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残念英雄のサエナイ様!〜ゲームの世界ならチートで無双できると思った?〜  作者: 瀬野 或
一章 傾きだす天秤〝主島リストルジア、判決編〟
21/21

#21 魔族の暴走、強襲。


 気がつくと招き猫の自分の部屋のベッドに寝かせられていた。体が思い通りに動かない、どうやら熱もあるようで怠さもある。風邪に近い症状だ、喉の痛みもあったら確定だけどそこまでではない。

 窓のカーテンは開け放たれているので、青空がよく見える──俺は、どうして自分の部屋のベッドに寝かされているのだろうか、と、数秒考えて、そういえばイーダンと戦闘になって勝利したまでは記憶があるが、それ以降の記憶が曖昧なことに気づいた。


 あれからどうなったんだ──?


 ベッドから起き上がろうとするが、思い通りに体が動かない。これではまるで二日酔いのサラリーマンだ──二日酔いがよくわからないけど、多分、こんな感じなんだろう。


『目が覚めましたか……よかったです……っ』


 この声はフィレか……、なんだかいつもより遠くから声が聞こえる。いや、なんだかエコーがかかっているようで聞き取りづらいといったほうが正しいかもしれない。

 返事をしたいのは山々だが、喋るのも億劫なほど体力が削られているようだ。

 枕元にある小さな小物入れ程度のテーブルには、魔法薬の空き瓶が数個、転がるように置いてある。曖昧な記憶を辿ってみると、誰かが俺の名前を呼びながら飲ませてくれている情景を思い出した。


『ラッテさんが必死に看病していましたよ……』


 そうか、俺の名前を呼びながら魔法薬を飲ませてくれたのはラッテだったのか、あとでお礼を言っておかないとな……。


『なにもできなくて、ごめんなさい……』


 気にするな──と、伝えたいのだが、この状態ではそれを伝えるのが困難だ。フィレは優しいから、きっとかなり申し訳ないと思ってるだろう。それを裏付けるように、フィレの声が潤んで聞こえた……まあ、それもエコーがかったような声になっているので、推測に過ぎないのだが。

 今日はレイティアとアデントン公に、得た情報の報告をするために城へ向かわなければならないが、こんな状態では行けそうにない。そもそも、イーダンから情報を得るために戦闘したのに、力尽きてしまったがために情報を聞き出せていない。つまり、失敗だ──。

 俺は一体なんのためにここまで必死に動いてきたのだろうか……いくら俺が頑張ったって、成果が伴っていなければ無意味。骨折り損のくたびれ儲け、とは、よくいったもんだな。


 なんて、諦めてたまるかよ──ッ!!


 ここまで頑張ってきたじゃないか、ヘタレだった俺がここまでできたんだ、最後まで責任を果たしたい。

 ベッドから這い出るようにして立ち上がった俺は、ベッドの足元に転がっているポーチの中から万能回復薬エリクションを取り出して一気に呷った。相変わらずの不味さだ、変に甘いところが葛根湯の味を連想させる。でも、妙薬口に苦しというし、不味い薬ほど効果を期待できる──うん、寝起きよりは体を動かせるようになった……気がする。


『レオさん……大丈夫ですか……?』


 俺はフィレの元へ行き、蓋部分を撫でてやった。


「もう大丈夫だ、ありがとな」

『は、はわわ……そ、そんな……とんでもないです……っ』


 いつの間にかエコーがかっていたフィレの声も、ようやくしっかりと聞き取れるようになった。もしかすると自分の魔力が不十分な場合、魔族の言葉を上手く聞き取れなくなるのかもしれない。完全に聞き取れない状態になると厄介だし、これからは魔力の管理もしっかり行っていかなければ……。

 魔力は回復したのだが、後遺症が全て消えたわけではない。未だに足はフラつくし、なんとも言えない気持ち悪さが体を支配している。しかし、それでも休んでいる場合じゃない。イーダンを探して情報を聞かなければ、と、重い足取りで部屋の扉を開けた。

 朝に目を覚ませたのが不幸中の幸いだ、もし午後まで眠っていたら、イーダンを探すことも、情報の報告もできない。

 手摺りに掴まりながら階段を下りて、忙しなく働いているモラの背後から声をかけると、テーブルを拭く手を止めて笑顔を向けてくれた。


「おはようございましゅ!! ……ございましゅ!! ……えへへ?」

「あはは、相変わらず噛み噛みだな。おはよう、モラ」


 一度は笑顔を見せてくれたモラだったが、その笑顔は直ぐに心配そうな表情に変わった。


「あの、体調は如何ですか?」

「大丈夫だよ、いつも迷惑かけて悪いな」

「いえ!! 迷惑だなんて思ってませんから気にしゅないでくださいっ!!」

「あ、ああ……」


 また噛んでいたけど、ツッコミ過ぎるのも可哀想だよな……。


 こうやって心配させてしまったのはこれで何度目だろう、きっと、アリアージュさんやアーマンさんも俺のことを心配してくれているに違いない。いや、招き猫に滞在しているシュガーやレイナードも、俺のことを心配してくれていたかもしれないな……あれ? そういえばシュガーもレイナードも姿を見ないが、どこかに行っているのだろうか?


「シュガーとレイナードはどこにいるかわかるかな、ふたりに用があるんだけど……」

「おふたりでしたら、もうハルデロト城に向かわれましたよ? なんでも〝北の騎士団長の話を聞く〟とかで……」

「北の騎士団長……イーダンかッ!!」

「あ、その方です。昨日の夜、レオさんを背負ってここまできたあと、シュガーさん、レイナードさん、そしてラッテさんと話をされていて……今日の朝、レイティア様を交えてなにか重要なことを話し合うとかなんとか……」

「……っ!?」



 完全に出遅れた……クソ、どうして起こしてくれなかったんだッ!!

 今から向かえばまだ間に合うか? って、迷ってる暇はないぞ!!



 俺は踵を返して招き猫から出ようとしたが、先回りしたモラが両手を広げて行く手を阻んだ。


「モラ、どいてくれないか」

「そんなボロボロの体でなにができるんですか、おふたりが声をかけなかった理由がわからないレオさんじゃないでしょう!?」

「は、はい……」


 もの凄い剣幕で怒られてしまった──いつも優しいモラだけど、そんなひとに怒られるって相当だよな──そう考えると結構凹むわ……。


「わかってくれたのなら大人しく部屋で寝ててくださいね? 元気がでる食事を部屋に

お持ちしますからっ!!」


 それにしても、モラってこんなに強い感情を露わにするような子だったか?

 気の強い性格ではないけど、しっかり者なのは確かだ。それは今までモラが一生懸命働いている姿を見ていれば一目瞭然だけど、ここまで俺に感情をぶつけてきたことは今まで一度もなかった。それが『気遣い』からきているのは百も承知だ、だから俺は素直に部屋に戻ることにした。


 俺抜きでも、皆が上手くやってくれているだろう──。

 

 元々交渉なんてしたことないし、他人とコミュニケーションを上手く取れなかった俺がここまでなんとかやれたんだ、だから、少しくらい休んだっていいよな?





 部屋に戻るとベッドに倒れこんだ。

 

(休み、か……)


 この感じ、いつ以来だろうな。


 引きこもってからは休みという概念が俺の中から無くなって、不規則な生活をずっとしていたけど、こうやって久しぶりに『休日』という感覚を味うと、これはこれでいいものだと感じる。

 窓の外は快晴、このまま弁当を持ってピクニックにでも行きたい気分だ──体調が良ければの話だけど。

 しばらく天井を見つめながら呆けていると、ノックの音が飛び込んだ……モラだろうか?


「レオさん、朝食をお持ちしましたっ!!」

「ありがとう、今開けるよ」


 部屋の扉を開けると、木製のトレーに小ぶりの鍋を乗せて、それを両手で持っているモラがいた。約束通り、朝食を持ってきてくれたのだろう、鍋の隙間から良い匂いが漂っていた。


「あ、あの……中に入ってもいいですか?」

「え? あ……えっと……」


 俺はチラっとフィレを見た。

 フィレは周囲にくる人間に【魅了(チャーム)】という魔法を自動発動してしまう。この魅了という魔法は一応『バッドステータス』に属する魔法で、この魔法を受けたものは術者に対して一時的に『恋愛感情』を抱かせてしまう。しかもその感情は『恋は盲目』という言葉通り盲目的な恋心なため、術者の言いなりとなる恐ろしい魔法だ。トラップボックスがこの魔法を発動するのは自己防衛と獲物の捕食──ということだったけど、フィレは『空気中に漂う魔力を栄養源にしている』と以前言っていたので、捕食というのは違うのかもしれない──まあ、トラップボックスも様々だし、人間を好んで食べるやつがいても不思議じゃないが。

 そんなことを考えていると、フィレが俺の考えを読み取ったように話かけてきた。


『大丈夫ですよ、シュガーさんが強力な魔力結界を張ってくれているので……』


 シュガー、お前有能過ぎやしないか? まあ、なにはともあれ助かった。

 俺はフィレに軽く頷くように礼をして、モラを部屋の中へ通した。


「食事はここに置いておきますね?」

「ありがとう、あとでゆっくり食べるよ」


 モラは持ってきた朝食を部屋の隅にあるテーブルの上に置いて、なんだかそわそわと手持ち無沙汰にしていた。


「とりあえず座る?」


 近くにあった椅子を差し出して、そこにちょこんと座ったモラは相変わらず落ち着きがない様子だ。


「モラ、どうかした?」

「は、はいっ!! あ、〝おまかいなく〟っ!!」

「うん?」


 『おまかいなく』ってなんだ……? ──あ、もしかして『お構いなく』って言いたかったのか。


『モラさん、どうしたんでしょうか……?』


 それは俺が聞きたいくらいだ、気まずいったらありゃしない。


「あの……」

「ん?」


 今まで無言も貫いていたモラはオドオドしながらも、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「レオさんは、これからなにをしようとしているんですか……? もしかして、今以上に危険なことをしようとしているんじゃないですか……?」

「え? あ、ああ……まあ、そうなる可能性が高いけど……どうしてそんなことを聞くんだ?」

「だって、レオさんっていつもボロボロで帰ってくるし……心配なんですっ」

「……」


 そっか、そうだよな。俺みたいな得体の知れないやつでも客は客、客の心配をするのは当然か……当然なのか? モラは優しい子だし、優しさからそういう言葉が出てくるのかも知れないが、こういう暖かい感情に触れると、なんだか心がポカポカして落ち着いてくる。


 この世界にくることができて、本当によかった──。


 モラは気まずそうに俯いている。まるで『こんなこと言うつもりではなかった』と後悔しているようにも見受けられた。もしそうなら否定しないと──俺はモラの優しさに触れて、少なからず元気を取り戻したんだから。


「そんなに俯くことはないだろ? 俺はモラに心配してもらえて嬉しかったよ」

「いえ……差し出がましいことをしてしまってすみません。私なんて、いつも失敗ばかりで、レオさんにどうこう言える立場じゃないのに……っ」

「じゃあ、俺とモラは似た者同士ってことだな。似た者同士、これからも仲良くしようぜ?」

「レオさん……フフッ、これじゃあどっちが励ましてるのかわかりませんね」

「そうだな」


 しかし、俺はこんなにのんびりしていていいのだろうか? 今、城ではレイティア達がアデントン公とイーダンを交えて会談をしているはずだ。それなのに俺は自分の部屋で、モラと雑談してるなんてなんだか気が引ける。


(もう体調も回復したし、城に向かうべきか……?)


 でも、せっかく与えられた休息だ。

 もう少しだけ、のんびりと過ごしてもいいよな?


 外は快晴、気晴らしに散歩でもするか……って、今、街に出ても気晴らしどころか現実を見せられるだけだな。それなら部屋でぐうたらとしているほうがマシかもしれないけど、今の今まで全身全力で駆け抜けてきた手前、立ち止まるという行為が『悪いこと』のように思えてならない。それこそがきっと『社畜』という因子を作り上げて行くんだろう──なんて偉そうなことを言ってみたが、俺はバイト経験がないのでよくわからない。

 それからモラと軽く談笑をしつつ、用意してくれた『お粥のようなもの(正確には雑炊に近い)』を食べて、モラは自分の仕事へと戻っていった。


「会談が終わるのはまだだし……暇だなぁ」


 そう呟くと、部屋の隅ですっかり部屋に溶け込んでいたフィレが俺を呼んだ。


『あの、レオさん……』

「なんだ?」

『もしやることがないなら、ひとつお願いがあるんですけど……』


 フィレが遠慮がちなのはいつもだけど、いつも以上に声が浮ついている。しかし、表情を読み取れないというのは結構不便だな。フィレがなにを思って、なにを考えているのかを読み取るには、声の大きさや抑揚、明るさから察するしかない。


「お願いって?」

『実は、人間界は魔界よりも魔力濃度が薄くて……魔力を補給できればと思うのですが、なにか心当たりがあればと思って……』

「そうか、魔力が薄いのか……」


 言われてみれば、確かゲームでもそんなことをNPCが言っていた気がする。

 しかし、魔力補給か──トラップボックスに魔力を補給するなんて経験はないぞ? 心当たりといえば魔力結晶くらいだが、俺が所持している魔力結晶はレイティアに渡すものなんだけど──って、これ、あいつら忘れてないよな……? まあ、催促されていないし、持ってる魔力結晶をフィレに与えるか。


 魔力結晶はその名の通り、魔力が実体化して結晶化したものだ。形は小石の破片程度の小ささで、主に『モンスターの核』となっている。

 つまり、【心臓】と言っても過言ではないソレは、モンスターの強さによって比例する。

 強大なモンスターになるにつれて『ゴルフボール』や『テニスボール』くらいなり、それらは【魔力水晶】と呼び名が変わる。この魔力結晶には、結晶の倍以上の魔力が秘められていて、とても価値が高いのだが、入手が困難なだけに流通はほぼされていない。

 一方、魔力結晶に至っては、そこら辺にいる雑魚モンスターを狩れば入手可能なので、魔力結晶を『魔力水晶と同等の力』になるまでまで集めて、それを加工してアイテムにするのが一般的な使い方だが、魔力結晶に秘められている魔力は微々たるものなので、どちらが効率がいいとはいえない。

 俺の手元にあるのは『魔力結晶』で、この結晶にどれだけ魔力があるのかわからない。でも、これしか俺にアイデアはないから、提案だけはしてみるか。


「手元にある魔力結晶でどうにかなるか?」

『はいっ!! 分けていただけるのなら……私の中に、い、入れていただけますか……?』

「あ、ああ……わかった……」


 エッッッロ──ッ!? 台詞だけ聞くとエロ過ぎやしませんかねッ!? ──なんて、俺の心のざわつきを抑えながら、皮袋から魔力結晶を全て取り出して、ソレをフィレの中に全て入れた。


『ありがとうございます……おかげで魔力を補給できました……っ』

「因みに、魔力が切れるとどうなるんだ?」

『理性を抑えられなくなって、ひとを襲うかもしれません……困りました、まさかここまで人間界の魔力が薄いなんて……』

「魔力が薄い……か。今までは生活できる程度には魔力があったんだろ? それが今になって、どうして生活困難になるほど減ってるんだ?」

『なぜでしょうか……わかりません……』


 なんだか、そこはかとなく嫌な予感がする──。

 もしかしたら、何者かが暗躍しているのかもしれない。


「街の様子を見てくるか……」


 魔力が減少しているということは、街に住みひと達にもなにかしら影響が出ているかも知れない。俺の嫌な予感が的中しなければいいが、戦闘になるという可能性も視野にいれて、覚悟しておいたほうがいいだろう。





 招き猫から出てみたが、街の風景は相変わらずといった具合だ。

 魔力を使う家具などにも影響が出ているかも知れないと踏んで外に出たけど勇み足だったか? 招き猫も特に影響はなかったから、生活面に影響は出ていないのだろう。それでは、なにに影響を及ぼしている? なにかしら必ず影響がでてくるはずなんだ、でも、現状ではそれがなんなのかわからない……いや、実はとっくに気づいていた。しかし、もしそれが現実になったら最悪な事態に発展する。魔力を補いながら生活している者で、その魔力を一定量取り込むことができないと危険な者、つまり──魔族(モンスター)だ──。


 カンカンカンッ!! ──と、突然、街の中に警鐘が鳴り響く。街の出入り口を警備していた兵士が力強く打ち鳴らしたのだろう、その音色から兵士の『緊急事態』という焦りが伝わってくる。今まで静かだった街は突如として喧騒に溢れかえり、警備兵達が人々を非難させる大声で満ちた。


「やっぱり、こうなるのか──ッ!!」


 俺が予想した最悪の事態は、どうやら現実となってしまったらしい──なんて、流暢にことを構えている暇はない。


「一度、招き猫に戻って、皆に知らせ──ッ!?」


 その時だった──。

 まるで落雷でも落ちたかのような轟音が街の外から聞こえ、大気を、地面を揺らす。

 その轟音が鳴り止む頃には、今まで鳴り響いていた警鐘の音が途絶えた。


「レオ君、これは何事だッ!?」


 招き猫で料理長を務めている元・武神、アーマンさんが店から飛び出してきた。その手には中華包丁のような大きい刃がついた包丁が握り締められている。


「わかりません……もしかしたら街の外でモンスターが暴れているかもしれないですッ!! アーマンさんは招き猫の皆を頼みますッ!!」

「レオ君、まさか君は──無茶だ、止めたまえッ!! 君が行ってどうこうできるレベルではないだろうッ!?」

「アスカロンとドラゴントゥースがあればなんとかなります、だから──」

「──死にたいのかッ!? ここは【双剣の鷹騎士団】に任せて、君も一緒に来るんだッ!!」

「でも、俺は──ッ!!」


 アーマンさんを説得しなければ先に進めない……と、なにか説得できる材料を頭の引き出しを漁っていると、俺の後ろから右肩をポンっと叩く者がいた。

 全く気配を感じなかった、まるで転移でもしてきたかのような【その者】の姿を捉えようと後ろを振り向くと、そこには真紅のマントを棚引かせて、白銀の鎧に身を包んだ背の高い初老男性が切れ長の目を俺に向けて、静かな表情で立っていた。白銀の鎧の左胸には、この国のシンボルである【双剣を背負う鷹】が彫られている。


「アーマン殿のいう通り、ここは我々【双剣の鷹騎士団】に任せてくれたまえ、未来の英雄君」

「エルダイル=ミストリアス=ウェン=ハルデロト国王陛下……ッ!?」

「君のことはレイティアとラッテから話を聞いている、とても勇敢な騎士だとな。しかし、ここは我々に任せたまえ。アーマン、彼を安全な場所へ連れて行きなさい」

「──ハッ!!」

「確か、レオ君といったかな? 君が強いというのはわかるが、強いのは君だけではない。彼らも君に負けない腕を持っているのだよ」

「──ッ!?」


 今まで国王陛下に目が向いていて気がつかなかったが、国王陛下の後ろには【双剣の鷹】を左胸に宿した騎士達が隊列な編成して待機していた。


「陛下、お戯れが過ぎます……危険ですのでお戻りください」


 フルプレートの仮面を被っているが、声は男だ。そしてなによりそのフルプレートの色、濃い緑の騎士は知っている。【双剣の鷹騎士団】で騎士団長を務める無敗の男、かつて、ラッテを捕らえた剣の達人【ジル=ラードレンス】だ。

 

「すまないな、ジル。娘の友人に少し挨拶をしたかったのだよ」

「それは構いませんが、今は一刻を争う事態です……そういったことは別の機会にしていただきたいのですが……まあ、私も彼には少々興味があります。この戦が終わったら、城にきて貰うというのでよろしいかと愚考致します」

「ではそうしよう……レオ君、それでも構わないかな?」

「は、はひっ!!」

(おいおいおい……マジかよッ!? 吃驚し過ぎて声が裏返ったわッ!!)

「ではジル、行こうか」

「ハッ!! ──皆の者、進軍せよッ!!」


 俺は急にアーマンさんに腕を掴まれて壁際まで連れて来られた、「──道を譲れ」と言いたいのだろう。そして、アーマンさんい倣い、跪いて進軍を見送った。


「国王陛下と騎士団長(ジル殿)に興味を持たれるとは……、レオ君、君は一体何者なんだ……?」

「な、何者なんでしょうかね……自分でもちょっとわかり兼ねます……」


 だけど今はそんなことどうでもいい、ジル騎士団長が言うように、今は国の一大事だ。

 数百人の大行進を見送りながら、俺は考えていた──なにか、俺にできることはないだろうか、と。その気持ちはアーマンさんも同じなはずだ。だって、アーマンさんはこういう危機迫る戦場で、幾度となく戦い、勝利してきた【武神】なのだから。その証拠に、俺を呼び止めた時から包丁を持つ手が震えている。力を失っていなければ、アーマンさんはもう戦場に赴いて剣を振るっていただろう。


 今、街の外で暴れているのは【旧・魔王(ルシフェルド)派の魔族】だろうか──いや、きっとそれだけじゃない。【新・魔王(ルネアリス)派の魔族】も、魔力が足りずに暴走しているに違いない。

 いずれにせよ、この件は最悪なタイミングで発生した。

 俺達が魔族と交渉しようとしている矢先に、こんな事件が発生したのは不自然極まりない。まるで、誰かが俺達の行動を監視していて、妨害しようとしているように感じる。

 俺達を妨害して利益が生まれる者といえば、対立している【過激派】のリーダーであるデュラン公に他ならないが、いくら対立しているからといって、ここまで大掛かりな妨害をするだろうか? 下手したら街が滅び、城が倒壊し、国がなくなるぞ……? だから、この騒動がデュラン公の手引きだとは考え難い。

 では、それ以外で俺達の妨害をしている相手、魔族との和平を結ばれると困るのは誰だ? そう考えると【旧・魔王派の魔族達】が一番先に思い当たるが、こんな単純な解でいいのだろうか? 今回の騒動には、俺が知らない──いや、気づいていない【悪意】が裏に潜んでいる気がする。


(騒動……? ──いや、俺はなにか見落としている気がする。なんだ、このそこはかとなく漂うデジャブ感は……デジャブ、一度見た光景……見覚えのある光景……ッ!!)



 どうして俺はこんな大切なことを忘れていたんだ──ッ!?

 ロード・トゥ・イスタ、このゲームの冒頭はなにが起きている?

 そう、それは──魔族の強襲だッ!!

 本来ならこの時に主人公(英雄)が異世界から召喚されて、レイティア、ラッテに会い、世界を救うために精霊(イスタ)を探す旅が始まるんだ。このイベントは俺がすでに召喚されて数日経過しているから発生しないと思っていたが、それは大きな間違いだったんだ。

 これまでの事件や出来事は、全てこの日の伏線──。

 俺は何者かの掌の上、道化のようにで踊らされていたに過ぎない。



 しかし、今は【何者か】なんてどうでもいい。このままだと国王陛下は命を落として、国が滅んでしまう。


(これまでゲームとは別のイベントで散々踊らされたんだ、それならこのイベントだって回避できるはずッ!!)


 ラッテとレイティアは、きっとシュガーとレイナードが守ってくれるだろう。それにレイティアはいざとなれば【新・魔王(ルネアリス)】として君臨すれば、誰かに遅れを取ることはない。まあ、シュガーほどの魔法の使い手がいれば先ず問題ない。進軍した兵士の中にダリルの姿がないのはきっとレイティアの護衛についたってことだし、それならアデントン公の身の安全は保証される。そうだ、あの場には北の騎士団長もいる。守備は万全だな。

 俺がやらなければならないのは、国王陛下をなんとしても守ることと、暴走している魔族──モンスター達を倒すことだ。


「アーマンさん、すみません。やっぱり俺は行かなきゃならないようです」

「馬鹿を言うなッ!! 今は双剣の──」

「──このまま〝残念な英雄〟じゃ終われないんですッ!!」

「……全く、君と言うやつは、昔の俺にそっくりだな……わかった。もう引き止めることはしない。だが、必ず生きて戻ってくるんだぞ」

「はいッ!!」


 その時、ふっと頭の中にひとつの言葉が浮かんだ。

 その言葉は【絶対帰還】、勇者になると覚えるスキル。

 どうしてそんな言葉が頭に浮かんだのかはわからない。──ただ、もし俺が勇者だったら、その力を発揮するのは今だろう。





 まあ、俺は勇者の通過点である上級職【ソードマスター】なんだけどな──。

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