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第1話 生きたくないけど、死にたくもない

 夢は生きる希望そのもの。


 それなら、夢がない人はどうなるだろう。


 答えは簡単だ。


 生きている理由が分からない。


 理由が分からないから適当な本を読んで、ゲームをしたり、アイドルを追いかけたり、スポーツをしたり、友達と話したり、自分の身の丈にあった娯楽に浸って時間を潰す。


 それくらいしか生きる理由がない。


 だから、夢を持っている人が羨ましい。


 やりたいことがあって、夢に向かって努力して、辛くても、苦しくても、熱意を注いで有意義な人生を過ごせる。


 なんて楽しそうな人生だろう。


 それに比べて私はなんだ。


 適当な娯楽で人生を潰して過ごす日々。


 嫌なことがあれば「死にたい」って思ったりする。けど本当に死ぬつもりはない。


 例えるなら


「生きたくないけど、死にたくもない」


 そんな状態だ。


 もし死ねるなら、夜に眠ったまま無自覚に死んでいたい。


 次の朝には死んでいて、この世を離れていたい。苦痛とか無いほうがいい。


 なら安楽死すればいいとも考えた。


 でも安楽死は200万円かかるし、海外にいかないと出来ないらしい。


 それに、今から死ぬと自覚して眠るのは、少し怖くて抵抗してしまいそう。


 そんな私の人生は、親ガチャがノーマルで家族は母一人。私が幼い頃に、父とは離婚している


 顔面偏差値はそこまで高くない。


 努力して化粧すれば、うまく誤魔化せると思う。そう信じたい。


 頭もそこまで良くはない。テストで良い点とった記憶もないし、まともに勉強するつもりもない。宿題はちゃんと出すけど、常日頃から勉強するようなタイプではなかった。


 運動もできる方じゃない。


 体育の授業では目立たないよう隅で固まって本気を出さない。


 下手に本気を出して醜態をさらすのは目に見えてるし、クラスで浮くようなことは避けたかった。


 SNSでは、今日も不要で不幸な情報が、下水みたいに垂れ流されている。戦争、テロ、流行病、政治、特定の思想など浄化されない汚泥が私の心にへばりついて、将来の不安を煽ってくる。


 この先の未来、大学に入って、就職して、私が大人になる頃にはもっと状況が悪くて、生きづらい世の中になっているのだろう。


 そんなこと、高校生の私でも理解できる。


 あるのは緩やかな衰退と胸に巣食う不安。


 やりたいことも、生きる意味も分からない私にとって、不安を抱えて生きる人生なんてただの生き地獄だ。


 こんな人生、さっさと終わらせたい。


 そんなことをつらつらと考えながら、私は机に伏せて寝たふりをしていた。


 授業の合間に挟まる休憩時間は各々が自由に過ごす。スマホでショート動画を撮る人、SNSでつぶやく人、友達と話す人、宿題を急いで写す人、私みたいに寝る人。


 私みたいなクラスカーストの下位層は教室で騒ぎたてることも、目立つこともしない。


 平穏に、安寧に過ごすため、私は寝たふりでやりすごす。


 そうすればクラスメイトから話しかけられることはないし、私は疲れて寝ているのだと体裁を保つこともできる。


 とはいえ、油断はできない。


 カースト上位の人間は、下位の人間を気にかけることもなく、机に座ってきたりする。


 なので、座られないためにも、机の角には眼鏡を置いて、板に広がるスライムみたいにぐったりとして寝る。


 そうすれば机に座られることもない。


 万全の体勢で、一人満足しながら寝たふりを続けて、違和感が一つ胸に引っかかった。


 教室が静かだ。


 いつもなら、かき集められた動物園みたいな多種多様な鳴き声が聞こえるのに、今日は何も聞こえない。


 移動教室だったかな、と不安になって顔を上げて、息が詰まった。


─────クラスメイトが誰もいない─────


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