第一章:空港の片隅で
羽田空港の出発ロビーでは、巨大なガラス窓から差し込む午後の光が、大理石の床を白く照らしていた。札幌や大阪、福岡など、全国各地へ向かう人々の喧騒が、天井の高い空間にゆるやかな残響となって響いている。一人の女性、紗希は、搭乗ゲートの案内表示と手元のスマホを交互に眺め、フライトまでの時間を持て余していた。
ふと、視線を上げた先に、慣れた喧騒の中でも際立つ、見覚えのあるスーツ姿の男性を見つけた。彼は少し背を丸め、スマホを操作しながらキャリーバッグを引いている。
「え、悠斗…?」
思わず口から漏れた声が、彼の耳に届いたのが不思議だった。その声に反応するように、その男性、まぎれもなく悠斗が驚いた顔でこちらを振り向く。
二人が最後に顔を合わせてから、すでに三年という長い歳月が経っていた。
「紗希…! 嘘だろ、本当に? まさかこんなところで…」
彼の髪は以前よりも短く整えられ、体つきは引き締まり、シックなスーツを着こなしていたが、その奥にある少し困ったような、優しい目元だけは変わらない。悠斗はキャリーバッグのハンドルを握りしめ直し、緊張を隠すようにぎこちなく笑った。ぎこちなくも、嬉しさが隠しきれない。
「久しぶりだね。俺は仕事で札幌へ行くところ。大型プロジェクトの最終調整で、しばらくは忙しくなりそうなんだよね。紗希は旅行か何か?」
「私も仕事で、明日の会議のために今から大阪なの。本当にびっくりした。全然変わらないね、悠斗」
紗希は内心の動揺を隠し、努めて明るい声を出した。悠斗は再び少し目を伏せ、少し照れたように苦笑しながら言った。
「元気そうでよかった。相変わらず、華やかだよ、紗希は。きっと、もう俺なんかじゃ声をかけられないくらいモテてるんだろうな」
「そんなことないよ。悠斗こそ、今や出張で飛び回るエリートなんでしょ?またすぐに誰かいい人できたんじゃないの?」
紗希は、彼との別れの後、すぐに別の恋人を作った自分への後ろめたさから、探るように尋ねた。悠斗はすぐに答える代わりに、遠くの搭乗ゲートの表示をしばらく見つめてから、静かに言った。
「ん-、いや、俺は...この三年間、ずっと一人だよ。紗希と別れてから、誰とも付き合ってない」
紗希の胸に、冷たい水が流れ込んだような衝撃が走った。彼の純粋な優しさが、三年もの間、彼の時間を止めていたのだろうか。驚きと共に、彼の左手の薬指に指輪がないことを改めて確認し、胸の奥で複雑な、そして小さなため息をついた。安堵と、この再会を奇跡のように待っていた彼に対する、底知れない切なさが混じった、余計なため息だった。
悠斗はすぐに表情を切り替え、「フライトまで少し時間があるんだけど、コーヒーでもどう?」と提案した。二人はロビーの端にある、静かな照明のカフェに入った。三年間の空白を埋めるにはあまりに短い、けれど、紗希にとってはすべてを思い出させるには十分すぎる時間が流れていく。




