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レッサーシャドウ  作者: 氷山坊主
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アラクネの腹~山賊たちの逃走

 「オラァァー‼どけぇー!!」


 山賊の頭グムスの怒声とともに出入口を封鎖していた障害物が破壊される。


 それを目の当たりにした部下たちは喜色を露わにした。複数のクモ怪物とそれらを操る魔女の猛威から逃れられる。

 誰だって死にたくない。ならば逃走路が開通して嬉しくない者は少数だろう。


 「このアジトはもうダメだ。野郎ども脱出するぞ!!」


 「へい、頭!」「ま、待ってくれ。足がっ、俺の足がぁ!」「ひぃ、ヒィーーー」


 だがこの拠点にはその少数が山賊メンバーの三分の一以上もいた。

 シャドウ女のギミックによって重傷を負った奴。洞窟の天井から落とされた魔術の落石によって心が折られたモノ。そういう連中はせっかくの逃げ道を利用できず、物言わぬ肉塊と化していく。



 「その顔は覚えたぞ。いつか必ず復讐してやる」


 「・・・・・」


 そしてグムスの胸中も逃げ道を作った喜び、安心の感情など無く。

 報復よりも逃走手段を考えることに知恵をしぼっていた。


 そもそもグムスの所属する闇ギルドを襲ったシャドウは組織集団だろう。その規模までは不明だが、目の前の魔女と数人だけのパーティーということはあり得ない。

 なんとかこの洞窟を脱出できても包囲が待ち構え、無数の追っ手が放たれるのは確定している。


 「イヤだっ!置いてかないでくれっ、俺も連れてっ!?」「頭、カシラァ!!」「ギャァーーー」


 だからグムスは自分が逃げおおせるため。捨て駒どもの士気をわずかでも維持するため復讐の言霊を放つ。


 「てめぇらの無念は忘れねぇ。だから今は力を貸せ!『スペクター・コート』」


 殺された部下たちの魔力をかき集めてシャツとズボンを呪われた装具に変える。

 そうして魔女を威圧しつつ生き残った部下たちと共にグムスは出口へと駆けていった。



 


 山賊の頭グムスとその配下たちの背中を見送ってから。

 霧葉は改めてアジト奥の広場につながる出入り口を封鎖する。


 「ヒィッ!ヒィーー!!」「降参するっ!だから命だけはっ!?」「やめろっ、やめてくれっ!」


 「アナタたち。そう言って助けを乞う人々を何人殺してきたか覚えてる?」


 死霊魔術を使う狂戦士まがいのボスが率いる山賊団。その経歴は血塗られており。

 悪徳の都と連携することにより、間接的に破滅させた者も含めればその犠牲者は膨大な数に上る。


 「まあ闇ギルドは失敗した者は死の制裁。上納金を横領した者も見せしめに死刑。


  だったらギルドルールで私がアナタたちを処分しても問題ないわよね」


 「待て、待ってくれ!何でも話す。だからまっ、」


 目をせわしなく泳がせながら、急に能弁になった山賊の顔面に霧葉はアラクネクローを放つ。顔面にとりついたアラクネはその爪脚を閉じ。ウソを考えていたであろう顔面を削りとって永久の沈黙を強いる。


 「アナタたちは全員この洞窟を墓場にすると決まっている。それが姫長の御意思よ」


 「なっ!?そんな・・・」


 処刑が覆ることは無い。その宣告に半死半生で倒れ伏す山賊たちは絶望のうめきをあげる。

 

 しかしそれらを聞いても霧葉の胸中にさざ波が立つことは無い。モンスターよりタチの悪い山賊の哀願など獣の鳴き声にも劣る。

 

 何よりシャドウは正義の味方ではなく、お館様に臣従する戦闘集団なのだ。この外道たちを見逃して主の利益になることなど一欠片もないとなれば。


 「安心しなさい。これ以上は苦しめないで殺してあげる。

  苦しんで死ぬことが確定している連中に比べれば。マシな最期を迎えさせてあげる。

 『繰邪巣』この洞窟をケダモノ以下が眠るひつぎと化しなさい」


 「「「「「「・・・・・っ!?」」」」」」


 山賊共の命乞いをもてあそびながら霧葉は固有の【静音詠唱】によって魔術式を構築していた。その効力により地面に転がる落石に再び魔力が込められ。石刃の魔弾と化して山賊たちの頭蓋や胸部に刺さり砕く。


 彼女の静音詠唱は手指による印形とクモ竜爪獣による合わせ技。指による印で練った魔力をアラクネに伸びる糸に流し、霊糸の《弦》で増幅したものだ。

 これにより竜爪獣を通じて魔術の射程を伸ばしたり。数体のアラクネ竜爪獣で糸の結界・巣を編み上げて、より複雑で強力な術式を発動することもできる。


 「だけど屋内、狭所でないと効果が低い。というか侵攻には使えないなぁ」


 はっきり言ってシャドウの実戦に耐えられる水準の術式ではない。そのことを残念に思いながらも霧葉は塞がれたはずの出入り口を凝視する。



 その目は次のエモノを的確に捕捉していた。


 

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