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奇妙な留置人  作者: 伊藤むねお
14/21

スニーカー

「毎日退屈だろう。身元を明かして帰ったらどうだ」

 留置人(とまりきゃく)は、へへへと細い顎で笑った。

「帰れというなら帰るが、名前はいえないし、尾行もご免だよ」

 また耳のうしろを掻き、掻いた指先をちらりとみた。

「逃げた男みつかったですか」

「いや」

「名前はわかったらしいね。係さんから聞いたけど。時田ナントカ」

「今四朗、29才」

「でも、まだみつからない」

「全国に手配したから時間の問題だ」

「でも、もう三日目だよね」

「まだ三日目だ」

 しかし、未だに有力な情報はなく畑中は少々焦っていた。

「ちょっと聞いていい?」

「なんだね」

「前科があったってこと?」

「時田が? いや」

「随分早くわかったね」

「学生運動家で公安が知っていた。似顔絵がよく出来てたからだ」

「タレントに似てたのが時田の不運だな」

「いや、あんたの眼力だよ。これからは似顔絵作りは似ている有名人がいないか、というところから入ることを検討するよ」

「包丁から指紋は」

「あんたのだけだ」

「拭いたんだな。靴あとは室内には」

「時田の? 室内に? なかったよ。脱いで上がったんだろう」

 留置人は物憂げに首をかしげた。

「そうかなあというか、やっぱりだな」

「?・・・なにがだ」

「スニーカーさ」

「やつの履いてた靴か」

「ああ、ドアが開いた勢いとあの男が飛び出てきた勢いを思うとね、どうしてあの靴が履けたのかなあと」

「ほう」

 畑中は後ろに立っている斎木の顔を見た。

「あれ、いっぺん脱ぐと、俺のこんな広がった靴と違って、簡単につっかけるわけにはいかないのじゃないか」

 留置人(とまりきゃく)はベッドの上であぐらを組んでいたが、片脚をおろすとすぐにひょいと持ち上げてみせた。脚にはもう靴があった。

「なるほど」

 畑中の眉間にしわが寄った。

「悪いがやってみせてくれないかな」

「実演かい?」

「ああ。たのむ」

「えええー。でもまあ、日当もらってるからな・・・だったら、ここを出たとこの廊下がいいな。資料室だっけ。扉の開く向きが同じだから」

 畑中はうなずいた。

「斎木。坂崎さんや兵藤などがいたら来て貰ってくれ」



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