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レッサーシャドウ  作者: 氷山坊主
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アラクネの腹~蜘蛛の逆糸

 クモ竜爪獣たちの脚爪によって身体中をえぐられ貫かれた山賊の頭グムス。

 だがその野望と欲望は止まらなかった。


 「ヒヒッ、寄こせっ、よこせ、ヨゴせぇぇぇ!!」


 死に瀕して死霊術士の才能が開花したのか。今までため込んでいた死者の魔力が暴走しただけではありえない奇跡が起ころうとしていた。


 赤かった血が汚れの濁りに染まり。それらが脚爪を伝ってクモ竜爪獣たちの身体を侵食し始める。


 「ギィッ!?」


 低レベルの知性でも危険を感じたのだろう。グムスに脚爪を刺していた蜘蛛のクリーチャーは離脱を図ろうとする。だが攻めのチャンスと見て覆い被さった仲間たちの身体がその行動を阻み。


 「オレ様の物になりやがれっ!ガイストゲイザー!!」


 ほとんどの竜爪獣が濁った血流に飲み込まれていく。溶かされ噛み砕かれ、捕食された身体がグムスの肉体へと吸収されていき。




 「黙りなさい」


 何かによってその心身は硬直を強いられた。





 

 洞窟の出入り口にたどり着いた山賊たち。竜爪獣の巣と化した元アジトから逃れたと思った彼らを迎えたのは絶望だった。


 「ふん。ずいぶんと生き残ったな」


 「そうですね。霧葉姉さんに何かあったのでしょうか」


 出入り口を塞ぐように4つの人影がたたずむ。

 出入り口の左右両端を塞ぐのはカマキリの頭と手首から先がカマキリの前肢と化している異形の兵が二体。

 中央には軽装をまとった若僧が一人。


 それら二体と一人は脱出を大いに妨げるだろう。だが死力を尽くせば敵わない相手ではない。

 問題はその後ろに控えている存在だ。


 「姉上がこの程度の賊に後れをとるはず無いだろう。そんなことよりこいつらは霧葉姉さんの獲物。ウェアル、殺さずに時間まで足止めしなさい」


 「足止めですか?山賊など即、抹さっ!?承知しました桐恵義姉さん!!」


 上下関係がわかりやすいやり取り。だがそれを笑う愚か者はいない。

 この場で全員の生殺与奪を握っているのが誰なのか。少しでも戦闘経験がある者なら明白だろう。


 そんな腰ぬけたちに一瞥すら与えず短髪のオンナは若僧に話しかける。


 「確かに本来なら賊など殲滅が打倒な害虫。直接間接を問わず抹殺するのが世のためというもの」


 「てめっ!」「ちょ」「黙っていろっ」


 「とはいえ訓練で使う生きたまととしての価値ぐらいはある。


 それに仮とはいえ幹部のかたからウェアルに仕事が命じられた。ならば姉として戦場、魔術の理不尽を教えてやるのもいいと思ってね」


 「・・・ありがとうございます」


 理不尽なら知っていそうな若僧がお礼の言葉を桐恵アネに述べている。

 それを目の当たりにした山賊たちは瞬時に突破口を左右のカマキリモドキに定めた。本当は若僧を狙いたいが、“保護者”の様子からしてそれは自殺行為でしかない。


 そう考えた山賊たちは武器をかまえ、



 「「「・・・ハグッ!?」」」


 いくつかある人体の急所に刺されたような痛みを感じ。服をまさぐって原因を探ろうとした腕が硬直してしまう。


 「なっ!?」「・・ッ・・ッ・・ッ」「これはっ、なっ、ば・・・」


 「もう時間切れ?・・・ということは存外、姉上は苦戦しているな」


 「そんなっ!すぐに救援に行きましょう!!」


 「必要ない。・・・苦戦と言っても手品に驚いたという程度のこと。

  それよりウェアル。よく見ておきなさい。


  “戦闘終了”に気付かない愚か者たちの末路をね」


 「「「「「ッ!?」」」」」


 不穏なセリフと同時に山賊たちは身体をそらす。一、二歩と後ずさりそのまま洞窟へと戻っていく。ナニかに引きずられていく。


 「これはっ!?」


 「フッ、行くぞ」


 地獄へと引き戻されていく。これから本当の地獄が始まる。

 そんな考え、確信が胸中で渦巻きながら山賊たちはアジトだったところへ強制的に移動させられた。






 「なっ、こ、これはいったい?」


 「ふうん、たいしたものだねぇ。この状態でしゃべれるなんて。

  魔術師には吸血鬼、リッチと化す秘術があるというけれど。


  私の使う本当の術技に抗うなんて。新種・未知のアンデットかしらぁ?」


 竜爪獣を開発するため普通?の女シャドウに擬態していた霧葉。力を制限し暗示をかけて変身していた精神の殻が割れていく。

 それに伴い本来の口調と力が急速に覚醒する。


 「クソッ。蜘蛛糸の呪縛かっ!こんなもの引ちぎっでっ!?」


 力技をふるうと言いつつグムスはアンデット化に伴う増大した魔力で侵食を行ってくる。

 その判断は悪くはない。着衣が牙をむいたら大英雄すら詰んでしまうのだから。


 だが正確な状況を理解できず。不意を突かれ。

 魔術が想像の埒外にある以上、山賊ボスは既に詰んでいた。


 「ほ~らほらぁ。ガンバりなさい男のコ。貴様が今まで踏みにじってきた人々が、あの世から手招きしているわよっ」


 「クソがぁ!!!」


 怒声をあげて闘志をかきたてつつも、思考をめぐらす。配下をモンスター狩りで鍛えた山賊頭の胆力はなかなかに高い。

 

 しかしそれでも霧葉の本気である『アラクネ・シン』による拘束と複合攻撃から逃れることはできなかった。


 《半人半蜘蛛》な亜人モンスターのアラクネとは異なる。


 かつて女神に織物の勝負を挑んだ。仮にも競う資格ありと認められた。染め物、織物職人として神話に名を残す希有な存在。

 蜘蛛に変えられる以前の英雄職人『アラクネ』に通じる糸に山賊どもが対抗できるはずがない。


 「しょうがないなぁ。何をされて“いた”かわからない脳筋クンにヒントをあげる。


  アラクネは織物の乙女?そして君たちは何を着ているでしょ~うかっ!」


 「………・・・!?」


 「ハイ、答え~。略奪で入手し、適当に扱っていた穴だらけ(ぼうへきゼロ)の衣服。

  顔をあわせてから呪縛の糸をぬって織る時間・隙間はいくらでもあったわよ」


 武具とそれを鍛える鍛冶師を侮る戦士。鉱石とそれを掘る鉱夫を軽視する職人が大成することはない。何故なら腕を磨く以前に傲慢の落とし穴にはまるから。


 それと同様かは微妙だが。服飾の技を認識すらせず、糸を紡ぐ女性の苦労を踏みにじる。

 死体から着衣をはぎ取る山賊どもが『アラクネ・シン』の術理を見抜けないのは当然のことわりだろう。


 「・・ッ・・カッカシ」「ハグゥ!?ヤ、ヤメッ」「ヒギィ!!!」


 「答えられなかった山賊たちに恩赦はなしっ!罪を償うため呪詛の糸を作り続けてもらいま~す」


 糸車に巻き取られるように。金縛りの呪縛を受けた山賊の子分たちが霧葉の前に引きずられ、たぐり寄せられる。

 連中の動きを封じているのは蜘蛛糸による拘束だけではない。


 霧葉の魔術によって鎧の強度を与えられた衣服。本来、身を守るはずのそれは、逆に装着者を拘束する呪具と化していた。

 疲労が増大するよう皮膚・筋肉に刺激を与える。呼吸を妨げるよう胸部を圧迫し。あげく針の強度を付与された一部の繊維は急所を突いた。


 「本来は人を癒やし、ダメージを防ぐ技術だけど。

  人を踏みにじり惨殺、殺戮する賊たちがその恩恵を受けるなんておかしいよねぇ」


 「ガッ!?ま、待て。俺たちはそんなに殺しなっ、ギャ~~~!!!!!」


 餓死者が普通に出る食糧事情。はした金で人命が売り買いされる世界において。流通を妨げる山賊行為は即、貧困にあえぐ人々の生命に直結する。

 そもそも肉食獣モンスターは弱い獲物を狩るものだ。命“だけ”は拾っても負傷した旅人が町にたどり着ける可能性は限りなく低い。


 「というわけで。山賊の皆さんには地獄に落ちてもらう。せいぜい苦しみながら落ちてねぇ」


 「「「ヒィッ!?」」」


 地獄に引きずり込まれる。霧葉の宣言に山賊の誰もがそう確信しただろう。

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