プロローグ
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「本日は 宇宙鉄道 特急こすも をご利用いただき誠にありがとうございました。この列車はまもなく、この度新設されました 時目木駅 へ到着します。お忘れ物のないようご注意ください」
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砂がいっぱい入ったバケツをひっくり返したような、満点の星空の下。
時目木公園の時計台の上からは見慣れた町がとっても小さく見えて、無数の家の灯りがこれまた満点の星空のように光っています。
そんなロマンチックな光景を今にも閉じてしまいそうな目で見ながら、ショースケは特大のあくびを連発していました。
無理もありません、時刻は午後十時五十五分、しかも今日は金曜日。
一週間学校生活を頑張った小学四年生になったばかりのショースケには少々厳しいでしょう。
しかし今日から始まる大事な役目のため寝落ちするわけにはいきませんから、頭を何度もブンブン振って金色の髪をふさふさ揺らしているのでした。
「ショースケ大丈夫か?」
隣にいたタカヤが心配そうに声をかけました。
そんなタカヤもショースケと同じ学校に通う小学四年生ですが、その目はむしろ真っ昼間であるかのようにしっかりと開いています。
しかも春になったとはいえ、まだ肌寒いこの夜に袖の無い服に短パンで、鳥肌の一つも立てていないのでした。
そんな様子を見てなんだか悔しくなったショースケは、青い瞳をゴシゴシと擦って
「ぜーんぜん余裕だよ、タカヤこそ我慢してるんじゃない?」
と、ニヤリと笑って強がってみせますが
「俺なら全然大丈夫、寝なくても平気だし。心配してくれてありがとう!」
さわやかに感謝までされてしまいました。
いつものことながら、どうやらライバル視しているのはショースケだけのようです。
そもそもタカヤが睡眠を必要としないのも、寒さを感じないのも事実。
張り合うだけ無駄なことはショースケも重々わかっています。
でもちょっとは抵抗しないと、素直に負けを認めているようでとっても嫌なのでした。
さて、タカヤが何故そんな体なのかは後々わかるとして、二人が待っていたものがようやく到着したようです。
あたりは突然パッと明るくなり、きれいな貝がら同士をこすり合わせたようなシャラシャラという音が次第に大きく響き渡ります。
夜空を見上げると、龍かヘビのように長くてとっても大きな飛行物体が煌々と光りながらこの時計台に降りてきました。
特急こすもです。
目の前に小さな天の川のようなレールが現れてそこに沿うように列車はゆっくりと止まりました。
「時目木駅、時目木駅。本日はご乗車誠にありがとうございました」
アナウンスが流れると同時に扉が開き、たくさんの地球外生命体が楽しそうにおしゃべりをしながらぞろぞろと降りてきました。
赤かったり黄色かったり、目があったり無かったり、角が一本だったり十二本だったり、そもそも半分透けててよく見えなかったり。
ショースケとタカヤはそんな地球外生命体、通称ETたちの特徴を本部から送られたデータと照らし合わせて問題がないか確かめます。
全員、時目木町を観光に来た旅行者たちで間違い無いようで二人はひとまず胸をなでおろし、すみやかに本部へ『異常なし』とメッセージを送りました。
そしてもう一度シャラシャラという音がしたかと思うと、特急こすもはパッと強く輝いて猛スピードで宇宙に吸い込まれるように帰って行きました。
今日からこの時目木町には週に一度、特急こすもに乗ってたくさんのETのお客様がやって来ることになりました。
そんなETたちのこの町での安心安全をサポートしたり、悪いことをしないか目を光らせたりするのが、二人に初めて与えられたお仕事。
宇宙警察の一員としての慌ただしい日々が始まります。