第79話 螺旋
小さい頃、好きな絵本があった。といっても最後に読んだのはもう十年近く前だからうろ覚えなんだけど……確かタイトルは「鳥になった男」だったはずだ。
内容はこんな感じだ。あるところに、精霊術士の家系に生まれた少年がいた。しかし彼は両親や兄弟のように上手く空を飛ぶことができなかった。精霊術が下手なせいで家族から虐められていた少年だったが、いつものように空をぼうっと眺めていると、一羽の鳥が空高く飛んでいるのを見つける。あの鳥のようになりたいと思った少年。そこで彼は落ちている鳥の羽を集め始めた。落ちこぼれが変なことをしてる、と笑われた少年。だが来る日も来る日も羽を集め続け、ついには一対の大きな翼を作った。彼はそれを両腕に着けて精霊術で動かし、羽ばたいてみせた。すると、彼は生まれて初めて鳥のように空を飛ぶことができたのだった。それからは、誰も少年を馬鹿にすることはなかったという。めでたしめでたし……。
この話は「苦手な事でも工夫してみよう」とか「人に笑われても努力を続けよう」とかそんな風な教訓めいたことが言いたいんだと思う。でも、もっと直接的な学びがあるんじゃないか、と最近ふと思い出したのだ。つまり……自分に出来ない事なら、人間以外のものを真似してしまえ。それが邪霊であっても。
■□■□
「――なるほど、面白いお考えです。邪霊を模倣するという発想。少なくともこの国の者にはできますまい。リオ様ならではといったところでしょう」
「いえ、単なる思い付きですよ。きっと誰か一人くらい過去にやった人もいますって。今誰もやってないってことは既に失敗したからかもしれませんし」
「ご謙遜なさらないでください、私にもその考えはございませんでした。いやはや、研究者を気取ってはおりますが、私も心の奥底では邪霊のことを恐れて……いや、自分とは全く別のものとでも思っていたのでしょう」
そんな話を歩きながらしてみると、フレッドさんに甚く感心されてしまった。なんだか持ち上げられ過ぎな気がしてむず痒いな。
ちなみに以前この絵本の話をヒナにしたら「精霊術で空を飛ぶってそういうことじゃないんだけど……」と困ったような目で見られた覚えがある。彼女はこういう教訓めいた話が嫌いなタイプだ。
「さて、この辺りなら家の者が近付くことは滅多にありません」
実験の第一段階が終わった俺達は、彼の研究室を出てシルフィオ家の屋敷の裏に来ていた。柵が建てられた敷地の境界と建物の間の、通路としても使われていないであろう草木が生い茂る細長い場所だ。柵の向こうは水路になっていて、日当たりも悪いせいで心なしかジメっとしている。
「的はいかがなさいましょうか?」
「向こうの木にぶら下げてください。板がちゃんとこっちに向く感じで」
「畏まりました」
用意したのは、適当な端材に円を描いて作った的と邪霊の銃、新しい弾。それから実験のために家から何個か持って来た硝子球だ。
「始めます。見ていてください。――マテリアル・オーダー」
透明な硝子を黒球に変え、地面に置いた銃を凝視しながら形を長く引き延ばす。銃と同じように五十センチ程度だ。穴を開けて筒状にし、真っ直ぐに整えて太さも同じに。精密な操作は苦手だが、寸分の狂いも無い模倣を目指す。
次は弾だ。と言っても「加速」で撃ち出すマテリアルの弾に火薬は不要。なので彼の意見を参考に、邪霊から見つけた弾丸の色の異なる境目から先端部分のみを再現する。本当はさっき実験で爆発させた弾を目安にしたかったが、あいにく潰れてしまっていた。
「もう少し、先を尖らせてみてはいかがでしょうか?」
「難しいですね……長さを保ちつつってなると……あっ、後ろの方が丸くなっちゃった」
「本物の弾は後ろの火薬が入っていた部分が破裂するのでしょうから、先端の形の方を重視するべきではありませんか?」
「そうですね。後ろは妥協しましょう……これでどうですか?」
「素晴らしいです。早速撃ってみましょう!」
マテリアルで作った銃と弾を見て目を輝かせたフレッドさんに促され、銃口を的に向ける。ちなみに後ろの方の蝶番までは再現できなかったので、現状はただの筒である。
「いきます」
筒の後ろから弾を入れる。サイズはピッタリだ。銃身を水平に、しっかりと握る。全神経を集中して――
「精霊よ――『加速』!」
カキイィン!! と甲高い音。当たったか!? ……いや、違うな。マテリアルは本体から分離しても場所が何となく分かる。弾は的から遠く離れ、奥の壁に当たって跳ねたようだ。恐らく柵を越えて水路に落ちてしまった。回収もできないな。
「外れました」
「ふむ。ですが速度は申し分無いかと」
「いえ、速さだけならいつもの『加速』と同じなので。むしろこの距離で外すってなると……逆効果ですね」
木に掛けた的との距離はおよそ五十メートル。集中して狙いを定めて止まっている的に当てるだけなら、単なる「加速」だけでも可能な距離だ。試しに足元の小石を拾い上げて撃つと……うん、命中した。なるほど、筒を持ったことによる手のブレが原因かもしれない。筒の長さがある分、ちょっとのブレで大きく逸れるのだろう。練習すれば当たるかもしれないが、そもそもの俺の目的は命中率の改善。この距離なら意味が無いな。精霊術とは無関係な技術なら銃と弾の形さえ真似すれば再現出来ると思ったのだが、文字通り的外れになってしまった。
「だとしても……なんか違うんだよな」
「と、申しますと?」
「あの時人型邪霊に撃たれた時と、違うんです。もちろんもっと遠くから撃たれましたし、精度も高かったんですけど……根本的に何か違った気がするんです」
そう、違和感だ。あの時のことは鮮明に思い出せる。眼前に迫った命の危機。頬を伝った血の赤さ。そして何より、邪霊の放った攻撃の……言うなれば、洗練された異質さ。あの異質さが、マテリアルの銃からは感じられない。
「結果的に言うなら威力とかそういう話になっちゃうと思うんですけど、もっと別の、弾の形とかって訳じゃなくて……すみません、ふわっとした説明で」
「いえ、感覚というものは大事でございます。つまりリオ様が仰りたいのは、火薬や弾以外の要素があるはずだと?」
「はい。そうなると……こっちですね」
火薬や点火の要素が全て詰め込まれていた弾丸こそが最も重要だと思っていたが、見落としていた要素は筒の方にあったのかもしれない。
調べるために、俺達は再び研究室へ戻ることにした。
■□■□
さて、調べると言っても筒も弾も一個ずつしかない。下手な事はできないな。しかし中の構造を見るには切るしか無さそうだ。
「フレッドさん……これ、切ってもいいですか? 壊すことになっちゃうんですけど」
「構いませんよ?」
「えっ、いいんですか?」
予想をはるかに超えたサラッとした返答に、俺は逆に驚かされてしまった。
「ははは、何を仰る。私の本懐はコレクションではなく研究でございます。サンプルの一つや二つ失ったところで、それが邪霊の解明に繋がるのであれば問題ありません。例え成果が無くとも、それもまた研究の道です」
「フレッドさん……! 分かりました、やってみます!」
彼の研究への姿勢に感銘を受けるが、切るにしてもどうしたものか。
「この部屋にある器具でこの硬さのものを切るのは難しいでしょう。私の精霊術も、あまり威力は出ないのでご期待なさらないで下さい。申し訳ございません」
「でも他の邪霊も同じくらい硬いですよね。いつもはどうしてるんですか?」
「普段は屋敷の使用人や手の空いた警備の方にお願いしております。毎度渋い顔をされてしまいますが」
フレッドさんはそう自虐して笑ったが、今回ばかりは事情が違う。禁止された銃の研究に他の人を関わらせる訳にはいかないのである。セレナにでも頼もうかと考えたが、今朝の様子からして難しそうだ。万が一ティターニアさんの耳に入っても困るしな。最近めっきり出番の減った邪霊の素材で作られたナイフがあれば良かったが、巫女家ではあまり良い顔をされないので家に置きっぱなしだ。俺達二人と、この部屋にあるものでやるしかない。
「よし、俺が斬ってみます」
「宜しいのですか?」
「絶対成功するとは言えませんけど……頑張ります」
失敗を恐れていても仕方ない。俺はマテリアルを筒から使い慣れた剣の形に変え、邪霊の銃を机の上にそっと立てる。真正面に立ち、両手で握った剣を持ち上げた。大上段の構えだ。
「スゥ――」
息を吐き、イメージする。一瞬に全力を込める。使うのは「硬化」「加速」「風の刃」。それを何百回と繰り返してきた大上段の型に乗せる。
肺が空っぽになる。
「はぁっ!!」
キン! と短い音。次いで、ゴトンと倒れる二つの音。成功だ。急に緊張が解けて、マテリアル・オーダーも解除してしまった。
「お見事」
「ふぅ……ありがとうございます……あっ、ごめんなさい。机まで斬っちゃいました」
勢い余って剣が机の天板を半分ほど切り裂いてしまったようだ。弁償しなきゃだよな、これ……
「あとでウンディーノ家の俺宛てに請求してください。ちゃんと直すので」
「ははは、構いませんよ。素晴らしいものを見せていただきましたから。しかし今のは、複数の術を?」
「はい。『硬化』と『加速』と……あれ?」
今の斬撃を振り返って、おかしいことに気が付いた。俺、何も口に出してないぞ? 術を詠唱無しで使った事なんて……いや、今までもあったか? 全く思い出せないが、何となく初めてじゃない気がする。でも覚えてないってことは、その時も無意識だったってことだ。
「…………、無理か」
試しに「硬化」をやってみようとしたが、発動しなかった。前兆はあるが、普段はやはり言葉にする必要がありそうだ。さっきは無意識にできるくらい集中していたんだろう。無意識を意識する……難しいな。でも、師範の教えにも通じるような気がしてならない。いや、逆か? 無意識でできるようにするんだから……うーん……
「――リオ様、ご覧ください!!」
「あっ、はい! なんですか?」
「なんですかではありませんよ! この中の構造! これです!」
答えの出ない考えは、興奮して叫んだフレッドさんに遮られてしまった。いや、今はこっちが本題だろう。言われるがまま、真っ二つになった筒の中を覗き込む。
「物凄く精密な線……いや、溝です! それもただ斜めに入っているのではなく、筒状に合わせたとき……こう、螺旋状になっているのですよ!」
「螺旋……ああ、確かに! 繋がって出口までグルグル回ってるんですね。どうやって作ってるんだこれ?」
「分かりません。このような硬い金属を一体どうやってここまで精密に削り出すのでしょう? いやはや、古代の技術というものは素晴らしい!」
まさか筒の中にこんなものがあったとは。じっくり見るために持ち上げて中を触ってみる。確かに溝だな。ただの模様って訳じゃなさそうだ。
「何の意味が……あっ、何か黒い粉が指に付いちゃいました」
「! お待ちください、もしや……火薬では!? この溝に塗り込んで、弾を更に加速……いえ、分かりませんが、何かしら意味があるのかもしれません!」
「えっ、マジですか!?」
ヤバい。理由はともかく、火薬だったら危険だ。早く水で流して……と、ダメだ。その前に調べなければ。貴重なサンプルだ。しかし火を着けるわけにはいかない。ならばダメ元で試してみよう。
「――マテリアル・オーダー」
「リオ様、何を?」
「物は試しです」
もちろん失敗する。しかし失敗する一瞬前、物質の感覚が頭に流れ込んできた。……何となく、金属っぽい。この感覚を忘れないうちに他のと比べないと。
「銃の弾って残ってますか? 新しいのと、さっき爆発させたやつ両方欲しいです」
「こちらです。お気を付けください、後ろの部分を刺激すると爆発しますので」
「分かりました」
火薬の付いた弾は分解できないな。仕方ないので、そのままマテリアル・オーダーを試す。……さっきと似た成分と、もう一つ、二つ……いくつか混ざった感じ? まだ分からないな。次に、爆発済みのひしゃげた弾丸も試す。……これだ!
「分かりました。これ、銃弾と同じ金属の粉です」
「おお、そうなのですか。一体どうやって?」
「説明するってなると難しいんですけど……マテリアル・オーダーって、発動しようと思えば硝子以外でもできるんですよ。ただ、やりやすさが物によって違って。その時の感覚が物質ごとに結構違うので、触って試せば同じ物質かどうかある程度見分けられるんです」
ティフォ先輩に「精霊術のマニュアル操作」を教わってからマテリアル・オーダーが成功するまで、紆余曲折とまではいかないが、ちょっとした試行錯誤があったのだ。その中でガラスに辿り着くまでに色々な物質を試して分かったことがある。
まず、発動は純粋で均一な物質であるほどやりやすい。最初は何種類かの石ころで練習していたのだが、粒の異なる砂が集まったような石や中に何か別の物が入っている石では全然できなかった。逆に最初に成功した時に使っていたのは、断面に光沢のある、つるっとした黒い石だった。運良く中まで同じ成分だったのだろうと後になって思ったのである。
次に、木や草、動物の肉や骨などは完全に不可能だった。中にいくつかの物質が混ざっているからというのも理由の一つだろうが、それ以上に越えられない壁のようなものを感じたのだ。原理はさっぱり分からないが、これもティフォ先輩が言っていた「生き物は他の物質と比べて精霊術の影響を受けにくい」というのが関係している気がする。同じように、邪霊の残骸も生き物程ではないが無理だった。
そして最終的に、透明で均一かつどこでも手に入るガラスが最適となったのだ。これ以上に使いやすい物質があったとしても、使い捨てることを考えたらガラスが一番だろう。
「――そんな感じで、色々試してたら分かるようになったんです。まさかこんな所で役に立つとは思ってませんでしたけど」
「ほほう、やはりリオ様は研究者向きですな。実に素晴らしい。ウンディーノ家の次期巫女様でなければ、すぐにでもスカウトさせて頂きたいところでした。まあそんな予算もございませんが」
「またいつでも来ますよ。俺も邪霊のことはもっと知らないといけませんから」
「それは是非!」
と、話が逸れてしまった。本題に戻ろう。
「ともかく、この黒い粉は弾と同じ金属なんです。何の意味があるんですかね? 弾の滑りが良くなるとか?」
「それなら溝が無い方が合理的でしょう。火薬でもなく、ただ付着していた金属の粉……では、意味が無いのだとしたら?」
「どういうことですか?」
「そのままです。これは恐らく弾丸が発射される時にこの溝で削られたものが残っているだけでしょう。結果的に付着しているだけで、特に意味は無い。つまり重要なのは、螺旋状の溝そのものなのではないでしょうか」
「なるほど……」
半分になった筒と手元の弾を見比べる。うん、考えても分からないな。
「試してみましょう」
■□■□
そして再び俺達は屋敷の裏に来た。効果を見るために、的からの距離はさっきよりも少し遠くだ。
「マテリアル・オーダー」
予備の硝子球二つ目を取り出し、黒く染め上げる。そのまま筒状に伸ばすところまでは同じ。問題はここからだ。螺旋状の溝を作るには……まずは真っ直ぐな溝を筒の内側に作る。均等に並べた方が良さそうだな。向かい合う位置に二本、その間に入れて四本、更に間に八本、十六本……目指すは三十二本。気が遠くなる作業だが、邪霊の銃にはそれくらいあったはずだ。頑張ろう。
「……二十九……三十、三十一……、これで最後、三十……二! よし、できた!」
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「はい。これを捻れば完成するはずです」
黒い筒を握ってウンウン唸っていた俺をフレッドさんは黙って見守っていたようだ。マテリアルを手渡すと彼はそれを空に向けて片目で覗き込み、溝の確認をする。教師にテストの採点をされてるみたいで緊張するな。
「――素晴らしい。あとはどの程度捻るかですね」
「はい。とりあえず邪霊のを参考にして、二回転させます」
ここからは硝子細工の要領だ。両端を摘まみ、変形させながら一定速度で捻る。と言っても手で力を加える訳ではない。あくまでイメージの補助だ。想像するのは、繁華街の雑貨屋で見かけたガラスペン。溝が均等に回転するように、見えない筒の中をイメージする。
目を閉じ、一息で――捻る。
「……できました」
「いかがですか?」
「分かりません、まずはやってみないと」
あらかじめ分離しておいたマテリアルで弾丸を作る。一回目程には精密でなくても良いだろう。というか苦手な精密操作のし過ぎで目がチカチカしてきた。最低限筒の中にピッタリ嵌るサイズに変形し、中に押し込む。スルスル……と小さな音を立てて弾は筒の奥に入っていった。これで失敗したらもう銃の再現はできないな。ラストチャンスだ。
「行きます。精霊よ――」
筒を両手で持ち、的に照準を合わせる。そして、
「――『加速』」
パカン!!!!
唐竹を割ったような、鐘を叩いたかのような短い音。それに続いて、木が揺れてパサパサと枯葉が落ちる音。マテリアルは……的を掛けた木の、更に奥の木に食い込んでいた。的を貫いて逸れ、尚も速度を保って木の幹を穿ったのだ。
「なんと……!」
驚いて的に駆け寄るフレッドさんを横目に、俺は今のマテリアルの動きを感覚で理解していた。あれは……回転していた。原理までは分からない。だが、螺旋状の溝がもたらした回転によって速度と弾道が安定したのだ。
ゾッとした。これは――精霊術じゃない。精霊術は、精霊を通してイメージを形にする技術だ。イメージできないものは生み出せないし、明確なイメージさえ持てばあらゆるものを生み出せるとまで言われる。でも、これは違う。俺はただ構造を生み出し、「加速」させただけ。俺のイメージを越えてしまったのだ。精霊術を越えた……いや、もっと別の、本来あるべきですらない、何か異質なものを作ってしまったのではないか?
「はは……そりゃ、禁止する訳だ」
ティターニアさんがどこまで知っていて研究を禁じたのかは分からない。だが、万が一こんなものが誰でも使える形で世に広まってしまったら……恐ろしいことだ。せめてこれは俺とフレッドさんだけの秘密にしなければならない。
だがしかし、俺自身が想像すらできない程の威力。これは必殺の武器になり得る。当然、全て精霊術で作れば元霊祭のルールにも抵触しない。……まあ、硝子の腕輪は反則スレスレだけど。
「フレッドさん、危ないので離れて下さい。もう一回やります」
「リオ様、あまりそちらは……」
「大丈夫です。外しません」
ジリジリと後ずさりし、更に距離を取る。今度は百メートルくらい。最初の倍だ。
「精霊よ――」
度重なるマテリアル・オーダーの発動に苦手な精密操作、いつも以上に負荷のかかる加速の連発で頭がガンガンと痛む。だけど、今やめる方が嫌だ。もう一度あの感覚を味わいたい。あの異質な全能感を。
「『加速』!」
ドスン! と今度は木にぶつかって止まったような音。貫通はできなかったようだが、さっきよりも深く食い込んでいる。もっとだ。まだ速くできる。
「――『加速』!!」
ズガン!!
木の幹に当たったのよりも硬質な音。中に残っていた弾にぶつかったのだろう。威力は十分。照準通り。でも、まだいける。もう少しで木を貫通できる。
「くっ……これで、ラスト! 精霊よ――」
しかし、その時。
「――お兄様?」
「『加速』っ!!! ――えっ」
鈴を転がすような声に、振り向く。バレた、とか、どうしてここに、とか。そんな思考が廻って声になる前に。
ズガァンッ!!!
木の幹を貫くけたたましい音が、辺りに響くのだった。




