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第二話 ―異形― 参

 翌日、ボクは高校を休むことをいわなに告げてから電話をすると、どのクラスの教師かは分からないけれど了解の返事を貰って休むこととなった。

 休みの了解を貰って安心してからいわなの作ってくれた朝ご飯を食べて、テレビを見て少し休んで寝巻き代わりのジャージから私服へと着替えた。

 とりあえず……着替えたときに汗をかいたシャツを脱いで鏡を見たけれど、やっぱり胸はやわらかいように膨らんでいて、トランクスを少しずらして見た股間には何もなかった……。

 本当に女の子になっちゃってるなぁ……と改めて思ってから、ボクは私服に着替える。

 柄物のTシャツ、ジーパン、それに帽子をかぶってから家の鍵をかけ、スマホを取り出すとマップアプリを起動した。

 するとマップアプリのお気に入りにある場所が登録されていた。

 昨日の電話が誰からなのかは分からない。だけど、行かなくちゃいけない……だって、神さまが凄く行く気満々なんだもん。


『お主、早く向かうのじゃ!』

「あ、はい……。えっと、これをこうしてこうで……できた」

『むおっ!? しゃ、喋った。喋りおったな!!』


 『案内を開始します。』と言う音声が流れて驚く神さまの声を聞きながら、ボクは案内に従って歩き出す。

 初めは通い慣れた道を歩いていたけれど、途中で高校とは違う方向に案内されてそのまま歩いていく。

 見慣れない場所になっていくと住宅地から離れ始め、やがて中心街から離れた手付かずの森へと辿り着いた。


「えっと、ここでいいの……かな?」


 マップアプリはこの先真っ直ぐと言っているけれど、どう考えても入るのに躊躇うような森を前にボクは立ち止まる。

 だ、だって、森の入口だけどギャアギャアって鳥が鳴いてたり、ガサガサッて音がして怖いんだよ?

 か……帰ろうかな? そう思いながらくるりと方向転換をしようとした瞬間、スマホから……。


『ナニカエロウト、シテルノデスカ?』

「えっ!?」


 マップアプリのナビの音声のはず、それなのに通話しているような感じにその声は出てきたからボクは驚きの声をあげる。

 ど、どういうこと!?


『ヒメト、アナタガキテイルノヲカクニンシタタメ、ナビニカイニュウサセテモライマシタ』


 戸惑うボクがまるで見ているかのように、ナビ音声がボクに語り掛ける。

 これってもしかして……よくドラマとかで見かけるっていう……。


「はっきんぐ、だっけ?」

『ハイ、トリアエズモリノナカニハイッテクダサイ。スコシアルケバ、アンナイニンニアウハズデスカラ』

「案内人……、わ……わかりました」


 信用できるのかわからない。だけど、自分で来たんだから行くしかない。

 決意して、ボクは恐る恐る森の中へと入っていく。

 しばらく歩くと遠くから辛うじて聞こえていた車の音もまったく聞こえなくなり、静かな森のざわざわとした音が聞こえるだけとなった。

 そして時折、ギャアギャアというカラスの鳴き声が聞こえる。


「ひっ!? な、なんだカラスか……」

『お主、怖がりじゃのう……』

「し、しかたないよ。怖いの苦手なんだから……」


 神さまに言われて少し恥かしく思う。だけど、怖いものは怖いんだから仕方ない。

 ……ま、まあ、昨日のあの化け物。確か禍津日、っていうもののほうが怖かったけどさぁ……。

 そう思いながらボクは歩き続ける。

 そういえば気づいたけど、どうしてこんな暗い森の中なのに地面がしっかりしてるんだろう?


『お主、誰かいるぞ』

「え? あ、あの巫女さんって……!?」


 神さまの言葉にハッとして前を見る。

 するとそこには巫女さんが立っていた。

 何処にでもいると思う巫女さんの服装だ。けれど、巫女さんは顔が見えないように何か布で顔を隠していた。

 その姿を見てボクはあの地下の中であった幽霊を思い出す。

 巫女さんに驚きと恐怖を感じていると、巫女さんがボクのほうへと近付いてきた。


「お待ちしておりました。姫と器のかた」

「へ……あ、ああ、うん。はい」


 突然喋ったことに驚き、妙な返事を返したけれど巫女さんは興味がないのか何も返さない。

 そしてボクのことをチラリと見てから、くるりと別のほうを向いた。


「案内いたしますので、わたしの後をついて来てください」

「は、はい。えと、お願い……します」


 巫女さんに返事を返すと、巫女さんは前を歩き出す。

 それに遅れないようにボクも歩き出し、巫女さんのあとをついて行く。

 しばらく真っ直ぐ森を抜けるように歩いていたけれど、ある場所で突然曲がり始めた。


「わ、わわ、待ってよぉ!」


 焦りながら巫女さんについて行き、曲がり頑張って追いかける。

 けれど森の湿り気を帯びてぬかるんだ道は走りづらく、追いつかない。

 それなのに巫女さんは変わらない速度で前を歩く。

 ど、どうやっているの!?


『なるほどな、お主はまだ我の力を使いこなせていないからこのようなことにも手間取るのじゃ』

「ち、ちから?」

『うむ、ちょっとそこで目を閉じて今までにないものを感じてみるのじゃ』

「で、でも、見失っちゃうよ?」

『大丈夫じゃ、少しだけでもお主に宿った力を理解したらすぐに追い付ける』


 本当かな? そんな疑問を抱きながら、ボクはその場に立つと目を閉じる。

 ふぅ、はぁ、とボクの吐息が聞こえる。

 どく、どく、とボクの心臓が鳴る。

 ざあ、ざあ、と風に木々が揺れて葉が鳴る。

 ギャア、ギャア、とカラスが鳴く。

 チチチ、チチチ、と小鳥が鳴く。

 とく、とく、と体の中に脈打つ何かが感じられる。


『それじゃ、その脈打つものを全身に広げてみよ』

「ぜんしん……に、ひろげ、る……」


 中から聞こえる声にしたがうように、ボクはみゃくうつものを……ひろげる。

 ひろげられたそれは、かんたんに伸びていく。

 けれどかんたんに伸びる代わりに、ぷつ、ぷつ、とかんたんに千切れていく。

 所々ほつれているけれど、全身にそれが広がった……。


『ふむ、やはりまだ……か。じゃがこれぐらいならいいじゃろう。目を開けよ』


 声にしたがい、目をゆっくり開ける。すると世界は変わっていた。


「え、なにこれ?」

『見えるか、それがこの森の本当の姿じゃな』

「神さま、それって……どういうこと?」

『人には見えないものだった、というわけじゃ』


 よく分からない。けれど、いま見える光景はさっきまでの森と一片していた。

 暗かった森はそこにはなく、あるのは巨大な神社だと思う建物だった。

 白い石畳、真っ赤な鳥居、大きな建物……そのどれもが先ほどの森の中とは違っていた。

 戸惑いながら、さっきまで歩いてきた道を振り返ると、少し奥のほうに森が見えた。

 多分だけど曲がったときまで歩いてた森の道だろう。


『ほれ、早く行かんと置いてかれるぞ』

「あ、そうだった!」


 神さまの言葉で思い出し、ボクは巫女さんの後を追いかけるために駆け出す。

 白い石畳はぬかるみもなく普通に歩けて、さっきよりも早く巫女さんに追い付くことが出来た。

 きっと巫女さんの視界にはこの白い石畳が見えていたのだろう。だからあんなに普通に移動出来てたんだ。

 そう思いながらボクは巫女さんを見ると、追いかけてくるボクに気づいたのか一度動きが固まるのが見えた。けれどすぐにボクの先を駆けて行き建物の中へと入る。ボクも後について建物の中へと入っていった。

 そして建物に入ったボクは入口で足を止めた。


「あれ? 巫女さんは?」


 ボクをここまで案内した巫女さんの姿が何処にも無かったのだ。

 周囲を見渡しても薄暗い室内だけで、何も見当たらない……。


『なるほどな。お主、下を見てみよ』

「した? ……紙が落ちてる」


 紙、そう……紙が落ちていた。こう……ハサミで人型に切ったような紙が。

 なんだろうこれ?

 首を傾げつつ拾った紙を見ていると、神さまが説明をしてくれた。


『先ほどの巫女、アレは式だったようじゃな』

「式? 式神とかそんな感じかな?」

『そんな感じじゃろうな。まあ、今回はこれに術者が精神を飛ばしていたというところじゃろうがな』


 そう神さまはボクに説明をする。……もしかしてあのときに見たのも式、だったのかな?

 不意にそんなことを思っていると、奥から手を叩く音が響いてきた。


「ようこそようこそっ! よーうこそ! おいでくださいました姫さま!!」

「ひゃ!?」


 聞こえてくる声にビクッとするけれど、耐える。

 すると暗がりから一人の男性が姿を現した。……着ているのは巫女服だけど、男の人だからか袴は青に近い紫色だった。

 男の巫女さんって……なんて言うんだっけ? 良く分からないや。

 そう思っていると、手を叩いていた男性が手を叩くのをやめ……ボクの前で突然ひざまづいた。


「え、ええと……?」

「我らが伝承にて伝えられたとおりのお姿。その長く美しい桃色の髪、滲み出る神々しい気配、まだ完全とは言えないようですが貴女様は紛れもなく姫さまにございます」

「桃色……あ、本当だ!!」


 男の人の言葉を聞いて、キョトンとしたボクだけれど髪を見ると先程よりも髪が伸びていて、更に桃色に染まっているのに気づいて驚く。

 もしかして、神さまに言われた通りに何かを広げた結果……なのかな?

 そう思っていると男の人がボクをマジマジと見た。


「それで……見た所、器の君はまったく事情が分かっていないようだね?」

「は、はい。正直いまも戸惑ってます……」

「なるほどなるほど……。まったく事情が呑み込めていなかったか。姫さまからの説明は?」

「えと、聞きましたけど……理解が出来ていません」


 男の人と話をしつつボクは返事を返していく。

 ボクの言葉を聞きながら、男の人はうんうんと頷いて……しばらくすると手を叩いた。


「最後に姫さま、貴女様は眠りについてからの間の記憶はおありですか?」

『記憶か……我には無いな。奴を封じるために自らを使ったのだからな』

「あの……ないみたい、です」

「なるほど。それでは君への説明と姫さまが眠ってからの間のことを知ってもらう必要があるみたいですね」


 そう言って男の人は手を上げた。すると奥のほうから別の巫女さんが姿を現した。

 式って呼ばれた巫女さんと同じように顔を隠しているけど……、人かな?


『人じゃな。お主はまだ目が完全に染まっておらぬから分からぬようじゃがな』

『……ボク、どうなるんだろう』


 神さまの言葉にボクは少し不安になる。

 だって、体に脈打つものを広げたから……さっきよりも髪が伸びて、色も変わってる。

 ボクは……どうなるんだろう。


「姫さま、この者について行ってください」

「っ! は、はい。えと、よろしくお願いします……」


 男の人の言葉にボクは考えを中断して、巫女さんへと頭を下げる。

 巫女さんは軽く首を動かして頷くと、くるりと方向を変えて歩き始めた。

 どうやらついて来いと言っているようだ。


「そ、それじゃあ、失礼します……!」

「はい、ではまたあとで。……おっと、自己紹介がまだでしたね。私は大国と言います」

「あ……、よろしくお願いします。大国さん」


 ボクは大国さんに頭を下げてから、巫女さんの後をついて移動し始めた。

 そんなボクたちを大国さんは見ていた。

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