大歓迎ー2
紾の携帯から友人である世瀬のメッセージが届いた事で、お疲れ様会&プチ歓迎会はお開きになった
実際には、何となくメッセージの内容に勘付き、気を使った黎ヰが後片付けを引き受け、帰るように言ったのだった
遠慮した所で押し問答になりそうだったので、紾は有り難く甘えさせてもらい、先に帰った
異常調査部内には、紾を除いた三名が残っていた
言葉通りに黎ヰは、せっせとハサミを使いこなしながら、後片付けをしている。それを横目に芥は、力無く机の上に上半身を倒す
芥 昱津
「…黎ヰ…くん、色々と…お疲れ、さま」
芥の言う"お疲れ様"の意味を理解し、椅子に座りのんびりと寛いでいた曳汐も同意した
曳汐 煇羽
「実際にはこれから…なんですけどね。本当に手伝わなくて良いんですか?」
黎ヰ
「ここからは俺の独断だからなぁ、異常調査部の仕事じゃねぇし、帰るついでだ。問題ねぇーよ」
曳汐 煇羽
「そうですか…では、お言葉に甘えさせて頂きますね」
芥 昱津
「うん…ぼく、も…」
"帰るついで"に黎ヰがしようとしている事…それは、被害者達のお墓参りだった
廃校舎で殺害されてしまった二人の青年達に、事件の全貌を報告をする。遺族達には本当の事を伝えてしまうと、命を危険に晒してしまう危険性がある。だから今は、警察が都合の良い様に作った報告をするしかできない
死人に口なし…と言う訳ではないが、せめて本人達にはどうして殺害されてしまったのかを知る権利があるし、関わった人間として手を合わせてあげたい
これは、殺人事件を解決する度に黎ヰがしている事だった
照井ユミに関しても緊急事態の為、特別司法解剖が許可されていたとは言え、大切な娘の死体を切り裂いたのだ。本人や遺族達に頭を下げるのは当たり前だろう…
だが、今回はそれだけでは終わらない
馬場が絡んだ過去の事件…ニュースを見る限り警察はうやむやにしたい様だが、黎ヰはお構い無しだった
アリババが罪をなすりつけた所為で、人生を狂わされ短い一生を終えてしまった青年…彼の無念をこのまま蔑ろに出来ない
だから黎ヰは、この事を記者にリークした
内容がどうであれ、判決が下され当人が亡くなった今、馬場の証言があったとしても、罪に関してはどうにも出来ないだろう…
だとしても、遺族や同級生達には本当の事を伝え彼が無実なのだと伝えなければならない。何もしていない彼は、大勢の人間に責められ、卒業アルバムにすら載る事が出来なかったのだから
本来なら、これは黎ヰのすべき事ではなく、完全に自己満足の行動だと自身も認めていた。今更過去の事件を掘り返しても、遺族達の傷口を広げるだけかもしれないし、マスコミにリークした事により余計な注目を浴びてしまうかもしれない
遺族達に恨まれる可能性だって大いにあるし、むしろ当たり前だと思う。だからと言って黎ヰは、無実を有罪のままにしておけない…
葩永はそう言った黎ヰの思考を最初から読み、電子の卒業アルバムもどきを彼に渡したのだった
救えなかった命にせめても、彼の写った思い出の写真をと…
理由がどうあれ、今回の行動は同職である警察官にかなりの恨みを買うだろう。遺族達に関してもいい結果を生むとは限らない
黎ヰ
(それを理解して実行してんだ、まさしく異常だなぁ)
なんて事を思う黎ヰだった
曳汐 煇羽
「では、私もそろそろ帰宅しますね」
帰りの支度を済ませた曳汐は、当たり前のように黎ヰがまとめたゴミの袋を持つ
曳汐 煇羽
「せめて、これくらいはさせて下さい」
片付けも全て自分でやってしまえる黎ヰに、曳汐や芥はちゃんと理解していた。だからか、二人は本当の意味で黎ヰが限界を超えてしまう前に、気づき支えようとしているのだ
黎ヰ
「あんがと」
そんな二人の心情に黎ヰは気付いていた
芥 昱津
「紾…くん、も…増えたし…これから、は…よん、等分だね…」
黎ヰ
「だなぁ、紾ちゃんは人の隙間に入るのが上手いからなぁ〜、無意識だけど」
相手を否定せず、理解しようと懸命になる。そんな人物は中々居ない
誰だって、自分の常識から逸脱した事を目の当たりにすれば、先に否定し拒絶反応を示す
だが、蔡茌紾と言う人物は、どんな人間であれ"何故"を考える
"何故"そんな事を言うのか、"何故"そうするのか、拙いながらも相手を理解しようと考えてしまうのだ
黎ヰ
「訓練士で実績上げてた理由が分かるなぁ〜」
曳汐 煇羽
「でも、本当に良かったんですか?」
ふと、曳汐がそんな事を言った
芥 昱津
「ぼく、は…いいよ…多分、いい人…だから…目が真っ直ぐ…だ、もん」
曳汐 煇羽
「私も蔡茌さん本人に関しては、特に問題ないんですけど…でも、異常調査部を潰す為のスパイなんですよね?」
紾がスパイ…きっとその事は本人ですら気づいていないだろう。だが、事実なのは間違いなかった。
でなければ、本人の意思を無視した急な部署移動などあるはずもない
紾の人の良さを利用し、内部を探らせ弱みを掴み一気に潰す気だ。
狡猾とも言えるその人物は先程、紾にメッセージを送り、早速今回の事件について根掘り葉掘り聞く気だろう
黎ヰ
「言ったろ?大歓迎だってなぁ」
全てを知った上で、黎ヰはニヤリと笑った
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その日の夜
友人である世瀬の急な呑みの誘いに、紾は乗った
夜になれば、怪我は引き疲れも薄らいでおり紾は軽い気持ちで待ち合わせ場所へと向かっていた
蔡茌 紾
「それにしても、週末って言ってた癖に…世瀬の奴どれだけ呑みたいんだ」
漏れた独り言に反応するかの様に、背後から声が聞こえた
世瀬 芯也
「悪かったな。昨日の意味の分からん休日出勤で溜まってたもんでな」
振り返り、友人の顔を見ると紾は苦笑いを返した
蔡茌 紾
「そうか。俺も怒涛の二日で死にそうになってたんだぞ」
一瞬、大袈裟な表現かとも思ったが振り返ってみると、死にそうだったのはあながち間違いではないし、むしろそれ以上の思いもしていた
蔡茌 紾
「本当に大変だったよ」
世瀬 芯也
「そうか!そうか!親友想いの俺が聞いてやるよ!」
紾の反応を見て、愉快に笑いながら世瀬は肩に手を伸ばした
蔡茌 紾
「なんで上機嫌なんだ?気持ち悪いな」
世瀬 芯也
「当たり前だ、こうやって呑むのは久々だからな。色々とお前の話聞かせてくれよ」
この時の紾は、彼の真の言葉の意味を知る事はないまま、素直に返事を返したのだった
蔡茌 紾
「あぁ、分かったよ。とことん付き合ってもらうからな」
まるで鷹が獲物を見るような、そんな目で世瀬は紾を見やると、もう一度愉快に笑った
異常調査部〜廃校幽霊殺人事件〜【終】




