カルテ【04】:看板娘と侵食するチョーカー
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名前:モニカ
年齢:十九歳
性別:女
職業、身分:ウェイトレス
呪いの装備:チョーカー
症状:血流の悪化、思考力の低下
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「よく来てくださいましたね、モニカさん。どうぞ、楽になさってください」
俺は、少し緊張した面持ちで扉をくぐった彼女に、なるべく柔らかい声で語りかけた。
指定の制服なのだろう。フリルがあしらわれた可愛らしいウェイトレス姿の彼女は、落ち着かない様子でモジモジとスカートの裾を握りしめている。
内気な性格が所作から滲み出ているが、その控えめな態度とは裏腹に、制服の胸元は豊かな双丘によって窮屈そうに押し上げられていた。
だが、俺の視線は彼女の首元に注がれる。
彼女の細い首には、黒い革製のチョーカーが、まるで獲物を絞め殺す蛇のように深く食い込んでいた。
「あ、あの……よろしくお願いします……。最近、ずっと頭に靄がかかったみたいで……それに、指先は氷みたいに冷たいのに、首の周りだけが異常にひりひりして……」
「ええ、極端な血流の悪化と、魔力の停滞を示すサインですね。さっそく状態を確認しましょう。こちらのソファーへ」
俺は彼女を促し、横に立つ。
「少し、首元を見せていただきますよ」
「は、はい……」
モニカが震える手で、背中まで伸びた豊かな茶色のロングヘアをゆっくりとかき上げる。
ふわりと、彼女が働くカフェのものだろうか、焙煎された珈琲と甘いバニラに、過度の緊張による汗の香気が混じり合って立ち昇った。
露わになったうなじから首筋にかけての白く柔らかな肌は、チョーカーの過剰な締め付けによって痛々しいほど鬱血している。
周囲の血管が無理やり魔力を吸い出され、ピクピクと不気味な異常拍動を繰り返していた。
俺は術式メガネのスイッチを深く押し込んだ。
カチリと硬質な音が鳴り、レンズ内に血流と魔力の逆流を可視化するフィルターが展開される。
彼女の首に絡みつく赤黒い瘴気が、ドクドクと拍動しながら生命力と魔力を貪り食っているのがはっきりと映し出された。
「搾取型……ですね。チョーカーがモニカさんの魔力中枢から力を直接吸い上げ、そのエネルギーでさらに締め付けを強めている状態です」
「さく、しゅ……?ど、どうすれば……」
「大丈夫です。今から至近距離で波動を同調させ、奪われている以上の魔力を頸部へ強引に注ぎ込みます。そうして、呪いの核を叩き出します」
俺は対呪グローブを両手にはめ、深く息を沈めた。
「少しばかり……魔力が衝突する反動で、強い刺激が走りますが、我慢してください」
「んっ……わかり、ました……」
俺はグローブをはめた両手の指先を、深く食い込んだチョーカーの縁にそっと滑り込ませた。
「ひ、ぃっ……!」
触れた瞬間、モニカの肩が大きく跳ね、ウェイトレスの制服に包まれた豊かな胸がブルンと揺れた。
極度に過敏になっていた首の知覚が、俺の魔力の接近に対して強烈な拒絶反応を示したのだ。
俺は構わず、彼女の首元から奪われている魔力と同調させ、そこへ自身の魔力を楔のように打ち込み、一気に押し流す。
「あ……っ!あ、がぁっ……!」
抗う呪いとの強烈な反発力で、対呪グローブがビリビリと細かく震える。
同時に、神経の奥底を直接揺さぶられるような異常な過負荷に、モニカの華奢な身体が制御不能な痙攣を繰り返し始めた。
「んんっ、は、あぁっ……!あたま、ぐらぐら、しますぅ……っ、くるし、い……っ!」
彼女の顔は急速に紅潮し、意識が白濁していくのがわかる。
認識の境界が曖昧になり、濁流のように注ぎ込まれる魔力が、完全に彼女を魔力酔いの底へと突き落としていた。
「ゔ……っ、う……っ!」
彼女はソファーのクッションを両手で強く握りしめ、酸素を求めて喉の奥で笛が鳴るような引きつった呼気を漏らし続けている。
革に食い込んでいた脈打つような血管が、俺の魔力に圧倒されて徐々に落ち着きを取り戻していく。
赤黒い瘴気の奥、彼女の喉仏のすぐ傍に、肥大化した脈打つ核を見つけた。
俺の干渉を察知した核が、さらに奥の頸動脈付近へと逃げ込もうと蠢動する。
俺は無言のまま、彼女の首の側面を反対の手で強く挟み込み、魔力の止血帯を形成して核の退路を完全に遮断した。
「だめ、あ、やだぁっ……!首、首がぁっ……!」
「動かないでください。迷走神経に干渉し、強制的に緊張を解きます」
暴れる彼女の頸部へ直接、重く冷たい魔力を落とし込んだ。
意識のレベルが強制的に引き下げられ、硬直していたモニカの身体がふっとソファーへ沈み込む。
抵抗が失われた直後、皮膚のすぐ下まで追い詰められた脈打つ核を、俺はグローブの二本指で正確に摘みむ。
指の間で核がびくびくと脈打ちながら逃げるように蠢いている。
俺は指先にグッと力を入れ、脈打つ核を、そのまま容赦無くぐにゅりと潰した。
「あ゛、か……っ!!」
モニカの口から、声にならない掠れた悲鳴がこぼれる。
直後、バチンという乾いた音と共にチョーカーの留め具が内部から弾け飛び、床へと転がり落ちた。
核を失った不吉な瘴気は、音もなく完全に霧散していく。
「……か、はっ……こほっ、こほっ……!」
魔力酔いの激しい眩暈と解放感の狭間で、モニカは気道を確保するように首を前に出し、大きな胸を上下させて荒い咳き込みを繰り返している。
呪いの装備は外れたが、彼女の白く柔らかな首筋には、無残な鬱血の跡が赤々と残っていた。
だが、解放された首元は、汗の蒸気がたちこめそうなほど熱く火照っているように見えた。
俺はワゴンから、炎症を抑える透明な冷却魔力ジェルを指に取り、彼女の赤く腫れた首回りへ、滑らせるように薄く塗布していった。
「……もう大丈夫ですよ。瘴気の搾取は完全に止まりました」
首元に広がるヒンヤリとしたジェルの感触に身をよじらせたのち、彼女はゆっくりと瞬きを繰り返し、自身の首にそっと触れた。
「……苦しいの、なくなりました。頭にかかっていた靄も……嘘みたいに、スッキリして……」
血流が正常化したことで、潤んだ瞳に確かな理性の光が戻ってくる。
制服の乱れに気づいた彼女はハッとして胸元をかき合わせ、恥じらいから耳の先まで真っ赤に染め上げて深く俯いた。
「あ、ありがとうございます……わたし、すごく、みっともない姿を……」
消え入りそうな声で呟くその姿には、先ほどまでの呪いに苦しむ姿はなく、年相応の純朴で内気な彼女らしさが戻っていた。
「気にすることはありません。魔力酔いは生理現象ですから」
俺は業務用のカルテに手早く所見を書き込みながら、穏やかな西日が差し込む部屋の空気を入れ替えるため、静かに立ち上がった。
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