山賊の砦~無双に非ず
山賊の砦に侵入したウェアルとクモ竜爪獣。一人と一体は砦の中にいる山賊たちを次々と討ち取っていった。
故郷の式神とこの地の竜牙兵を融合させて編み出された竜爪獣。ウェアルの技量では使い魔との感覚を完全同調させることはできない。
しかし風属性として聴覚だけはなんとか共有することができた。そのため小部屋で寝ている山賊の様子をうかがい寝入ったものから始末していく。
あるいは幼体モンスターの大きさしかなく食肉と見なされる鬼蜘蛛に注意を引きつけてから不意討ち。
ある時は出血の少ない遺体を動かして駆け寄った連中の背中から襲う。
聖賢の主に仕える者としては不本意な闇討ちの連続だが単独での山賊討伐などウェアルにとって身の丈に合わない初仕事だ。
便利なクモ竜爪獣をいいように使役しているから厳密に単独ではない。とはいえ無双などと口が裂けても言えない夜襲にウェアルの心身は疲労していく。
それでもウェアルたちは何とか砦に居着いた山賊どもを退治していった。
「それにしても・・・」
先ほどから一人で通路を走る山賊がいるのは気のせいだろうか。
そんなことを考えながらウェアルは角から現れた山賊の喉笛を短刀で切り裂く。賊らしく多少の夜目はきくようだ。
とはいえシャドウの見習いにすら劣る感覚などふし穴に等しくウェアルに瞬殺されてしまう。
「だけどなんか嫌な感じがするんだよな」
「ギオッ!?」
そんなウェアルのつぶやきはすぐに現実となった。
「急げっ!お頭が呼んでいるぞ!」
「まったく、何だって言うんだ。こっちは疲れて寝たばかりなんだぞ」
「文句があるならお頭の前で直接言ったらどうだ」
砦の外側から山賊連中がやって来る。会話から察するに首領から呼びつけられたようだ。
その理由は明らかではないが夜酒のお誘いということはないだろう。背中にひんやりとしたものを感じながら、ウェアルは竜爪獣に命名した名前を呼びつつ真上へと跳躍する。
「スルード!」
「ッ!」
呼び声に応じ相棒の鬼蜘蛛は垂直の壁を駆け上り天井にはりつく。そうして腹部から糸一本一線だけの巣を作った。
ウェアルはそのとっかかりを利用してスルードとともに天井にはりつく。その下を山賊が五、六人通り過ぎて行った。
「できれば情報が欲しいところだが」
「・・・・・」
こんな敵地で慣れないことをすべきではない。そう考えたウェアルは天井から飛び降りて山賊の背後から襲いかかる。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
断末魔の叫びすらあげさせずウェアルは六人の山賊集団を屠る。だがその表情はすぐれない。
「これは侵入が気付かれたと考えるべきだな」
そのつぶやきに応じるかのように砦全体に聞こえる罵声が放たれる。
「起きろてめえら!!侵入者が潜り込んでいるぞ!」
六人の山賊たちの息の根を止めたとたんに罵声が響く。どうやら首領は部下たちの生死を瞬時に察知できる魔術の仕掛けをもっている確率が高い。
それはウェアルにとって未知の脅威が待ちうけているということだった。