを見回(みまわ)すと、この本部(ほんぶ)景観(けいかん)にはどう(かんが)えても()つかわしくない(おお)きなたぬきの信楽焼(しがらきやき)(いや)でも()(はい)ります。


「じーちゃんこれ地球(ちきゅう)から()ってきたのかな……とりあえず、これを……()()る!」


 もちろんショースケの(ちから)()()がるような(おも)さではありませんが、(なん)かの装置(そうち)作動(さどう)したようなカチリという(おと)がしました。


「ええと(つぎ)は……」


 ショースケは(ちか)くに()えていた、(なん)ともカラフルでメタリックにギラギラしている()()れます。


「この(えだ)(さん)(かい)上下(じょうげ)()すって、(よん)(かい)(よこ)()らす」


 (えだ)がさらにギラギラに(かがや)いたのを見届(みとど)けて、今度(こんど)本部(ほんぶ)(かべ)(ほう)()かいます。


「それで(かべ)をトントントトトンのリズムで(たた)いて……最後(さいご)合言葉(あいことば)、じーちゃんの()きな()(もの)


 ショースケは(おお)きく(いき)()いました。


「アジのなめろう‼」


 すると突然(とつぜん)、ショースケの()っていた地面(じめん)(あな)()きました。


 (あな)(なか)には()(しろ)綿(わた)のようなものが()()められています。


「え、なになに失敗(しっぱい)した⁉」


 ()ちてきたショースケの(からだ)がずっぽりとその綿(わた)(なか)にめり()むと、(あな)(なか)から(おと)がします。


 (なに)かが(した)から()(のぼ)ってくるような……そして(つぎ)瞬間(しゅんかん)


 ショースケの(からだ)綿(わた)ごと(そら)(たか)くぶっ()ばされました!


「ぎゃぁあああああああ⁉」


 (さけ)(ごえ)とともに、ショースケは本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)(ひら)いた(ちい)さな(とびら)(なか)()ちていきました。



****



 ()(くら)なままの本部(ほんぶ)のエネルギー(しつ)では、タカヤが(かた)()として()()くしていました。


 そこへ、(おも)(とびら)合鍵(あいかぎ)()けて(しょう)(ぞう)(はい)ってきます。


「おーおー、タカヤ今回(こんかい)派手(はで)にやったのお!」


 (しょう)(ぞう)はカカカと(たか)らかに(わら)って、タカヤの(かた)をバンバン(たた)きました。


 タカヤは(もう)(わけ)なさそうに()()せます。


「……ごめんなさい。ちょっと(いそ)いでやったらエネルギーを放出(ほうしゅつ)()ぎてしまって……今頃(いまごろ)職員(しょくいん)さんたち(こま)ってますよね」


「なぁに()にするな、ワシらが研究(けんきゅう)のために使(つか)うエネルギーを()けて()しいと(たの)んどるんじゃから。それにうちの職員(しょくいん)優秀(ゆうしゅう)じゃからな、こんなの(なお)すくらいちょちょいのちょいじゃ。ところでタカヤ」


 (しょう)(ぞう)はタカヤの()をまっすぐ()つめました。


「また、コスモピースの(ちから)(つよ)くなったんじゃないか?」


 (すべ)てを見透(みす)かすような視線(しせん)に、タカヤは一瞬(いっしゅん)ひるみます。


「……(しょう)(ぞう)さんには(かく)(ごと)はできませんね。(たし)かに(まえ)よりもずっと(つよ)くなってます。でも大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、制御(せいぎょ)できないほどじゃありません」


 そう()ってタカヤが笑顔(えがお)()せると、(しょう)(ぞう)(まゆ)をしかめて(おお)きく(いき)()きました。


相変(あいか)わらずいい()ちゃんじゃのうタカヤ。それだけ(つよ)くなっとったら(ちから)使(つか)ってないときでも(おさ)えるのは大変(たいへん)じゃろう。しんどいーって()って()いたって(だれ)(おこ)りゃせんのに」


「だってしんどくなんてないですから。ほら、コスモピースのおかげでエネルギーは無限(むげん)にありますし」


 もう一度(いちど)(わら)ってみせるタカヤに、(しょう)(ぞう)心底(しんそこ)(こま)ったという(かお)自分(じぶん)(ほお)をポリポリと()きます。


「そういうことじゃないんじゃがのお……。ところでタカヤ、(とき)()()(ちょう)仕事(しごと)(ほう)順調(じゅんちょう)か? ただでさえ(ほか)仕事(しごと)(おお)かったお(まえ)がそっちの仕事(しごと)もやりたいと()ってきたときはワシはおったまげたぞ」


 (しょう)(ぞう)(つか)れたのか、(ゆか)にどっかりと(こし)()として(つづ)けます。


「ライトの(やつ)はワシら本部(ほんぶ)がタカヤの仕事(しごと)無理(むり)やり()やしたんじゃと(おも)()んどるし……(まった)く、タカヤの仕事(しごと)()きっぷりにも(こま)ったもんじゃよ」


 ごめんなさい、と(まゆ)()げて、タカヤも(しょう)(ぞう)(となり)(すわ)()みました。


「……ライトさんは(おれ)のことすごく心配(しんぱい)してくれてますから、自分(じぶん)()やしたなんて()ったらもっと(こま)らせそうで()えなくて」


 (ひざ)(かか)えて、タカヤは()(くら)部屋(へや)(おく)見据(みす)えます。


「……でも(おれ)できるだけたくさん、この(ちから)でみんなの(やく)()ちたいんです。(おれ)がまだ、使(つか)えるうちに」


 まるで自分(じぶん)にしか()えない(なに)かを()ているようなうつろな()でそう(はな)すタカヤの(あたま)を、(しょう)(ぞう)(ざつ)にわしゃわしゃと()でました。


「わ、しょ、(しょう)(ぞう)さん?」


辛気臭(しんきくさ)(はなし)()わりじゃ。そうじゃタカヤ、ショースケとのコンビはどうだ! あの()面白(おもしろ)いじゃろ? さすがワシの(まご)じゃな!」


 (かた)()んできた(しょう)(ぞう)戸惑(とまど)いながら、タカヤはショースケと()()わせをしていたことを(おも)()しました。


「そうだショースケ! ああもう()()わせの時間(じかん)()ぎてる!」


 タカヤはオロオロと()()がりました。


「でも(なお)るまでここを(うご)かないように()われてるし……エッグロケットはこの部屋(へや)には()()禁止(きんし)()いてきちゃったからテレパシーも使(つか)えない……」


 動揺(どうよう)視線(しせん)右往左往(うおうさおう)させた(あと)、タカヤは(ふか)いため(いき)をつきます。


「ショースケ(おこ)ってるかな……」


 その様子(ようす)()(しょう)(ぞう)はニンマリと口角(こうかく)()げると、(うれ)しそうにタカヤの(ふと)ももをペチンと(かる)(たた)きました。


「そんなもん(あと)からいくらでも(あやま)ったらええわい! のうタカヤ、ショースケと宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)やるの(たの)しいか?」


 その質問(しつもん)にタカヤは(すこ)(あたま)をひねります。


「そうですね……(たの)しい、けど()れないことも大変(たいへん)なことも(おお)いです。ショースケって結構(けっこう)強情(ごうじょう)でこの(あいだ)だってやめとけって()ったのに無理(むり)にスカイボードの速度(そくど)()げて二人(ふたり)(うみ)()ちたりするし……て、こんなこと肖造(しょうぞう)さんにする(はなし)じゃないですね」


 ハッと()()いて()ずかしそうにするタカヤに、(しょう)(ぞう)はいたく上機嫌(じょうきげん)です。


「そーかそーか! やっぱりあの()とコンビを()ませたのは(だい)正解(せいかい)だったわい!」


「そ、そうですかね……ショースケといるとどうも調子(ちょうし)(くる)っちゃって」


 タカヤはいまいち()()ちません。


「……ワシはなタカヤ、ずっとお(まえ)調子(ちょうし)(くる)わせたかったんじゃよ」


 (しょう)(ぞう)はニヤリと(わら)ってそう()うと、どっこいしょと(おも)(こし)()げてエネルギー(しつ)(あと)にしました。



****



「ふぅ……ひどい()にあったよ」


 ショースケは自分(じぶん)()ちてきた、(いま)はもう()じてしまった天井(てんじょう)(とびら)見上(みあ)げながら()()がりました。


 一緒(いっしょ)にふっ()ばされた大量(たいりょう)綿(わた)下敷(したじ)きになってくれたおかげで怪我(けが)(ひと)つもありません。


(まった)く、じーちゃんももっと安全(あんぜん)()れる仕掛(しか)けにしてくれればよかったのに。それにしてもここどこだろ?」


 ぼんやりと(ひか)(まる)(あか)りがふわふわ()かんだこの部屋(へや)には、たくさんの書類(しょるい)散乱(さんらん)しています。


 (かべ)にも一面(いちめん)資料(しりょう)()()けられており、どうやら(だれ)かの研究室(けんきゅうしつ)のようです。


(なに)()いてあるんだろ……あ、これ宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)()いてある! (ぼく)でも()めるじゃん!」


 ショースケはさっぱり整理(せいり)されていない(つくえ)(うえ)()いてある()(まい)(かみ)()()りました。


「なになに……(いち)枚目(まいめ)はポポミル(せい)深刻(しんこく)大気(たいき)汚染(おせん)への援助(えんじょ)について。()枚目(まいめ)は、惑星(わくせい)トリスタルについて……わ、もしかしてトリスタル伝説(でんせつ)かな!」


 ショースケは()をきらきら(かがや)かせました。


 トリスタル伝説(でんせつ)、ショースケも()いたことがあるウワサ(はなし)です。


 惑星(わくせい)トリスタルには無限(むげん)(いのち)()った生物(せいぶつ)()んでいて、この宇宙(うちゅう)(いま)から(せん)(ねん)()ったとしても()いつけないほどの(ちょう)高度(こうど)文明(ぶんめい)(さか)えていたと。


 そしてその文明(ぶんめい)生物(せいぶつ)はある()突然(とつぜん)跡形(あとかた)もなく()えてしまったと。


「へー! ちゃんと宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)調(しら)べられてるなんて、あの伝説(でんせつ)本当(ほんとう)なのかも!」


 (うれ)しそうに(つづ)きの資料(しりょう)(さが)そうとして、ショースケはここに()目的(もくてき)(おも)()しました。


「そうだタカヤ! (さが)しに()かなきゃ!」


 出口(でぐち)(さが)してキョロキョロしていると、(うし)ろからジャキリと(おと)がしました。


(うご)くな」


 ()きなじみのある(こえ)にゆっくり()(かえ)ると、そこにはとにかく物騒(ぶっそう)銃器(じゅうき)をかき(あつ)めたような(なぞ)(おお)きな(かたまり)をショースケに()けた(しょう)(ぞう)()っていました。


「え、じーちゃん⁉ (なに)その(あぶ)なそうなの! しまってしまって!」


 ショースケが(あわ)ててそう(さけ)ぶと、(しょう)(ぞう)(かたまり)隙間(すきま)から(まえ)()()()()るほど(おどろ)きました。


「ショースケ⁉ (なん)でお(まえ)がワシの研究室(けんきゅうしつ)におるんじゃ! どうやって侵入(しんにゅう)したんじゃワシの(まご)じゃとしても才能(さいのう)あり()ぎんか⁉ (こわ)っ!」


 (しょう)(ぞう)(ふる)えてドン()きしています。


「いやいや! じーちゃんが何年(なんねん)(まえ)に、(ぼく)にこの部屋(へや)への(はい)(かた)(しゃべ)ったんでしょ! それの(とお)りに(はい)って()たの!」


「え」


 ショースケの言葉(ことば)(しょう)(ぞう)唖然(あぜん)として()(くち)(おさ)えました。


「なんも(おぼ)えとらん……。ワシそんな機密(きみつ)情報(じょうほう)(まご)()らしたんか……宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)として大丈夫(だいじょうぶ)かワシ……」


 今度(こんど)自分(じぶん)自身(じしん)にドン()きして(ふる)えている(しょう)(ぞう)を、ショースケは(あき)()った()(つめ)たく()つめました。


「……本当(ほんとう)、じーちゃんにはいろんな意味(いみ)(かな)わないよ。まあそれはいいとして、じーちゃんタカヤ()らない? 本部(ほんぶ)(なか)にいるはずなんだけど」


「ああ、タカヤか。タカヤならさっき……」


 そう()いかけて、(しょう)(ぞう)(おお)きく(せき)ばらいをしました。


「いや、やっぱり()らん。びっくりするほど()ておらんわ!」


 ショースケの()をじっと()つめて、(しょう)(ぞう)堂々(どうどう)(うそ)をつきます。


「じーちゃん(うそ)ついてるでしょ! さっきなんか()おうとした!」


「ついとらんもーん! ワシ(なん)()らんもーん!」


 ()どものように誤魔化(ごまか)そうとする(しょう)(ぞう)(かた)をショースケは両手(りょうて)(つか)んで(はげ)しく()すりますが、(しょう)(ぞう)主張(しゅちょう)()げません。


 ショースケは(ほお)(おお)きく(ふく)らませました。


「むー! (おし)えてくれないならいい、自分(じぶん)(さが)しに()く!」


「おー()()け。出口(でぐち)はそこじゃよ」


 (しょう)(ぞう)(おく)にある(とびら)指差(ゆびさ)しました。


 ぷりぷり(おこ)って(とびら)(ほう)()かいながら、ショースケはくるりに(しょう)(ぞう)(ほう)()(かえ)ります。


「……じーちゃん(ひさ)しぶりに()えて(うれ)しかったよ……また(あそ)ぼうね」


 (するど)くにらみながらもぽそりと(つぶや)いて、ショースケは(とびら)をくぐり乱暴(らんぼう)()めました。


「……ワシの(まご)本当(ほんとう)にかわいいのぉ、じゃが」


 (しょう)(ぞう)(かお)をほころばせながら(つくえ)(した)設置(せっち)されたボタンに()()ばしました。


(いま)エネルギー(しつ)()かれるのはちと(こま)るのでな……。すまんのショースケ、しばらく(まよ)っててくれ」


 そのままボタンを()すと、どこかでガチャリと(おと)がしました。


(たい)侵入者(しんにゅうしゃ)(よう)最上階(さいじょうかい)迷路(めいろ)システム、作動(さどう)します』


「さて、この部屋(へや)(はい)方法(ほうほう)()えておかなければならんな。(いま)のこの部屋(へや)はあまり()られたいものではないからの……」



****



「あれー、また()()まりだ」


 (しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)()十五(じゅうご)(ふん)。ショースケは()(しろ)廊下(ろうか)をただただ(ある)(つづ)けていました。


 さっきの部屋(へや)(もど)ろうにも(みぎ)(ひだり)(まえ)にも(うし)ろにも、()(しろ)天井(てんじょう)まである(たか)(かべ)(つづ)くばかりでどっちが(もど)(みち)なのかすらわかりません。


「どうなってるんだろう、本部(ほんぶ)ってこんなに(ひろ)かったっけ?」


 ショースケは(つか)()ってその()(すわ)()んでしまいました。


 地球(ちきゅう)から()ってきたジュースをカバンから()()して一息(ひといき)ついていると、なにやら(くる)しそうな(こえ)()こえます。


 ショースケが(おそ)(おそ)(こえ)のする(ほう)(みち)(のぞ)()んでみると……


 そこには(あせ)だくでゼーゼー()いながら(よこ)たわるヒカルがいました。


「……ヒカルさんこんなとこで(なに)やってんの?」


 (そば)でしゃがみこんでショースケは(たず)ねます。


「お、(おれ)だって()きたいよ……。(いっ)(かい)からこの最上階(さいじょうかい)まで……やっと階段(かいだん)()がって()たと(おも)ったら……なんでこんな迷路(めいろ)みたいになってるんだ……。ショースケくんがどうしてここにいるのかも(わけ)わかんないし……」


 呼吸(こきゅう)(ととの)えながらヒカルは(あたま)(かか)えます。


(ぼく)がここにいる理由(りゆう)はまあいいとして……ここって普段(ふだん)はこんな廊下(ろうか)じゃないの?」


当然(とうぜん)だろ! こんなのだったら(おれ)毎日(まいにち)迷子(まいご)じゃないか!」


 ヒカルならそうだろうなとショースケは(みょう)納得(なっとく)がいきます。


「まあ(たし)かに……ところでエイギスさんは? 一緒(いっしょ)じゃないの?」


「ああ……エイギスとはちょっと別行動(べつこうどう)してて。ショースケくんは(おれ)だけじゃ不安(ふあん)?」


「え、うん」


 間髪(かんぱつ)()れずにそう(こた)えるショースケに、ヒカルはうんうんと(おお)きく(うなづ)きました。


「だろうね、(おれ)(おれ)だけじゃすごく不安(ふあん)だよ!」


 ヒカルは残念(ざんねん)なほど自信(じしん)たっぷりに()いました。


「でも大丈夫(だいじょうぶ)(おれ)だって一応(いちおう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としてはショースケくんの(ひと)(ねん)先輩(せんぱい)なんだから。ちゃんとここから二人(ふたり)脱出(だっしゅつ)してみせるよ!」


 まるで自分(じぶん)鼓舞(こぶ)するように(むね)()ってみせるヒカルに、ショースケは意外(いがい)そうに()見開(みひら)きます。


「え、ヒカルさん宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったの(ぼく)より(ひと)(ねん)(はや)いだけなの?」


(おれ)高校(こうこう)卒業(そつぎょう)してから宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったからね。ていうか、試験(しけん)めちゃくちゃ(むずか)しいのにその(とし)合格(ごうかく)したショースケくんとタカヤが異例(いれい)(ちゅう)異例(いれい)なんだよ」


 (しん)じられないという表情(ひょうじょう)をショースケへ()けながら、ヒカルは右腕(みぎうで)()けているポスエッグの(なか)から(ちい)さな(たね)()()しました。


 ()(とお)った(うす)いオレンジ(いろ)をしたその(たね)を、ショースケは興味深(きょうみぶか)そうに(のぞ)()みます。


「なぁにこれ、綺麗(きれい)だね」


「ケリヌスの(たね)だよ。これはすごいよ、なんと(かべ)()()けるとそこに()(あな)(つく)ってくれるんだ。この迷路(めいろ)(かべ)()()けながらまっすぐ(すす)んでいけば、きっとすぐに出口(でぐち)辿(たど)()けるさ!」


 ヒカルがすぐ(よこ)にあった(かべ)にケリヌスの(たね)()()けると、(かべ)(まる)(かたち)にするすると()けてすぐに(となり)通路(つうろ)(つづ)(あな)()きました。


「すごい! (たし)かにこれならすぐ()られるかも!」


 ショースケが意気揚々(いきようよう)とその(あな)をくぐろうとした(とき)


 (おお)きな警報音(けいほうおん)(とも)に、機械(きかい)(こえ)のアナウンスが迷路(めいろ)(じゅう)(ひび)きました。


迷路(めいろ)システムに異常(いじょう)感知(かんち)侵入者(しんにゅうしゃ)脱出(だっしゅつ)妨害(ぼうがい)します』


 どこかでゴトリと(おと)がして、(なに)かが(ちか)づいてくる気配(けはい)がします。


「ちょっとヒカルさんどうなってるの⁉」


 ショースケはパニックになってヒカルに(すが)りますが、ヒカルはそれ以上(いじょう)(だい)パニックです。


(おれ)にもわかんないよ! 迷路(めいろ)システムなんてそんなの()いたことないし……(かべ)(あな)()けたのがまずかったのかな⁉ わーどうしよう(たす)けてエイギス‼」


 あんまりにも(あわ)てて半泣(はんな)きになっているヒカルを()てショースケは(ぎゃく)冷静(れいせい)になってきました。


「メソメソしないの! とにかく(いそ)いでここを(はな)れよう、なにが()るかわかんないし」


 ショースケがヒカルの(うで)(つか)むと同時(どうじ)に……


 ()(まえ)から(みち)()()くすほどのどでかい鉄球(てっきゅう)(ころ)がってきました。


「ぎゃぁああああああああ⁉」


 (もう)スピードでゴロゴロと(せま)って()鉄球(てっきゅう)から二人(ふたり)必死(ひっし)()げだしますが、無情(むじょう)にもその(さき)()()まりです。


「どうしようどうしよう!」


 ブルブルと(ふる)えるショースケを()に、ヒカルは(ちか)づいてくる鉄球(てっきゅう)()かい()いました。


「ショースケくんそこでじっとしてて!」


 ヒカルがポスエッグに()れると、その右腕(みぎうで)市場(いちば)でも()せた大砲(たいほう)のような装置(そうち)(おお)いました。


 (うで)ごと大砲(たいほう)(せま)りくる鉄球(てっきゅう)()けると、砲口(ほうこう)にエネルギーが(あつ)まり(はじ)めます。


一回(いっかい)使(つか)ったことないけど……どうにかなれ!」


 ヒカルは(あつ)まったエネルギーの(たま)鉄球(てっきゅう)()かって(はな)ちました。


 (たま)()たった鉄球(てっきゅう)(おと)()てて粉々(こなごな)(くだ)()ります。


「よ、よかった……なんとかなった……」


 へろへろと(すわ)()むヒカルに、ショースケは興奮(こうふん)状態(じょうたい)()()きました。


「すごいすごい! ヒカルさんありがとう、かっこよかった!」


「か、かっこよかった⁉ 本当(ほんとう)⁉」


 ヒカルは(うれ)しそうに()(かがや)かせます。


「うん! (ぼく)(はじ)めてヒカルさんのことかっこいいと(おも)ったよ!」


「あ、(はじ)めて……」


 ちょっと(せつ)なそうなヒカルのことは(とく)()にせず、ショースケは元気(げんき)(まえ)()いてヒカルの(うで)()()ります。


「さ! (はや)くここから移動(いどう)するよ。またさっきみたいなのが(ころ)がって()るかもしれないし」




 ……そこから数十(すうじゅっ)(ぷん)


 ()(しろ)迷路(めいろ)(なか)(みぎ)()がってまっすぐ(すす)んで(ひだり)()がって……。


 たくさん(ある)(まわ)りますが一向(いっこう)景色(けしき)()わらず出口(でぐち)見当(みあ)たりません。


「うう……本当(ほんとう)出口(でぐち)なんかあるのかな……?」


 くたびれたショースケがヒカルの背中(せなか)にもたれかかると、ヒカルはそのままその()にうずくまってしまいました。


一体(いったい)どうなってるんだ……(おれ)ここで(まよ)って()ぬのかな。遺書(いしょ)()いてないのに……(とう)さん(かあ)さんタカヤエイギスごめんなさい……」


 (した)()いてブツブツ(つぶや)くヒカルがあまりにもネガティブなので、ショースケは元気(げんき)振舞(ふるま)うしかありません。


縁起(えんぎ)でもないこと()わないの! ほら()って()って!」


 ショースケがヒカルの(かた)をバンバン(たた)いていると……


 (うし)ろから(さき)ほどと(おな)じようなどでかい鉄球(てっきゅう)(ころ)がってきました。


「わ! また()たヒカルさん()げるよ!」


 二人(ふたり)(ちか)づいてくる鉄球(てっきゅう)から(のが)れようとしますがこんな(とき)(かぎ)って()かれ(みち)()く、まっすぐに(つづ)(みち)鉄球(てっきゅう)がどこまでも()ってきます。


「ねえヒカルさんさっきみたいに攻撃(こうげき)して(こわ)してよ!」


 体力(たいりょく)があまり(のこ)っていないショースケは(いき)()らしながら(たの)みますが、ヒカルは(もう)(わけ)なさそうに(さけ)びました。


「ごめん! あのエネルギー(ほう)一発(いっぱつ)(ぶん)しか()ってなくてもう()てないんだ!」


「えぇ⁉ そんな!」


 そう(こえ)()したと同時(どうじ)に、ショースケは(つか)()った(あし)がもつれて(ころ)んでしまいました。


「ショースケくん‼」


 ヒカルもそれに()()いてショースケを(たす)けに(もど)りますが、鉄球(てっきゅう)はすぐそこまで(せま)っています。


 ()げられない、そう覚悟(かくご)してヒカルがショースケをかばおうと()きしめたその(とき)



「ヒカル!」


 (とお)くから(かがや)くエネルギー(だん)()んできて、鉄球(てっきゅう)二人(ふたり)()(まえ)粉々(こなごな)(くだ)()りました。


 なにが()こったのかわからず困惑(こんわく)する二人(ふたり)(うし)ろで(こえ)がします。


大丈夫(だいじょうぶ)?」


 ()(おぼ)えのある(やさ)しくて(うつく)しい(こえ)に、ヒカルはショースケを()きしめたままボロボロ()()してしまいました。


「えいぎすぅう……」


 エイギスは左足(ひだりあし)にエメラルドグリーンのポスエッグが()いた、ヒカルの右腕(みぎうで)とお(そろ)いの大砲(たいほう)装着(そうちゃく)していました。


(おどろ)いたわヒカル、まさか最上階(さいじょうかい)にいるなんて。貴方(あなた)()ってた図書室(としょしつ)にタカヤはいなかったし……(なに)かまた無理(むり)をしようとしてるんじゃないかと(おも)って()って()たの」


 エイギスは(ひも)のような(ほそ)(うで)でヒカルを()でながら、ショースケに(かお)(ちか)づけます。


「まさかショースケまでこんなところにいるなんて……怪我(けが)はない?」


「うん、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。(たす)けてくれてありがとうエイギスさん、あと(すこ)しで鉄球(てっきゅう)(つぶ)されるところだったよ」


 ショースケはヒカルの(うで)(なか)から()()して(いき)()きます。


鉄球(てっきゅう)……? ああ、さっき攻撃(こうげき)してわかったんだけどあれは……」


 エイギスが(なに)かを()いかけると、(おく)(みち)からまた(おお)きな鉄球(てっきゅう)(ころ)がってきました。


 ヒカルとショースケは大慌(おおあわ)てで()げようとしますが、エイギスはゆっくりと鉄球(てっきゅう)()かって(ある)いていきます。


(あぶ)ないエイギス!」


大丈夫(だいじょうぶ)よヒカル。だってこれ……」


 (もう)スピードで(ころ)がって()鉄球(てっきゅう)はエイギスに()たって……


 ぽよん、と(ちから)なく()(かえ)っていきました。


鉄球(てっきゅう)()えるように(つく)られた、やわらかいおもちゃだもの」


「へ……? おもちゃ……?」


 ヒカルは()(てん)になっています。


「おそらく侵入者(しんにゅうしゃ)(おどろ)かせるための仕掛(しか)けね。危害(きがい)(くわ)えるような攻撃(こうげき)をするなんて宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)らしくないと(おも)ったの」


 エイギスの言葉(ことば)にヒカルとショースケは体中(からだじゅう)(ちから)がどっと()けて、()(かさ)なるようにその()(たお)()みました。


 それと同時(どうじ)迷路(めいろ)(じゅう)機械(きかい)(こえ)のアナウンスが(ひび)きます。


「エネルギー貯蔵庫(ちょぞうこ)修理(しゅうり)完了(かんりょう)しました。最上階(さいじょうかい)迷路(めいろ)システムを解除(かいじょ)します」


 周囲(しゅうい)(おお)っていた(しろ)(たか)(かべ)はボロボロと(くず)()ちながら()えていき、いつもの最上階(さいじょうかい)景色(けしき)へと(もど)っていきます。


「や、やったー! やっと()られたみたい!」


本当(ほんとう)だ……うう…(おれ)()んでない……!」


 ショースケとヒカルが()()()って(よろこ)んでいると…



「えっと……みんなここで(なに)してるの……?」


 その様子(ようす)をタカヤが(とお)くから不思議(ふしぎ)そうに()つめていました。


「タカ……「タカヤ‼」


 ()()ろうとしたショースケを()しのけて、ヒカルがタカヤに()きつきました。


「タカヤ! ああ無事(ぶじ)でよかった! 大丈夫(だいじょうぶ)かどこも(いた)くないか?」


(にい)ちゃん! お、(おれ)なら全然(ぜんぜん)(なん)ともないけど……」


「よかった……タカヤに(なに)かあったら、(おれ)(とう)さんと(かあ)さんに(なん)()えば……!」


 しがみついたまま(はな)れないヒカルに、タカヤは(すこ)(こま)りながらも(うれ)しそうです。


「ありがとう(にい)ちゃん、心配(しんぱい)かけてごめん」


 そんな二人(ふたり)にエイギスが(ちか)づいて、ヒカルをタカヤから(やさ)しく(はな)します。


「こらヒカル、(うれ)しいのはわかるけどショースケともお(はなし)させてあげないと」


「うぅエイギス……だってだって……」


 涙声(なみだごえ)今度(こんど)はエイギスに()きつくヒカルのことを()にしながらも、タカヤはショースケの(ほう)(いそ)いで()()りました。


 そしてすぐに(ふか)(あたま)()げます。


「ショースケごめん! ()()わせすっぽかした!」


 ……ショースケはしばらく呆気(あっけ)にとられました。


 というのもいろいろありすぎて、そういえば()()わせをしていたというのを(いま)(おも)()したからです。


「ああ、そういえばそんな約束(やくそく)してたね……」


「そんなって……ショースケ(おこ)ってないのか?」


 不安(ふあん)そうな()()けるタカヤのおでこに、ショースケは右手(みぎて)一発(いっぱつ)デコピンしました。


挿絵(By みてみん)


 おでこを()さえて(おどろ)くタカヤに、ショースケ(ちい)さなため(いき)をつきます。


(ぼく)がそれぐらいで(おこ)ってると(おも)ってたなら、タカヤは(ぼく)のことまだまだわかってないね」


「え、ええと……ごめん」


「……心配(しんぱい)した、すっごく」


 (ふる)える(ちい)さな(こえ)でそう(つぶや)いて、ショースケはタカヤに()()けてエレベーターの(ほう)へと(ある)(はじ)めました。


 タカヤは(あせ)ってそれを()いかけます。


「ショースケ、その……心配(しんぱい)かけてごめん! (むか)えに()てくれてありがとう!」



****



「おお、お(まえ)らここにおったんか(さが)したぞい」


 本部(ほんぶ)(いっ)(かい)にあるカフェで(やす)んでいる()(にん)のもとに(しょう)(ぞう)がやってきました。


「お、ショースケいいもん()っとるな、どれワシにも一口(ひとくち)くれ」


「やだ、じーちゃん一口(ひとくち)(おお)きいんだもん」


 ショースケは()(なか)紫色(むらさきいろ)のクレープのようなものを()せびらかすように頬張(ほおば)ります。


「かーっ、けちくさいのお。いいもん、ヒカルのもらうから」


「え、(なん)(おれ)の……? ううん仕方(しかた)ないな……」


 ヒカルは(ふた)つある緑色(みどりいろ)のドーナツのようなものの(ひと)つを、(しょう)(ぞう)(くち)(なか)()()みました。


(しょう)(ぞう)さん、(おれ)のもよかったらどうぞ」


 タカヤも自分(じぶん)(あか)いグミのようなものが(はい)った(はこ)()()します。


「お、ありがとう。そんな(やさ)しいヒカルとタカヤにいい()らせがあるぞ」


 (しょう)(ぞう)はもぐもぐと(くち)(なか)のドーナツを()()んでから(くち)(ひら)きました。


「お(まえ)らの両親(りょうしん)から(ひさ)しぶりにメッセージが(とど)いたんじゃ。(いま)はセラパス(せい)……ここからはワープを使(つか)ってでも数週間(すうしゅうかん)はかかるほど(とお)(ほし)におるようじゃな」


 (しょう)(ぞう)(おく)られてきたメッセージを()(うつ)した(かみ)をヒカルに手渡(てわた)しました。


 タカヤもそれを(よこ)から一緒(いっしょ)()みます。


「……(おれ)たちに(はや)()いたいってさ。(おれ)たちも(はや)(とう)さんと(かあ)さんに()いたいよ、なあタカヤ」


「……うん。(とう)さんと(かあ)さん、元気(げんき)そうでよかった」


 そう()って(さび)しそうに(わら)いあう二人(ふたり)(かた)を、エイギスは(ほそ)(うで)(やさ)しく()きしめました。


「えーと……エイギスどうしたの?」


 ヒカルは(かお)()()にしながら(たず)ねます。


「こうやってしてもらうと(かな)しい気持(きも)ちが(すこ)(らく)になるのよって、貴方(あなた)たちのお(かあ)さんの春子(はるこ)がワタシにもよくやってくれたの。どうかしら、(すこ)しは(らく)になった?」


「エイギスさん、ありがとうございます」


「ううん、(らく)になったっていうか余計(よけい)にドキドキするっていうか……」


 お(れい)()うタカヤの(となり)でヒカルは()()かないのか、もぞもぞと(からだ)(うご)かしました。


 その様子(ようす)()ていたショースケは、(となり)(あお)いジュースをぐびぐび()(はじ)めた(しょう)(ぞう)(こえ)をかけます。


「エイギスさんもタカヤの両親(りょうしん)のこと()ってるんだね」


「そりゃそうじゃ。エイギスは荒廃(こうはい)した(ほし)一人(ひとり)でいるところをタカヤとヒカルの両親(りょうしん)(たす)けられてここに()たんじゃからの。エイギスにとって二人(ふたり)恩人(おんじん)じゃよ」


 ジュースを()()してピンク(いろ)(こおり)をボリボリ()みながら(しょう)(ぞう)(こた)えます。


「へー……じゃあタカヤの両親(りょうしん)()ったことがないのは(ぼく)だけなんだ」


 (はなし)(はい)れずつまらなそうな(かお)をするショースケの(かた)を、(しょう)(ぞう)はカカカと(わら)いながらバンバン(たた)きました。


「なんじゃ(さび)しいのかショースケ! (まった)仕方(しかた)がないのう、そんなお(まえ)には(ほか)(やつ)()らんワシのプライベートな秘密(ひみつ)でも(おし)えてやろう! ワシの背中(せなか)のほくろの(かず)は……」


「いや、全然(ぜんぜん)()りたくないからいいや」


 いじける(しょう)(ぞう)無視(むし)してショースケがクレープの最後(さいご)のひとかけらを(くち)(ほう)()むと、天井(てんじょう)()()けられたスピーカーから(だい)音量(おんりょう)でアナウンスが(なが)れます。


「ヒカル隊員(たいいん)ヒカル隊員(たいいん)! (だい)至急(しきゅう)第三(だいさん)研究室(けんきゅうしつ)()てください!」


「えっと……(にい)ちゃん()ばれてるよ……?」


 タカヤが(となり)()ると、ヒカルは顔面(がんめん)()(さお)にして(かた)まっています。


 エイギスがいつもより(ひく)(こえ)でヒカルの名前(なまえ)()びました。


「あなたもしかして……今日(きょう)提出(ていしゅつ)期限(きげん)資料(しりょう)(わす)れてたんじゃないかしら?」


「そ……その(とお)りです……」


 (ちい)さな(こえ)(こた)えると、ヒカルは(いそ)いで椅子(いす)から()()がりました。


「ごめんみんな(おれ)()かないと! タカヤいつも(さび)しい(おも)いさせてごめん! 今度(こんど)(やす)()れたら絶対(ぜったい)()いに()くからぁあああ!」


 そう(さけ)んで(はし)りながら、ヒカルはおそらく第三(だいさん)資料室(しりょうしつ)(ほう)()えていきました。


「ワタシも()くわ、ヒカルの資料(しりょう)丁寧(ていねい)なんだけど不備(ふび)(おお)いから確認(かくにん)しないと。ごめんなさいショースケ、見学(けんがく)はまた今度(こんど)ね」


「うんわかった、約束(やくそく)ね」


 エイギスはにこりと(わら)うと、足早(あしばや)にヒカルを()いかけていきました。



「じゃあタカヤ、(ぼく)たちも()こうか」


 ショースケはくるりとタカヤの(ほう)()(なお)ります。


()くってどこに?」


()まってるじゃん、()()わせの(つづ)きだよ! タカヤと一緒(いっしょ)()こうと(おも)って後回(あとまわ)しにしたところがたくさんあるんだから、約束(やくそく)すっぽかした(ぶん)全部(ぜんぶ)()()ってよね!」


 にっこり(わら)ったショースケはタカヤの(うで)をがっしりと(つか)みました。


「それじゃ、じーちゃんいってきまーす!」


 ショースケに(うで)をぐいぐい()かれながら、タカヤも(しょう)(ぞう)(ちい)さく()()ります。


「えっと、(しょう)(ぞう)さんいってきます!」


「おう、()ってこい。(いや)()うほど(あそ)んで()いよー」


 (おお)きなあくびをしながら二人(ふたり)見送(みおく)った(しょう)(ぞう)(あお)いジュースをもう一杯(いっぱい)()って、鼻歌(はなうた)(うた)いながら自分(じぶん)研究室(けんきゅうしつ)(もど)って()きました。


挿絵(By みてみん)

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