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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第2部:重賞挑戦編

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第24話:終焉の鼓動、多摩川に散る黒き太陽

多摩川G3、優勝戦。カクテル光線が反射する静水面は、嵐の前の静寂に包まれていた。

1号艇、乾健児。2号艇、ハル。3号艇、黒崎翼。

そして、大外6号艇から不気味な黒い蒸気を噴き上げているのが、黒崎龍平の『黒死無双・終焉型(Ω)』だ。

「……全艇、起動エンゲージ!!」

号笛とともに、多摩川が震えた。

乾は、右腕に刻まれた「17,000」の封印を解くべく、精神を研ぎ澄ます。しかし、それを嘲笑うかのように、大外から黒い影が跳ねた。

「無駄だ、乾! 貴様の『覚醒』など、発動する前に握り潰してやる!」

黒崎龍平、コンマ01。

精密機械ですら不可能な神速のトップスタート。

龍平の胸に埋め込まれた『終焉の心臓』が、周囲の光と熱を強引に吸い込み、自機の推進力へと変換したのだ。スリットラインを通過した瞬間、龍平の機艇は「暗黒」の重力加速度で他の5艇を置き去りにし、第1マークへと最短距離で突き進む。

龍平は1コースへ強引に割り込むのではなく、大外から全速で内側の艇をなぎ倒しに来た。

属性変質――『暗黒の絞り(ブラック・スクイズ)』。

龍平の機艇から伸びる黒い触手のような波動が、2号艇のハル、3号艇の翼を物理的に圧迫し、旋回を封じ込める。多摩川の静水面が、龍平の重圧によって中心に向かって窪み、巨大な蟻地獄と化した。

「……っ、ハル! 翼! 離れろ!!」

乾が叫ぶが、二人の機体は龍平の重力に捕まり、コントロールを失いかけている。

「おじさん……計算が……重力で光が曲がって、距離が測れない……!」

「健児、パパのマブイが……あたしたちを飲み込もうとしてるわ!」

龍平が第1マークを旋回する。その背後には、何も寄せ付けない絶望の航跡が広がっていた。

3. 封印解除:振動数17,001

「……龍平。あんたはいつも、数字で人を支配してきたな」

乾は、激痛にのたうち回る右腕を、逆にマブイ端子の奥底へと叩き込んだ。

異常振動症。金属耳鳴り。蒸気肺。

すべての「病」が、乾の脳内で一つの旋律メロディへと変わる。

(今岡のジジイ……見ててくれ。俺は、17,000の向こう側へ行く!)

乾の右腕が、白金の光を放ちながら超高速で振動を始めた。

17,000……17,001……!!

封印が弾け飛ぶ音が、乾の魂の奥底で鳴り響いた。

属性極致――『真・白金ピュア・プラチナ』。

乾の機艇『銀鱗・泥龍』から、不純物の一切ない、透き通った銀色の衝撃波が放たれた。それは龍平の「暗黒」を吸い込むのではなく、**「透過」**した。

「なっ……私の重力を、すり抜けたというのか!? 17,000のリミッターを外して、なぜ肉体が崩壊しない!!」

龍平が絶叫する。

「ハルが隣にいて、翼が支えてくれてるからだ!!」

乾は、龍平が作った重力の穴の、最も「無」に近い特異点へと突っ込んだ。

最終奥義――『ゼロの旋回・多摩川泥龍一閃』。

乾の機艇は、もはや水を切って走ってはいない。多摩川に蓄積された数万年分の「泥」のマブイと完全に同調し、空間そのものを滑り抜けていた。

龍平の鉄壁のガードを、乾の「白金」が光の速さで射抜く。

――キィィィィィィィィィィン!!

多摩川全体を包み込んでいた金属耳鳴りが、一瞬で消えた。

乾の機艇が、龍平の『黒死無双』のインコースを、1ミリの狂いもなく真っ二つに切った。

ゴールライン。

1位、乾健児。

2位、黒崎翼。

3位、ハル。

龍平の機艇は、胸のマブイ石が粉砕され、煙を上げながら第2マーク付近で力なく停止していた。

「……負けた。……この私が、17,000の……ゴミ屑に……」

龍平の呟きは、多摩川の穏やかな波にかき消された。

乾はヘルメットを脱ぎ、大きく息を吐き出した。

肺からはもう、不気味な蒸気は漏れていない。

「白金」の光が、乾の肉体のダメージを浄化し、新しい「命」として定着していた。

「おじさん、おめでとう。……17,000を超えた数値、僕の計算機じゃ計りきれなかったよ」

ハルが、珍しく小さな笑みを浮かべた。

「健児、やったわね。……あたしたち、本当の家族になれた気がするわ」

翼が、乾の肩を叩く。

多摩川の夕焼けが、泥水の王たちの凱旋を祝福するように、水面を金色に染め上げていた。

黒崎龍平の帝国は崩壊し、新しい「からくり競艇」の夜明けが、ここ多摩川から始まろうとしていた。

――乾健児、G3初制覇。

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