第五章 四神
テネレッツァは、呆然としていた。なぜなら、いきなり目の前にいたはずの魔物がすべて消し飛び、魔物がいたはずの場所には四人の女性が立っているのだから。
「エリカァーーーー!」
「またお会いましたね。まあ私は会いたくなかったですが。」
私はヴィゴーレ様に聞いた。
「もしかして、あの人たちが?」
「ああそうだ。あの方たちがこの国最強の四神と呼ばれる者たちだ。」
炎魔法を操る炎神ベロニカ
風魔法を操る風神サーニャ
雷魔法を操る雷神ルニア
固有魔法である大地操成魔法を操る草神
エリカ
この四人の前には、誰も敵わないという。
「さて、今度はきちんと始末して差し上げましょう。」
「どうする?燃やす?」
バダゴーラが不敵に笑った。
「そんなことを相談している暇あるかな?なあ、ヴィゴーレ?」
すると、テネレッツァに向かって、魔法が放たれた。テネレッツァがとっさに避けようとしたが、
「ふん!」
ヴィゴーレが剣で叩き切った。
「危ないなあ。子供を狙うなんて」
その間に、サーニャが、
「フィードバーニア。」
バダゴーラに向かって、上級魔法を放つ。
「ぐふっ。」
「あら、結構きくのね。」
「なあエリカ、あいつの倒し方あるんでしょ?」
ルニアがエリカに聞いた。
「奴の体にある、四つの核をそれぞれ違う魔法で同時に破壊する。それしかないね。」
「しかも、あいつ物理攻撃聞かないんだろ?」
ヴィゴーレも続けて問いかける。
「本当に、なんでだろうねぇ。」
と言いつつも、どんどん魔法を打っていく。だがあまり効果はないようだ。
「くそっ。あいつ意外と早いから、魔法当たんねぇぞ。」
そういいながらも、魔法を打ち続けるベロニカ。
「あいつの動きを止めることさえできたら」
テネレッツァが、何か思いついたように、ヴィゴーレ様に聞いた。
「動きを止めればいいですか?ヴィゴーレ様」
「ああ、奴の動きを止めることさえできれば、四神の上級、神級魔法で仕留めることができるはずだ」
テネレッツァは、私に任せて、と言わんばかりの返事をした。
「わかりました。」
そう言って、テネレッツァは、魔法の準備を始めた。
「なにをする気だ?」
ベロニカがそう聞いてくる、
「ただ、動きを止めるだけですよ」
魔法の準備が終わるとテネレッツァは、魔法を発動した。
「コンジェラーレ(瞬間凍結魔法)、アースバインド!」
バダゴーラの体が一瞬凍り付き、その間に、地面から生えた根がバダゴーラを捕まえていく。
「そう長くは持ちません。早くお願いします!」
四神様にそうお願いする。
「任せて!」
四人が同時に魔法を発動した。
「インフェルノ!」
「ウィンドバースト!」
「ラインドバースト」
「大地操成魔法! スオーロバーニア!」
四人の魔法が同時に奴の核に向けて飛んで行った。
ベロニカの魔法は腹の核に。
サーニャの魔法はのどの核に。
ルニアの魔法は胸の核に。
そしてエリカの魔法は頭の核に。
同時に命中した。
「ぐあぁぁぁぁぁーーーーーーーー!」
おぞましい悲鳴が王都中に響いた。
「やったのか?」
ヴィゴーレがそう聞く。
「おそらく」
エリカ達がそう答えるとヴィゴーレが叫んだ。
「やったぞ!」
「我らの勝ちだ!勝鬨を挙げよ!」
「「「「「「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁー―――」」」」」」」」」」」」
あふれんばかりの歓声が王都を包み込んだ。
「ふう、これでひとまずしばらくは安泰か?」
ヴィゴーレが息を整えながらも、四神の一人である、エリカに聞いた。
「おそらく大丈夫でしょう。しかし、王都が結構壊されてしまいました。この混乱に乗じて他国が攻めてこないように、しばらく警戒しなくてはなりませんね。」
みんなが勝利の余韻に浸っている中、奥では、テネレッツァが一人佇んでいた。
「私は、なにかできたでしょうか?」
そう呟いていた。
うしろから優しい声が聞こえる。
「あなたは、最大限の活躍をしてくれましたよ。」
振り向くと、そこにはエリカが微笑みながら、立っていた。
そして、優しく頭を撫でてくれえた。どこか、母に似ている、その手に涙が出そうだった。
そこにヴィゴーレがやってきて言ってくれる。
「お前は、持てる力を最大限発揮して、みんなの役に立ってくれた。そう謙遜しなくてもいいぞ。」
みんなで、笑っていた。
「私は、一足先に本部に戻り、負傷者の治療をしてきます。」
「頼んだぞ。サーニャ」
「そちらこそ、後始末をお願いします。ヴィゴーレ。」
「ああ、任せておけ。」
サーニャが去っていくと、ヴィゴーレが、目の前の光景を見て言う
「さて、なにから片付けるかねぇ」
エリカが気の抜けた声で言う
「やっぱり魔物の死骸でしょう。」
と言ってヴィゴーレがバダゴーラの死骸に手を伸ばそうとした時だった。
「がは」
ヴィゴーレの腹に鎌が突き刺さっていた。
全員が驚きを隠せなかった。
「勝利の余韻に浸るのが早すぎたのではないか?なあ、エリカよ。」
バダゴーラが、不気味に笑いながら言う。
ああ、そうですね。ほんっとに、こいつはいつも的確に急所を突いてくる。12年前も今も。
エリカはそう思いながら言う
「なぜだ、なぜおまえが生きている。バダゴーラ!」
「なに、簡単な話さエリカ。我の核は、4つではない。5つあるのだよ。」
全員の顔が絶望に染まっていった。
「このヴィゴーレとかいう奴は生かしておくと後々めんどくさそうなのでな。先に殺しておくことにしたのだよ。」
ヴィゴーレが、エリカに死にそうになりながらも告げた。
「エリカ。私の、ことはい、い。早くテネレッツァを連、れて逃げ、ろ。そしてもう一人四神級の魔法、が使える者を探せ。 ぐふっ。」
バダゴーラの鎌が深く刺さっていく。
「嫌だ。ヴィゴーレ様を置いてなんか行けない!」
テネレッツァはこの場に残ろうとするがエリカに止められた。
「馬鹿なこと言わないで!あなたがいても足止めしかできないでしょう!」
エリカがそう叱責するが、テネレッツァは逃げようとしない。
「それでも!」
「くっくっく。仲間思いとは辛いものよう。」
バダゴーラがヴィゴーレに刺さっていた鎌を抜き、もう一度構えた。
「さあ、おまえたちの面前で殺してくれよう。ファントムデスサイズ!」
鎌がヴィゴーレに触れそうな瞬間だった。
(誰も、失わせはしない。誰かのために、この命を捨ててでも!)
その瞬間、テネレッツァが眩い光に包まれた。
バダゴーラも思わず手が止まってしまう。
光が消えた所には、テネレッツァに似た誰かが立っていた。
髪が少し短くなり、男のような顔つきになった。頭の額からは、小さい角が二本生えている。
「なんだ。なんなんだ貴様は!」
「テレポート(瞬間移動魔法)」
バダゴーラの前から、テネレッツァが消えた。
「どこだ。どこに行った!」
「後ろだよ。 インフェルノバースト!」
バダゴーラが業火に包まれる。
「ぎやぁぁぁ」
「なにがそれぞれ違う魔法で核を壊さないといけないだ。全部同じ魔法で壊れるじゃないか。」
バダゴーラがもがき苦しむ。
「どうせ最後の核は背中の背骨の中に隠してあるんだろ。 燃えて焼けて苦しみながら死ねぇぇーーー!」
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁ―――」
バダゴーラは完全に消滅した。
遠目から見ていた、四神のベロニカが驚いたように言う。
「嘘だろ。あいつ本当に何者だ」
エリカはそれに焦ったように言う
「今はそれどころではないでしょう。ヴィゴーレの治療を!」
ベロニカとルニアとエリカが駆け寄るとそこには、姿が戻ったテネレッツァと横わたるヴィゴーレがいた。
「ヴィゴーレ様、ヴィゴーレ様!」
テネレッツァが、必死にそう叫ぶ。
ヴィゴーレが、今にも死にそうな声で、こう言った。
「テネレ、ッツァ、お前に、渡すも、のがある。お前の母が託、したも、のだ。このノートは、覚悟でき、たとき読むといい。 そしてこれは、、、」
ヴィゴーレはポーチから一丁の銃を出した。
銃身が長く50cmはあるだろうか。なにやら覗くものもついている。
「これは、私が雄一使、えなかっ、た武器だ。
名をプーラ・エルドゥーラと、言う」
続けて声を振り絞って言う
「なあ、テネレッツァ。」
「なんですか。ヴィゴーレ様。」
今にも泣きそうな声でそう聞き返した。
「この武器、をお前に託す。だ、から、だから、私からの最後の、願いだ。
この武器、を極めてくれ。そ、して、あ、い、つ、に、、、」
そこまで言うとヴィゴーレは目を閉じた。
「いやぁぁぁ! ヴィゴーレ様ぁぁぁぁ!」
テネレッツァはこの日初めて泣き崩れ、この日初めて、かけがえのない家族を失った。
そして数時間後
騎士団や冒険者たちが、魔物の死骸を片付けていた。
「その子はどうするの?サーニャ」
テネレッツァは、泣きつかれて眠ってしまい、サーニャに抱えられていた。
「とりあえず、王城のうちの部屋で休ませておきましょう。」
「そうね。この子にとっては、大事な家族だったものね。」
二人で、テネレッツァの泣きつかれて寝ている顔を眺めながら、そう話していた。
3日後、復興が進む王都で、ヴィゴーレの追悼式が行われた。
そこには女王であるクロノアや四神の姿があった。
「妾は、また一人大事な人を失ったのだな。」
一人悲しそうにクロノアは、呟いていた。
それを覆い隠すように、教会の鐘が響いている。
さらに、1週間後、
テネレッツァは、王城の一室で目を覚ました。
「あ、目が覚めたのね、テネレッツァ。あなた10日も眠っていたのよ。」
エリカが続けて言う。
「泣き疲れていたのもあるけど、あの不思議な力を使ったのもあるでしょう。」
そして、テネレッツァが何か言おうとしていたのを感じ取ったエリカは、言いにくそうに、言う。
「残念ながら、サーニャが来た時にはもう、、」
泣きそうになるテネレッツァに、エリカが優しく抱きしめてくれた。
「テネレッツァ、あなた何で喋らないの?」
(声が、声が出ない。)
テネレッツァは、答えることができなかった。
そう彼女は、先の戦いでのショックで声が出なくなっていたのだ。
王城の一室にて。
「あの子は今どうしておる?」
クロノアの問いに、エリカが答えた。
「今はうちの部屋で寝ているわ。だけど、、、」
エリカは言いにくそうにしながらも続けた。
「あの子、あの時のショックで、声が出せなくなったのよ。」
その場にいる全員が驚いた。
「確かに、まだ13歳という若さで、自分の母親を失ったのと同じだからね。」
サーニャがそう言うと、ルニアが続けていった。
「あと、自分のことも責めているのだろう。彼女は、「自分のせいで、自分が回復魔法を使えれば」と思っているじゃないかな?」
そう言ったルニアにサーニャが反論する。
「だけど、それは嘆いても仕方がないことよ、人には使える魔法と使えない魔法があるのだから。」
すると、いままで黙っていたベロニカが口を開いた。
「あの子の処遇はどうするの。女王陛下?」
クロノアは、以前から考えていたのか迷いなく言った。
「あの子の本当の母親が見つからないからのう。処遇は考えてはいる。だけどその結果をみんなが許してくれるかどうか分からん、、、。」
四神みんなが同意したようにうなずき、そして言った。
「私は、女王陛下の決めたことに従いますよ。」
「私も、エリカの意見に同意する。」
「私も。」
「私もよ」
クロノアは安心したように言った。
「みんなありがとう。では、あの子をうちの養子にしようと思うのじゃ。よいかの?」
全員が驚きを隠せなかった。
それもそのはずだ。平民の子をいきなり王族の子にしようというのだから。
「それは、いいと思いますが。あの子がいいというかどうか、、、」
エリカは心配しているようだ。
そこにルニアが、
「まあまあ、とりあえずあの子に聞きに行きましょう。」
それに続けてクロノアも言った。
「そうだな、あの子のところに行くとしよう。案内してくれ、エリカ。」
5人でテネレッツァの部屋へと向かう。
すると部屋から騒々しい音が聞こえた。
「テネレッツァ、起きたのかな。 いやでも、あの子は喋れないはず。」
そんな風にエリカが言っていると
ドガァーーーーーン!!
部屋の中から爆発音が聞こえた。
この王城は最高品質の建材に加え、サーニャ様の結界魔法も張られているのでそう簡単に壊れることはないが、それでもすごい衝撃だった。
「何事だ!」
エリカが勢いよくドアを開けると、そこには震えあがっているテネレッツァと見るからに暗殺者であろう人物が立っていた。
「ちっ。ばれたか。まあいい。全員まとめて殺せばいい。」
暗殺者はそう言うと魔法を唱えた。
「ステルス(隠匿魔法)」
姿が消え、私たちの周りを取り囲むように手裏剣が宙に浮いている。
「まずは、この鬼竜の生き残りから始末してやろう。シャドウアサルト!」
無数の刃がテネレッツァに飛んでいく。
エリカが守ろうとしたが、間に合わず、テネレッツァの体に無数の手裏剣が刺さった。
「テネレッツァーーーーー!」
クロノアが心からそう叫んだ。
「死んでしまったのか?」
みなにそう問いかける。
「わかりませんこの煙が晴れないことには、何も見えません。」
「サーニャ、フィードを」
そういわれるとサーニャは「フィード」を唱え、霧をかき消した。
そして、煙の晴れたその場所には、無傷で座っているテネレッツァがいた。
「なぜだ、なぜ無傷でいる。確実に命中したはず。」
テネレッツァの後ろから一匹の猫がでてきて
人間へと姿を変えた。
「貴様、何者だ?」
その女性は、不機嫌そうに答えた。
「あなたに名乗る名などありません。」
暗殺者は後ずさりしながらこう言った。
「これは、多勢に無勢だな。まあよい。また貴様の命を狙いに来てやる。」
四神が暗殺者を取り押さえようとしたその時、暗殺者は窓から飛び降りた。
急いで窓から外を見るとそこに暗殺者の姿はおらず、濃い霧が暗殺者を包み隠すように渦巻いていた。
「馬鹿な、どこへ。」
サーニャが窓から身を乗り出していると、ベロニカがサーニャの腰を掴んで止める。
「危ないよ、姉上」
その場には、四神とクロノア、そして横わたるテネレッツァと謎の女性だけが取り残されていた。
「おーい大丈夫か?」
ベロニカが優しくテネレッツァを起こすとテネレッツァ首を縦に振っていた。
その横では、謎の女性がほかの人たちに取り囲まれ、質問攻めにされていた。
「あんた何者だい?」
「どうやってここまで入ってきた?」
「なぜ、テネレッツァはあれだけの攻撃を受けて無傷なんだ?」
エリカ、ルニア、サーニャが質問を飛ばしている。
次々に飛んでくる質問に謎の女性は一つずつ答えていった。
名はエルバフィーア、風の上級精霊で、ヴィゴーレの従者だったらしい。ヴィゴーレに、「私が死んだらテネレッツァの面倒を見てくれ、」と言われ、今日まで、陰ながら守ってきたとか。
どうやって入ってきたかと言うと、風の魔法で自分の周りを取り囲み風のようにして入ってきたとか。
テネレッツァが無傷なのは、風魔法であの子の周りを囲ったから。
エルバフィーアはため息交じりに
「これで質問は以上ですか?」
と言いながら、テネレッツァの頭を撫でていた。
すると、テネレッツァが目をさました。
その顔を見るに、滅茶苦茶混乱しているようだった。
それもそのはずだ。いきなり暗殺者が襲ってきて、気を失ったかと思えば、気が付いた時には、暗殺者はおらず目の前には、壁には傷ついていないのに物が散乱し、目の前には見たことのある女性と、この国の重鎮が勢ぞろいしているのだから。
クロノアが心配しながらも言った。
「とりあえず、部屋を移すとしようか、妾からも話したいことがあるしのう。おい、この部屋を片付けておいてくれ。」
後ろに控えていた、メイド達が静かに頭をさげ、下がった。
「では、行くとしようか。」
テネレッツァは、エルバフィーアに引っ付き、静かに頷くだけだった。
今回の章はいかがでしたか?
面白かったり改善点等があればぜひ感想欄で教えてください。
今後ともよろしくお願いします。




