17、闇を覗く時、闇もまたこちらを覗いている
カタン、と音がした。
いやいや、気の所為よ。
キィと何やら錆び付いた音が鳴りカツカツと下から上がってくる音がする。
ウラリーは素早く毛布を被りモゾりと横になった。
「………………」
パタンと静かに閉まった扉にウラリーは詰めていた息を吐いた。
「あっぶなぁー、起きてるのバレるとこだった!」
「本当だね。ウラリー」
おや?
ウラリーはゆっくりと扉を見た。
何だか背の高い、悪魔の様に禍々しいけれど天使の如く麗しき青年の姿が見える気がした。
「うっ………」
「…う?」
「うっ、ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああ」
ラファエルが張ったらしい防音魔法があって良かった。と、後になってしみじみ思う程の絶叫を上げたウラリーにラファエルが薄らと笑を浮かべた。
「悪い子だね。ウラリー」
ひぃ!
わかった。私こうやって闇に葬られたのだわ。
わかったけれど、できればあっさりと、一瞬で殺ってもらいたい。
闇だか暗部だかに気付いたウラリーが邪魔になり、ラファエルはウラリーを……うん。なるほど。
一人で納得するウラリーを余所にラファエルは「なんだかおかしな事を考えているよね?ウラリー。まぁいい。君は我が家の暗部に気付いている。そう考えて問題無いかな?」と柔らかな笑みを向けてくる。
恐ろしい流れだ。
これは。はい…だと瞬殺。いいえ…だと拷問の後、瞬殺。なんて流れなのでは?
あれっ?
うん、コレだとどっちもお陀仏だわ。
「えっと、たぶん。地下に秘密の牢屋みたいな部屋が、ある?」
頷きながら答えるとラファエルはよく出来ましたと言いたげな顔をして頷いた。
「その通り。今日捕らえたのは、隣国と繋がっている疑いがある家の者なんだ。隣国に我が国の軍の内部情報をリークし、金銭を得ている。更には軍部の武器を横領している疑いがある。」
その家は元々浪費家で、賭博好きの当主が跡を継いだ為徐々に傾いていた所だった。
けれど昨年の末から急に羽振りが良くなり、散財も激しくなった。
それと同時に隣国との小競り合いが始まった。
小さな難癖の様な綻びが次第に戦争に発展する様に誘導されている。
更には、軍部の情報が漏れ、最終兵器扱いの貴族家の情報まで流れ出した。
勿論、最終兵器の貴族家とは……
あっ、ダメよウラリー。
これ聞いたらあかんやつだわ。
「……あっ、あの、お兄ちゃ……お兄様!!」
淑女はお兄ちゃんなどとは呼ばないのよウラリー。
ウラリーは淑女。貴族の令嬢で公爵家の令嬢なのだ。(今更過ぎる気付きだ。)
しかし、お兄様呼びをすると不機嫌な冷気を物理で醸し出すラファエルにウラリーはオロオロしつつも質問を続けた。
「武器の在処は海沿いの何処かと予想し、現在は海沿いを捜索中だと仰いましたが!」
「ウラリー。淑女は今度にしよう。良いね?」
「……ううっ。では、明日から!それで、武器は海沿いって言ってましたけど、海沿いだと湿気と塩で魔道具って壊れませんでしたっけ?」
いや、知らんけど。確かブラッディゲージでは故障するからって、でもそこ以外には隠し場所が無いからって言って闇魔法の檻の箱で覆っていて、見ただけじゃわからない仕掛けが施されていた。
ヒロインのマリーがウィリアムと共に逃げてる途中で魔法でたまたま攻撃して、その場所が判明するんだよね。
後で、確かあの場所で闇魔法の反応が!なんてわざとらしい台詞がでてきたもの。
攫われた場所は隣国で、そのマリーが逃げてる途中で攻撃して当たる場所って、限られるよね?
「確かに、魔道具は故障しやすい。だが、ならば何処に……」
「図書館の魔術書に有ったんだけど!闇魔法の檻の箱って魔法を使えば魔道具を海沿いに隠せるんじゃないかな?ついでに、光魔法とか使うと反射したりして、直ぐに見つかったりしないかな?………なんて」
「なるほど。闇魔法か……うん、ウラリー。正解かもしれない。直ぐに向かわせよう」
ラファエルが目を細めて思案している間にウラリーはこの家の暗部をどうしてお兄ちゃんはウラリーに教える気になったんだろう?と密かに首を傾げていた。
秘密主義な感じだったけど、やっぱり兄妹だと思ってくれているのかも。
そう思うと嬉しい。
けれど、なんとなく複雑な気持ちになった。
妹だと思って貰えて嬉しいのに。欲が出ているのだ。
そんなふうに複雑な気持ちを持ってしまう自分に更に罪悪感を持ってしまう。
「お兄ちゃんもその場所を探しに行くの?」
「ん?あぁ、この国の暗部を仕切っているのは本来なら父なんだけどね。目くらましの為の外交になぜか嬉々として力を入れているからね。変わりに私が向かう予定だよ。」
公爵家の現在の暗部は数年前からラファエルが仕切っているらしい。
暗部のトップに立つには実力でねじ伏せる必要があった為ラファエルは幼い頃から暗部の連中に混じって訓練を受けており、見事実力でねじ伏せ仕切る権利を有する様になったそうだ。
ウラリーが公爵家にやって来た時には既にラファエルが仕切っていたと聞いて驚いた。
あれ?ラファエルってまだ十代だよね?私の四つ上……
えっと、そんなお子様な時から既にラファエルはラスボスだったってこと?
ぼんやり頭のウラリーはその暗部を知る女性は公爵家の女主人となる者のみ、と言う暗黙の了解なんて露知らず。
なるほどー。うん、コレ関わったらダメなヤツや。
とこっそりと白目をむいていた。




