ネメシスアラクネ
山賊。都市に巣くう盗賊ギルドから爪弾きにされて山暮らしをする強盗団。
奴らをそう言って侮蔑する者は少なくない。そしてそれは事実であり誤りでもある。
確かに裏世界からも落伍したゴロツキが山賊と化すことは珍しくない。とはいえ賊といえど成長の可能性がゼロになる呪いがかかっているわけではないのだ。
「ッ!、おいっ!」
「ああ、わかっている。俺たちだけで仕留めるぞ」
山とは人間の領域外だ。つまりそこには獣やモンスターが棲息しており。それらが安全地帯と思っていた拠点に迷い込んくるリスクは山村の比ではない。
「チッ、この感じは虫系かよ。久しぶりに肉が食えると思ったんだが」
「黙っていろ。クズ肉ならオオカミを誘うエサにすればいいだろうが」
要するに一部の山賊たちはモンスターを狩って強くなる。
モンスターを返り討ちにして獣を狩れる山賊団は元のゴロツキとはかけ離れた戦闘力を得てしまうということだ。
そんな山賊連中にとって人間の半分サイズなモンスター1匹など見張りの片手間に倒せる、大事な食料にすぎない。今までならば。
「!?何だこいつは?クモなのか?」
「足が多いんだ。クモに決まっている!」
彼らは知らない。アラクネ竜爪獣というものを。何よりそれを作り使役する霧葉という存在を。
竜爪獣ネメシスアラクネ。その視界で二人の山賊が武器を構えていた。前衛は槍でその後ろに斧を持つ男が控えている。
槍のリーチをいかしてダメージを与えるか、柄に牙を噛ませて動きを封じ。そうして控えている斧使いが必殺の一撃をたたき込む。下手な冒険者よりよっぽど堅実な戦法であった。
そんな山賊二人の陣形に霧葉の使役するネメシスアラクネが迫る。竜爪獣の接近スピードに回避されることを恐れたのだろう。
槍使いは牽制の突きを数回放ってから進路をふさぐ防御の構えをとった。
「ギウッ」
そのにわか門番にネメシスアラクネは突進をかけ。その寸前で移動方向を直角に変えた。
「なにっ!?」
驚く声を相手にせず。竜爪獣はさらに直角軌道を走り、斜めに上がった槍の下をくぐり抜けていく。
その向かう先には山賊アジトの入口があった。
「このヘボがっ!」
「っるせぇ!!」
罵りながらも斧を持つ山賊がネメシスアラクネの進路をふさぐべく走る。そうして竜爪獣に対して斧を振り抜いた。
「・・・・・」
慌てて走ってからの重量武器である斧の攻撃。しかも地に伏せながら駆けるクモ型竜爪獣に攻撃を当てるための下段攻撃ともなれば。凡百の賊にまともな一撃を放てるはずもない。
その牽制以下の攻撃をやすやすとかわし、霧葉の竜爪獣は山賊の足下を走り抜けた。
「こいつっ!待ちやがっ・・・へっ!?」
あわてて振り向き追おうとした山賊の視界に地面が迫ってくる。続いて顔面に衝撃、片足に焼けつくような激痛が走った。
「なっ!ばっ!!!」
「オレの足、オレ様の足がっ、カッ!?」
槍を持つ山賊は動揺で忙しく。片足を切られ地べたに倒れ伏した山賊の上を反転したネメシスアラクネが走っていった。
走り抜けざま脚と一体化した竜爪の刃で首筋をえぐり、残った山賊に襲いかかる。
「よるなっ!この化け物べぇ!?」
その反撃をこころみた山賊の両足が突然もつれて束ねられる。足に痛みはないものの顔面を地面に打ちつけ、その衝撃にのたうちまわろうとした。だが回避も兼ねたその動きはままならない。
「ちくしょうがっ!ッ!?なんだコレはっ!」
槍持ちの山賊にからみついて動きを阻害しているもの。その正体はネメシスアラクネの臀部から伸びた糸だった。
「うん。山賊相手ならこんなものか。私の魔力じゃ修復もひと苦労だし安全第一で行きたいね」
「!?」
より正確には竜爪獣が山賊のわきを通り抜けた際に設置した糸による地伏の結界。
両端をそれぞれ霧葉とネメシスアラクネが引っ張っている魔弦であり線の結界だ。
「てめぇ、このアマほどきやっ、ガッ!ギィイイイイイ」
よって当然、下っ端の山賊が振りほどけるような代物ではない。その結界線は繭糸の術式で全身の呼吸を阻害し、アイテムの鋼糸でその塊を締め上げる。
亜人モンスターすら圧殺した。複合関節技と大蛇の締めつけを両立させた螺旋によって山賊の口から獣の声がしぼり出される。
「"このアマほどきやっ"。その後なんと言ったのかしら。はっきり言わないとわからないわよ」
呼吸難の状態で自らの全身が圧迫されきしむ音を聞かされる。そんな有様でまともにしゃべるどころか思考すらままならないのは明らかだ。
とはいえモンスター狩りによって暴力の牙を研いだ連中の身体能力は高い。この方法では楽になるのに時間が必要だった。
「ぐっ!?ガ、ガァァァァァ!!!」
その時間は男に走馬灯を垣間見せる。山賊稼業で嬲り殺しにした旅人たちの顔が浮かんでは消え、やがて自分の顔が彼らに重なってゆく。
「ちなみに命乞いを認める気はないわ。貴様たちに許されるのはせいぜい醜態をさらして同類をおびき寄せることだけ。
貴様らもやってきたことなんだから文句はないわよね」
「(やめろっ、やめてくれっ、やめてください!)」
命乞いの響きを聞きながら霧葉と竜爪獣が両端を持つ糸に力が込められていく。そして骨のきしむ音は折れる叫びへと変わっていった。




