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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
五章 権謀術数の水際で
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第56話 邪霊と暗躍の影

「イレアっ、後ろ来てるか!?」

「姿は見えない! でも風が――きゃあっ!!」

「うぉおわああっ!!!」


 突如、空気の塊が押し寄せる。ここは階段の踊り場。足を滑らせたら今ばかりは怪我では済まない!


精霊(スピリット)よ――アイスシールド!」

「っと、助かった!」

「リオ、大丈夫?」

「ああ! ヒナも無事だ!」


 人一人を背負って走る。確かにキツいが、俺だって軽いヒナを背負ってすぐにバテるようなヤワな鍛え方はしてない。それにこんな状況で俺以外の誰に任せられようか!


「……なあイレア! もしかして窓から降りた方が早いか? 一階に降りても玄関まで遠い!」

「えっ?」

「そこの開いてる窓だ! 行くぞ!」


 二階に着いた俺は廊下の窓を指さす。一階の天井が高いのか、普通の建物の三階くらいの高さだが……このくらいなら行けるはずだ。


「い、意外と高い……」

「大丈夫、俺が下で受け止めるから!」


 窓に足をかけ、ヒナをしっかりと背負い直す。とはいえこのままだと俺はともかくヒナが危ない。俺はマテリアルを長い棒状に変えて窓から下ろした。


「よし、先に行ってるぞ!」

「え、これで? 大丈夫? 落ちない?」


 マテリアルをぐんぐんと伸ばし、地面に触れた。単純な変形であればかなり慣れたものだ。両端だけ板状にし、片足を付ける。かなり不安定だが、行くしかない!


「よいっしょっと!」


 事前に決めた通りにマテリアルはだんだんと太く短く、元の形に戻ろうとする。半ば落下のように地面が近付くが、


「リオ、上!」

「クソっ!」


 上から邪霊(イビル)の影が。同時に下へ叩きつけるような暴風!


「アイスシールド! 切り刻め、ブリザードエッジ!」

「すまん、もうちょい耐えてくれ!」


 氷の盾が割れる度に貼り足され、俺はなんとか地面に降りた。ヒナを背中から下ろし、今度はイレアを受け止めるためにがっしりと構える。


「イレア、行けるか!?」

「足が竦んで……!」

「下を見なきゃ大丈夫! ほら!」

「わ、わかった――えいっ!」


 迫る邪霊を見て踏ん切りをつけ、イレアは窓から飛び降りた!


「きゃぁああっ!!」

「ふんっ――『加速』っ!」


 イレアの体に触れる瞬間。俺は落ちるスピードに合わせて上向きに『加速』し、衝撃を和らげる。そしてその勢いのままゴロゴロと地面を転がってしまった。


「ったたた……怪我は無いか?」

「う、うん。でもその、ちょっと離して……」

「――! わ、悪い!」


 そう、自然と抱きとめる形になっていた俺達は地面に二人一緒に転がったのだ。当然抱き合う恰好になるが……いや、考えるのは後にしよう。怪我は無く作戦は成功した、それだけだ。今は窓から追いかけて来る邪霊だ。


「……来た!」

「ここで戦う? それとも引き付けて人を呼ぶ? ヒナちゃんもいるし」

「いや、戦えない人を巻き込むかもしれない。ここで倒そう」


 そう言ったが早いか、俺達が降りた窓から邪霊が何体も出てくる。その数およそ十。両の翼を広げて空中に漂う邪霊は羽ばたきもしていない。さっきの攻撃と同じで大気を操っているのだろう。


「この距離で十体もいると俺は戦えない。防御とヒナを守るのは俺に任せて、イレアは攻撃してくれ」

「分かった。いくよ。精霊よ――穿て、クリスタルバレット!」


 イレアが氷の弾丸を撃つと同時に、暴風が巻き起こる。重力と風に二重で妨害される弾丸は失速してしまう。


「届かない! なら――貫け、アイシクルランス!」


 僅かに遠い。しかし、悠々と避けられた氷柱にイレアは更に力を込め――


「絡み付け――アイシクルソーン!」


 一体の邪霊を貫いた!


 ギグィギィィイ!!!


「葬れ――グレイシアコフィン!」


 奇妙な叫びをあげる邪霊を氷の棺が包む。浮力を失った邪霊は地面に大きな音を立てて激突し、割れた棺の中から残骸が見えた。


「これなら行けるわ! リオ、防御はお願い!」

「任せろ!」


 もう一度氷柱を伸ばすイレアだが、黙ってやられる邪霊ではないようだ。俺達に向かって気流を起こすが――


「痛っ――ガラスか!?」


 腕に衝撃と鋭い痛み。小さな切り傷から血が流れている。見えなかったが、割れた窓ガラスの破片を飛ばしているようだ。マテリアルを薄く広げて盾にして頭上に掲げると、黒い盾に物が当たる音がする。


「イレア、見えなくても倒せるか?」

「ちょっと厳しいけど、大丈夫。ヒナちゃんを守ってあげて」


 そう言いながらも一体また一体と邪霊が墜落する。だが、このまま順調に倒せると思った時、


「貫け、アイシクルランス――っ、はあっ、はぁっ――」

「大丈夫か!?」

「ごめん、ちょっと限界。一旦休ませて」

「分かった。もうしばらく耐えよう。それとも移動するか?」

「ううん、防御ならできる。この数ならリオに任せていい? 早く倒して他の邪霊の所にも行かないと」


 残りの邪霊は三体。精霊術で跳躍しながら倒すと考えれば、ギリギリいける数だ。やろう。


「分かった。ヒナを頼む」


 マテリアルを棒状に収束させ、使い慣れた剣の形にする。すると、様子を見ていた程度の風が再び激しくなった。


「『硬化』――『加速』!」


 体を硬化して怪我を防ぐ。そして加速の勢いでジャンプするが、


「届かない……!」


 剣を振っても邪霊の足元は僅かに遠い。嘲笑うような風圧が俺を地面に叩きつける!


「くっ……武器の長さか? いや、あの大きさ相手なら剣じゃないと威力が……でも……」

「リオ、私が足場を作ろうか? さっき校舎から降りて来たみたいに」

「できるか? 『加速』で踏み込んだら力を相当集中させないと持たないぞ」

「やってみよう。一瞬だけ合わせるから」

「分かった。頼むぞ」


 失敗したら墜落する。いや、イレアを信頼しよう。


「精霊よ――『加速』!」


 まずは軽くジャンプ。三メートルほど跳んで落下し始める寸前、


「いくよ――アイシクルランス!」


 先端の平たい氷柱がせり上がる。俺は両足を揃えて屈み、


「アイスシールド!」


 ピッタリ足裏に触れた氷を踏む。バキバキと割れる氷が更なる精霊術で修復され、強固な足場となった。行ける!


「もういっちょ、『加速』!」


 邪霊が驚いたように見えたのは気のせいでは無かったかもしれない。空中に躍り出た俺は剣を大上段に構え、斬り伏せる!


「はあぁああああっ!!」


 ガグィィギギギギッッ!!!!!


 真っ二つになった邪霊は奇声をあげて足元へ落ちていく。しかしそれを見た残りの二体は一瞬力を溜めるような動作をし、


「そんなの、お見通しだっ!」


 圧縮された空気の塊が襲い掛かる! 俺は受け身を取って着地し、イレアの元へ駆け寄る。


「大丈夫っ!?」

「ああ。この攻撃が終わったら最後だ。『硬化』!」


 イレアの氷の盾を硬化し、空気の弾丸を防ぐ。それでもミシミシと音がするくらいだ。最初よりも邪霊の攻撃が強くなってるのか? いや、考察は後だ。


「これ、いつまで続くの……!」

「分からない。でも、耐え切るぞ!」


 マテリアルも盾に沿わせる形に変え、二重の盾にする。だが攻撃はとてつもなく重い。校舎の壁も剥がれては落ちて、風と共に俺達に襲い掛かる。


「――少し弱まったか?」


 時間にして五分くらいだろうか? マテリアルの盾を解除しても耐えられるようになった。だが今の体力的にチャンスはあと一回だ。


「たぶん。リオ、行ける?」

「いや、もう少しだ。あの二体が近付いて、一撃で倒せるようになったら行くぞ」


 動きながら風圧を浴びせ続ける邪霊。二体の姿が重なった時に一気に斬る。脳内でシミュレートし、邪霊の動きを予測して――


「――今だっ!」


 盾の下から飛び出し、剣を構える。そのまま『加速』で跳躍するが、風に押されてさっきよりも低い!


「イレアっ!」

「アイシクルランス! ――アイスシールド!!」


 さっきよりもピッタリのタイミングで足場が作られる。着地し、もう一度踏み込むが、


「『加速』――クソっ、届かないっ!」


 あと一歩、ギリギリ足りない。そう思った瞬間。


「精霊よ――アイシクル、ランス!!」

「うぉおおおおっ!」


 合図も無しに用意された足場。片足だけで着地し、『加速』でもなんでもないただのジャンプ。だが、これなら届く!


「はぁあああああっっ!!」


 渾身の横薙ぎ。後の事も考えず、全力で剣を振るう。


 グァグィイイイイイ!!!!


「――倒し、たぁっ!」

「リオ!」


 受け身も取れずに俺は落下する。だが支えてくれる人がいると考えれば安心し――


「ぐぇえっ!」

「きゃっ!!」


 訂正、疲労困憊のイレアでは俺を受け止めきれなかったようだ。さっきと同じようにゴロゴロと転がってしまう。


「……ってててて……イレア……どいてくれ……」

「ごめん……あいたた……ちょっと足捻っちゃったかも」

「っと、大丈夫か? 歩けないなら背負う……のは無理だな。ヒナもいるし」

「ううん、冷やせば歩けるから大丈夫。行こう」


 足首に生み出した氷を巻き付けたイレア。なんとも便利なものだ。


「とはいえ俺達はしばらく休まないとな……他の生徒はどこに行ったんだ?」

「こういう時は寮に避難するって聞いてるけど、もうみんな逃げたのかな」


 奥に見える寮の周りには人は見えないが、建物からは大勢の人の気配がする。避難の指示は上手くいっているのだろう。


「とりあえずヒナをあそこに預けて演習棟に行こう。向こうにまだ邪霊もいるだろうし」

「ええ、そうしましょう」


 ひとまず俺達は寮へと向かうのだった。




 同時刻、演習棟裏手のグラウンド。二人の生徒が十数体の鳥型の邪霊に立ち向かっていた。

 ……否、立ち向かうと言う程のものではない。彼女等は至って冷静、呑気とも言うような雰囲気だ。


「ルーさん、手助けは必要かしら?」

「んー、いいや。落ちたやつの回収だけお願い。てか委員長に手伝ってもらうくらいなら先生達も帰してないよ」

「そうですわね。ではお怪我の無いように」

「心配しないでって。じゃ――行くよ」


 ひと言、呟いた瞬間。ルーの空気が変わった。研ぎ澄まされた刃。彼女は剣そのものと化した。


「ふっ――」


 呼吸一つ。一瞬で邪霊と同じ場所まで跳んだ。


「うらぁあああっ!」


 精霊術で勢いをつけた渾身の回し蹴り。彼女の脚はいつのまにか鋼に包まれている。


 ギギゥグギィイイ!!


「からの――スチールショット!」


 グギァグィイイ!!!!


 一瞬にして二体が鉄屑となる。鋼脚で粉砕された邪霊に続き、鋼の弾丸で穴だらけになって地に落ちる邪霊。それを蹴飛ばしてルーは更に上空へ跳ぶ!


「大したこと、無いねっ!」


 そう言った彼女の手には大剣が握られている。重量こそ暴力とばかりに振り下ろされたそれは、


 グギァアアアアアンン!!!!


「やばっ、デカくし過ぎたっ」


 数体の邪霊を巻き込んで落下し、地面に突き刺さる。


「ルーさん! こちらの事も考えて下さいまし!!」

「ごめんごめんって! ほら、あと半分くらいだからさっ!」

「もう、わたくしも戦いますわ! ルーさんに任せていたらグラウンドが台無しですこと! 精霊(スピリット)よ――乱気流砲タービュランス・カノン!」

「ちょっタンマタンマ――ぅわああああっ!!」


 無秩序な風圧が全てを巻き込む。何体もの邪霊が揉みくちゃにされ、衝突し、壊れ、落ちていく。勿論ルーも巻き込まれた。


「ったく、強引なお嬢様だね!」


 しかしそのまま邪霊と同じように墜落するルーではない。邪霊の上をジャンプするように踏み付け、撃ち落としていく。二人の連携によって邪霊はあっという間に全滅してしまった。


「ねえ委員長ー、これまた先生にどやされるかな?」

「だから言いましたのに。まあ過失ですからお咎めは無いと思いますけど」

「だよね? 信じてるよ?」


 数多の残骸とボロボロになった地面を前に、二人はまた呑気な会話をし始めた。邪霊がいるから倒す。それだけの強さを持った彼女等は、それ以外の事など気にも留めないのだった。


 故に、二人に近寄る人影にも気付いていなかった。



■□■□



「貫け、アイシクルランス! ――危ないリオ!」

「おう!」


 ヒナを預けてから少しだけ休憩して、俺達は寮から演習棟の方へと走った。最初に邪霊(イビル)が出現したそこに行けば、何か分かるだろう。

 寮で聞いた話では、他の生徒も何人か邪霊の対処や生徒の救助をしていたらしい。セレナや討伐隊の面々は先生達と共に率先して避難の誘導をしていたようだ。


精霊(スピリット)よ――『硬化』! ふんっ!」

「クリスタルバレット!」


 襲い掛かる邪霊を俺はマテリアルの剣で、時に硬化した素手で。イレアは氷弾で一体ずつ倒していく。足を止める事はない。


「このっ、鬱陶しいなっ!」

「一体一体は弱いけど……!」


 群れて地上の俺達に飛び込んでくるのは、鳥の群れもかくやとばかりの邪霊の大群。中央棟で戦ったものよりニ、三回り小さいが、ガシャガシャと不快な音を立てて視界を覆う度に足が竦む。しかし立ち止まったらそれこそ鳥の餌だ。


「あーもう、ティフォ先輩みたいに一気に倒せたらな!」

「私達は相性が悪いわね……!」


 そう言いながらも迫り来る邪霊を殴り付ける。広範囲の攻撃……いや、一個だけある!


「イレア、耳塞いでろ! 精霊術で防御しててくれ!」

「えっ、何するの?」

「この前ソージア先生に使ったやつ!」


 その一言で合点がいったイレアは自分の周囲を氷の壁で包んだ。それを確認し、俺はマテリアルを掲げて意識を集中した。無防備になった俺をイレアが守ってくれていると体の周りに漂う冷気が教えてくれる。


「精霊よ――――『乱聴』!」


 キィィィイイイイイイイン――――――


 耳を塞いでも聞こえる、脳を揺さぶる怪音。一か八かの賭けだったが、


「……効いてる!」

「ホント!?」


 邪霊が距離を取っている。成功だ!


「このまま突っ切るぞ!」


 剣を振り回しながら邪霊の大群の中に飛び込む。掻き分けて進むと、次第に視界が開けてきた。その先に見えるのは演習棟だ。


「建物の奥から煙が……行こう!」

「ああ。先生がいるかもな」


 そう話しながら走るが、邪霊の気配がとんと消えた。グラウンドの奥の方に何やら残骸の山が見えるが、動いている邪霊は全くいない。さっきの小型の邪霊も俺達を追いかけて来る様子は無い。何かがある。俺達はそう感じ取って互いに頷いた。

 そして、立ち昇る煙の元へ辿り着いた。そこには。


「お前は――!」


 対峙する二人の影。一人はやや小柄な女子生徒。そしてもう一人は、それよりも更に背丈の低い女性。


「……ホムラ先生っ!」

「イレアさん! リオ君! 逃げて下さい!」

「先生!」


 そして向かい合う相手は……ミスズだ。


「……なんだ、リオ君来ちゃったんだ。お姫様も邪魔しに来たんだね」

「ミスズ、何をしてるんだ」


 俺達を見つめる表情には、教室で見せた朗らかさはどこにも無い。極めて無機質なものだ。そう……あの時の母さんに似ている。


開花の魔女(ブルーム・ウィッチ)のデータは取れたからもう良いんだけど……ねえリオ君、私と戦ってよ」

「質問に答えろ、ミスズ。俺は戦いたくはない!」

「ジングウさん、今回の騒動は貴女が原因なの? 返答の次第では出頭して――」



「うるさいなあ泥棒猫がァ!」



 イレアの言葉を阻んで、ミスズは激昂した。急な事にギョッとして俺達は口を閉じてしまう。


「なんでよ! ミヅカ隊長のお気に入りのくせに! 裏切り者!」

「お、おい、ミスズ――」

「黙れ裏切り者! どうせそこのオンナに唆されたんでしょ! 私がどんだけ言っても聞かなかったじゃん!」


 そこまで一息で叫んで、ミスズはハッとした。俺達はまだ言葉の内容を理解するのに必死だ。


「ちがう、ちがうの。リオ君。私はね、リオ君に帰って来て欲しいの。ね? 帰ろうよ、極東に。ミヅカ隊長……お母さんもさ、待ってるんでしょ? ね?」


 そして今度は震えた声でそう言った。情緒の急激な移り変わりについて行けないが、言いたい事は同じだ。俺が公国(ここ)にいるのが許せないのだろう。


「イレアさん、リオ君。逃げて。私が時間を稼ぐから。彼女は私の術が通用しないの。貴方達では無理よ。お願い」

「ね、ホントだよ? この先生も私には勝てないんだよ? だから大人しくついて来てよ。帰ろ?」

「リオ……」


 俺の返答にこの場が懸かっている。しかし、どう答えようとも正解とは思えない。なら――


「ミスズ、イレアとソージア先生は関係無いんだよな? 二人は帰してくれ。そしたら話をしよう」

「リオ!」

「リオ君っ!」

「いいよ。でも絶対極東に帰ってもらうからね。じゃないと……どうしよっかな?」


 俺が時間を稼ぐ。それがこの場を凌ぐには一番だ。先生が戦うよりはいいだろう。その間にティフォ先輩でも巫女家の人でも呼んで、応援が来るのを信じよう。


「ほーら、じゃあお邪魔虫は帰ってね。リオ君と私の二人きりにしてよ」

「イレア、先生。お願いします。ここは俺に任せて」


 二人を交互に見ると、俺の意図は伝わったようだ。イレアは先生と目を合わせて走って行った。


「……ミスズ、まずは質問をしていいか?」

「うーん……良いけど、変な事考えてないよね? 逃がさないからね?」

「分かった。じゃあ一つ目だけど、今日の邪霊はお前の……いや、お前達が原因か?」


 朝から姿を見せなかったミスズと、今日起きた騒動。至極簡単な推理だが、恐らく関係があるだろう。


「そうだよ。でも学長は知ってるんだって。抜き打ちの避難訓練って後で言われるんじゃないかな?」

「そうか。邪霊を操っているのは極東の技術か? それとも精霊術か?」

「それは教えられないかな。私も詳しくは知らないし」


 やはり学長は極東とグルだ。どのように利害が一致しているのかは分からないが……極東側は学園を実験場に、学長は訓練を兼ねつつ、軍事化を進める作戦の一環といったところだろう。もっと大きな取引があるのかもしれないが。そして先程のミスズの発言からして、データを取るのも極東の目的の一つなのだろう。


「さっき言ってた、ブルーム・ウィッチってのはソージア先生の事か。データを取るってのは何のためだ?」

「さあ? 実験じゃないかな? ……ねえリオ君、意味無い質問はしてないよね」

「もちろん。お前達の目的を知りたいだけだ」


 鋭く睨まれるが、表情を崩さずに答える。時間稼ぎもそうだが、俺はこの騒動の目的も知りたい。母さんと極東の行動には謎が多すぎるからだ。


「ねえねえ、今度は私からもいいよね。散々質問したんだから」

「……俺と戦うってのはナシで頼むよ」

「えー、そう言おうと思ってたのに。私、すっごく頑張ったんだよ? 極東軍のために。ミヅカ隊長のために。だから隊長のお気に入りのリオ君と戦ってみたいんだ」


 ここまでの話から、彼女の為人(ひととなり)が少し理解できた。ミスズは母さん――ミヅカ・シオン少将に心酔している。お気に入りというのはよく分からないが、母さんの息子である俺に拘っているのはそのためだろう。そして俺の事は、母さんに従う同士とでも思っているのかもしれない。裏切った、とは極東というよりミヅカ・シオンを裏切ったと言っているのだ。


「あ、怪我はさせないから大丈夫だよ? リオ君に傷付けたら怒られるし。でも私の方が強いって分かったら褒めて貰えるかな? そしたら怪我くらいさせてもいいかな? いいよね? ねえ!?」

「おい、俺は戦わないって言っただろ!」

「やだよ。ミヅカ隊長のためだもん」


 言葉と同時に、精霊術の気配。話し合いは終わってしまったようだ。

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