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最終話

本日2回目の更新です。

宮殿から馬車で一日半、エイデン領の東にある丘へとやってきました。

エイデン領で一番栄えている街、プロイトがここから一望できます。

歴代領主とその妻を弔う霊廟の周りには、白い小さな花が一面に咲き誇り、甘やかな香りでわたくしたちを歓迎してくれているようです。

霊廟の中はひんやりと冷たい空気でしたが、扉を開き、空気を交換し、祭壇を簡単に掃除し終わったときにはほのかに外の香りがするようになりました。

祭壇にお祖母様が好きだったお花とお祖父様の好きだったお酒を供えて、母が静かに語りかけます。


「お父様、お母様、遅くなってごめんなさい。エレノアのこと、本当にありがとうございました」


父も母の横で頭を下げています。

竜の国に行ってからのこと、わたくしが生まれてからのこと、弟が生まれたことを語る母はどこか幼く感じました。

母は祖父に叱ってもらいたかったのでしょう。祖母に励ましてもらいたかったのでしょう。

また会えると信じていた母にとって、両親の死はどれほどつらいことか。


「お母様、しっかりなさい!貴女はクアンヴァリィ当代の番なのですよ!」


「……エレノア」


わたくしがまだ幼く、祖父母との生活に慣れ始めた頃、屋敷を探検していて高価な花瓶を割ったことがありました。怒られるのが怖くて、自分からは言い出せずにいたら、祖父母も当時の使用人たちも何も言ってこなかったのです。

それはそれで恐ろしく、耐えられなくなったわたくしは泣きながら祖父に白状しました。そのときに言われたのが『過ちを反省したのなら、しっかりと前を向け』でした。

祖母は女性としての強さとは何かを語り聞かせてくれました。母にも同じことを言ったそうです。『愛し愛され、愛しいと思う者が増えると女性は強くなれる』のだと。

母が忘れてしまったのなら、わたくしが祖父母の代わりに言いましょう。


「お祖父様もお祖母様も、お母様のことを心配していました。今のお母様を見たら、お祖父様は(あやま)ちを反省したのなら、しっかり前を向けと言うのでは?お祖母様はお父様のもとへ嫁ぎ、母になったのだから強くあれと言うのでは?」


叔父と対峙したときのように毅然となさいませ。祖父母の誇れる娘でしょう。

言葉にせずとも、母に伝わったようです。涙を拭い、意思を灯した瞳で祭壇を見つめます。

弟の短い声が聞こえる以外、誰も声を発せず、それぞれが心の中で祖父母に語りかけていたのだと思います。


お祖父様、お祖母様、わたくしは番様と出会いました。これまでも、これからも、わたくしは幸せですわ。



◆◆◆


霊廟をあとにし、わたくしたちは竜の国へと帰ります。

ですが、宮殿から乗ってきた馬車は霊廟に行く前に返してしまっているのです。


「お父様、代わりの馬車が来るのですか?」


「いや、竜宮(・・)から迎えが来ている」


父に聞いたのに、答えたのは番様でした。


「竜宮から……ですか?」


番様がいるので竜宮から迎えがあるのはおかしくはないのですが、なぜか番様の顔が楽しそうなのです。

父も知っているのか、迷うことなく歩みを進めていました。

わたくしは不思議に思いながらもあとをついていくしかないのですが、街道を外れて森の中に入ってどうするのでしょうか?

森は不自然なほど静かで、鳥のさえずりすら聞こえません。

足場が悪いところは番様に支えられながら進むと、あるものが目に飛び込んできたのです。


「……ど、ドラゴン!?」


「番が見つかったのなら早く帰ってこいと、陛下が寄こした」


幼い頃、母に読んでもらった本に出てきたドラゴン。

竜に近しい存在でありながら異なる生き物で、神より与えられたもの。竜の国にしか生息せず、また、竜帝の命なくば動かすことができないとされています。


「ドラゴンは皇族一人につき一頭与えられる。大きい方が陛下のドラゴンでイジュ、その後ろにいるのが俺のドラゴンでガディという」


番様がドラゴンを紹介してくれましたが、本にあった絵以上に美しい生き物です。

背の方が濃い灰色をしていて下に向かうほど淡くなり、大きな翼と純白の角を持ち、黄金にきらめく瞳には怜悧さを感じるほど。

その二頭のドラゴンの側に二つ、変わった形をしたものが置いてあり、あれに乗って運んでもらうようです。

馬車でしたら馬に繋がる棒の部分が真上に向いていて、車輪も大きなものが一対だけあり、全体的に丸い形をしています。


「マルコス、よかったな。ドラゴンに乗れるなんて、そう経験できないぞ」


父がはしゃいでいることから、北黒王(ほっこくおう)でもめったに乗ることができないのだとわかります。

弟がドラゴンに乗ったことを覚えていられるかはわかりませんが、ドラゴンを怖がることなく興味津々に手を伸ばしている姿がとても可愛らしいです。


「さぁ、帰るぞ」


番様の声かけで、両親と弟、わたくしと番様とに別れて馬車のようなものに乗り込みました。

すると、ドラゴンの翼がはためく音がして、グッと体が重くなるような感覚がしたと思ったら、あっという間に森の木々を越え、どんどん上昇していきます。


「まぁ!」


生まれて初めて見る、上空からの景色に目が離せません。

雲が近く感じ、木々も家々もとても小さく見えます。


「エレノア」


二人きりだからか、我が番ではなくて名を呼ばれました。


「エレノア……。我が番として、我が伴侶として、俺の鱗を食らってくれるか?」


「オースティン様、あなたのすべてをくれるなら、あなたの鱗を()みましょう。わたくしのすべてを差し上げますので、わたくしの鱗を食べていただけますか?」


「あぁ。エレノアの身も心もすべて、俺が食らってやる」


わたくしは番様と出会い、幸せになります。番様とともに死すまで。







おまけ


「そういえば、お兄様たちは到着が早かったですけど、どうやって来られたのですか?」


竜の国からこの国まで、馬車だと五日ほど、馬でも三日はかかると聞きます。

お兄様たちがたった半日ほどで来られたのが不思議でなりません。


「それはな!南紅王様を俺が背負って全速力で走ったんだよ!」


「……お兄様、さすがにそれはちょっと……」


竜の国にいたときなら信じたかもしれませんが、そんな見え透いた嘘はいかがなものかと。

それに、アルヴァレジィ当代様に失礼ではないでしょうか?

わたくしがお兄様に呆れていると、アルヴァレジィ当代様が笑いながら教えてくださいました。


「陛下がよいと仰ってくださいましたので」


しかし、わたくしには理解できませんでした。

竜帝様がご助力くださったのでしょうが、どうやって半日で来られたのでしょうか?


その答えを知るのはもう少しあとのことでした。


お付き合い、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もっといっぱい先のことを読みたかったです。
[良い点] 一気読みしました。<(_ _)> 叔父家族に虐げられても屁とも思わぬ対応…なんでかなぁと思っておりましたが、竜の血を引く娘でしたか。結構最初からそうなんだろうと気づいてましたが、実際伏線…
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