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『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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20/33

「転移装置って本当にできるの?」

昼下がり。

王都の石畳をタクシーで流していると、乗せる客、乗せる客——

なぜか皆、同じ話題を口にした。



---


最初に話を切り出したのは、街外れの農夫だった。


「兄ちゃん、知ってっか? 転移装置ってのが出来るらしいぞ」


「転移装置?」

私は思わずミラーごしに客の顔を見た。


「そうよ。ほら、なんでも魔法で“ひとっ飛び”ってやつよ!」


「そんな急に作れるもんじゃないと思うけど……」


「いやいや、近々“お披露目式典”があるって聞いたぞ!」


(初耳なんだけど……)


農夫を降ろしたあと、次に乗せた城下町の商人も同じことを言い出した。


「修一殿、転移装置ご存じで?」


「今日だけで三回目です。どこで流行ってるんです?」


「王都の北区で話題なんですよ。

 わたしの仕入れも、これが完成すれば一瞬だそうで」


「荷物ごと転移できるんですか?」


「ええ! “どんな大きな馬車でも一撃で”って話ですよ!」


(盛られてる……絶対盛られてる)



---


夕方。

酔っぱらいのおじいさんを乗せたときは、さらに進化していた。


「しゅ、修一ぃ……わしもなぁ……家に転移装置ほしい……」


「家に置ける規模なんですか?」


「おぉ……王城の魔導師どもが言っとった……

 “いずれ一般家庭にも”ってな……ふぉふぉふぉ……」


「それ絶対、誰かの酒席の冗談ですよ」


「む……夢くらい見させろ……」


(いや、どこまで話が膨らむんだ……?)



---


その次の客は、冒険者。

荷物をどっさり抱えて乗り込んでくる。


「修一さん、転移装置できたら依頼が便利になりますよ!」


「またその話だ……」


「だって聞きましたよ。

 “迷宮の前に直接転移できるようになる”って!」


「冒険者ギルドがそんな危険な装置を許すわけないでしょう」


「……あっ、確かに」


このあたりで私は、完全に確信した。


(噂、完全に一人歩きしてるな……)



---


夜。

ようやく客が途切れたタイミングで、私はため息をつく。


「……転移装置。

 言葉だけは立派だけど、どこまで本当なんだか」


《乗客の発言をまとめると、情報源はすべて不明です》


「だろうな。誰も“誰から聞いた”って言わなかったし」


《ただし噂が急速に広がっています。

 運送業界および交通業界への影響が警戒されています》


「タクスィーの連中……絶対パニックになってそうだな」


現に、聞き流している私でさえちょっと不安になる。


転移装置。

これが本当に普及したら、長距離移動は不要になる。


タクシーは残るとしても——

仕事量は落ちるかもしれない。


(いやいや、まず“実物がある”って話を聞いてからだ)


噂に振り回されるのは御免だ。


私はハンドルを握り直し、夜の王都へ戻っていった。



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