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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
七章 力と技と術
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第66話 土の大精霊

 広い廊下にコツコツと二人分の足音が響く。黙って先を歩く学長と黙って追従する俺のものだ。学長がこちらを見ないのをいいことに、俺は初めて足を踏み入れたノーミオ家本邸をじっくりと眺めていた。

 優美なウンディーノ家、風雅なシルフィオ家の本邸とは異なり、ここは武骨で無機質な、他とは違った意味での堅苦しさを感じさせる意匠だ。他の二つを「屋敷」と表すならば、さしずめここは「城」か「砦」である。当主の性格が反映されているのか……いや、この建物は彼女が当主になるより前のものだろう。ノーミオ家とはそういうお家柄なのだ。

 しばらくすると廊下の向こうから人影が現れ、学長は足を止めた。


「私が案内するのはここまでだ。後は任せる」

「畏まりました、叔母様」


 恭しく頭を下げたのは、学長とは似ても似つかない、彼女の姪に当たるノーミオ家の巫女だ。


「ご無沙汰しております、リオ様。ここからは巫女であるわたくしがご案内させて頂きます」

「ええと、フィロンテ様。今日はよろしくお願いします」


 印象が薄すぎて危うく名前を忘れかけていたな。おっとりとした雰囲気の彼女はどうもノーミオ家の人というイメージからはかけ離れている。まあ第一印象と実際の性格が違ったところで今更驚かないけど。ティターニアさんで痛い程知ったし、イレアだって割とそうだ。


「それではこちらへどうぞ。叔母様、ご案内ありがとうございました」

「ああ。ではな坊主。後は何かあればそいつに聞け。私は失礼する」

「あ、ありがとうございました、学長」


 礼は要らんとばかりに踵を返して去って行く学長。いつも通りの彼女だ。俺は巫女に付いて行き、大精霊(エレメント)の間に向かった。




「叔母様からお話は伺っております。シオン様のご意向で当家の大精霊と対話をなさるのですね」

「母さんの事、知ってるんですか?」

「ええ、昔一度お会いした事があります。当時の巫女はまだ存命だったわたくしの母上でしたので、直接関わる機会は少なかったのです」

「そうだったんですか」


 昔に、一度か。母さんは最近何度か公国に来てるだろうに、巫女である彼女とは会っていないらしい。まあ嘘かもしれないが、このおっとりした女性からは嘘を吐くような気質を感じない。現に今だって「巫女ではなかったから母さんとは関わりが薄かった」と言っているのだ。機密情報であるはずの、母さんが大精霊に関する仕事をしていたという事を言ってしまっているようなものである。


「こうして叔母様がリギスティア様以外のウンディーノ家の方をお招きするなんて、何時ぶりでしょうか。次代の巫女様とお話できてわたくしは嬉しいです」

「……俺も、嬉しいです。これから次期当主共々よろしくお願いします」


 フィロンテ・ラバック・ノーミオ。彼女はおっとりした印象に違わず、良く言えば穏やかな、悪く言えば呑気な人だ。二家の関係を知らないのだろうか? ……いや、敢えて関わらせていないんだろうな。巫女家にとって、巫女は言うなれば道具だ。本人が執政するのでなければ、箱入りで世間知らずのままの方が扱い易いのだろう。


「うふふ、若いといいですね。イレアーダス様とはどうですか?」

「上手くやっていけてる……と思います。色々と急だったもので、自信無いですけどね」

「いえいえ、この間のお二人のご様子でしたら、仲睦まじく感じましたよ。お世継ぎも期待されているのでしょう?」

「ま、まだそこまでは」


 大精霊との対話の前だというのに、気の抜けた会話をしばらくしながら歩く。そういえば、ノーミオ家の跡取りの話は聞いた事が無いな。


「フィロンテ様は、ご息女はいらっしゃらないのですか? ノーミオ家の次期巫女殿がいらっしゃったら、一度ご挨拶いたしますので」

「ごめんなさい。わたくし、子を成せない体なのです。兄上の子供も男の子ばかりでしたので、弟の子供達の何方かに期待するしかないのですよ」

「し、失礼しました。とんだご無礼を……」


 藪を突いてしまったようだ。しかし彼女はやはりおっとりと返す。


「いいえ、気にしておりませんよ。甥たちは元気にしていますし、わたくしも巫女としての務めを果たせておりますから。ふふ、わたくしは幸せ者です」

「……それは、良かったです」


 俺は微妙な返答しかできなかった。幸せ、か。彼女は巫女家や国同士の争いなど気にせず、幸せに生きている。翻って俺はどうだろうか? 義務感や巫女としての責任に駆られているだけではないのだろうか? 或いは、俺も色々な事を気にせずに過ごせば――いや、無理か。彼女とは境遇が違い過ぎる。今更生き方は変えられない。


「さあ、着きましたよ。こちらです。ここからはお一人でお入り下さいませ」


 物思いに(ふけ)る間も無く、大精霊の間に到着した。土の大精霊。いよいよ三つ目の大精霊との対話だ。




 背後で白い扉が閉まり、明かりが点く。やはりこの部屋でも俺を出迎えたのは一辺二メートル程の真っ白な箱だ。


「どの家のでも変わらないんだな……っと、最初はいつも通りアレか」


『――生体コード一致。ユーザー認証……認証完了』

『ミヅカ・リオをゲストとして登録しました』


 最後に風の大精霊と対話したのはもう三ヶ月も前だったか? 随分と間が空いてしまった。しかし四回目ともなれば慣れたものだ。


機械仕掛けの大精霊オートマチック・エレメント起動……ミヅカ・リオをマスターとして認証しました』


 いつも通り登録と認証とやらが完了した。次に来るのも分かっている。


『マスターへメッセージが一件あります。再生しますか?』


「再生してくれ」


 了承を伝えると、音声が流れ始める。


『――やあ、久しぶり……は僕の方だけかもしれないね。ともかく来てくれてありがとう。これで記録は三つ目になるはずだ』


 あれ? 前回よりも声が若干低いような……別人? いや、違う。同じ人間だ。これは、記録の向こうでは時間が経っているのだ。恐らく何年、何十年も。


『とは言っても僕の記憶もあやふやでね。以前の記録は破棄したから僕の手元には無いし、大精霊に保存をしたのはもう二十年も前になる。漏れがあったら怖いけど、以前の続きから話そう』


 やっぱりだ。老いを感じさせる男の声は続ける。


『さて、話すとは言ったけど、例によって詳しい事は記録の方を後で開いてくれ。悪いけどダラダラと話している時間は残されてなくてね。今回伝えるのは敵の正体とこの世界の歴史……というよりここ数十年の出来事についてだ。今回も長くなってしまって申し訳ない』


「またあれか……覚えていられるのはいいけど、マジで頭痛くなるんだよな。長いって事はもっとキツいのか?」


『次がいつになるかは分からないけど……最後の記録を残すまでは僕は生きるから安心して欲しい。そもそも四回に分けてキーを設定したから、この記録が残っているなら四つ目もちゃんとあるはずだ。近い未来の僕と、遠い未来の君に託すとしよう――記録終了――』

『メッセージの再生を終了しました』


 短い音声は途切れ、無機質な大精霊の声がメッセージの終了を伝える。


『添付されたデータを開きますか?』


「ダウンロードとやら、もうちょい優しくできない?」


『データ移送時は情報強度が低下し、大精霊とマスターが共に無防備になります。外部からの妨害及びハッキングを防ぐため、迅速なダウンロードをお勧めします。身体への負担は最小限に抑えられていますので、ご安心ください』


「何言ってんのか全然分かんないけど……仕方ないって事か。分かった。ダウンロードしてくれ」


『記憶領域へのダウンロードを開始します』


 諦めて受け入れることにした。視界が明滅し、立ち眩みを逆再生するように全身の感覚が消えていく――



■□■□



 ――よし、記録できてるね。早速だが、まずは敵の正体についてだ。これの調査に時間がかかった上に、正体を知った事が向こうにバレてしまってね。追われてるうちに、かれこれ二十年もかかってようやく大精霊にアクセスできたんだ。

 それでその敵の首謀者ってのは、大精霊の製作者だった男だ。前にも言ったと思うけど、僕もその製作者のうちの一人。平たく言えば昔の同僚さ。もちろんただの同僚じゃない。友人……いや、お互いにとってライバルのような存在かな。彼とは大学時代に知り合って、同じ研究分野で切磋琢磨していたんだ。研究内容はいわゆる超常現象。僕達が学生の頃は世界の常識といえば科学が全てでね。そんな中で、僕と彼は科学を超えた力を目指していた同士にして良き理解者だった。研究を進めるに連れて仲間は増えていったけど、いつも中心にいるのは僕と彼だった。

 そして遂に大精霊は完成した。でも僕達がそれを世界に発表しようとした時……彼と初めて意見が食い違った。彼はこの技術を封印しようと言い、僕は反対した。当然だ。行き詰ったと言われていた科学の常識を変えられるんだからね。それに、この研究にスポンサーも付いていた。今更止めるなんてできなかったんだ。

 ……今思えば、彼は正しかったのかもしれないね。

 ともかく、結果として彼は計画から離反した。彼に賛同する者もいたけど、殆どは僕の元に残った。僕は、僕達の研究結果を発表し、「精霊術」という技術は世界中に広まった。その後も法整備とか技術面でのトラブルはあったけど、新しい常識は順調に拡大していった。ああ、そうだよ。僕は有頂天だったよ。でも仕方ない事でもあった。彼がいない今、この技術を一番理解していたのは僕だったからね。僕は世界の中心だった。僅かな期間で莫大な富と名声を手にしたんだ。


 でも、雲行きが怪しくなっていった。ある時を境に大精霊の一つ、コード・サラマンダーの稼働率が低下していったんだ。理由はエネルギーの使い過ぎ。元々この大精霊は、数百年前から始まっていた地球の寒冷化防止のために気象の操作をしていたんだ。その上で何億という人が精霊術を好き勝手に使い始めた。急いで世界規模での精霊術の規制と出力調整をしたんだけど……この時は暴動が起きて大変だったよ。新しい玩具を与えられて、遊んでいるうちにまた取り上げられたんだから。商売に利用してる奴らだって多くいた。それが立ち行かなくなったんだから当然だね。

 しかしこの時、僕は既に大精霊の活動停止を予測していた。抑えようと何とか手は尽くしたけど、環境の維持だけでも大きな負担だった。気温の調整の機能を他の大精霊に移してもダメだった。だから僕は……範囲を絞ったんだ。気温の維持を重要な三つの都市とその周辺だけに限定し、それ以外は切り捨てた。傲慢だろう? 一介の研究者でしかない僕が、人類を選別したんだ。神にでもなったつもりかってね。因みに一度目の記録を残したのはこの時だ。


 当然、暴動は更に急激に加速した。僕は常に命を狙われた。何も分かってない奴等はただ僕を責めた。民衆も政治家も口を揃えて僕を非難した。でも、あのまま放置していたらいずれ人類は完全に滅びるんだ! 僕は間違ってなかったっ! なのに奴等はっ! 奴等のせいで彼女はっ……!!

 ……ごめん、取り乱してしまったね。二度目の記録を残したのはこの頃だったかな。

 僕は追われる身となり、各地を転々とした。二十年も経ってしまったのはこのためだ……って君には何年経とうが関係無かったね。逃亡生活を始めてから数年、異変が起きた。僕の精霊術の出力がだんだん弱くなっていたんだ。誰かが大精霊にアクセスし、妨害をしていたのさ。薄々気付いてはいたけど、僕はこの時確信した。僕を狙う奴等の中に彼がいるとね。大精霊から個人を特定するなんて芸当は僕と彼にしかできないから。唯一の救いは、全ての大精霊が敵に占拠されても扱えるのが彼一人だった事だよ。


 さて、確か前回、敵は記憶を継承して……いわゆる、転生をしていると言ったはずだ。何故二十年前の時点でこれが言えたのか? 理由は簡単、あの時点で何人もの人が転生していたからだよ。大精霊を完全に扱う技術は僕と彼しか持たない。しかし記憶の継承は頑張れば殆ど誰でもできるからね。だから言ったんだ、君の時代にも残っていると。

 だが後で分かった事がある。これは完全ではない。記憶を受け取った人物の元の人格や他の記憶が邪魔し、完全な継承はできないんだ。何回もの継承の果てに残るのは恨みや憎しみなどの強い感情だけ。これは実証済みだ。おっと、非人道的だなんて言葉はもう聞き飽きたよ。つまり何が言いたいかと言うと、敵はある種の感情だけで大精霊ないし精霊術というものを破壊しようとしているんだ。まあ、今だって変わりはしないけどね。

 彼も僕もいずれ死ぬ。しかし僕を恨む彼の記憶は必ず未来に遺されるだろう。それに他の敵も記憶を遺している。だから僕も対抗して、君にプロテクトを掛けたんだ。そのついでに「戦争への忌避感」を最初に植え付けさせてもらった。悪く思わないでくれ、全ての大精霊にアクセスできる者が現れたチャンスを馬鹿げた争いで失いたくないだけだ。


 愚痴みたいになってしまったね。申し訳ない。長くなってしまったけど、記録を編集する時間も無いから許して欲しい。引き続き四つ目の記録の回収も頼むよ。……記録終了――



■□■□



「――っ、ぃてて……」


 痛む頭を押さえながら起き上がる。ここは……そうだ、大精霊の間だ。徐々に感覚と記憶が回復する。


「何ていうか、今回は重かったな……」


 脳内に押し付けられた記録を反芻してみる。長かった上に今までの二回とは毛色が違い、男の感情がかなり込められていた。余裕の無さがひしひしと伝わる。


「過去の話だからどうにもできないけど、結末が分からなくてモヤモヤする……って、そんな事より」


 まず敵についてだ。今まで勝手に一人だと思っていたが、どうやら複数いる可能性もあるようだ。そして彼の言った「戦争への忌避感」。今まで俺が感じていた漠然としたものが、他人に与えられてたのは……ちょっと気持ち悪く感じてしまう。まあ彼の言い分を信じるなら、悪くは無いのだろうが。


「でも、その同僚から恨まれてる理由はあんまり話してくれなかったな。話もかなり感情的だったし、そもそも主観だからどっちが正しいとか分からないし……」


 敵ではないが、完全に俺にとって味方とも言えないかもしれない。使命だからと彼の言う事に従っているが、考えを少し改める必要がありそうだ。いや、そもそもこの使命感すら与えられたものだとしたら……?


「……そんな事言い出したら、もう何も信じられないな」


 だが、大精霊と対話して真実を知り、母さんともう一度話したいというのは俺の自身の願望だ。きっと大丈夫だ。それに、今更引き下がれない。


「そうだ、一応確認しとかないと。えっと……継承できる記憶って今も残ってたりするのか?」


『現在、保管されている記憶データは存在しません』


「それは他の大精霊もか?」


『コード・ノーム及びコード・ウンディーネ、コード・シルフには現存しません』


「火の大精霊は停止してるから分からないって事か。じゃあ最近記憶が継承されたのは?」


『コード・ノームにて十八年前にデータのダウンロードが行われています。参照可能な百年以内の記録は一件のみです』


「十八年前!? しかもコード・ノームって、やっぱりノーミオ家……!」


 学長か? それともあの温厚そうな巫女が実は? いや、戦争急進派筆頭のディルクという男も怪しい。だがやはりノーミオ家の人間で間違いなさそうだ。


「でも一回だけか。複数いるって言ってたけど、今は一人しか継承できないのか? ……いや、楽観はできないな。参照可能な記録が一件ってことは、参照できない記録もあるってことか?」


『コード・ノームにて十八年前にデータのダウンロードが行われています。参照可能な百年以内の記録は一件のみです』


「そりゃそうか。参照できないってことは参照できないってことだからな……」


 自分でも何言ってるのか分かんなくなってきた。ともかく、二人以上いる可能性についてはリギスティアさんに報告しなければ。


「あとは……火の大精霊がどこにあるとか、今どういう状態なのか分かるか?」


『コード・サラマンダーは停止中のため情報の確認は不可能です』


「ああそうだった。他には……どうせだし聞いてみるか。どうやったら精霊術が強くなれるか教えてくれるか?」


『生得的な出力には個人差がありますが、第二次成長期での慣れによる機能の拡大が有効です。また、大規模、及び精密な操作には高度な演算力が求められます。古典力学、熱力学、基礎的な原子論、量子力学、逡ー逡梧ウ募援蟄ヲや邊セ逾樔ス捺ァ矩??蟄ヲなどの体系的な習得を推奨します――失敗(エラー)、上位ユーザーによってブロックされています』


「待った待った待った、なんだって? 前半は生まれつきの才能がどうこうって話だよな。で、力学とか何か言ってたのは分かったけど、後半なんつった? もう一回頼む」


『古典力学、熱力学、基礎的な原子論、量子力学、逡ー逡梧ウ募援蟄ヲや邊セ逾樔ス捺ァ矩??蟄ヲなどの体系的な習得を推奨します――失敗(エラー)、上位ユーザーによってブロックされています』


 ……うん、全く分からん。前にもあったなこんなの。いや、古典なんちゃらとかも中身はさっぱり分かんないんだけどさ。ともかく勉強しろってことか? でも明らかに氷河以前の失われた知識が必要な気がする。今の俺には無理だな。


「あ、大精霊との対話で精霊術が強くなったのはなんでだ? そういう機能があるのか?」


『精霊の機能及び精神への干渉には多大なリソースを必要とします。現在のコード・ノームでは不可能です』


「他の大精霊……ウンディーノ家のとシルフィオ家、サラマンド家のやつもか?」


『不可能です』


 うーん、俺の体験とティフォ先輩の話も確認できないな。やっぱり分からん。打つ手なしか。


ノーミオ家(ここ)はもう来れなさそうだから、今のうちに聞いておきたいけど……今確かめられる事は無いな。ログアウトするよ」


『ミヅカ・リオのログアウトを承認』


 今日は終わりにしよう。やや混乱する頭を整理しつつ、俺は真っ白な部屋を出た。




 部屋を出ると、巫女が外で待っていた。相変わらず敵意の欠片も無くニコニコとしている。


「すいません、お待たせしました」

「いいえ。それより、対話はうまくできましたか?」

「まあ、はい。それなりに」

「それは良かったです。それにしても、他の家の大精霊と対話できるなんて、リオ様は素晴らしいですね!」

「いえ……たまたまですよ。俺が凄いんじゃないですから」


 手放しに褒められると居心地が悪い。そもそもこんな能力、無いなら無い方が楽だったに違いない。それよりも俺は彼女に聞きたい事があった。


「あの、ちょっと質問しても宜しいですか?」

「はい、わたくしにお答えできるものでしたら」

「では……ノーミオ家の方の中で、二十年ほど前に急に性格というか、考えが変わったような方はいらっしゃいますか? 家系の中でも中心に近い人物で」

「二十年前、ですか?」


 変な質問だったが、彼女は疑いもせずに考えてくれる。やはりこの人は違うだろう。これで俺が騙されていたならお手上げだ。


「叔母様は昔からあのような方ですし、兄上達もあまり変わった様子はありませんが……」

「そうですか。変な事聞いてすみません」

「あっ、でも変わったとは違いますけど、ディルク兄様は……昔の方が優しかったかなと。まあお互い歳ですから、子供同士の関係から変わるのは当然ですけどね。弟達も――」


 彼女の話からはあまり得るものは無かった。どうやらノーミオ家の中では周囲に距離を置かれているらしい。ただ、対立するこの家の人間としては異質な彼女は、俺の中ではとても好感の持てる人物だった。

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