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レッサーシャドウ  作者: 氷山坊主
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山賊の砦~シャドウの風属性

 山賊の頭ガトード。彼は自分の腕に装備されたガントレットをにらみつけ苛立っていた。


 「クソッ、クソッ、クソがぁ!!」


 理由は魔術効果のあるガントレットの輝きが急速に色あせてきたから。

 それはガントレットに登録された部下達の半数がわずかな時間のうちに殺されたことを示している。


 同時にガトードの武器、防具に財産が半分以上も失われたこと。何より山賊ボスとしての面子が傷つけられたのに等しい。

 腕の立つ護衛に数人のザコが返り討ちにあうのは必要経費と割り切れる。だが寝床となるこの砦で刺客の類いが我が物顔でうろついているなど、指揮能力を疑われる事態だ。

 ガトードからすれば鈍くて弱いおまえらの自業自得と言いたい。だが山賊団のボスがその本音を言ったらチンピラをこき使えなくなる。


 「だがそれもここまでだ。どうやら結界が完成したようだな」


 単に魔術の輝きを帯びていただけのガントレットに光玉が発生する。続けて光玉に山賊団メンバーたちの状況を表示する光点が砦地図に表示された。


 「なっ!?こいつは・・・・・」


 部下共が寝ているはずの部屋が死体だらけとなっている。あげく警戒を促す伝令に走らせた部下たちまで死亡を伝える灰色の光点へと変わっていった。


 「もしやカオスヴァルキリーとかいう化け物オンナがやってきたのか?」


 ウワサに聞く理不尽。一人だけでも騎士団の小隊に匹敵する戦闘力を持ち。強い人間を求めて徘徊する戦闘狂で混沌をもたらすアバズレたち。


 「ふざけるな。アレは迷宮に潜っておかしくなった冒険者どもの世迷い言に決まっている!」


 そう言い聞かせつつもガトードはかなりの脅威が砦に侵入していることを確信する。既に山賊団の半数が始末された以上、出し惜しみしている場合ではない。


 ガトードはガントレットの機能を強制解放して砦中の部下を呼びつける。

 同時に魔術装備に血を吸われている錯覚を覚えながらも、血走った目で見えない敵を見据えた。


 


 "起きろてめえら!侵入者が潜り込んでいるぞ!"


 砦中に響き渡る怒声。それはウェアルに様々な情報をもたらしす。

 

 マジックアイテムの存在。山賊頭目のいる大まかな方向。そして山賊連中の凶暴性をウェアルに感じさせた。


 風属性のシャドウとして声の響きからどの程度の者が声を出しているか当たりをつける。この感じだと戦場で正面から渡りあうのは危険なレベルだ。今夜の戦果に満足し即座に撤収すべきだろう。


 「だいぶ人数は減らしたしな」


 しかし奴らは人数の多い山賊団だ。弱そうな旅人を物色して荷物だけをかすめ取る山賊パーティーとはわけが違う。間違いなく集落を襲い大きな商隊を皆殺しにして物資を得なければ維持できない規模だ。

 中途半端に痛手を与えても八つ当たりに逆恨み。もしくは〈勢力の回復〉で血の海を作る外道である。


 「やっぱり撤収というわけにはいかないか。スルード。手伝ってくれよ」


 「ギャウッ」


 名前を得た竜爪獣の鬼蜘蛛が応じる。それを頼もしく思いながらウェアルは山賊団を壊滅させる算段を立て始めた。



 数刻後。ウェアルは山賊連中が集まる砦の練兵場をうかがっていた。山賊退治に来たであろうウェアルを迎え撃つため生き残った人員をかき集めた場所。詩ならここでかっこよく突入するのだろう。


 しかしウェアルはシャドウで風の魔術を使うものだ。かっこよく突入する気はないし必要もない。


 "まだ討伐の冒険者はこねえのか"


 "軍は来ててないようだし本当に少人数で侵入してきたのかよ"


 "そう思うんなら寝床に戻るか頭に言ってみればいいじゃねえか"


 ウェアルの耳は集まった山賊連中の話し声をとらえていた。その内容から集合場所に騎士のように突入してこないのを苛立っているのがうかがえる。

 剣豪でもない山賊にしてはガンバッテいるほうだろう。だが集中力が途切れるのにそれほど時間はかからないだろう。


 シャドウの風属性が活躍するのは風吹く屋外だけではない。迷宮攻略や人質救出などのため屋内戦闘も当然こなす必要がある。少なくとも【シャドウの火属性】に感知で劣るなどという無様は見せられない。


 無論、安易な盗み聞きなど許されないが単独での山賊討伐なら使用に問題はないだろう。


 そんなことを考えていたウェアルの聴覚が待ち望んでいたセリフをとらえる。


 「もうこれ以上待っていられるか。こそこそと隠れている奴なら俺様があぶり出してやる!」


 数人の山賊がしびれを切らして侵入者の捜索をしようと修練場から出ようとする。それを押しとどめる声を臆病と罵りつつ奴らは扉にを手をかけた。


 「ここでっ!!」


 そのタイミングにあわせてウェアルは構えをとる。地面の力を足で感じ取りその力を全身に伝えつつも、呼吸と心は冷えて力を解放する瞬間に備えた。


 「なっ!?何だてめえはっ!!」


 「ッ!」


 驚愕と虚勢の混じった誰何の声をウェアルは無視する。代わりに足で踏み込む力を全身のバネに連鎖させて一点に乗せた。


 「・・・・・・・・・・・・・・!!?、!?」


 一瞬の間。その後修練場の中から騒然とした空気が広がっていく。


 「へっ!?、なっ、いったい何が・・・」


 「このカスども!そいつを絶対に逃がすんじゃねぇぞ!!」


 扉を開けたまま事態を把握できていない賊にボス山賊の怒声が叩きつけられる。その怒りぐあいは先ほど砦中に響いたそれの比ではない。

 

 もっともそれも無理はないだろう。勇み足のバカのせいで幹部を失った。


 扉が開けた瞬間に槍が投じられボス自身の身体に風穴が開く寸前の事態を招いたとなれば。

 賊に限らず怒り狂って当然だろう。その声に死の恐怖が見え隠れするのはウェアルの気のせいではあるまい。


 「なっ、こっ・・・」


 「フゥーーーーー。どうした?貴様らのボスは逃がすなとか言ってるぞ」


 「ッ!このっ、死にやがれえっ!!」


 全力の投げ槍を放ったウェアルは呼吸を整え連戦に備える。ついでに呆然として扉を開けたまま固まっている連中に話しかけた。

 とたんに我に返った連中は襲いかかってくる。


 「がっ!」「げべっ!?」


 「ギッ・・・」


 その足下に竜爪獣のスルードが綱を張り転倒させる。小さい鬼蜘蛛とはいえ慌てた連中の足下をはらうロープをはる程度の踏ん張りはきくのだ。

 それによってできた時間は投げ槍の技で呼吸を整えるウェアルにとって値千金となる。


 「仕上げだ『旋風閃』」


 そしてウェアルは切り札の強化能力を発動させる。雷装の加速と比べれば転倒・激突のリスクを抱えている若造の身体強化など未熟もいいところだろう。


 「「「!?!?、!!!」」」


 せいぜいスルードの綱で転倒した連中の急所を踏み砕く程度だ。その勢いのままウェアルは今だ呆然としたままの山賊団に襲いかかった。



 

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