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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1部:学校編

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12/21

第12話:三位一体、平和島の盾と矛

平和島競艇場:静水面に潜む「吸い込み」の罠

平和島競艇場は、東京湾の運河を利用した競艇場であり、周囲を巨大なマンションや倉庫群に囲まれているのが特徴です。この構造により、風の影響を受けにくい**「静水面」**として知られていますが、からくり競艇においてはその「静けさ」こそが最も恐ろしい牙となります。

水質: 海水。潮の干満の影響を受けますが、江戸川のような激しい流れはありません。しかし、水面が鏡のように安定しているため、マブイの出力がダイレクトに推進力に変換されます。誤魔化しが一切効かない、純粋な**「魂の地力ポテンシャル」**が試される場所です。

第1マークの罠: 平和島は「差し」が決まりやすい競艇場として有名ですが、からくり競艇では第1マーク付近に**「マブイの吸い込み」**と呼ばれる現象が発生します。周囲の建造物がマブイの余剰エネルギーを反射・増幅させ、ターンの中心に巨大な重力場を作り出すのです。ここを制するには、強引な出力ではなく、緻密なライン取りと属性の調和が必要不可欠となります。

第12話:三位一体、平和島の盾と矛


平和島3日目、準優勝戦の朝。

ピットには、昨日までとは異なる異様な静寂が漂っていた。乾健児、ハル、黒崎翼の三人は、今岡校長の愛機『不知火しらぬい』の前に並んでいた。

「……いいか、てめえら」

今岡が、最後の一吹かしを終えて煙草を捨てた。

「俺のマブイ属性は**『もく』の変質――『真空しんくう』**だ。俺が通った後は、空気もマブイも存在しねえ無の世界になる。追いつこうなんて思うな。吸い込まれて死ぬだけだぞ」

今岡が去った後、乾は二人の目を見た。

「翼、ハル。一人ずつじゃ、あの親父の背中には一生届かねえ。……チームを組むぞ。俺たちのバラバラなマブイを、一つに束ねるんだ」

翼が力強く頷き、ハルが静かにアイスの棒を捨てた。

エリートのプライドを捨てた「泥」、魂を持たぬ「風」、そして執念を研ぎ澄ませた「斬」。

三つの異なる属性が、平和島の鏡のような水面で一つに溶け合おうとしていた。


「全艇、起動エンゲージ!!」

スタートの号笛と共に、今岡の『不知火』が爆発的な加速を見せた。

彼の放つ**属性変質――『真空破バキューム・エッジ』**は、周囲の酸素とマブイエネルギーを強引に吸い込み、自らの推進力に変換する。今岡の後方を走る艇は、マブイが燃焼するための「酸素」を奪われ、次々とエンジンストールを起こしていく。

「……息が、できない……!? マブイが燃えないわ!」

3号艇の翼が苦悶の声を上げる。

「ハル! 翼! 俺の『斬』を道標にしろ!」

乾は17,000のマブイを、機艇の先端ではなく「周囲の空間」に放射した。

金属性変質――『導電のライトニング・チェーン』。

乾の「金(雷)」の属性が、翼の「土(泥)」とハルの「物理演算」を一本のエネルギーラインで繋ぎ合わせる。

「ハル、お前の『物理の風』で真空の穴を埋めろ! 翼、その風を『泥』で固めて道を作れ!」

「了解、おじさん……! 物理風圧、最大出力!」

「任せなさい! この泥は、真空にさえ蓋をしてみせるわ!」

ハルが作り出した猛烈な空気の流れを、翼の重厚なマブイがコーティングし、今岡が奪った「存在の空白」に強引に橋を架けた。


第1マーク。今岡の『不知火』が、真空の旋回を見せる。

彼がターンした瞬間、そこには巨大な「無」の渦が発生し、後続を拒絶する。

だが、乾たちは違った。

「行くぞ……三位一体、『泥水の聖剣エクスカリバー』!!」

ハルの風が推進力を、

翼の泥が安定性を、

そして乾の17,000の「斬」が、今岡の真空の壁を正面からぶち抜く「尖兵」となった。

三艇が一列に重なり、まるで巨大な一振りの剣となって、今岡の懐へと突き刺さった。

「……何だと!?」

今岡の驚愕が、ヘルメット越しに伝わってくる。

真空によって引き裂かれるはずの三人の絆が、逆に真空の吸引力を利用して、今岡のインコースを鮮やかに奪い取ったのだ。


バックストレッチ。乾の「斬」が今岡の「真空」と並ぶ。

「……へっ、面白え。泥を啜った甲斐があったじゃねえか、健児」

今岡がスロットルをさらに開ける。だが、乾の背後には翼とハルがいた。二人が乾のマブイの暴走を抑え、最も鋭い「一点」へとエネルギーを集中させている。

「俺たちが……新しい平和島の風だぁぁぁ!!」

乾の銀色の閃光が、今岡の不知火をコンマ数秒差で差し切った。

ゴールラインを抜けた瞬間、乾、ハル、翼の三人は、互いのマブイが完全に同期し、心地よい「熱」に包まれているのを感じていた。

1位・乾。2位・ハル。3位・翼。4位・今岡。

三位一体のチームによる、平和島史上最大のジャイアントキリングが達成された。


夕暮れのピット。今岡は清々しい顔で煙草を吹かしていた。

「……負けたよ。てめえらの『信頼』ってやつが、俺の『孤独な真空』をぶち壊しやがった」

今岡は、乾の肩を強く叩いた。

「これで決勝の切符はてめえらのもんだ。だがな、決勝には……黒崎龍平が送り込む、最後の魔王が待ってるぞ」

乾は、隣に立つ翼とハルの手を取った。

一人はかつての敵、一人は魂を持たぬ少年。

だが今の彼らは、多摩川の泥水が生んだ、最強の「チーム」だった。

「誰が来ようと同じだ。俺たちは三人で……この平和島の、その先の頂点まで駆け抜ける」

平和島の静水面に、三つの異なる色が重なり合った、美しくも力強い「白銀の道」が刻まれていた。

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