第八章 学園生活 前編
入園式当日
「緊張しておるのか?」
クロノア様が、私が制服に着替えているのを見ながら言う
というか、なんでクロノア様はここにいるのだろうか。部屋で待っててくださればいいのに。
「まあ、気楽に行けばよい。今週は学科紹介や委員会、部活動なんかの紹介や学科決めとかしかせんから安心せい。」
そんなことを言われても緊張するものは緊張するのである。
「さあ、着替え終わったか?学園に行くぞ。」
クロノア様と一緒にテンペンシア王都学園へと向かう。式場につくとすでにたくさんの学生がいた。
「あ、おはようございます、テネレッツァ様。」
そう話しかけてきたのは、アリューシア公爵令嬢である。
「仮にもこの国の王である妾に挨拶もなしにテネレッツァに話しかけるとはのう。」
少し不機嫌気味で言うクロノアに
「これは申し訳ございません。クロノア女王殿下。」
少し申し訳なさそうにしながら謝っていた。
そうやって話していると
「君たち新入生かい?」
この学園の教師と思われる人に話しかけられた。
「あ、すいません。今から大ホールに向かうところでした。」
アリューシアがそう答えると教師は笑顔で
「では、ご案内いたします。君たちのクラスは?」
アリューシアが私の分まで教えてくれた
「二人とも1―3です。」
「わかりました。ではこちらへ。」
二人は教師に案内された席についていた。
「なぜ、公爵令嬢と平民が隣なのだ?」
「しかも、滅茶苦茶仲がよさそうじゃない。」
「しかし、あの隣の子も可愛いぞ。」
周りからそんな声が聞こえてくるが、聞こえなかったことにしておく。
「何かあったら、すぐにいってね。いつでも助けてあげるから。」
その様子を心配したのかそう言ってくれた
私は常備している紙に
【ありがとうございます。ではなにかあったら相談しますね】
アリューシア公爵令嬢が笑っていると
「これより、テンペンシア王都学園入園式を行う。一同、起立。」
司会と思われる教師から声がかかった。
「礼、着席。」
「まず、学園長からの挨拶です。」
すると、学園長にしては少し若い女性が上がってきた。
「みなさん、おはよう。この学園の学園長をしている、ヒルナです。この学園では身分の差など関係ない。みなで和気あいあいと過ごしていってほしいと思う。」
一通り挨拶が終わると大ホールから拍手が上がった。
「続きまして、女王陛下より、お言葉を賜りたいと思います。」
司会がそう伝えると会場にどよめきがはしった。
「みなのもの。おはよう。一応自己紹介を、妾はこの国の王であるクロノア・ローズ・テンペンシアじゃ。先ほど学園長が申したように、この学園には身分など関係ない。優劣をつけるのは学力である。みな勉学や魔法、武術に励んでくれたまえ。」
挨拶を終えるとホールからは盛大な拍手が巻き上がった。
「以上でテンペンシア王都学園の入園式を終了します。一同起立。礼。 この後ですが新入生は各自教室へ移動、二、三年生はオリエンテーションの準備をお願いします。では解散。」
新入生は自分たちで教室へと向かっていった。
「さ、私たちも行きましょう。」
私はアリューシアに連れられて1―3へと向かった。
「席はっと。」
どこの席に座ったらいいのか迷っていると
「この学園では席は自由ですのでどこでもいいですよ。」
ということで、なぜか私はアリューシア様と隣の席になった。いかに身分は関係ないといえど公爵令嬢と表向きは平民の子なのだから絶対違うのに、と思っていると
一人の教師が入ってきて
「全員いるな。ではホームルームを始める。
まずはお互いに自己紹介からいこう。私はこの学園で数学と魔法基礎について教えている、
ダンク・テンペンシアだ。」
ダンクと名乗った男性は、40代後半に見えるちょっと細めの体格をした先生だった。
「では、新入生の自己紹介をしてもらおうかな。」
一人ずつ前に出て自己紹介をしていく。アリューシアの番になると
「私は、アラクト・アリューシア・ルーズ・テンペンシア。アラクト公爵家の長女になります。得意魔法は風と光です。よろしくお願いします。」
続いて見覚えのある男子生徒が前に出てきた。
「俺は、エンドラス・クガン・ルーズ・テンペンシア。エンドラス侯爵家の子息である。
得意魔法は雷だ。みんなよろしく。」
意気揚々と自己紹介をすると自分の席に戻っていった。
そして何人かの自己紹介が終わった後
「じゃあ最後に、テネレッツァ前に出てこい。」
私はびくっと肩を震わせた。なんせ声を出すことが出来ないのだから。
前に出ては来たがどうすることもできない。
「どうした?早く自己紹介をしなさい。」
そう言われるがどうすることもできない自分に涙が出そうだった。
「どうした、平民は自己紹介もできないほど馬鹿なのか?」
「確かに、よく受かったな。」
周りからそんな私をあざ笑う声が聞こえてくる。
すると
「ダンク先生、その子はある事情により、声を発することが出来ないのです。」
アリューシアが私をかばう様に前に出てきて説明する。
「なので、代わりに私が彼女の紹介を。彼女は、テネレッツァ・テンペンシア。得意魔法は支援魔法、でいいのよね?」
アリューシア様が私の顔を見ながら聞いてくるので、小さく頷いておいた。
いまにも涙が溢れそうである。
「以上になります。ダンク先生、これでよろしいですか?」
「あ、ああ。では自己紹介は終わりとする。休憩の後は各学科紹介、その後は、委員会と部活動紹介だ、では休憩。」
そう言うとダンク先生は、教室は出ていった。
「おい。お前。」
どうしようかな、と一人で悩んでいると後ろから声がかかった。
「貴様、テネレッツァとか言ったな。よくもあの時、この俺を無視してくれたな。」
そう絡んでくるのはエンドラス侯爵家のクガンだった。
「おい何とかいったらどうだ?」
「だめですよ。クガン様、こいつ喋ることできないんですから。」
取り巻きの一人と思われる生徒がそう言うと、周りも笑い始めた。
私は、また泣きそうだった。でも必死にこらえた。泣いてばかりではダメだと分かったからだ。でも
(言葉を発することが出来ない私に何ができるのだろう。)
「あなたたち何をしているの!」
教室の後ろの方から大声が響いた。全員が声の方へ振り向く。そこに立っていたのは、明らかに不機嫌で怒っているアリューシア様だった。
「そうやって、声も出ないことをいいことに平民の子を、初日からいじめるの?貴族の子息としての威厳はないのかしら?」
クガンはそれに反論するように言う。
「あなたは、貴族ではなくどこの誰とも分からない平民のガキの肩を持つというのですか?」
「私は、平民の肩ではなく、かけがえのない友達の肩を持つけど?」
「な、なんだと。」
クガンの顔が少しずつ曇っていく。すると
「そこ、なにをしている、もうすぐ休憩は終わりだぞ。席に着きなさい。」
先生にそう言われみんな渋々席に着いた。
次の授業は学科紹介だった。この学園には次のような学科がある。
基本三科、数学科、国学科、社学科
選択学科、魔法科、武術科、貴族科、冒険科、
科学科、商業科、建造科など、
「お前たちは、基本三科目に加え、最低でも2つ以上、選択学科にはいいてもらう必要がある。」
そう言うと、先生は生徒に紙を配り始めた。
「その紙に、行きたい科目を書いて提出してくれ。ここからは、各学科の担当先生に学科の紹介をしてもらう。」
すると10人の先生が入ってきた。
「では、一人ずつお願いします。」
すると、壮年の男性が前に出てきた。
「わしは、この学園で一年の数学を教えておる、グラットじゃ。よろしくのう。」
「私は、この学園で一、二年の国学を教えている、ダントだ、よろしくな。」
「私は、この学園で、全学年の社学を教えている、ロンドンだ、社学で分からないことはすべて私に聞いてくれ」
続いて、選択教科の先生の自己紹介になった。
「みんな知っていると思うけど、一応自己紹介を。私はこの学園で魔法科で教えている、エリカ・テンペンシアよ。この国の四神も務めているわ。」
そう自己紹介をするとクラスから歓声が上がった。
「あの人の後に自己紹介をするのはなんか気が引けるけど、俺はこの学園で武術について教えている、マルツェだ、よろしくな。」
体からはちきれんばかりの筋肉が見えている。
「俺は、この学園で貴族科を教えている、ケイント・ファマス・ルーズ・テンペンシアだ。
この学園では俺は先生なので気軽にファマス先生と呼んでくれたまえ。」
「私は、科学科を教えている、マリアです。
困ったことがあったら気軽に聞いてください。
後、保健室の担当もしています。」
「わしは、商業科を教えている、ヴァンじゃ、
数学もできるのでな、よろしく頼む。」
そして最後に、
「俺は、建築科について教えている、ガンコスだ、よろしくな」
一通り挨拶が終わると
「この人たちが基本的に今年のお前らの授業を担当する。」
挨拶が終わると先生はみんな出ていった。
「続いて、委員会の紹介だ。」
この学園の委員会には次のようなものがある
生徒代表委員会(略称、生徒会)、風紀委員会、保健委員会、図書委員会、美化委員会、
文化活動委員会、補助委員会
それぞれ次のような役割がある
生徒代表委員会(生徒会)
優秀な生徒たちで構成され、生徒会長は、学園や学園長にも発言権を持つ。担当の教師はおらず、完全に生徒主体の委員会である。
風紀委員会
学園の風紀を取り締まる委員会、毎年模範的な生徒が選ばれる。風紀委員会は、ほかの生徒を指導する権限を持っている。
保健委員会
回復魔法が使える人たちが主体となって活動している委員会。実習活動や普段の生活でけがをした生徒の治療を行っている。また保健室の補助も行っている。
図書委員会
図書室の管理及び運営を行う委員会。本の管理や整理、新しい本の入荷などを行っている。
貸し出しの管理もしている。
美化委員会
学園の美化を行う委員会。学園の普段の掃除や学期末の大掃除の管理、運営を行っている。
基本的にきれい好きが集まるらしい。
文化活動委員会
学園祭や体育祭、魔法武術技術祭、野外活動実習などの管理、運営を行っている。
基本的にこれらの催しがないときは暇な委員会である。
補助委員会
名前の通り、補助を行う委員会である。先生の仕事や催しのお手伝いなども行う。メンバーは毎年選ばれるが、素行の悪い生徒や指導室行の生徒をかりだすこともある。
いずれの委員会も既存のメンバーが勧誘したり指名したりするらしい。優秀な生徒や人気のある生徒は争奪戦になることもあるそう。
(私には、縁もゆかりもない話だな)
「最後に部活動についてだが、これは明日学園内のオリエンテーションというかたちで、いろんなところで紹介をしてもらうからな。
今日は以上で終わりとする、明日は渡した紙を書いて持ってくるように」
先生が号令をかけ、挨拶をすると各々部屋を出ていった。
「私たちも帰りましょうか。王城までついていくわ。」
一緒に教室から出て校門に行こうとすると後ろから声がかかった。
「あなたね?テネレッツァ・テンペンシアというのは。」
声を発することすらできないのでアリューシア様に頼むことにした。
「失礼ですが、あなたは?」
「私は、カーラ・パロラ・ルーズ・テンペンシア。カーラ伯爵家の長女ですわ。そしてこの学園の生徒会長を務めております。」
私はびっくりした。この学園の生徒会長が私に用があるというのだから。
「その生徒会長が、テネレッツァに何の御用でしょうか。」
「あなたには、聞いていないわ。私は、テネレッツァさんに用があるの。」
パロラは続けて言う
「単刀直入に言うわ。あなた、生徒会に来なさい。」
その一言で二人とも絶句した。
(なんで、なんで私なんかを生徒会に。優秀な人なら横にいるのに)
私が首を横に振って否定しようとすると
「すいませんが、テネレッツァは、そんなところには興味ありませんの、そうですよね?
テネレッツァ?」
アリューシア様が、代わりに否定して私に尋ねたので、首を振っておいた。
やはりこの人は天使か何かなにかなのだろうか。
「さっきから言っているでしょう。私はあなたにはようがないの。私はテネレッツァに用が、あ、る、の!」
パロラが鋭い目つきでこちらを見て言う
「あなたも何か言ったらどうですの?さっきから喋っているのは、アリューシア嬢だけではありませんの。」
答えられるはずもない。私は声を発することが出来ないのだから。
「はあ、話になりませんね。生徒会なら、この子がどういう状態に今あるか、もう知っているのでは?」
パロラはきょとんとした顔をしている。さっきの顔とのギャップがすごい
「私が聞いているのは、筆記、実技ともに満点で合格したとても優秀な平民の子と言うことだけです。」
なぜか、ほかになにかありますの?と言った顔をしている。
「あのですねぇ。あなたも生徒会長なら知っておいてください。この子は声を発することが出来ないのですよ。」
その一言に今度はパロラが絶句した。
「じゃ、じゃあ、今日の自己紹介や休憩時間はどしていたのですか?まさか無言で貫き通したわけではないでしょうね。」
「まさか、私が代わりに自己紹介をしましたよ。」
だんだんと言い争いが過熱していくと
「あ、生徒会長、こんなところにいたんですか?まだ仕事が残っているというのに。」
後ろから、同じく三年生と思われる、青髪の男子が出てきた。どうやら生徒会長を探していたようだ。
「ちょっと今年の一年生を生徒会に勧誘していただけですよ。」
「はあ、勧誘していいのは、明日の部活動紹介が終わってからです、規律違反になりますよ。分かったなら戻りますよ。」
「はあ、仕方ないわね。また勧誘しに来るとしましょう。では、ごきげんよう。」
スカートの裾を両手で掴み優雅に挨拶をすると生徒会長パロラは学園に戻っていった。
「すいません、うちの生徒会長が。では、僕も失礼いたします。」
一礼して、パロラの後を追う様に戻っていった。
「なんだか、騒がしい人でしたね。でも、とても賢そうです、注意してくださいね。テネレッツァ様。」
沈みゆく夕日を背に私たちは王城に戻っていった。
「おかえりーー!」
帰ると一番に出迎えてくれたのはサーニャ様だった。
「ささ、疲れているだろうから、まずはお風呂に入りましょう。私もついていきますから。」
なぜか、帰ってきて早々にお風呂に連れていかれた。ちなみにアリューシア様は自分の馬車で屋敷に戻っていった。
その日の夜
(今日もまた、みんなに迷惑をかけてしまった。)
テネレッツァは一人ベランダで考え事をしていた。
(私って何だろう。誰の子なのだろう。)
ヴィゴーレ様から預かったノートの1ページを見る。
そこにはこう書かれていた。
【今から、お前にとってはとてもつらいことを書いておく。覚悟が出来たら読みなさい。
お前は私の子ではない。お前がまだ赤子のころ、森の奥深くで拾ったんだ。そこで私はお前を育てることにした。恨むならお前を捨てた私を恨んでくれて構わない。だが、もしできるのなら、自分で旅に出て、本当の自分を探してみるといい。そのために必要な魔法を書き残しておこう。】
ページをめくると、自分の軌跡をたどることが出来る、トレース(軌跡探査魔法)の魔法が書かれていた。
(私が今すべきこと、それは、本当の自分を探すこと。 そうだ、探そう本当の自分を、
始めよう、自分探しの旅を)
テネレッツァは、決意に満ちた目で、ベランダから見える月を見た。
(誓おう、この煌煌と輝く月に、私は本当の自分を探し出して見せると。)
すると、後ろから不意に声がした
「こんな夜更けに何をしておるのじゃ?テネレッツァよ」
そこには、寝間着の姿で佇んでいるクロノア様の姿があった。
ノートを手に持ち、ベランダに立っているテネレッツァを見て言う
「何か、覚悟を決めたようじゃな。今のお主の目はそんな目をしておる。」
続けて言う
「それが、どんなに苦しいものか妾には分からん。じゃが、やめたくなった時、挫折しそうになった時、今のお主には帰る場所があることを忘れないでおいてくれ。」
そして、クロノアは優しい笑顔でこちらに手招きをする。
「さあ、明日も学園じゃ、寝るとしよう。」
私はそのまま、母上と一緒に寝ることにした。
今回の章はいかがでしたか?
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