~ロンの事故2~
家に帰るとお母さんが急いで車に乗せて、動物病院まで連れて行くと、すぐに手術になった。
私はロンと一緒に手術室に入らせてもらった。
お母さんはお父さんと兄に連絡を取った。
麻酔が掛けられロンの目が次第に細くなる。
荒かった呼吸も穏やかになって行く。
私はロンがそのまま死んでしまうのではないかと思い、たまらなく涙がこぼれて手術台に横たわるロンの顔をなでながらいつまでも絶え間なくその名前を呼んでいた。
ロンの目が閉じられる直前、その目が私を捕らえた。
「ごめんなさい!」
人間のつくった交通ルールも、自動車が君たちみたいに急に曲がったり止まったりできないことをサポートしてあげないといけなかったのに、なんにもできなくて……。
私は泣き崩れその頬を両手で支えロンの顔の前に自分の顔を近づけた。
いつもなら飛び掛かるように舐めて来るロンの目が静かに閉じる。
病院の先生がどんな治療をしてくれているかなんて、ちっとも目に入らなくて、手術の間中ロンの名前を呼びながら頭をなで続けた。
私はロンの心の中に入り込んでロンを励まそうと必死だったので、先生に手術が終わった事を告げられてようやく私の魂は私の体に戻ってきた。
手術がどのくらい時間が掛かったのか全然分からなかったけれど、その時間には既に兄が待合室に座っていた。
尻尾は無事につながり、肛門にも怪我があったけど手術は問題なく命の心配も後遺症の心配もないそうだと説明されて少しだけ安心した。
けれども容態が急変したら大変なので、その日は先生が病院であずかってくれることになったが、いっときもロンの傍を離れたくない気持ちでいっぱいの私は、ロンに付き添うと駄々をこねて兄に叱られて泣きながら家に帰った。
次の日の朝、玄関にロンがいないのを見て、心が痛んだ。
学校から帰るとすぐに兄と二人で病院に行った。
エリザベスカラーというラッパのような物を首に付けたロンが嬉しそうに迎えてくれた。
退院したロンを抱いて家に帰ると、玄関にはお父さんも帰っていて優しく「お帰り」と言ってもらった。
抱き上げていたロンは私の頬に舌を伸ばしてペロッと舐めた。
家族みんながロンのために動き、そしてロンに助かってよかったと言い、だれも私を責めなかった。
昨日からの緊張の糸がプッツリ切れて、私は耐えられなくなり泣き崩れて皆にあやまった。
誰かに怒って欲しかった。
みんなが、どう接したらいいか困っているなかで兄が口を開いた。
「これでロンが千春を恨むのなら、俺たちも千春を恨むよ。だってそれは約束を破り、家族に亀裂をもたらしたのだから。でもこれまで通りロンが千春を好きでいて長生きしてくれたら誰も千春を責める権利なんてないだろう」
私は嗚咽を堪えながらコクリとうなづいた。
ロンの事故のあと、兄が今回の件に対して家族会議を提案した。
内容は、新しい家族が加わったことに対して家族が今までのように暮らしていてよいものかということだった。
ロンは獣医さんの家で育てられていて基本的なしつけをされ賢いように見えるが、どんなに賢い犬でも知能は人間の四歳程度しかないということ。
その四歳の、行動力の盛んな家族をきちんと見守っていかなければ今回のような事故はまたいつ起こるか分からない。
結果的には、私の不注意でロンがリードから離れて事故につながったけれど、兄も父もこれまでの散歩のときにロンが急に何かに興味をひかれ強く引くことは知っていて、それをよく私に伝えていなかったことや、ロンには朝の散歩が必要なのに兄も父もその日は朝の散歩の時間にいなかったことが反省された。
今後、なるべく兄か父のどちらかが朝夕の散歩の時間を調整し、そのどちらもいないときは私と母の二人で散歩に行くことになった。
家族会議中、ロンは賢そうに黙って聞いていた。




