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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第4部:銀河の航跡

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最終話:住之江の銀河、魂の17,000


1994年12月18日。第9回賞金王決定戦、優勝戦。

住之江競艇場のスタンドを埋め尽くした数万人の熱狂が、ピットの乾健児には遠い海の底の音のように聞こえていた。

1号艇、乾健児。そして、その機体『星屑の泥龍』には、半ば結晶化し、淡い琥珀色の光を放つアンドロイドのハルが横たわっている。

対する6号艇、マブイ議会総帥。その男がヘルメットを脱いだ瞬間、翼は息を呑んだ。

「……そんな、パパが言っていた『最初の適合者』……!」

そこにいたのは、白髪混じりではあるが、乾と全く同じ傷跡を右腕に持つ「未来から敗走した乾健児」だった。

「乾よ。マブイをデジタル化し、永遠のアーカイブに収める。それが人類を絶望から救う唯一の『からくり』だ。お前の不完全な銀河など、一瞬で飲み込んでやる」


「住之江SG・賞金王決定戦……全艇、起動エンゲージ!!」

号笛とともに、6隻の機艇が水面を裂いた。

総帥の放つ**属性変質――『終焉の黒穴ブラック・アーカイブ』**が、住之江の水面を闇で塗りつぶしていく。他艇が次々と闇に吸い込まれ、沈黙する中、乾の白銀だけが孤独に輝いていた。

「……ハル。聞こえるか。……これが最後だ。……俺の命、全部お前に預けるぜ!」

「……おじさん。……僕、今……一番『生きてる』って感じるよ。……行こう、銀河の果てまで!!」


第1マーク。総帥の黒穴が乾の機体を粉砕せんと牙を剥く。

乾は、ハルの心臓(マブイ石)と、自らの右腕を物理的に直結させた。

17,000……18,000……20,000……。

リミッターは既に消失し、乾の肉体は光の粒子へと変わり始める。

最終究極奥義――『大銀河・泥龍創生ギャラクシー・ジェネシス』!!

乾が放ったのは、破壊の力ではない。住之江の闇を、数千万の「記憶の星々」で満たす、圧倒的な生命の肯定だった。

大宮での泥まみれの特訓、江戸川の濁流、宮島の鳥居、常滑の潮風……。

乾がこれまでに出会った全てのライバル、全ての波の記憶が、光の奔流となって総帥の「虚無」を打ち破った。


ゴールライン。

1位、乾健児。

その瞬間、住之江を包んでいたマブイの光が、雪のように静かに降り注いだ。

議会のシステムは崩壊し、総帥の機体は光の中に消えていった。

ピットに戻った乾の機体は、真っ白に燃え尽きていた。

翼が駆け寄り、コクピットを覗き込む。

そこには、右腕の紋様が消え、ただの「人間」に戻った乾健児が、機能を停止し、穏やかな微笑みを浮かべるハルを抱きしめて座っていた。

「……勝ったぞ、翼。……1億、手に入れたぜ」


1ヶ月後。

マブイ議会の影が消えた大宮機艇教習所。

そこには、新米レーサーたちを指導する乾健児の姿があった。

彼の右腕にはもう不思議な力はない。だが、その操舵技術は、誰よりも「水」を愛する本物のプロのそれだった。

そして、彼の隣には、車椅子に座りながらも、楽しそうにノートPCを叩く少年がいた。

「おじさん、今の旋回はコンマ05遅いよ。僕の計算だとね……」

「へっ、うるせえ。……ハル、お前は計算じゃなくて、風を感じる練習をしろってんだ」

ハルは、議会のサーバーから切り離され、不完全で、しかし確かな「人間の心」を持つ少年として再起動を果たしたのだ。

翼がピットから二人を呼ぶ。

「健児! ハル! 次の江戸川、遠征の準備できたわよ!」

1995年。

からくり仕掛けの魔法は解け、世界は再び、不自由で、残酷で、けれど美しい「本物の海」へと戻っていった。

泥水の王と、心を得た少年の航跡は、これからも続いていく。

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